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ミュージカル愛を詰め込んだ聖夜の贈り物『KAI SHOUMA MUSICAL CONCERT on Christmas Day 2021』レポート!

ミュージカル界期待の星として躍進を続ける甲斐翔真の、初ミュージカルコンサート『KAI SHOUMA MUSICAL CONCERT on Christmas Day 2021』が、12月25日、有楽町のオルタナティブシアターで開催された。

2020年1月『デスノート THA MUSICAL』の夜神月役で、初舞台にして初主演という衝撃のミュージカルデビューを飾った甲斐翔真は、同年11月『RENT』のロジャー役、2021年1月『マリー・アントワネット』のフェルセン伯爵役、同年5月『ロミオ&ジュリエット』のロミオ役、そしてやはり同年10月『October Sky─遠い空の向こうに─』では単独初主演(『デスノート THA MUSICAL』、『ロミオ&ジュリエット』はWキャスト)となるホーマー・ヒッカム役を好演。わずかに約二年間で立て続けに大役を演じ、ミュージカル界に昇り龍の如き軌跡を残してきた。

そんな甲斐にとってひとつの夢だったという初のミュージカルコンサートは、甲斐のミュージカル愛が隅から隅まで詰め込まれた、文字通りのクリスマスプレゼントと言えるSTAGEになった。

クリスマスイブからの1年間を綴ったミュージカル『RENT』の「Tune Up #1~RENT」からコンサートはスタート。今日のゲストの一人で、実際の『RENT』の舞台でマーク役を演じた平間壮一とのデュエットが、一気にステージの熱量を上げていく。「いきなり僕のアップでびっくりしたでしょう?僕がお客さんだったら笑っちゃいますよってリハーサルで言ったんだけど」という趣旨の平間のトークが、配信もされているコンサートの空気を和ませるなか「せっかくのクリスマスのコンサートだから、どうしてもここからはじめたかった!」という甲斐のこだわりの構成が早くも熱く語られる。

ここから甲斐が如何にしてミュージカルに出会い、魅了されたかという、謂わば「ミュージカルスター甲斐翔真」を生んだヒストリーを紐解くメドレーに。

甲斐がそもそもミュージカルに衝撃を受けた体験は大きく二つあって、そのひとつが日本でも熱烈なファンの多い世界で活躍するミュージカルスター、ラミン・カリムルーのパフォーマンスに出会ったこと。そしてもうひとつが韓国でフランク・ワイルドホーン作曲によるミュージカル『ジキル&ハイド』を観劇したことだという。そこでの魂を揺さぶる経験が、甲斐をミュージカルの舞台へと向かわせる原動力で、披露されたのがワイルド・ホーン作曲のミュージカル『マタ・ハリ』のパイロット・アルマンのナンバー「普通の人生」。韓国ミュージカル『フランケンシュタイン』のアンリのナンバー「君の夢の中で」。『ジキル&ハイド』の名曲中の名曲「時が来た」。そして、ラミン・カリムルーの当たり役『Love Never Dies』のファントムのナンバー「Til I Hear You Sing」(君の歌をもう一度)。どの曲のどの歌唱からも、甲斐がこれらのミュージカルを愛していて、いつかはステージに!という思いがストレートにこちらの胸にも響いてくる。

何よりも驚いたのは「時が来た」を韓国語で、「Til I Hear You Sing」を英語でそれぞれ歌ったこと。『ジキル&ハイド』はもちろん、アンドリュー・ロイド=ウェバーの代表作『オペラ座の怪人』の続編、10年後の物語である『Love Never Dies』も既に日本でも上演されていて、ミュージカルファンには日本語歌詞が広く知られている。それを敢えて初めて作品と出会った韓国語で、ラミン・カリルムーへの果てない憧れと、いつかは共演したいという夢を込めて英語で披露した甲斐の、あまりにも真っ直ぐな心根が、コンサートがまだ序盤だということすら忘れさせるほど、熱く尊いものを届けてくれる。「『Love Never Dies』のファントム役の年齢を考えると、僕がもしも舞台で演じられたとしても何十年もあとだから、思い切って歌っちゃいました」という意味のMCに、こちらも切実に「長生きしないと」と思わされた。

ここからは、甲斐本人が演じた役柄のミュージカルナンバーが続く。『デスノート』の同名曲の、手にしてしまった力は神か悪魔かと惑いながら、世の中を浄化したいという思いに収斂されていく歌の鋭さ。平間とのデュエットでの「ヤツの中へ」の互いがぶつかり合う如くのドラマチック。ギターを手にした『RENT』の「One Song Glory」では、HIVポジティブのロジャーが、人生を永遠に留める1曲を残したいとの切なくも力強い思い。『マリー・アントワネット』の「遠い稲妻」では、惚れ惚れするほどよく似合った軍服姿と貴公子ぶりを思い出させる朗々とした熱唱と、本人の衣裳は変わらないながらも、次々と演じた役柄が目の前に蘇ってくるのもミュージカルナンバーが持つ力だ。

そして、もう一人のゲスト、元宝塚歌劇団雪組トップ娘役の真彩希帆と『ロミオ&ジュリエット』の「エメ」をデュエット。ジェラール・プレスギュルヴィックに神が宿ったとしか思えない名曲の宝庫である『ロミオ&ジュリエット』の中でも、一際美しいメロディーが、甲斐の甘い優しさのある歌声と、真彩の透き通る高音で披露される、特別な時間が流れた。

そのまま真彩が『オペラ座の怪人』のクリスティーヌのナンバー「スィンク・オブ・ミー」をソロで。同じガストン・ルルーの「オペラ座の怪人」を原作にしたミュージカル『ファントム』でクリスティーヌ役を演じている真彩が、ロイド=ウェバーの名曲を歌う妙味は格別。ラストのハイキーを難なく歌う持ち前の歌唱力も光った。

そんな真彩を讃えながら舞台に戻ってきた甲斐と、平間が加わった三人のトークが楽しい。平間と甲斐は同じ事務所の先輩・後輩の間柄だし、真彩にとって宝塚退団後の初ミュージカルになった『ドン・ジュアン』で、平間が婚約者役で共演しているというつながりもあり、ステージは和気藹々とした空気に包まれる。この縁がもしかして、ひょっとして、この一日だけのことではないのかも?と思えるような嬉しい空想も微かに広がり、間もなく訪れる2022年への期待も膨らんだ。

その2022年の2月1日に初日を迎える『The View UPSTAIRS─君が見た、あの日』に主演する平間がソロで「The Future is Great」を歌う。明るいポップな曲調のなかに、現代の様々な問題に直結する深く、闇も抱えた歌詞が耳に残り、日本ミュージカル界のいまや大先達と言ってもいい岡幸二郎までもが難易度の高い楽曲と格闘しているという、ブロードウエイミュージカルの日本初上陸への期待度も高まる。

ここからステージは甲斐がメドレーで歌う映画版も話題になったミュージカル作品のナンバーへ。『Dear Evan Hansen』の「Waving Through a Window」、『NEWSIES』の「Santa Fe」、『ヘラクレス』の「Go the Distance」、『The Greatest Showman』の「Rewrite the Stars」が続けて歌われる。ソロ曲は伸びやかに、真彩とのデュエットでは、「エメ」とは全く違う、互いに魂をぶつけあうような迫真の歌唱が続いた。

そんな白熱したコンサートは、いよいよクライマックスに。2022年3月25日に開幕する伝説の傑作ミュージカル『next to normal』に出演が決まっている甲斐が、演じるゲイブのナンバー「I’m Alive」を熱唱。真彩にとって宝塚時代のコンビである元雪組トップスター望海風斗が演じるダイアナの息子役だけに「甘えられて羨ましい!」と思わず真彩が語ったゲイブ役の、非常に複雑なものを内包する切ない思いが切々と込められた歌唱に、公演を待ち望む気持ちが膨らんだ。

そして、甲斐が単独初主演を果たした『October Sky─遠い空の向こうに─』の「星を見上げて」。父親と同じ炭鉱夫になる人生しか選択肢がないと思っていた主人公ホーマーが、ロケットに夢を描き、全く別の未来を星空に描いていく。憧れが夢へ、更に可能性へ、そして現実の未来を切り拓いていくこの作品のテーマが、いまこうして改めて振り返れば、甲斐翔真その人が、ミュージカルの世界を目指してきた道程にまるごと重なることを感じさせる歌唱が、格別のものに感じられた。

最後に「12月25日、クリスマスの特別な一日にこのコンサートを選んでくださってありがとうございました」という感謝と、配信を選んだ人はもちろんのこと、ホールのキャパシティの関係で配信しか鑑賞の手段がなかっただろう人たちへ「僕がもっと力をつけて、いつか東京ドームでコンサートができるように頑張ります!言葉にしたら叶うって信じているんです」という趣旨の思いをてらいなく語った甲斐は、平間、真彩と三人でのラストソング『tick、tick…BOOM!』の「Louder Than Words」を歌い上げ、頭から終わりまでミュージカルへの熱い思いと愛情がいっぱいに詰まったコンサートは幕を閉じた。全てが煌めいていると感じる、特別な二時間だった。

このコンサートに接して思い返したのは、甲斐翔真という人が初めてミュージカルの世界に登場した時の、言葉は適切ではないかも知れないが「この人、何者!?」という衝撃だった。甘いマスクとスラリとした長身と、もちろん不安定な部分も内包していたとはいえ、素直に伸びていく歌声の、その持ち声の良さは、まさにミュージカル界に新星現る!という驚きと輝きに満ちていた。それからわずかに二年弱。次々に演じてきた大役の成果と共に、何よりも嬉しいのは、甲斐が「ミュージカルが大好きだ!」と語る言葉の熱さと思いの深さだ。「夢は叶うと信じている」と言い切れる、そう信じられること自体が選ばれし者の特権だし、事実、その夢を現実に変え続けている甲斐が見せてくれる希望の眩しさは、未だコロナ禍に揺れる2021年の終わりの、聖夜に届けられたクリスマスプレゼントに他ならなかった。今は憧れと語る役柄(ちなみにとある取材で「いつか『フランケンシュタイン』のビクターを演じたい」と言ったのは、「頭で描いていた役と口から出た役名の誤りで、演じたい役はアンリ=怪物です」だそうだ)も、ラミン・カリムルーとの共演も、きっと甲斐ならいつか実現するに違いない。そんな確信を持てた、観ている側にもたくさんの夢と希望を届けてくれた素晴らしいコンサートだった。

【公演データ】
『KAI SHOUMA MUSICAL CONCERT on Christmas Day 2021』
出演:甲斐翔真
ゲスト:真彩希帆 平間壮一
●12/25◎オルタナティブシアター

 

【取材・文/橘涼香】

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