歌舞伎座「七月大歌舞伎」開幕!
熱さを吹き飛ばすエネルギッシュで多彩な演目揃いで、7月4日から「七月大歌舞伎(しちがつおおかぶき)」が幕を開けた。(7月4日初日~29日千穐楽 休演日:11日、20日)
第一部『當世流小栗判官』左より、小栗判官=市川猿之助、照手姫=市川笑也(C)松竹市川猿之助、尾上菊之助、市川海老蔵をはじめ、華やかな顔合わせで多彩な演目が並ぶ三部制での上演となっている。歌舞伎座では観客が安心して歌舞伎を楽しめるよう、引き続き、換気や消毒を徹底するなど感染予防対策に万全を期して上演していく。
◎第一部
第一部は、「三代猿之助四十八撰」屈指の人気作、『當世流小栗判官(とうりゅうおぐりはんがん)』。
「小栗判官と照手姫」の物語は、浄瑠璃や歌舞伎でも数多くの作品がつくられ、本作は昭和58(1983)年に三代目市川猿之助(現・猿翁)により復活上演。「三代猿之助四十八撰」の中でも屈指の人気作として上演を重ねている。市川猿之助は平成23(2011)年の新橋演舞場公演以来、11 年ぶり二度目となる小栗判官と浪七を勤める。
コロナ禍以降、澤瀉屋ゆかりの大作に果敢に取り組んでいる猿之助は、公演に先立って行われた取材会で「三代猿之助四十八撰の中でも人気の狂言。物語、早替り、宙乗りがあってバランスがいい」と作品の魅力を語るように、歌舞伎の醍醐味が詰まった見どころ満載の作品。ヒロイン・照手姫を勤めるのは、市川笑也。昭和58 年の初演時に馬の脚を勤めた笑也は、平成5(1993)年に三代目猿之助の相手役として照手姫を演じて以降、三代目から当代・四代目猿之助の相手役を勤めてきた。さらに昭和63(1988)年の本作で初めて宙乗りを経験(お槙役)、スーパー歌舞伎をはじめ数々の作品で宙乗りを重ね、本日の初日で宙乗り1000 回目となります。女方としては最多回数となる。
幕が開くと、小栗判官の命を狙う市川猿弥勤める横山大膳の館。物語序盤、小栗が暴れ馬の鬼鹿毛(おにかげ)を見事に手なずけ、騎乗したまま小さな碁盤の上に曲乗りする「碁盤乗り」を披露すると、まるで本物のように動く馬と共に、小栗の颯爽とした勇ましさが舞台いっぱいに広がり、観客の心を一気に惹き込む。
猿之助二役目の浪七は、漁師たちとの立廻りの末、小栗への忠義を貫く壮絶な最期を迫力満載に見せていく。
また当公演では、進境著しい花形も大活躍。猿之助から「重要な芝居にかかせない存在になりつつある」と信頼を置かれる坂東巳之助は、道化役の矢橋の橋蔵で登場すると喜劇味溢れるやり取りで会場を盛り上げると、猿之助演じる浪七に向かい、「半沢直樹」の名セリフ「詫びろ詫びろ詫びろ!」を繰り出し客席は大沸騰。尾上右近勤めるお駒は、小栗、照手姫との三角関係を色気と執念の凄みの中で繰り広げ、妖しい魅力を醸し出しす。また、猿之助から「才能にほれ込んで是非出ていただきたいと思った。芸勘が鋭く音感もリズムもいい。とても明るい」と絶賛を受けた寺嶋眞秀は、中村歌六勤める遊行上人の弟子一眞役として登場し、大勢の僧たちを従えるように舞台の真ん中で祈りの舞いを踊り、客席を魅了。
そして、本作最大の見どころとなる、小栗と照手姫による天馬に乗っての宙乗りでは、初日で笑也が記念すべき宙乗り1000 回目を迎えた(猿之助は1307 回目)。天馬が花道から宙に上がると猿之助演じる小栗が笑也演じる照手姫に向かい、「今日はそなたの宙乗り1000 回目」と祝福すると、場内の盛り上がりも最高潮に。天馬の宙乗りは、平成25(2013)年の歌舞伎座新開場以降、初めてとなる。大量に降りしきる吹雪が華やかに彩り、大きな拍手に包まれるなか幕を閉じた。
第一部『當世流小栗判官』の特別ポスタービジュアルを公開中 https://www.kabuki-bito.jp/news/7651
◎第二部
第二部は、 『 夏祭浪花鑑 (なつまつりなにわかがみ)』 で幕を開ける。
大坂で実際に起こった事件をもとに、浪花の俠客の生き様が描かれる義太夫狂言の傑作で、市川海老蔵が団七九郎兵衛を 8 年ぶりに勤める。
幕が開くと住吉鳥居前、今日は罪人となっていた団七の出獄の日。団七の女房お梶(中村児太郎)と伜の市松(堀越勸玄)は、釣舟三婦(市川左團次)と共に住吉社へやって来る。市松を勤める海老蔵の長男堀越勸玄は、父の帰りを待ちわびる様子や再会の喜びを生き生きと表し、観客の視線は釘付けに。やがて、髪や髭が伸び放題の釈放直後の団七が登場。釣舟三婦から身支度を整えるように勧められると、先程とは一変、颯爽とした浴衣姿で現れ、その爽やかな佇まいが会場を魅了する。
団七は、大恩人の兵太夫の息子、玉島磯之丞(大谷廣松)と恋人琴浦(中村莟玉)の危難を救うため、釣舟三婦や一寸徳兵衛(市川右團次)とその女房お辰(中村雀右衛門)らと奔走。ところが、金に目が眩んだ強欲な舅の義平次(片岡市蔵)が琴浦を悪人の手に渡そうとするので…。
前半では、俠気ある男女の爽やかな心意気が描かれていく。海老蔵は取材会で、十八世中村勘三郎から「一番大事なのは『男の絞りきった汁なんだ』と教わった。それを出せるように頑張りたい」と意気込みを語っている。悪事を目論む義平次を追っての団七による花道の引っ込みは大きな見せ場。義理と人情に厚い団七の生き様が浮かび上がる。そして、団七による殺しの場は、数ある歌舞伎の殺しの場の中でも代表的な場面のひとつ。祭囃子が様式美を一段と際立たせ、圧倒的な存在感で舞台を包み込んだ。
続いては、新歌舞伎十八番の『 雪月花三景 仲国( せつげつかみつのながめ なかくに ) 』。
海老蔵、長女の市川ぼたん、堀越勸玄の親子 3 名が歌舞伎座の本興行で初めて共演を果たすことでも話題の舞台。勸玄は、11 月、12 月に八代目市川新之助としての初舞台を控え、堀越勸玄として最後の舞台を勤める。
帝の厚い信頼を受ける忠臣・源仲国を海老蔵、気品あふれる八条女院を中村福助が勤め、ぼたん勤める女蝶の精、堀越勸玄勤める男蝶の精たちが可憐な踊りを披露する物語性豊かな一幕。天災を収め、病魔退散の儀式を催す役目を命ぜられた仲国は、辺りの邪気を払い、村人たちと共に天下泰平と五穀豊穣、病魔退散を祈念して、華やかに舞い踊る。幻想的で鮮やかな舞いと可愛らしい胡蝶の精の姿に、客席からは拍手が鳴り止まなかった。
◎第三部
第三部は、 『風の谷のナウシカ ( かぜ のたにのなうしか )』 。
宮崎駿が描いた長編漫画「風の谷のナウシカ」。月刊アニメ雑誌「アニメージュ」で、昭和 57(1982)年から平成 6(1994)年まで連載され、全 7 巻が刊行された。深遠なテーマを内包した唯一無二の物語世界は人々を魅了し、原作の 2 巻目途中までを再構成した映画版と合わせ、日本のみならず世界中で愛されている名作。
令和元(2019)年には新橋演舞場にて新作歌舞伎として初演され、映画版では描かれなかった部分も含め原作全 7 巻を昼夜通し上演。原作の壮大な世界観を再現しながら古典歌舞伎の要素を盛り込み、大きな話題に。今回の上演では、その前半部分の昼の部をもとに、さまざまな苦悩や葛藤のなかで凛として美しく生きる皇女クシャナの姿をより深く描き、「上の巻―白き魔女の戦記―」として歌舞伎座に初登場。初演でナウシカを演じた尾上菊之助が、今回はクシャナを演じ、さらに演出もつとめる。
幕が開くと、「風の谷のナウシカ」のタイトル文字が幻想的に映し出され、中村米吉演じるナウシカが花道すっぽんから登場、その姿を観客が見守る。「なんと気高く美しい。未だ新しき、王蟲の抜け殻。腐海の森の司たる見事な姿」とナウシカが発し、客席は一気に作品の世界に引き込まれる。やがて、坂東彌十郎演じるユパが花道から現れる。NHK 大河ドラマ「鎌倉殿の 13 人」で主人公・北条義時の父、北条時政役で注目を集める彌十郎は、1 年 3 ヶ月ぶりの歌舞伎座出演となる。ナウシカとユパが再会を懐かしむなか、花道からクシャナが登場。尾上菊之助演じるクシャナがトルメキア軍を引き連れて花道から登場すると、会場は緊迫した空気に包まれる。凛として毅然とした態度のクシャナ。ナウシカは古くからの盟約に従い、戦に向うことになる……。
本公演では、幼き王蟲の精を菊之助の長男尾上丑之助が演じ、幼きナウシカを長女寺嶋知世が演じている。寺嶋知世は今回が初舞台とは思えぬ堂々とした姿と可愛らしさに客席も温かな空気に包まれる。
初日前日、囲み取材に応じた菊之助は、「教えたものをそのままやるのではなくて、役の気持ちになって舞台に立ってもらえれば」と期待を寄せた。また、今回自身がクシャナを、米吉がナウシカ勤めることについて、「キャストを変えて作品を深めるということを古典歌舞伎ではやってまいりました。今回米吉さんの心でナウシカを演じていただくことによって、この作品がもっと深く見えてくるところもあると思います」とその意図を語っている。
ナウシカの持つ純真さ、クシャナが放つ気高さが混じり合い、初演からさらにブラッシュアップされた『風の谷のナウシカ』。クライマックスは、ナウシカによる「メーヴェ」に乗っての宙乗り、米吉は初めての宙乗りで、場内は割れんばかりの拍手に包まれた。
【鈴木敏夫プロデューサー コメント】
《初日の感想》改めて『風の谷のナウシカ』ってね、一見、無国籍のそういう舞台に見えるんだけれど、実は伝統ある日本の時代劇、それを踏まえて作られた物語であることを改めて実感しました。だから、今のナウシカを見ていても、菊之助さんがやったクシャナを見ていても、何かこういうことを言っていいかどうか…宮本武蔵と佐々木小次郎みたいな…そこら辺が僕は面白かったですね。改めてそう思います。
ナウシカとクシャナが何て言うんだろう、ぶつかり合ってね、ある迫力を生み出していけば、もっと面白くなるだろうなとそんな感想を持ちました。
《見どころ》見どころはただ一つですよ。『風の谷のナウシカ』といえば、主役はナウシカ、それを今回、スタッフの方がいろいろ考えてね。クシャナを主人公にした。さあどうなるか!ってところが見どころです。
【公演情報】
歌舞伎座「七月大歌舞伎」
2022年7月4日(月)~29日(金)
※開場は開演の40分前を予定
【休演】11日(月)、20日(水)
【貸切】第三部:15日(金)、21日(木)
【舞台写真/(C)松竹】
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