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歌舞伎座「九月大歌舞伎」観劇&劇場感染対策レポート

この8月、半年ぶりに待ちに待った公演再開を果たした東京・歌舞伎座。8月公演に続いて「九月大歌舞伎」も四部制で、『寿曽我対面』『色彩間苅豆 かさね』『引窓』『口上/鷺娘』といずれも見逃せない注目演目が並ぶ。だが、「歌舞伎座で歌舞伎が観たい。でも、今の状況を考えるとやっぱり不安…」、そんな気持ちで二の足を踏んでいる人も多いのではないだろうか。そのような観客の方々のために、歌舞伎座での感染対策はどのような形で行われているか、9月1日に初日を迎えた「九月大歌舞伎」第四部『口上/鷺娘』の舞台の様子とともに、歌舞伎座の感染対策をレポートする。

玄関前入場風景

観劇日は9月初旬。まずは劇場入口で劇場スタッフから、入場の列は間隔をあけて並ぶよう丁寧な呼びかけがある。そして他の施設などと同様、マスク着用は必須。前の人と必要なソーシャル・ディスタンスをとり、いざ歌舞伎座へ入場。チケットの半券は自分で切り離して、スタッフが持つ小箱へ入れる。

感染対策入口

次に進むと、アルコールでの手指の消毒(手を差し出すと自動で適量が出るディスペンサー。その隣にはノンアルコールのものも用意されている)と、スマホサイズのモニターでの検温を行うスポットがある。問題がなければ、歌舞伎座の1階入口のロビーへ。

感染対策消毒

プログラム(筋書き)販売は行われていないが、代わりに入口すぐの長テーブルの上に置かれたリーフレット(無料)を各自1部ピックアップする。筋書きにあるような舞台写真や読み物はないものの、出演者や物語のあらすじ、演奏者などは掲載されているので、基本的な情報を把握するには十分だ。

1階ロビー

エスカレーターやエレベーター付近、アンケートの記入場所、お手洗い、通常時にはプログラムを販売しているスペースなど、いたるところにアルコール消毒のボトルが置かれ、館内を少し歩けばいつでも手指消毒ができる。ただ客席内には設置されていないので、必要な人は開演前後に廊下やロビーへ出れば消毒できる。ちなみに筆者は、ずれたマスクや眼鏡を直すたびに消毒したいタイプなので、この配慮がとてもありがたかった。

地下1階化粧室

気になるトイレ周辺もチェック。女性用化粧室は長い列になりがちだが、順番待ちの際の立ち位置(目安)を示すシールが足元に一定間隔で貼られていて、間を詰めずに待てるようになっている。

3階ロビー(のれん街)

また飲食については、劇場・ロビー・客席内すべてにおいて、最低限の水分補給以外は基本的にはNG。イヤホンガイド、吉兆(食事処。第二部・四部開演前のみ営業)などは再開しているが、ほとんどの売店・自動販売機は休みとなっている。観劇みやげをお探しの人は、場内からは入れないが外から入場する形で1階の売店、地下の「木挽町広場」は開いているので、そちらを覗いてみてはいかがだろう。

座席消毒作業

9月12日現在、客席は前後左右を1席ずつ空けて販売されており、空席には座れないように赤いバンド(紐)がかけられている。そのぶん他の観客との距離が十分に開けられ、密は避けられているし、ロビーでも客席でも会話をする人はほとんどいない。客席の消毒も入れ替えごとに行われているということで安心して座れる。

開演前の客席

開演前に行われる携帯電話の電源オフなどの諸注意は、いつもは客席係のスタッフが口頭で行っていたが、現在は無言でイラストが描かれた大きなボードを高く掲げ、観客にお願いする形をとっている。劇場側としては、感染予防のため「会話は遠慮を」というスタンスが基本で、それをさまざまな方法で伝えるようにしているが、それは観客の自発的な意識としても醸成されているのが感じられる。1日でも1回でも多く、公演が滞りなく行われるように、観客から感染者を出さないよう、自分たちもできることはしっかりやろうという、いわば「同志」「連帯」「運命共同体」といった思いが、歌舞伎を愛する観客たちの根底にあるのだろう。

第四部『口上/鷺娘』口上=坂東玉三郎

この日に観劇したのは、「九月大歌舞伎」の第四部、人間国宝・坂東玉三郎による『口上/鷺娘』である。舞台の幕が上がると、正面から歌舞伎座の入口を映した映像の前に金屏風、それを背に、赤い毛氈(もうせん)の上に座った玉三郎が登場する。襲名興行などでの『口上』とは異なり、昨年の『雪之丞変化』を思い出させるような劇中劇ふうの拵え。客席からは万雷の拍手が起こる。キャパシティは半分なのに、拍手の音はむしろいつもより大きい。歓声も大向こうも禁じられているぶん、ありったけの思いを込めて全力で拍手をすると、ここまで鳴り響くものなのか、と新鮮な驚きがある。

第四部『口上/鷺娘』口上=坂東玉三郎

『口上』では、久しぶりに舞台に戻ってきた玉三郎が、現在の心境や歌舞伎に対する思いを語る。『鷺娘』に入る前に、先ほどまで映っていた歌舞伎座の入口が客席の映像に変わり、そこから先は玉三郎がナビゲーターとして、観客がふだん目にすることのないスッポン(花道にあるセリ)や廻り舞台など、歌舞伎座の舞台機構を、地上と地下を行き来しながら案内する。その合間合間に、衣裳の一部を着替えて、これまで玉三郎が勤めてきた女方の大役のいくつかに扮し、舞台上のスクリーンいっぱいに映し出されたかつての自分自身と“共演”するという斬新で凝った演出だ。どの役が出てくるか、観劇までのお楽しみにしてほしい。

第四部『口上/鷺娘』鷺の精=坂東玉三郎

そして後半、暗くなった劇場内に、仄暗い青く霞がかった景色が浮かび上がる。いよいよ『鷺娘』である。長唄とお囃子は映像からの音源。実際の舞台上には、簡単な大道具と玉三郎(そして後見)だけが存在している。「妄執の雲晴れやらぬ…」の有名な詞章につれて、白無垢に黒の蛇の目傘をさした玉三郎が登場する。隠れた目元、真紅の小さな唇に色香があふれ、胸が高鳴る。踊り納めたという玉三郎の『鷺娘』を、2009年1月の「歌舞伎座さよなら公演」以来、約11年半ぶりに歌舞伎座で観る。演出の関係上、すべての場面をひとりで踊ることはできないが、かつての自分自身と入れ替わりながら、最後に鷺の精となってしんしんと雪降る中を無心に踊りきる姿は、まるでふたりの玉三郎による『二人鷺娘』である。

第四部『口上/鷺娘』鷺の精=坂東玉三郎

久しぶりの舞台を堪能、その大きな感動とともに、不安なく観劇できたことを、劇場や舞台関係者の方々に感謝したい。「九月大歌舞伎」公演は26日間(うち2日は休演日)を予定しているが、そのすべてが無事に上演されることを心から祈りつつ、1日も早くこの歌舞伎座の客席が満員の観客で埋められる日が来ることを、歌舞伎を、舞台を、愛する者の1人として切に願っている。

【公演情報】
「九月大歌舞伎」
●9/1~26◎歌舞伎座

第一部 11:00開演
『寿曽我対面』
出演
工藤左衛門祐経:中村梅玉
曽我五郎時致:尾上松緑
曽我十郎祐成:中村錦之助
近江小藤太:坂東亀蔵
化粧坂少将:中村米吉
八幡三郎:中村莟玉
梶原平次景高:中村吉之丞
梶原平三景時:嵐橘三郎
小林朝比奈:中村又五郎
鬼王新左衛門:中村歌六
大磯の虎:中村魁春

第二部 13:40開演
『色彩間苅豆 かさね』
出演
与右衛門:松本幸四郎
捕手沢田:中村隼人
捕手飯沼:中村鷹之資
かさね:市川猿之助

第三部 16:15開演
『引窓』
出演
濡髪長五郎:中村吉右衛門
南与兵衛後に南方十次兵衛:尾上菊之助
平岡丹平:中村歌昇
三原伝造:中村種之助
お早:中村雀右衛門
お幸:中村東蔵
第四部 19:15開演

映像×舞踊 特別公演『口上/鷺娘』
出演
口上・鷺の精:坂東玉三郎

〈料金〉1等席8,000円 2等席5,000円 3階席3,000円(全席指定・税込)
※1・2階桟敷席および4階幕見席の販売はありません。
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹 0570-000-489 または03-6745-0888(10:00~18:00)
〈公式サイト〉https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/686/

 

【取材・文/内河 文  写真提供/松竹(株)】

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