KAATで『Le Tambour de soie 綾の鼓』を12月に上演!
KAAT DANCE SERIES 2021『Le Tambour de soie 綾の鼓』が、本年12月24日~26日に上演される運びとなった。
本作は国際的に活躍する振付家・舞踊家の伊藤郁女とピーター・ブルックと共に創作活動を行ってきた伝説の俳優・笈田ヨシが、フランスで創作した“ダンス・シアター”。コロナ禍のフランスで、2020年10月に開催されたアヴィニョン芸術週間(UNE SEMAINE D’ART EN AVIGNON)で世界初演され、大きな話題となった。
物語は、劇場の舞台を掃除している老人が舞台でリハーサルをしているダンサーに恋するが、思いが成就しない悲劇を描いている。能の曲目『綾鼓』と三島由紀夫が翻案した「近代能楽集」の一作『綾の鼓』から、インスピレーションを受けたジャン=クロード・カリエールのテキスト(物語)が、才能あふれる二人の日本人アーティストの身体を通して語り始め、矢吹誠の打楽器の音色と混ざり合い、かなわぬ恋の物語を観客に伝えてくる。
【『綾鼓』とは】
『綾鼓』(あやつづみ)は、能の曲目の一つ。作者は不明だが、類曲として世阿弥作の能『恋重荷』(こいのおもに)があり、世阿弥は著書の中でこの『恋重荷』は「綾の太鼓」(『綾鼓』の原曲と見られる)の改作であるとしていることからも、『綾鼓』は世阿弥の時代に既に存在した作品であると思われる。三島由紀夫の『綾の鼓』は、『綾鼓』を現代に翻案した戯曲。
【三島由紀夫『綾の鼓』あらすじ】
法律事務所の小間使いの老人は、向かいの洋装店に出入する美しい女性の姿を見て恋い焦がれ、ラブレターを何通も送る。女性は老人をからかおうと友人と結託し、綾の鼓に「それを打った音が聞こえれば恋が叶う」というメモを添えて届けた。受け取った老人は喜んで鼓を打つが音は出ず、悲観のあまり窓から身を投げ自殺してしまう。
1週間後の深夜、洋裁店に来た女性の前で、老人の亡霊は再び鼓を鳴らす。鼓は鳴ったが、女性は「きこえません」と冷たくあしらった。亡霊は鼓を打ち続けたが、100 回目で諦め消え去って行った。そのあと女性は、「あたくしにもきこえたのに、あと一つ打ちさえすれば」とぽつりつぶやいた。
【コメント】
伊藤郁女
私は 10 年ほど前にパリでヨシさんに出会いました。私は異国の地で「完全に自由で解放された日本人」に初めて出会いました。彼は常に私に刺激を与えてくれる先生であり、親友です。
彼は戦前、戦後、そして iPhone の時代に生きています。彼はピーター・ブルックの伝説的な俳優の一人であり、自分の夢を実現し続けています。私は、能の作品『松風』にインスパイアされた『夢』という作品を彼と一緒に創作しました。彼は今 88 歳ですが、非常に健康で、精力的に行動し、多くのことを学び続けています。私は彼から人生、仕事、そして日本について多くを学びました。
私たちは、舞台上でともに創作した作品を発表したいという共通の思いがあります。この企画は、多分一緒に創作できる最後の冒険になるでしょう。
この企画は能楽に触発されています。老人が宮殿の庭を掃除し、お姫様に恋をしたという話です。 お姫様は彼に鼓を渡し、「あなたがそれを鳴らすことができれば、私はあなたのものです」というメッセージを彼に送ります。 彼は鼓をたたきますが、鼓の表面が絹に置き換えられているため、鳴りません。
男は自殺し、幽霊となってお姫様に会いに再び戻ってきます。
私たちは、ジャン=クロード・カリエールと一緒に三島由紀夫の物語からインスピレーションを受けて新しい作品を創作しました。三島由紀夫はヨシさんの親友でしたし、ジャン=クロードにとってもこの作品が最後となりました。 彼が書いた『綾の鼓』では、女性は最後に「彼がもう一度打ったら聞こえただろう」と夢うつつに言って終わります。
この作品で私たちが興味を持っているのは、若いままでいたいため、老人の愛を受け入れることができない女性と、恋をすることで若くなっていく老人との間に起きる物語です。
笈田ヨシ
三島由紀夫さんは日本演劇の古典を大事にされていました。
1950 年代には数々の能楽の作品を元にして、近代能楽集をお書きになり、それは今でもヨーロッパのあちこちで上演されています。それからもう 70 年が過ぎました。僕は先生にちなんで近代能楽集ならぬモダン能を 21 世紀のお客様にお見せしたいと思いました。この作者不明の古典からはいろいろの意味を引き出すことが出来るでしょう。僕はここで女性が自分の起こした罪によっておきた罪悪感、そしてそこから解放される道のり、そんなものを表現してみたいと思いました。
罪にはいろいろな種類があります。宗教的観念による持って生まれた肉体の罪、直接他人を傷つける罪、そして直接他人には危険を与えないけれども結果的にはその人を傷つけてしまう罪。女性は冗談半分に自分の美貌で年取った老人を誘惑します。貧しい老人が彼女と深い関係になれると信じ込ませてしまうのです。勿論それは本気ではなかったけれども、老人が本当に信じこんでしまったのを見て彼女は恐ろしい罪悪感に襲われます。彼女はどうやってそこから解放されるのでしょうか?弄ばれた老人はそれをどう受け止めるのでしょうか?
【フランスでのレビュー記事】
日本生まれの伊藤は多才な才能を発揮し、フランスのコンテンポラリーダンスシーンで頭角を表しました。彼女はここで、ピーター・ブルックとのコラボレーターで知られる 87 歳の俳優・笈田ヨシとチームを組み、二人がこの作品において魅力的な組み合わせであったことを証明した。(ニューヨークタイムズ ローラ・カペル)
欲望の翼によって運ばれた美しい綾の鼓(絹の鼓)。 (中略)ピーター・ブルック作品の常連俳優で、「見えない俳優」として知られている笈田ヨシ。 そして伊藤郁女はあらゆる形(フォーム)で踊り、それは炎のようだ。 二人の出会いは素晴らしく、年齢や時間を超越している。(ル・モンド ブリジット・サリーノ)
彼女の最新作は「精霊との踊り」のようだ。この分断の年に、日本人の振付家でありダンサーの伊藤郁女は、死者の幽霊を召喚し、彼を悼む。(AFP-フランス通信社)
シルクドラムは、このアヴィニョン芸術週間の小さな宝石の1つだ。(フランスのテレビ情報 ソフィー・ジューウブ)
伊藤郁女の踊りと音楽が重なりあい繰り広げられる狂気のダンスが、幽霊に変わった老人を体現する笈田ヨシの強烈なオーラに出会う。有機的なアンサンブルと日本文化への賛辞。(ラ・テラス ベリンダ・マチュー)
【公演情報】
KAAT DANCE DERIES 2021
『Le Tambour de soie 綾の鼓』(あやのつづみ)
テキスト:ジャン=クロード・カリエール
演出・振付・出演: 伊藤郁女、笈田ヨシ
音楽・出演:矢吹誠
●12/24~26◎KAAT 神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉
上演時間:1時間、フランス語上演、日本語字幕あり
〈料金〉4,500円 U24 (24 歳以下)2,250円 高校生以下割引1,000 円 シルバー割引(満65 歳以上)4,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈一般発売日〉11 月 6 日(土)
〈お問い合わせ〉チケットかながわ 0570-015-415(10:00~18:00) https://www.kaat.jp
〈公式サイト〉https://www.kaat.jp/d/LeTambourdesoie