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ミュージカル『The Illusionist─イリュージョニスト─』本日ワールドプレミア開幕!

日英共同企画の新作ミュージカル『イリュージョニスト』が、1月27日日比谷の日生劇場で世界初演の幕を開ける(29日まで)。

ミュージカル『イリュージョニスト』は、英国の演劇プロデューサーで、ウエストエンドのヒットメーカーとして名高いマイケル・ハリソンと梅田芸術劇場が共同で企画したオリジナルミュージカル。
ピューリッツァー賞を受賞した作家、スティーヴン・ミルハウザーによる短編小説『Eisenheim the Illusionist(幻影師、アイゼンハイム)』と、この小説を基に2004年に公開された映画『幻影師アイゼンハイム』を原作に、アウター・クリティックス・サークル賞の脚本賞にもノミネートされたピーター・ドゥーシャン脚本。ロンドンで最も注目される若手作曲家マイケル・ブルース音楽。そして、ミュージカル『タイタニック』、『グランドホテル』、『パジャマゲーム』等、日本でも高い評価を得ているトム・サザーランド演出と、世界で活躍するクリエイティブチームと、海宝直人、成河、愛希れいか、栗原英雄、濱田めぐみと、日本の実力派俳優が揃っての、新作ミュージカルとなっている。

【STORY】
栄華を極めたハプスブルク帝国も今や斜陽の時を迎えている19世紀末のウィーン。世界中を巡業しているイリュージョニスト・アイゼンハイム(海宝直人)は、興行主ジーガ(濱田めぐみ)と共に訪れたウィーンでの公演中、偶然にも幼い頃恋心を寄せ合った公爵令嬢ソフィ(愛希れいか)と再会する。だが、ソフィはオーストリア皇太子レオポルド(成河)の婚約者となっていた。
傾国の危機を救うために、過激な思想に傾倒する皇太子の熾烈な正義感に疑念を抱いていたソフィは、アイゼンハイムの変わらぬ求愛を拒みながらも、ひそかに逢瀬を重ね、互いが心に秘めていた当時のままの愛を確かめ合う。二人の密会を知った皇太子は、怒りのあまり剣を手にソフィの後を追う。その夜、ソフィは死体となって発見される。
事件の真相を探るウール警部(栗原英雄)は、様々な証言から徐々にソフィ殺害の真相に近づいて行くが、復讐を誓うアイゼンハイムが見せる幻影の中の、何が真実で何が虚偽なのかに惑乱されていき……

この日英合作による新作ミュージカル『イリュージョニスト』ほど、数奇な運命を辿った作品も稀だろう。上演決定時アイゼンハイム役で主演予定だった三浦春馬さんの訃報により、一時は公演実施さえもが危ぶまれる事態に直面する。そこから皇太子役で出演が決定していた海宝直人がアイゼンハイム役を、新たにカンパニーに加わった成河が皇太子役を演じることが決まり、今年1月18日の開幕が決定したものの、瞬く間に世界を覆い尽くした新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて稽古が中断。演出をコンサートバージョンに変更しての上演に舵を切ったが、感染拡大は止まらず緊急事態宣言下に突入。結局1月27日~29日の三日間、5公演のみの上演という異例尽くしの形での上演になった。

この間、作品に携わった全ての人々の苦悩がどれほどのものだったかは、察してもあまりある。いっそ作品をしばらくの間凍結するという方法もあったかも知れないし、むしろその方が心休まる局面は少なくなかったはずだ。けれども、例えどんな形でも、2021年の今、この新作ミュージカルを上演することに、文字通り石にかじりついてカンパニーが拘った理由が、この舞台から迸り出てきている。

作品の展開についてはほぼ何も書けないと言っても過言ではないほど、虚実入り混じった物語は驚きと幻惑の連続だ。今回の三日間5公演の上演、更にイベント収容人数に制限まである現状では、観られる人は奇跡のラッキーパーソンに違いない。それでも、この舞台から「あなたが見ているものは本当に真実ですか?」という強烈なメッセージが発信されていることを、証言できる人々が2021年の1月の日本に存在できること、この新作ミュージカルが観客に届けられることは、非常に貴重なものに思える。

コロナ禍ばかりでなく、世界はいま大きく揺れ動いている。本来果てしない情報の海であるインターネットの発達は、個人の指向や、嗜好を分析し、それぞれに心地良いものだけしか目にせず、耳にしないでいられる、切り取られたコミュニティーに誘導する危険なワナを常にはらんでいる。いつしか自分に都合の悪いことは全て「フェイクニュース」で片づける風潮さえもがまかり通り、本来理想であるべき「みんな違ってみんな良い」とは遠く離れた分断は空恐ろしい速度で進んでいる。

この作品は、その流れに深く切り込み、何が真実で何が嘘かを見極める、少なくともそこに一度立ち止まって考えることの大切さを強く提示して尚、見事なエンターティメントとして舞台を成立させている。本来の形での上演であれば、このイリュージョンシーンなどは非常に大がかりで華やかなものになったのだろう…と思わせる部分はもちろんあるが、「コンサートバージョン」という言葉から連想する、ミュージカルナンバーを披露するコンサートとは全く異なる、この形は形でのひとつの作品として堪能することができる、クオリティの高い仕上がりに目を奪われる。むしろ舞台上にある四角いアクティングエリアの周りで、キャストが椅子に座って出番を待つオーディエンスとしての様子も見られることで、より演劇的想像力が喚起され、作品の幻惑度が深まったのではないかとさえ思えるほどだ。舞台装置と呼べるものは多くない中で尚、縦の空間も使い、これぞトム・サザーランドという効果も取り入れている演出家の力量には舌を巻くし、かなり難易度が高いが、時に作品の神秘性と惑乱を高め、時にストレートなアクセントになるマイケル・ブルースの音楽にも聴くべきものが多い。

何より、それらの楽曲をあたかも難しくないかのように自在に歌い、具体化されていないものを、演技力によって表出していくキャストたちの力量が舞台を支えている。

イリュージョニスト・アイゼンハイムの海宝直人は、ソフィをひたむきに愛し続け、思いを遂げようとする青年の、妄執ギリギリの情熱を純愛に昇華させる演じぶりが光る。休憩無しで一気に110分ほどを駆け抜ける為に、場面から場面で大きく表現が振れていく展開が多いが、そこに愛を通しているから役柄がブレない。それでいて意味深長な視線や物腰に、この作品に必要な「真実とは何か?」を滲ませてもいて、圧巻の歌唱力も場を浚う。作品が辿った道程の記憶が鮮烈なだけに、皇太子を演じていたとしたら?がよぎることはどうしてもあるが、だからこそミュージカル俳優・海宝直人の底力を感じさせる舞台になった。

そのオーストリア皇太子レオポルドに扮した成河は、佇まいからまずエキセントリックで、皇太子という立場と皇帝としての未来への強すぎる想いに、視野を狭めていく人物の造形が鮮やか。己の欲するところに向かって苛烈に突き進んでいながら、自らは極めて科学的根拠を重視し物事を客観視できていると信じている、役柄の実態と理想との乖離が作品のテーマを体現していてで、怒涛の展開に相応しい存在だった。

皇太子の婚約者で、アイゼンハイムと思いを重ねる公爵令嬢ソフィの愛希れいかは、首筋から背中にかけての抜群の美しさとドレスの見事な着こなしが呼応した立ち姿で魅了する。二人の男性が彼女を決して手放さないと追い続けるヒロインとしての存在感が抜群で、歌唱力にも更に磨きがかかり、葛藤しながらアイゼンハイムに心を引き戻されていく歌声に切実な思いが宿る。宝塚歌劇のトップ娘役時代には名ダンサーとして名を馳せた人だけに、ダンスらしいダンスがない舞台でもしなやかな動きが流麗だった。

ウール警部の栗原英雄は、この物語の中でおそらく観客の視線に最も近い人物を、この人らしい緻密な演技で構築している。ウール警部の発見、思考、驚きの全てが観る者の驚きにもつながっていて、最後の最後まで目が離せない。大きなソロナンバーも滋味深いのに張りがある声で歌い切っていて、幕開き近くのナンバーが帰ってくる展開でその意味をきちんと届ける力量が、真実とブラフが綾を成す作品を支えていた。

そして、興行主ジーガの濱田めぐみが、常に変わらぬエネルギッシュな歌唱でリードするだけでなく、はじめ利に敏いと感じさせる役柄が持つアイゼンハイムへの情を、物語展開の中で自然に見せていくことに特段の味わいがある。舞台のどこにいてもパッと目を引く存り様が、限られた動きの中に役柄を生かす効果になっていて、この作品に欠かせぬ濱田の存在が際立った。

またアンサンブルの面々にも大きな働き場があり、それぞれが時代や世界観を伝える重要な役割りを果たしていて、見応え、聞き応えも充分。この奇跡の三日間が次に必ずあるはずの、ミュージカル全編バージョン『イリュージョニスト』への架け橋に必ずなる。そう信じさせる、日本のみならず世界の舞台芸術が危機に瀕しているいま、舞台芸術が果たせる使命が届けられた、あまりに貴重な舞台になっている。

初日を明日に控えた1月26日、公開舞台稽古が行われ、主演の海宝直人が数々の苦難を乗り越えた公演への思いを語ってくれた。

【海宝直人挨拶】
本日は『イリュージョニスト』ゲネプロにご来場いただきまして誠にありがとうございます。明日初日を迎えるというのがちょっと信じられないような気持ちなのですけれども、いよいよだという緊張も、お客様をお迎えできる喜びもあります。そして、この作品はたくさんの山を乗り越えてここまでたどり着きました。三浦春馬さんを失い、どのような形で公演すべきなのか、それともしないべきなのか、そういったところに僕自身も悩み、そして色々と相談させていただきながら話し合う中で、トム・サザーランドさんをはじめとするクリエイティブチームのみなさんの「決して諦めることなく、この作品を必ずお客様にお届けする」という強い思いに、こちらのキャスト、スタッフ、本作に関わる皆が共感しました。ただ、強い思いを持ちながらも、その後もコロナの影響などもあり、それぞれに心が折れそうな瞬間、果たしてこの作品が完成するのだろうかという不安もたくさんありました。それでも全員が諦めず前進してきたからこそ、今日を迎えられなと思っております。

この作品は真実、そして嘘、果たして何が正義で何が悪なのか、そういったものを問いかける作品だと思います。自分たちが今考えなければならない問題、時代に本当にマッチしているなと改めて思います。今は、果たして何が本当なのか、嘘なのかを考えていかなければならない時代で、僕自身もこの作品について考えることが、自分の思考の凝り固まったところに対して、違う方向から見たら違う事実が見えるのではないかと考えるきっかけになりました。今のような自分たちが追い詰められ、疲弊している状況では、刺激的、扇情的な人を信じやすいという危うさがあります。そんな時代に、この作品をご覧になっていただき、自分が考えている正義について改めて考えていただく機会になったらいいなと思います。もちろんそれだけでなく、音楽や、衣装などたくさんの見どころを楽しんでいただけますし、ここにいる素晴らしい共演者の皆さんを本当に尊敬しております。短い期間で創ってきましたが、明日はその苦労を決して感じさせることなく、皆様に楽しい作品をお届けしたいなと思っております。本日はどうもありがとうございました。

【公演情報】
ミュージカル『The Illusionist─イリュージョニスト─』
脚本◇ピーター・ドゥーシャン
作詞・作曲◇マイケル・ブルース
原作◇ヤーリ・フィルム・グループ制作映画『幻影師アイゼンハイム』
スティーヴン・ミルハウザー作『幻影師、アイゼンハイム』
演出◇トム・サザーランド
振付・演出補◇スティ・クロフ
出演◇海宝直人 成河 愛希れいか
栗原英雄/濱田めぐみ
新井海人 池谷祐子 岡本華奈 伽藍琳 工藤広夢 斎藤准一郎 杉浦奎介 仙名立宗 染谷洸太  常川藍里 當真一嘉  湊陽奈 安福毅 柳本奈都子
●1/27~29◎日生劇場
〈料金〉S席15,000円  A席11,000円(全席指定・税込・全席公演プログラム付き)
〈お問合せ〉梅田芸術劇場(東京)  0570-077-039(10:00~18:00)
〈公式サイト〉 http://illusionist-musical.jp/
〈公式Twitter〉 @Illusionist2020
〈公式Instagram〉  the_illusionist_musical

 

【取材・文/橘涼香 撮影/岡千里】

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