三谷幸喜の傑作ホラー・コメディ『VAMP SHOW ヴァンプショウ』間もなく開幕!平埜生成インタビュー
三谷幸喜の幻のホラー・コメディ『VAMP SHOW ヴァンプショウ』が、8月の東京PARCO劇場公演を皮切りに9月には愛知、大阪、福岡を巡演する。
本作は、1992年にサードステージのプロデュース公演として初めて上演され、2001年にはパルコ&サードステージ提携プロデュースとして、キャストを一新し、池田成志の演出でPARCO劇場にて上演された。1992年版では西村雅彦、古田新太、池田成志らが、2001年版では佐々木蔵之介、堺雅人、河原雅彦、橋本じゅん、伊藤俊人が吸血鬼に扮し、笑いと怖さが詰まったストーリーを繰り広げ、大評判となった。
《物語》楽しく旅する5人組の吸血鬼。彼らはある日、うっそうとした森に囲まれたさびれた山間の駅にたどり着く。その駅には駅員と、電車を待つ女性が一人・・・。
今回、21年ぶりにPARCO劇場に戻ってきた吸血鬼たちによる“新たなヴァンプショウ”を演出するのは、2001年版で出演していた河原雅彦。そして5人組の吸血鬼には岡山天音、平埜生成、戸塚純貴、塩野瑛久、尾上寛之と実力派の若手俳優が顔を揃えた。さらに謎の女性に久保田紗友、駅員には菅原永二と、新鮮な座組で伝説のホラー・コメディに挑む。
その吸血鬼5人のリーダーとなる坂東正勝役を演じるのが、映像や舞台で独特の存在感と確かな演技力で注目を集めている平埜生成。三谷作品への出演は初めてという平埜に、本作への取り組みを話してもらった。
面白いことをやりたいという三谷さんの空気を感じる
──三谷作品へは初出演とのことですが、三谷さんの作品については、どんな印象がありましたか?
僕はテレビの『HR』(02年~03年、フジテレビ)というドラマが大好きで、当時は小学生だったんですけど、ドハマリして毎週観ていました。ですから三谷さんについてはそのイメージがずっと僕の体の中にあったのですが、この『VAMP SHOW』には、その三谷さんのイメージと通じるものを感じました。シチュエーションコメディで極限状態に置かれた人間たちの可笑しさとか面白さ、そういうものが『VAMP SHOW』にはふんだんに詰まっているなと。自分の好きな三谷作品のイメージ、面白いことをやりたいという三谷さんの匂いというか空気みたいなものを、『VAMP SHOW』にはすごく感じました。
──平埜さんが演じるのは坂東正勝という役で、初演では西村雅彦さん、再演で佐々木蔵之介さんという錚々たる方たちが演じています。
演出の河原雅彦さんから2001年版の映像を「観ておいてください」と言われたので拝見しました。コメディには面白い間だったり、変わらない決まり事があったりするので、先輩方が作った完成形を観て、資料として研究したうえで板の上に立ってほしいというオーダーでした。今も毎日観ています。
──影響を受けるから観たくないという人もいますが、平埜さんは大丈夫なのですか?
違う人間が演じるので、いやでも違ってくると思いますから。伝統芸能ではないですけど、その師匠の型みたいなものを弟子が学んでいるという形に近いかもしれません。どんなに稽古を積んでも師匠は超えられないのですが、その型を自分なりの何かで破っていければいいのかなと。
──1992年の作品を2022年の若い俳優の方たちが演じるのですから、たしかに捉え方や表現の違いが出てくるかもしれませんね。
そういう意味では僕がこの作品で一番感じているのは、「生き死に」についてなんです。コメディの要素はもちろんふんだんにあるのですが、ただのコメディではなく、僕が坂東という自分の役を通して作品を見ているせいなのかもしれませんが、「生き死に」を問い直す作品に思えてならないんです。人間にとって「生と死」はつねに隣り合わせにありますが、そういう当たり前のことを、ドラキュラたちは奪われてしまった。そういうことを考えはじめると、自分の台詞についても、ここでなぜこの台詞なのかなと考えたり、いろんな発見があるんです。ですから稽古もどんどん面白くなっています。
自分の中にある「死」みたいなものに気づく作品
──ドラキュラの5人は一緒に旅をするわけですが、その理由や経緯などが次第に劇中で明かされていきます。そこには吸血鬼とはいえ、人間だったからこその想いや絆などが感じられます。
演出の河原さんもそこにこだわっていて、5人の関係性も含めて、そういう部分をもう少しわかりやすく提示したいとおっしゃっていました。
──演じる側としては、そんな吸血鬼の何を大事に演じたいですか?
ドラキュラって、太陽光線を浴びたり聖水を浴びたら消滅するとか、十字架に弱いとかいう要素はありますが、不死身な肉体を手にしているわけです。でも同時に自分の命は自分で決着をつけることができる。たまたま偶然の事故でそうなる場合もありますが、でも死のうと思ったら自分から死ぬことはできるわけです。これが僕はけっこうポイントかなと。自分の生にどういうふうに自分で決着をつけていくのかということが重要で。そう考えると、偶然居合わせることになった女性とか駅員さんの存在や行動も、5人と対比させて考えられるし、彼らの存在もいくらでも深読みできるようになっていて、本当によくできた作品だなと思います。
──観ている側にも、いろいろ突きつけられるものがありそうですね。
僕は今まで出演してきた演劇作品は、すべて自分の日常と繋がっているという思いで舞台に立ってきたんです。そういう意味ではこの『VAMP SHOW』は、わりとファンタジー色の濃いエンターテインメント作品ですが、でも僕たちの生活に繋がる要素はきっとあると思ったし、それは「死」なんだろうなと。現代は医療も進んで、老いない体とか死なない肉体とか、人生100年が当たり前になって、「死」を先延ばしにしていく時代ですが、やっぱり「死」は隣り合わせにあって、僕自身も「死」が恐いし、死にたくない。そんなふうに考えると、この作品はコメディですけど、観ている方たちもつねに自分の中にある「死」に気づくような、そういう作品ではないかと思います。
──とくに現在は「コロナ禍」で、それは初演や再演の時にはなかったリアルな「死」の要素でもありますね。それを若い俳優の方たちが演じることで、より「死」の不条理感が強くなるような気がします。
坂東はドラキュラになったことを「病気」と表現するんですよね。そして「この病気は俺たちの中だけでとどめておこう」と。それはまさにこのパンデミックの中の僕たちの思いでもあって、いやでもメタ的に考えてしまうんです。そう考えると今のこの時期の上演は、きっと大きな意味があるんだと思います。
今しか観られない僕らを『VAMP SHOW』で観てほしい
──今回、ドラキュラ仲間として行動する5人組はどんなチームですか?
初演や再演のチームは、体型的にもいい感じのデコボコ感があって、どちらも強烈な個性のある5人組でしたよね。それに比べたら平成生まれの僕たち5人は、どうしても個性というものが薄い世代だと思うんです。そこが河原さんの演出の中でも一番大きなテーマになっていて、もっと個性を出してほしいと。稽古場でもそのことをいつも5人で話し合っていますし、それぞれのキャラクターをどう出していくか、みんなで考えながらその課題に取り組んでいます。
──登場人物5人のキャラや役割がそれぞれ面白いので、それを皆さんがどう自分の個性と摺り合わせるかも見どころですね。
まさに今そういう稽古をしていて、なるべく役に寄っていく、僕で言えば坂東のキャラクターを作りながら、そこに平埜生成をどう生かしていくかというフェーズにきたところです。これまでは先輩が作った坂東を追いかけてきましたが、そろそろ平埜生成の坂東をどう出していくかという課題に取り組んでいます。それはほかの4人も同じで、それぞれの人間性をいかに役に反映させていくかという段階にいます。そして舞台に立ったとき、この5人それぞれの個性がぶつかり合ったり、ときには一体化して、今回のドラキュラチームの個性となったらいいなと思っています。
──2022年のドラキュラチームを楽しみにしています。最後に改めて公演への意気込みをいただけますか。
意気込みは「今しか観られない僕らを観てください」ですね。『VAMP SHOW』という作品に出たらブレイクするというジンクスがあるそうですから(笑)、これをきっかけに僕自身もみんなも一まわりも二まわりも大きくなって、10年後とか20年後に「こんなすごいキャストが集まっていたんだ!」と驚いてもらえるようになれればいいなと。そのためにもこの舞台をがんばりたいと思いますし、もっともっと大きくなる僕らの今を『VAMP SHOW』で観ておいてください。
■PROFILE■
ひらのきなり○1993年、東京生まれ。2009年から退団するまでの8年間、「劇団プレステージ」に所属。中心メンバーとして数多くの作品に出演。舞台を中心に、ドラマや映画など幅広い役で活躍中。最近の主な出演作品は、【映画】『るろうに剣心 最終章 The Beginning』(監督:大友啓史)『アクターズ・ショート・フィルム2『あんた』』(監督:千葉雄大) 【ドラマ】『親バカ青春白書』(NTV)『相棒元旦SPオマエニツミハ』(EX)『直ちゃんは小学三年生』(TX)『大豆田とわ子と三人の元夫』(CX)『インビジブル』(TBS)連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)『あなたのブツが、ここに』(NHK) 【舞台】『誰もいない国』(演出:寺十吾)『日の浦姫物語』(演出:鵜山仁)『常陸坊海尊』(演出:長塚圭史)『私はだれでしょう』(演出:栗山民也)『アーリントン』(演出:白井晃)『ウェンディ&ピーターパン』(演出:ジョナサン・マンビィ)など。11月には『吾輩は漱石である』(演出:鵜山仁)が控えている。『私はだれでしょう』で読売演劇大賞2017上半期5部門ベスト5男優賞にノミネート、同作の2020年12月公演で十三夜会令和二年十二月月間賞の助演賞を受賞。
【公演情報】
パルコ・プロデュース2022『VAMP SHOW ヴァンプショウ』
作:三谷幸喜
演出:河原雅彦
出演:岡山天音 平埜生成 戸塚純貴 塩野瑛久 尾上寛之 久保田紗友 菅原永二
●8/8~28◎東京公演 PARCO劇場 (※※コロナウィルスの影響で開幕が延期になりました。詳しくは公式サイトをご確認ください。)
〈料金〉10,000円 全席指定グッドプライス9,000円 U-25チケット6,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※U-25チケット (観劇時25歳以下対象、要身分証明書(コピー・画像不可、原本のみ有効、当日指定席券引換/「パルステ!」、チケットぴあにて前売販売のみの取扱い、指定席との連席購入不可、連席ご希望の場合は指定席をご購入ください)
〈お問い合わせ〉パルコステージ03-3477-5858(時間短縮営業中)https://stage.parco.jp
〈公式サイト〉https://stage.parco.jp/program/vampshow
●9/1・2◎愛知公演 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
●9/10・11(日◎大阪公演 森ノ宮ピロティホール
●9/17・18◎福岡公演 キャナルシティ劇場
【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】
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