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『仮名手本忠臣蔵』通し上演に挑む! 加納幸和・原川浩明・桂憲一 インタビュー

座長・加納幸和が「創りたいときにだけ創る」というコンセプトのもと、2007 年に企画を立ち上げた“花組ヌーベル”。シンプルな舞台と厳選した役者という組み合わせで勝負する舞台だが、今回はなんと大作『仮名手本忠臣蔵』の通し上演に挑む! (6月21日~27日、下北沢 小劇場 B1 )

過去に『仮名手本忠臣蔵』『義経千本桜』『菅原伝授手習鑑』と、“浄瑠璃三大名作”の通し上演を決行してきた花組芝居だが、この『仮名手本忠臣蔵』に挑むのは16年ぶり。通しで観ようとすれば1日がかりという長編を、濃縮バージョン 3 時間弱(前編・後編、各回 90 分予定)で上演するという。

そんなアグレッシブな公演について、座長で脚本・演出・出演の加納幸和、高師直役の原川浩明、大星由良之助役の桂憲一に語り合ってもらった。

原川浩明 加納幸和 桂憲一

紋付袴の“素ネオかぶき”としてやってみようと

──『仮名手本忠臣蔵』の通し上演は二度目になるそうですね。

加納 花組芝居20周年記念のときに『KANADEHON忠臣蔵』として、世田谷パブリックシアターで上演しました。きっかけになったのは、その頃、兵庫のピッコロ劇団が『忠臣蔵』を通しで短くしてやりたいという話があって、石川耕士さんが脚本を、僕が演出を手掛けて、渡辺徹さんが大星由良之助を演じて上演しました。その脚本をそのまま花組芝居の20周年公演で使わせてもらったんですが、衣裳も装置も大掛かりでけっこうたいへんでした。今回は小劇場B1での公演ということで、紋付袴の“素ネオかぶき”としてやってみようと思ったんです。

──脚本は加納さんが新たに書き直したのですね。

加納 そうです。そのために改めて文楽と歌舞伎と両方の原作を読み直してみたんですが、石川さんの本には石川さんなりの解釈でのオリジナルが随所に入っているのに気づいて。それならと、僕も僕なりに原作に寄ってみたり歌舞伎に寄ってみたりして書いてみました。

──全十一段ありますが、大序から六段目までを前編、七段目から十一段目までを後編として、それぞれ約90分弱で上演するそうですね。どんなふうに短くしていくのですか?

加納 石川さんの脚本は一幕が90分で、二幕が70分ぐらいだったと思いますが、そのカットの仕方を参考にさせていただきながら、でも僕としては入れたいシーンもあったので、そこは足したりしています。例えば十段目は、この幕自体あまり上演されませんが、大概短縮版で、今回「丁稚伊吾」と「医師了竹」の珍妙な件を復活します。そのへんは初めてご覧になるお客様もいて新鮮に観ていただけるのではないかと思っています。

──有名なエピソードなどポイントを押さえながら、どんどん展開していくという感じになるのでしょうか?

加納 そうですね。起きているお話をどんどん繋げていくので、テンポよく、でも分かりやすく運んでいくと思います。

 

『忠臣蔵』は物語としてよく出来ている

──役者さんたちは16人で、皆さん何役も兼ねるそうですが、高師直の原川さんと大星由良之助の桂さんもそれぞれ他の役も演じるのですか?

加納 名前の書いてない役を何役かやると思います。

──高師直は、史実では吉良上野介で、浅野家断絶の原因になった人ですね

原川 前回もこの役で、16年前ですから47歳ぐらいで演じました。今は63歳なんですが、吉良上野介が亡くなったのは史実ではその年齢なので、ちょうど同じ歳で演じるのも何かの縁かなと。僕は東映映画で観た月形龍之介さんの演じた吉良が好きなんです。この役を高貴に悪役らしくなく演じる方もいますが、月形さんはいかにも悪で憎々しげに演じているところがいいんです(笑)。

加納 原川の高師直は色気があるんです。この役は好色でないといけなくて、文楽で使う「大舅」という「かしら」は大概肌色なんですが、師直だけ肌が白いんです。

──桂さんも前回に続いて大星由良之助です。

 僕も前回は30代の終わりだったので、少し背伸びがあったと思うんです。でも今回は年齢も役に近くなって、当時はガムシャラにがんばっていたところは落ち着いてできるかなと。でも逆に体力は落ちているので、そこはがんばらないと(笑)。

加納 桂は劇団に入った当初から主役をやらせているので、いわゆる頭領、ボスらしさがあるんです。それと由良之助は「七段目」の茶屋で遊んでいるところが大事だと言われていて、前半での出番は地味なんですが、前半で上手い役者は「七段目」に華やかさが足りないとか、「七段目」が似合う役者は前半が難しかったりするんです。でも桂は両方できる。それにピッコロ劇団公演での渡辺徹さんは、石川さんが愛嬌のある役に書いていて、そういう愛嬌も桂は持っている。由良之助は重厚すぎてもいけないんです。

──そして加納さんは二役で、加古川本蔵の妻戸無瀬と祇園の一文字屋お才です。

加納 一文字屋お才は、祇園に身売りするお軽を迎えにくるお茶屋の女将で、前編だけ出て来ます。戸無瀬は加古川本蔵の後妻で、「八段目」で、義理の娘の小浪が許嫁者の大星力弥に会いに行くのに同行するのですが、もし先妻だったら祖母と孫の「道行」みたいになりかねないところが、後妻ですからわりと若くて姉妹のような「道行」で絵になります。また、戸無瀬には先妻への義理のためにも、絶対に小浪を力弥と結婚させなくては、という思い入れがあるんです。

──小浪は「刃傷」の場に父が関わったことで、力弥と敵味方になってしまいますね。そういうさまざまな背景があっての女性2人の「道行」ですから、切なさや儚さがありますね。

加納 そのへんはとてもよく考えられていますね。そこからさらにこの家族の悲劇にも繋がっていく「九段目」も、後編の見どころの1つとなっています。

──各段で本当にいろいろ見せ場のある作品ですね。

加納 『忠臣蔵』って、三大名作の他の2つ、『義経千本桜』や『菅原伝授手習鑑』とは違って物語が緊密に絡まっている。1つの話を引っ張りだすと、他の話も繋がって出てきてしまうんです。『義経』や『菅原』は他の家族の物語として同時進行しているので話を分けやすいんですが。そういう意味では『忠臣蔵』は物語としてよく出来ていると言われるんです。

復讐に燃えたはずなのにお茶屋で遊んでいる

──原川さんは今回、高師直をどう演じたいですか?

原川 台本に書かれているのを忠実に演じれば、高師直らしさは見えてくると思うのですが、ただ今回は紋付袴の“素ネオかぶき”なので、大きな衣裳では見えなかった体の動きとかそのまま見えてしまう。顔も化粧しませんから表情が見えてしまう。とにかく内面をちゃんと作らないといけないと思っています。

──なかでも「刃傷」で塩冶判官を挑発するところは見どころですね。

原川 塩冶判官は前回と同じ小林大介で、彼も16年の間に役者として大きくなっているので、お互いの駆け引きを2人でさらに深めていきたいですね。

加納 やっぱり役者の心の動きは大事で、文楽より歌舞伎のほうが長い上演時間になるのは、役者にはその感情になっていくための時間が必要だからなんですよね。今回はある程度短い時間でその気持ちまで持っていくわけですが、みんなパワーアップしているので大丈夫でしょう(笑)。

 大星なんか「四段目」で主君の切腹を目の前で見て復讐に燃えるんですが、次に出てくる「七段目」では茶屋で遊んでるんですよね(笑)。

加納・原川 (笑)。

──あの場面はお軽さんをからかったり、楽しそうですよね。

 (笑)ただ、観ている方には楽しい場面でしょうけど、やっているほうは探りにきた斧九太夫との駆け引きもあったり、いろいろドキドキするんです(笑)。

加納 今回は装置がないので、九太夫が縁の下に隠れるという設定とか、どう見せようかと考えているところなんです。そういう意味では、16年前に出ていた人たちはそのときの感覚が役に立つので、それはけっこう大きいですね。出ていなかった人たちには、すごく想像力を働かせてもらわないといけない。

──そういう部分も含めてチャレンジできるのは、若手の方にも良い機会ですね。言葉も難しそうです。

加納 稽古でも、ここは義太夫の言い方、ここは歌舞伎の言い方という感じで、映像も一緒に共有しながら稽古してます。

 こういう名作で大きな役を演じるなんて、うちの劇団じゃなかったら出来ないですからね。

日本人の心情に合うドラマが詰まっている

──まさに古典中の古典として知られる『忠臣蔵』ですが、映画やドラマでは知っていても、舞台では観たことのない人も沢山いるのではないかと。

加納 『忠臣蔵』ってなあに?という人がけっこういるそうですからね。

原川 高校生でも『忠臣蔵』って読めない子が沢山いるんですよね。前回の公演で「ちゅうしんぞう」と読んだ子がいましたから(笑)。

──だからキャッチに、「ハムレットでも、ジョン・ウィックでもない。『忠臣蔵』をご存知か?」と書いてあるのですね。面白い復讐劇なんだよと。

加納 そうなんです。『忠臣蔵』という作品を知っていただきたいと。

 有名な四十七士の「討入」だけでなく、「大序」とか「二段目」は上役への付け届けやパワハラの話だったり(笑)、逆に上司と部下たちの熱い絆だったり、分かりやすいドラマが詰まっているんです。

──そう考えるととても身近ですし、日本人の好きな世界ですね。

加納 ある目標のために苦労したり、挫折したり、葛藤したりするその過程が日本人の心情に合うんでしょうね。だから今も愛される。ただやっぱり食わず嫌いな方もたくさんいらっしゃるので、まず観にきていただきたいですね。

原川 長いのではないかと敬遠しているかたが多いんじゃないかな。

加納 今はちょっと長いドラマとか映画は、2倍速とかで観る時代だから(笑)。

──でもこの舞台は言ってみれば、3倍速ぐらいで全部を観られる感じですね。

加納 その通りです(笑)。スピーディに物語がとんとん進みますから。

──そういう意味でも、3時間弱で全部を観られるこの通し上演は、きっと沢山の方に喜ばれると思います。最後にアピールをいただけたら。

原川 いろいろな方に、とくに若い方に観てもらいたいですね。それに『忠臣蔵』という演目に興味を持って観に来た方には、これをきっかけに花組芝居という面白い劇団があるんだと知ってもらいたいです。とにかく何も勉強せずに来てください。必ず面白いと思っていただけるように全員で楽しんで演じますので。

 全編通しでご覧にならなくても、前編だけでも後編だけ観ても楽しめます。あまり難しい作品と思わずに、気軽な感じでこの物語を楽しんでください。

加納 僕はちょっとコアなファンの方向きにアピールしますと、文楽から取ったところとか、逆に文楽ではカットされている部分とか、歌舞伎から取ったところとか、どう切り貼りしたか、見付けていただく、原作を読み込んでいる方ならではの楽しみ方もあると思います。皆さんそれぞれの楽しみ方でご覧いただければ嬉しいです。

桂憲一 加納幸和 原川浩明

■PROFILE■

かのうゆきかず○兵庫県出身。87年に花組芝居を旗揚げ、ほとんどの作品の脚本・演出を手掛け、劇団外の演出も多数。俳優としても映像から舞台まで幅広く活躍中。劇団以外の近年の主な出演舞台は『ドレッサー』『三億円事件』音楽活劇『SHIRANAMI』ミュージカル「刀剣乱舞」髭切膝丸双騎出陣、『十二夜 Twelfth Night』、PARCO PRODUCE『桜文』、江戸糸あやつり人形結城座『荒御霊新田神徳』『演劇調異譚「xxxHOLiC」-續-』など。西瓜糖『ご馳走』(演出)花組芝居ヌーベル『毛皮のマリー』(脚本・演出)で2019年前期の読売演劇賞演出家賞にノミネートされた。

はらかわひろあき○長崎県出身。88年、『ザ・隅田川』(旗揚げ公演)より花組芝居に参加。無類の落語好きで、落語会を主催。平成27年5月には、内幸町ホールで一人会も行った。近年の出演作品は、ドラマは、松本清張ミステリー時代劇 第三話『役者絵』( BSジャパン) BS時代劇 『大岡越前3』第一話(NHKBSプレミアム)男と女のミステリー時代劇 第八話『宿場の大盗』(BSジャパン)、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』、舞台は、『帰ってきた蛍』『BOMBER-MAN』など。

かつらけんいち○愛媛県出身。1989年、『かぶき座の怪人』より花組芝居に参加。入座当初から、主要な役柄を担い客演多数。最近の主な舞台は、四獣『入り口色の靴』、玉造小劇店『天獄界~哀しき金糸鳥~』『眠らぬ月の下僕』『お正月』、はんなりラヂオ『オトの初恋』、渡辺源四郎商店Presentsうさぎ庵『コーラないんですけど』『千里眼』。舞台だけでなく、ドラマ、映画、CMでも活躍。主な出演作に、故森田芳光監督作品『黒い家』『模倣犯』『間宮兄弟』、原田眞人監督作品『魍魎の匣』『日本のいちばん長い日』。昨年から公開中の、深川栄洋監督作品『42-50火光(かぎろい)』に、主役夫婦の夫役で出演している。

【公演情報】
花組ヌーベル『仮名手本忠臣蔵』
脚本・演出:加納幸和
配役:
高師直=原川浩明
足利直義=武市佳久
塩冶判官=小林大介
桃井若狭之助=北沢洋
顔世御前=押田健史
小浪=武市佳久
戸無瀬=加納幸和
加古川本蔵=秋葉陽司
大星力弥=松原綾央
早野勘平=丸川敬之
お軽=永澤洋
鷺坂伴内=押田健史
原郷右衛門=秋葉陽司
斧九太夫=八代進一
薬師寺次郎左衛門=横道毅
石堂右馬之丞=山下禎啓

大星由良之助=桂憲一
千崎弥五郎=武市佳久
与市兵衛=磯村智彦
斧定九郎=北沢洋
おかや=八代進一
一文字屋お才=加納幸和
矢間重太郎=松原綾央
竹森喜多八=塚越健一(花組男子)
寺岡平右衛門=小林大介
下女おりん=塚越健一(花組男子)
お石=山下禎啓
天川屋義平=押田健史
丁稚伊吾=小林大介
由松=永澤洋
太田了竹=磯村智彦
お園=横道毅
●6/21~27◎下北沢 小劇場 B1
〈料金〉前売:一般/4,200円 U-25/2,000円  O-70/3,000円  通し券/8,000円 当日は各 300円増し(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※U-25(25 歳以下、入場時要身分証)
※O-70(70 歳以上、入場時要身分証)
※通し券(同日観劇・前売・オンライン予約のみ・数量限定)
〈チケット問い合わせ〉花組芝居/03-3709-9430
オンライン予約は https://hanagumi.ne.jp の「券」を参照
〈公式サイト〉https://hanagumi.ne.jp/

 

【構成・文/榊原和子 撮影/白木淳也】

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