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新たな視点で描かれた天才の苦悩と真実『モーツァルト‥‥―オレは誰だ!!―』上演中!

神童、天才と呼ばれ、今尚その音楽が世界中で愛され続けているヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの、天才故の苦悩を全く新しい視点で描いたDramatic Super Dance Theater『モーツァルト‥‥―オレは誰だ!!―』が、銀座博品館劇場で上演中だ(14日まで)。

Dramatic Super Dance Theater『モーツァルト‥‥―オレは誰だ!!―』は、18世紀の天才作曲家モーツァルトの、波乱と謎に満ちた生涯を、ダンス界の鬼才上田遙が、ダンスは勿論歌や台詞も駆使し、喜歌劇的要素を含んで作った作品。モーツァルト役に東山義久、同時代を生きた文豪ゲーテ役に植木豪をはじめ、多彩なキャストが新たな切り口のモーツァルト譚を描き出している。

【STORY】
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(少年時代・木村咲哉、のち東山義久)は8歳で最初の交響曲を作曲した神童として人々の耳目を集めていた。父レオポルド(咲山類)は、そんなモーツァルトの才能を更に開花させようと、演奏旅行でヨーロッパ中を回っていた。
一方、人類史上唯一無二の天才と自負するゲーテ(植木豪)は、ある日ブルボン王朝第4代フランス国王ルイ15世(Jeity)が催す舞踏会で、モーツァルトの音楽を聴き、そのあまりに魅力があるが故に、人々を滅ぼす力にもなりうる楽の音に衝撃を受ける。かねてより人生をかけて、暴力、憎しみ、欲望に満ちた世の中を美しい世界に浄化しようと、魔法陣から大魔王サタン(長澤風海)を呼び出そうとしていたゲーテは、その魔力でモーツァルトをこの世から消し去り、人類を救うことが自らの使命だと思うに至る。
だが、成長した当のモーツァルトは、オペラ、シンフォニーの傑作を次々と生み出しながらも、あまりにたやすく生まれてしまう音楽に対して、自分が書いているのではなく、何かの力で書かされているという感覚しか持てず、自分が誰で、なんのために生まれてきたのかの答えを求め苦悩するあまり、人々が忌避する行動をエスカレートさせていた。その過程で、マリー・アントワネット(今井瑞)、ベートーべン(Homer)などモーツァルトから傷つけられたと感じる人々が増えていき、その背後にゲーテがそっと忍び寄って……

クラシック音楽の世界に輝く名だたる大作曲家たちの中でも、モーツァルトほど、評論、文学、映画、演劇の世界で取り上げられ続けている作曲家も多くない。それは神童として華やかな演奏活動を続けた幼少期を経て、この時代の音楽家には他に活動の道がほとんどなかった、高貴な身分の人間に雇われ求められるままに作曲し、演奏する、というお抱え音楽家の地位を嫌ったモーツァルトが、自由な音楽活動を求めて故郷ザルツブルグを離れたものの、有力なパトロンを得ることができず困窮。最終的には墓地さえハッキリしていないという数奇な生涯に、人々が哀惜とロマンのドラマを感じるからこそだろう。特にピーター・シェーファーの『アマデウス』が世に出てからは、モーツァルトが天才故に、当時の常識では理解し難い奇行に走ったことが強調され、そんな神への冒涜的な振る舞いをするモーツァルトが、その神に選ばれた音楽を書けることが許せなかった、信心深い宮廷音楽家サリエリとの確執が、非常に多くの作品のテーマになってもいる。

だが、この作品で上田遙が描いたモーツァルトの苦悩はもうひとつ深いもので、頭に浮かぶ音楽を書きとめるのが間に合わなかった、書く前に頭の中で既に音楽が出来上がっていた、等々の逸話が多く残るモーツァルトの、その天才性そのものが、モーツァルトを苦しめていたという新しい切り口だった。なんの苦もなく音楽が湧き上がってくることが、誰かに音楽を書かされている、自分は何かの力に踊らされているに存在に過ぎないのではないか、とのモーツァルトの苦悩につながるとの視点は、ある意味盲点を突かれた思いがした。ここに作品の照準を合わせられたのは、すなわち上田遙自身がまた天才である故に違いない。モーツァルトはもちろん、ベートーべンを含めた非常によく知られた音楽を、ダンスで視覚化していることも面白く、ダンスパフォーマンスがそのまま著名な音楽そのものを表現している興趣にあふれた作品に、上田の天才性が息づいていた。

そんな新たな光りを当てられたモーツァルトの、屈託ない少年時代の天衣無縫さを木村咲哉に。長じてその破天荒の香りを残しながらも、やがて苦悩の色を濃くしていく姿を東山義久にリレーさせたのも効果的で、特に少年の面影から脱皮しつつある木村が、このポジションにいられる時間には当然ながら期限があることを思うと、この配置もまた貴重なものになった。そこからバトンを受け取る東山が「ちょっと18歳には見えない」などとコミカルに笑い飛ばしながら、モーツァルト役の現在一般的になっているイメージを踏襲しつつ、次第に役柄を東山義久のモーツァルト像に昇華していく様が見事だった。分けても終幕に近づくに連れて強まっていく憂愁と共にあるダンス表現は、まさに東山ここにあり!で、この人もまた天才であることを改めて感じさせるパフォーマンスに惹き付けられた。

一方、この作品のもうひとつの肝であるゲーテの植木豪が、強烈な個性で作品に必要な影を落としている。前述したように天才を聞き分ける耳を持った凡人だったサリエリの、モーツァルトへの嫉妬が対局にくる作品が非常に多い中で、自らも天才であり文豪であるゲーテを持ってきたことが新しいし、そこに植木が扮したことで、彼でなければ踊れないブレイクダンスや存在感そのものが、魔法陣で大魔王サタンを呼び出す、というファンタジー色の強い展開を全体から浮かせなかったの植木の力は大きく、得難い起用になった。

他にも全体のキャスティングが、キャストの顔を見て決められている、所謂「あて書き」なのだろうと感じさせる適材適所が作品の質を高めている。モーツァルトと行動を共にする音符のドの中塚皓平、音符のミの和田泰右、音符のソの新開理雄は、三人でハ長調の主和音になるという音楽の根本の存在で、それぞれが放つ明るさが、次第にモーツァルトにとって彼らが味方なのかそれとも或いは敵なのか?が、混沌としてくる複雑さを巧みににじませている。中塚、和田と共にいる新開の調和が、新生DIAMOND☆DOGSの進化も自然に見せてくれていた。

また、ストーリーテラーの役割も随所で担う、モーツァルトの父レオポルドの咲山類は、その輝かしい美声はもちろんのこと、日増しに大きくなる舞台姿が作品を強力に支えたし、ベートーベンのHomerが得意のストリート系ダンスだけでなく芝居心も発揮して、ますますそのキャラクターが貴重になってきた。マリー・アントワネットの今井瑞の天真爛漫でストレートな表現の中にもきちんと残る愛らしさ。ルイ15世のJeityの鷹揚な雰囲気と高い歌唱力。ベーズレとミューズの中西彩加のダンス力と芝居力の双方も活きている。

そして、DIAMOND☆DOGSが関わる舞台にはほぼ常連と言っても過言ではない長澤風海が、今回は大魔王サタンで謂わばスペシャルゲストスター的な登場をしたのが取り分け大きな効果をあげている。なんとも贅沢な起用法だったが、それだけに彼の登場で吹く風によって終幕が引き締まり、東山とのダンスも実に美しい。長澤自身が『メリー・ポピンズ』や『アクト・カンタービレ』で芝居面の力を高めたことも顕著に表われていて、更なる可能性を感じさせた。

全体の音楽をクラシックから現代のロックチューンまで幅広くカバーできるTAKAが、作品、場面、キャラクターに合わせて多彩に書き分けたことも大きな力になり、天才は天才を知ると言うべき、新たなモーツァルト像が描き出された作品になっている。

 

【公演情報】
Dramatic Super Dance Theater
『モーツァルト‥‥―オレは誰だ!!―』
作・演出・振付◇上田遙
音楽◇TAKA
出演◇ 東山義久 〔D☆D〕 中塚皓平 咲山類 和田泰右 新開理雄 Homer
今井瑞 中西彩加 長澤風海 Jeity 木村咲哉 植木豪
●2/5~14◎銀座 博品館劇場
〈料金〉9,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問合せ〉博品館劇場 03‐3571‐1003
http://theater.hakuhinkan.co.jp/pr_2020_02_05.html

 

【取材・文・撮影/橘涼香】

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