不朽の名作戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』に挑む! 古川雄大インタビュー
大好きな「挑戦」という言葉を胸に、言葉で紡ぐ舞台にぶつかっていきたい
17世紀フランスに実在した詩人にして、剣豪のシラノを主人公に、エドモン・ロスタンが描いた不朽の名作戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』。
大きな鼻のコンプレックスに悩みながらも、一人の女性を慕い続けた崇高な魂の物語は、今も上演が絶えない傑作として愛され続けている。
そんな作品が、2019年ロンドンのプレイハウス・シアターでジェイミー・ロイドの演出、マーティン・クリンプの現代的な脚色によって、全く新しい『シラノ・ド・ベルジュラック』として生れ出た。
登場人物たちは当時の衣裳もつけず、小道具もなく、手にハンドマイクを持ちながら、ラップの手法で作品世界を描き切り、その前代未聞の『シラノ』は、ローレンス・オリヴィエ賞でリバイバル賞受賞したのをはじめ、世界中から絶賛を集めた。
そんなマーティン・クリンプ脚色版が、来年2月、気鋭の谷賢一翻訳・演出によって日本で初めて上演される。
シラノ最大の特徴である大きな鼻をつけることなくこの役柄に挑むのは、ミュージカルの世界で確固たる地歩を築いているだけでなく、映像作品にも積極的に出演している古川雄大。
念願だったというストレートプレイでの主演、斬新な作品への意気込み、また作品のテーマについての様々な思いを語ってもらった「えんぶ2月号」のインタビューをご紹介する。
言葉だけで紡ぎ、人物を描いていく
──まずこの『シラノ・ド・ベルジュラック』への出演、主演が決まった時の気持ちからお話しいただけますか?
ストレートプレイの舞台をやりたいとミュージカルをはじめた頃からずっと思っていたのですが、なかなか実現せず、今回約10年ぶりにストレートプレイの舞台で主演をやらせていただけると聞いた時には、とても素直に喜びを感じました。ミュージカルを頑張ってきたからこそ、これだけ大きな作品で、素晴らしい共演者、スタッフの皆様に囲まれて主演をさせていただけるということにつながったんだと思えて。なので決まった時には本当に嬉しかったのですが、内容を知れば知るほど大変な舞台だなとも感じています。この稽古期間でどれだけ自分が進化できるかにかかっているので、大変な作品に出会いましたが、これを乗り越えた先に新しい自分が待っているんじゃないかという期待も大きいのでとても楽しみです。
──大変な舞台、作品だなと感じているとのことですが、具体的にどのような点にそれを感じますか?
やはり新演出ということで、その時代の衣裳もつけず、特にシラノのコンプレックスの象徴である大きな鼻もつけずに言葉だけで紡いでいくところです。映画化(ジェームズ・マカヴォイ主演 National Theater Live)されたものを拝見したのですが「あぁ、本当にシンプルな衣装で演じるんだ」と実感しました。ハンドマイクも手に持っているので、表現ひとつで、言葉だけで、お客様に満足していただける人物を描くというのはかなり大変だろうと思っています。ただ映画を観た側としては、最初こそ「あっ!」と驚いたのですが、すぐになんの違和感もなく物語に没頭できたんです。それは演者の皆さんが素晴らしい方ばかりで、ひとつも嘘のないものを描いてくださったからこそ、きちんと観ることができたんだと感じたので、僕もそういう地点まで頑張っていきたいです。
人って皆、何かしらのコンプレックスを抱えている
──シラノというキャラクターに共感するところはありますか?
シラノは大きな鼻にコンプレックスを抱えているのですが、それ以外は詩人で、作家で、剣豪で、哲学者でと、類稀なる才能を持っている。そういう人が大きな鼻というひとつのコンプレックスに苛まれてしまっているんですよね。でも僕ももちろんそうですし、人って皆何かしらのコンプレックスを抱えているんじゃないかなと思いますし、それとどう向き合っていくかは、人生の半分くらいを占めている問題だと思うので、そこには共感できます。特にシラノが弱い部分を悟られないようあまりに強く出てしまうというところは、僕自身に重なるものも多いですし、シラノの場合は、自分がそういうコンプレックスを持っているからこそ、人の痛みがわかる優しい人なんだと思います。クリスチャンに代わってロクサーヌに手紙を書き、愛を語るのも、もちろんクリスチャンとの友情もありますが、どこかにやっぱり自分の愛を伝えたいという気持ちもあると思います。でもそれは決してシラノの愛としてロクサーヌには伝わらない。それをわかってやっているのも切ないですね。
──演出の谷賢一さんとはどんなお話を?
挑戦的な内容だというところで、谷さんとラップ監修のTOSHさんとお話させていただいたのですが、やはり全編がラップで綴られていくので、それをどうするか?が大きな問題だという話になりました。実はラップにも色々な種類があって、どのスタイルを選んでいるかで、そもそも表現されているものがあるのだそうですが、正直それは映画を観ていても僕にはわからなかったんです。そこをどうしていくのか?については、実はまだ結論が出ていません。例えば映画ではラップにビートをつけているのは極一部分で、ビートがなくてもきちんとラップのスタイルで伝えられる人たちが集まっているのですが、僕自身がこの短期間でそこまでいけるのかということと同時に、もちろんプロの方はいらっしゃいますが、そこまでラップの多様な文化が浸透していない日本の土壌と、ラップをどう親和させていくかを、これから考えていこうというお話しをしました。
ギャップを感じるとしか言われたことがない
──そういう新しい作りの中で、ロクサーヌやクリスチャンとの関係性はどのように描かれているのですか?
関係性では大きな変化はありません。クリスチャンに対しても目で見えるものと内実のギャップという意味で同じコンプレックスを持っている人、どこか同志のような特別な友情を持っていて。ただロクサーヌという同じ人を愛してしまった複雑さがありますが、そのロクサーヌも今度は見かけの美しさで決めつけられることに鬱屈やコンプレックスを感じていて、内面の美しさを認めて欲しいと強く思っている人で。そんな三人が抱えているコンプレックスが、どこかいびつに絡み合っていくところは変わらないと思います。
──いま、ルッキズム、外見史上主義によって見た目で評価が定まってしまうという問題も大きく議論されるようになってきて、『シラノ』が描いているのは普遍的な問題なんだなとも感じますが、古川さんご自身が、見て思ったことと実際が違ったと思われたことはありますか? あまり重い話でなく、物を買った時などのお話でも良いのですが。
むしろそんなことばかりな気がします(笑)。目で見た印象と中身が一致した瞬間の方がむしろ少ないんじゃないかと思うんです。最近で言うと、ずっと〝クラフトコーラ〟の存在が気になっていたんです。しょうがや蜂蜜が入っている変化球のコーラで「絶対に美味しいに違いない!」と思って買ったのですが、まるでシロップの風邪薬のような味で(笑)。クセになる味でした。目で見て感じた理想と現実がかけ離れた瞬間は多いと思います。見た瞬間に読み取れないのは、自分の経験値が低いからなのかな? 自分が好奇心旺盛ではないからかな? と感じたりもするのですが…。
──いえ、それは誰でも容易にはわからないことだと思います。逆に古川さんご自身が、第一印象と実際に話したあとでギャップを感じると言われることはありますか?
それは、もうそれしか言われたことがないくらいです(笑)。一見とっつきづらそうに感じられるみたいで。
──あまりにも整ったお顔立ちでいらっしゃいますから。
いやいや、そういうことではなく(笑)、現場でも比較的陽気なタイプではないからだと思うのですが、話してみると「意外と天然だね」と言われたり、「ギャップを感じる」とは本当によく言われます。
言霊があるので、ネガティブな言葉は使わない
──また、登場人物を演じる共演者の方々も、今回は多彩なジャンルから集まっていますが、楽しみにしていることは?
皆さん素敵な方々ばかりなので、皆さんとの共演を楽しみにしていますが、敢えてお名前をあげるとすると、ド・ギーシュ役の堀部圭亮さんはよく拝見していましたし昔から、僕が一番好きなテレビ番組「ガキの使いやあらへんで!」の放送作家もされているので、ご一緒できるのは個人的にとても楽しみにしています。
──テレビ番組のお話が出たところで、古川さん自身も映像作品への出演も積極的に展開していますが、双方の違いや醍醐味、またそれによって感じ方が変わったなということはありますか?
変わったことといえば、舞台でもよりリアルな表現を見つけたいと思うようになったことかなと思います。舞台も映像も集中し続けるという意味では同じなのですが、そのタイプが違うのかなと思っていて。舞台は三時間ずっと役として同じエネルギーを保って存在する集中力がいりますし、一方映像は時系列に関わらずに色々な場面を撮るので、そこに瞬時に対応して変化していく必要があります。物語としてつながっていない一場面に気持ちを持っていく集中力がいります。言葉としては同じ「集中」なのですが、全く異なる難しさがあります。逆に楽しさで言うと、映像では完成した作品を観た時に、作品のメッセージを受け取って浸れる時間は格別ですし、現場でも、用意していったものを実際にやってみた瞬間に生まれるものがある。それはその場にいかないとわからないことなので、その発見は大きな醍醐味だと思っています。一方で舞台は何ヶ月もずっと同じ作品に向き合うので、やっている間ももちろん楽しいですが、大千秋楽を迎えた時の達成感や充実感が格別で、すごくやり甲斐のあるものだと感じています。
──演出の谷さんがこの作品のことを「言葉で戦う演劇」とおっしゃっていたのが印象的ですが、古川さんご自身の好きな言葉は?
「挑戦」ですとか、「まずやってみる」と言うような前向きな言葉が好きです。言霊っていうじゃないですか。口にしていたら必ず叶うという。自分でそれを実感したのか?と言われたら、まだ実感はしていないのですが、でもネガティブな言葉は使わないようには意識していますし、コツコツとひたむきにやっていたら、道が開けていったということはあるので、言葉として好きという以上に、常にそうありたいという思いも含めて「挑戦」は好きです。
──そんな古川さんが挑戦する新しい舞台を楽しみにされている方達に、改めてメッセージをお願いします。
この物語を知っている方こそ「おっ!?」と驚かれる作りになっていると思うので、そこを超えて納得していだけるものにできるように。またこれまでご存知なかった方には、是非作品の面白さを感じ取っていただけるように頑張っていきますので、是非観にいらしてください。
ふるかわゆうた〇長野県出身。俳優・ミュージシャンとして芝居と音楽を両輪に多彩な活動を続けている。近年の主な出演作品に、舞台に『エリザベート』『モーツァルト!』『INSPIRE陰陽師』『黒執事 -Tango on the Campania-』『レディ・ベス』『ロミオ&ジュリエット』『1789 ─バスティーユの恋人たち─』『マリー・アントワネット』テレビドラマに連続テレビ小説『エール』『極主夫道』『カンパニー~逆転のスワン~』『女の戦争~バチェラー殺人事件~』『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~』などがある。1月から主演ドラマ「私の正しいお兄ちゃん」(CX)の放送を控えている。
【公演情報】
『シラノ・ド・ベルジュラック』
作◇エドモン・ロスタン
脚色◇マーティン・クリンプ
翻訳・演出◇谷 賢一
出演◇古川雄大
馬場ふみか 浜中文一 大鶴佐助 章平 堀部圭亮 銀粉蝶 他
●2/7~20(※2/7はプレビュー公演)◎東京・東京芸術劇場 プレイハウス
〈お問合せ〉ゴーチ・ブラザーズ 03-6809-7125(平日10:00~18:00)
●2/25~27◎大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TT ホール
〈お問合せ〉キョードーインフォメーション 0570-200-888(11:00~16:00 日・祝休業)
〈公式サイト〉 https://www.cyrano.jp/
【構成・文◇橘涼香 撮影◇岩田えり ヘアメイク◇窪田健吾(aiutare) スタイリスト◇根岸 豪(THE Six)】
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