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過去への旅を楽しむ。ヨーロッパ企画『あんなに優しかったゴーレム』上田誠・土佐和成・中川晴樹 インタビュー

中川晴樹 土佐和成 上田誠

京都の劇団「ヨーロッパ企画」が、14年ぶりに再演する『あんなに優しかったゴーレム(以下ゴーレム)』。ある野球選手のドキュメンタリー撮影のために、彼の故郷まで取材に来たTVクルーたちが、現地のゴーレム伝説に振り回される様を描いた、歴代の作品の中でも人気の高い群像劇だ。

今回は、14年間で積み重ねた経験値と、現在の時代のムードを反映させながら、バカバカしさとホラー感をより高めた、サイココメディにリメイクするという。

作・演出の上田誠と、クリエイター集団色の強いヨーロッパ企画の中でも、どちらかといえば役者スタンスが高めという点で共通している土佐和成と中川晴樹に話を聞いた「えんぶ10月号」のインタビューをご紹介する。

1作品だけ選ぶとしたらオススメする超会話劇。

──14年前に『ゴーレム』が生まれたきっかけは。

上田 ちょうど(公演する)劇場の規模が大きくなってきた頃で、何か大きい物を舞台で扱いつつ、空間の高さを活かして、地上と地下に分かれた話をやろうと思ったんです。あと、超常現象に対する人間の変性意識に興味があったとか、いろんな複合的な要素があって生まれた作品でした。

──今でこそ、変わった美術プランを先に決めて、その場所だからこそ生まれる物語を考える「企画性コメディ」を提唱している上田さんですが、確か当時はまだ正攻法で、テーマを決めてから戯曲を書いていた時代でしたね。

上田 そうですね。今の自分たちや社会の状況をとらえて、それを劇に乗せるという手続きを、ちゃんと踏まえようとしていた頃でした。当時は「この先どうしようか?」ということを思春期みたいに悩んでいて、その思いを劇にしていた時期で。この一つ前の『火星の倉庫』は未来のこと、『ゴーレム』は過去のこと、その次の『ボス・イン・ザ・スカイ』は今のことを考えるという、自分の中では三部作になっています(笑)。

中川 『ゴーレム』はお客さんも盛り上がっていて、僕としても思い入れがいろいろある、大好きな作品です。ただ、すごくギリギリで作った、大変な作品でもあったよね?

上田 直前までいろんなやり方を試して、すごく試行錯誤していたから。本番2週間前にギュッと全部まとまって、そこからはノーブレーキで進んで行った公演でした。

土佐 僕は別の舞台をやってて、後から合流したから、どんなバタバタがあったのかは見てないけど、松居(大悟/当時は上田の助手を務めていた)君が学生やのに、演出席で「用意、スタート!」って稽古していたのはビックリした(笑)。

中川 あったあった。上田が1日だけいなかったんだよ。

土佐 一時期「DVDを一本だけ観るなら、何がいいですか?」って聞かれたら、『ゴーレム』ばかりすすめてました。初めての人でも味わいやすい、ちょっとのんびりした作品なんで。最近は、舞台上で余裕がない状態だったり、いきなりトップスピードに入るような劇ばっかりだけど、いくら僕らが必死にやっても、アンケートには「ゆるくていいですね」って書かれてしまうんです(一同笑)。

上田 最近は、意外と演じていて汗だくになるような芝居が、めちゃくちゃ多いんですよ。しかも初めての人にすすめにくい、変な話ばかりだし(笑)。

中川 でも確かに『ゴーレム』は、ずっと会話してる感じだった。特に大きなアクションもなく、4・5人で漫才をやってるみたいな。

土佐 最初の30分ぐらいは、そんな会話をしてるだけ(笑)。割と最近やってないタイプの、超会話劇ですね。

上田 本当に、集団の掛け合い漫才みたいな感覚は強いです。前回の『九十九龍城』は(空間が)セパレートになった、すごく特殊なタイプの舞台だったから、普通に人間同士が一つの空間でぶつかりあうような劇を、久々にやってみたいという気持ちもありました。

──初演では中川さんも土佐さんも、ゴーレムの存在に懐疑的なTVクルーの役でしたが、今回も同じ役ですか?

上田 中川さんは前回ディレクターだったんですが、今回はプロデューサーです。昇格しました(笑)。土佐さんは、新たに追加した地元の人の役です。

土佐 でもどういうキャラクターになるかは、まだわからんのよね?

上田 そうですね。野球選手の同級生か、別の何かか……その辺りを、これから探ろうと思ってます。

群像の方に向きがちな所に「個」を出してくれる2人。

──ヨーロッパ企画の役者は、作・演出をしたり、美術を作ったりと「役者兼○○」という人が多いです。中川さんがときどき映像を作られているものの、お二人はどちらも役者専念度が高いイメージがあります。上田さんにとって、特に重宝している所はありますか?

上田 僕は三谷幸喜さんや「MONO」さんにあこがれて、劇を始めた所があるから、群像とかチームプレイの方に、すごく頭が発達してるんです。それとは逆に、役者としての「個」の意見があるのが、この2人という感じがします。僕がやりたいことはこうだけど、土佐さんと中川さんはこうなんだな……みたいな。さらに二人とも、刻一刻と変わるという印象があるので、いつも僕にはない目線をもらえますね。

──そう言われるとお二人とも、敵役だったり、集団を内部から引っかき回したり、逆に引っかき回される……みたいな、特殊な役を振られることが多いという印象です。

中川 そんな役が多いのは、僕がそういう存在だから?

上田 中川さんは、仲が悪いわけじゃないんですけど(笑)、稽古場でも一人でいることが多いから、自然とそういう役になってくるのかもしれない。

土佐 実際に、普段の劇団内での関係性がちょっと変わると、劇の役も変わってくるんですよ。僕はどっちかというと飽きっぽくて、いつも「違うことをやりたい」という気持ちが強いから、それが反映されてるのかな? と思います。

──今回特に、変更したい所はありますか?

上田 初期のプロットを引っ張り出すと「こんなことを考えていたんだ」とか「ここはもっと面白い趣向でやれるな」ってことが、いっぱい出てきたんです。登場人物を増やしたのも、初演ではできなかった展開を膨らませるためだし。さっき『ゴーレム』は「過去」の話と言いましたけど、今まで自分たちが良しと思って信じてきたものは、本当にそういうものなのか? というニュアンスが、今回は強くなると思います。過去を疑う、みたいな。

──それってまさに、新型コロナによって、これまでの習慣や常識が、いろいろひっくり返ってる現在の方が、かなり引っかかりそうですね。

土佐 そうですねえ。めっちゃメッセージ性が強くなるかもなあ。

上田 さらに今回は、思いがけない過去が隆起したことで、とんでもない状況になっていくという流れになります。だから全体の印象としては、懐かしくて優しいけど、結構ホラーな感じもするんじゃないですかね?

中川 確かにね。自分以外の人がどんどんゴーレムを信じる方向に転がるのって、めっちゃくちゃ怖い。

上田 あ! 中川さん(の役)から見たら、そんな感覚があるんですね。ゴーレム(を信じる)側の人間にとっては「忘れてたけど、ちょっとこれヤバいじゃん」という怖さがあると思います。とは言っても、もちろん笑ってもらえる作品になるはずです。

──今回の公演で、期待していることはありますか?

土佐 初演を見返すと、すごく流れが美しかったから、できるだけグチャグチャにしたい(一同笑)。今の僕らならそれができる気がするし、そっちの方が面白いんじゃないかな、と思います。

中川 「面白い作品」というのが担保されている状況で、もう一段階面白い『ゴーレム』を作れるか? ということですね。僕は先日、新潟(公演)の劇場に行ったんですけど、すごく面白くていい場所だったから、本番が楽しみです。

上田 そうそう。今回はいつもと(ツアーで)回る場所が違うので、いろんな意味で少し違う所を掘るような感覚があるんですよ。『九十九龍城』もそうだったけど、最近は「旅行感」が割と大事な気がしていて。作品も回る土地も、どんな「旅」になるのか今はわからないけど、すごくワクワクした気持ちです。

上田誠 中川晴樹 土佐和成

うえだまこと○79年生まれ、京都府出身。ヨーロッパ企画代表で、すべての本公演で作・演出を担当。17年に『来てけつかるべき新世界』で「第61回岸田國士戯曲賞」を受賞。『魔法のリノベ』『四畳半タイムマシンブルース』(9/30公開)など、映画やドラマの脚本も数多く手掛けている。

とさかずなり○77年生まれ、広島県出身。04年にオーディションを通じてヨーロッパ企画に参加。主役から飛び道具まで多彩な役を演じ、劇団初の長編映画『ドロステの果てで僕ら』では主演を務めている。

なかがわはるき○77年生まれ、愛知県出身。00年に客演としてヨーロッパ企画に参加し、後に加入する。『スローな武士にしてくれ』『カンパニー』など、ドラマ出演も多数。初監督映画『恋する極道』で「那須アワード2015グランプリ」受賞。

【公演情報】
ヨーロッパ企画第41回公演
『あんなに優しかったゴーレム』
作・演出:上田誠
音楽:滝本晃司
出演:石田剛太 酒井善史 角田貴志 諏訪雅 土佐和成 中川晴樹 永野宗典  西村直子 藤谷理子/金丸慎太郎 亀島一徳
●9/10(プレビュー公演)◎栗東芸術文化会館さきら
●9/16~19◎京都府立文化芸術会館
●9/28~10/10◎あうるすぽっと
●10/18◎りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館
●10/20◎RaiBoC Hall(さいたま市民会館おおみや)
●10/22◎関内ホール
●10/25◎愛知県産業労働センター ウインクあいち
●11/5・6◎梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
http://www.europe-kikaku.com/e41/

 

【インタビュー・文・撮影◇吉永美和子】

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