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18年ぶりに届けられた希望の光 音楽劇『クラウディア』上演中!


愛を禁じられた世界で芽生えた二つの恋がもたらす、人の愛おしさ、愚かさ、切なさを描いた音楽劇『クラウディア』Produced by 地球ゴージャスが、池袋の東京建物BrilliaHALLで上演中だ(24日まで。のち7月29日~31日まで大阪・森ノ宮ピロティホールで上演)。

音楽劇『クラウディア』は、岸谷五朗と寺脇康文が主宰する演劇ユニット「地球ゴージャス」によって2004年に初演され、翌2005年に地球ゴージャス10周年記念としてアンコール上演された作品。作・演出の岸谷五朗の「反戦三部作」の第1作目でもあり、桑田佳祐がこの作品の為に書き下ろした主題歌「FRIENDS」以外は、全てサザンオールスターズ既成の楽曲で綴られた、日本のポップスで日本人が描いたジュークボックスミュージカルとして好評を博した。以来、再演を待望する声が長く寄せられていたが、常に時代に即した作品を書き下ろす、再演はしないという地球ゴージャス結成以来の信条が守られ、伝説の作品となっていた。
だが、2022年、いまの時代がこの作品を必要としていると感じた岸谷が、地球ゴージャスの顔である自分と寺脇が出演せず、次代のキャストに作品の命を託すことを決意。音楽劇『クラウディア』Produced by 地球ゴージャス(※二人が出演するオリジナル作品は「地球ゴージャスプロデュース公演」、二人が出演せずに再構築する、或いはオリジナル作品ではない場合が「Produced by 地球ゴージャス」と分けられている)として、18年ぶりに現代にアップデートされた作品の幕が開いた。

【STORY】
戦いに明け暮れる「根國(ねこく)」と「幹國(みこく)」という2つの民族しかいない世界。この世界を司る神・神親殿(カシンデン・湖月わたる)は、愛を育むことを絶対の禁忌として定めていて、掟に背いた者には龍の子(平間壮一/新原泰佑 Wキャスト)による厳しい制裁が待っていた。根國の長・ヤン(上山竜治/中河内雅貴  Wキャスト) と、幹國の長・毘子蔵(ヒコゾウ・ 廣瀬友祐/小栗基裕 Wキャスト) が率いる二つの民族は神親殿の掟に従い、剣による戦を続け、牽制しあいながら生きている。
だが、そんな二つの民族の壁を越えて密かに恋が生まれていた。根國一の剣豪・細亜羅(ジアラ・大野拓朗/甲斐翔真  Wキャスト)と、幹國の娘クラウディア(田村芽実/門山葉子  Wキャスト)は、心のうちで互いを強く思いあい、いつか自由に手を取り合える日がくることを信じ、その微かな希望をよりどころに日々を過ごしていた。
一方、幹國一の女剣士・織愛(オリエ・美弥るりか)は、物心ついてから当たり前だと思ってきた戦に明け暮れる日々に、微かな違和感を覚えるようになっていたが、そのもどかしさを毘子蔵にわかる言葉で伝えることができない。
自分でも制御できないそれぞれの思いは、やがて神親殿の掟を絶対のものとして均衡が保たれていた「世界」そのものを揺るがすことになっていき……。

脚本・演出を手掛ける地球ゴージャス主宰の岸谷五朗が描いたのは、“愛を禁じられた世界で芽生えた、二つの恋の物語”がたどる運命を通じて、人が地球に暮らす恵みである自然環境や、自分たちが築いた文明社会を無に帰してしまう、強力兵器による無益な戦いにつきつけた「NO」だった。その人類が犯した大きな過ちに対する警鐘が、初演から18年を経た今こそ必要だとの岸谷の強い思いが、再演はないと常々明言してきた地球ゴージャス作品を、もう一度世に問う形になっていることを思うと、この企画には複雑な思いも去来する。端的に言って、時代が音楽劇『クラウディア』を求めてしまったことには、忸怩たるものを覚えるのを禁じ得ない。

けれども、この現実世界に戦いが起き、しかも世界が新型コロナウィルスの脅威にさらされているいま、音楽劇『クラウディア』が再び生まれ出てくれたこと。この作品が2022年に蘇ったことには、やはり何より大きな意義を感じる。「愛を禁じられた世界」の成り立ちは、劇中の台詞を聞けば聞くほど、過去人類が暴走した時代を想起させるし、その時代の価値観がこの現代にひたひたと近づいている恐怖を改めて明確にしてくれる。にもかかわらず、初演でファッションデザイナーの山本寛斎が手掛けて大きな話題を呼んだ衣装のクリエーションを、山本寛斎事務所の高谷健太、藤井康詞が引き継ぎ、絞りの技法をふんだんに取り入れ、時代劇のようにも近未来のようにも見える華やかで独特の衣裳デザイン。土屋茂昭の美術、吉田一統の照明、石田肇の映像、小田桐秀一の電飾など、優れたスタッフワークが目にも鮮やかな舞台を作り出す。また、初演にはなかった楽曲も加えられたサザンオールスターズの数々の名曲が、舞台をポップに弾ませていくパワーも絶大。目にも耳にも楽しく、起伏に富んだ舞台が、ストレートに込められたメッセージをエンターティメントに昇華し、大切なことを重すぎず、辛すぎず客席に届ける力になった。

特に、どこかで岸谷五朗と寺脇康文の、永遠の演劇少年の最強タッグだからこそ、地球ゴージャスだからこそ成り立つと思っていた体当たりのコメディシーンを、若いキャストたちが正面から堂々と演じてもすべらない、ちゃんと面白くて、ちゃんと笑えるのはある意味大発見でもあって、愚直なエンターティメントの力を見る思いだった。自身が俳優ならではの役者たち一人ひとりに温かな目を配る岸谷の演出が、島口哲朗の豪快な殺陣や、原田薫、大村俊介、藤林美沙の振付と呼応して、スピーディに物語を進めていき、多くの悲しみのなかから、希望が立ち上がるラストシーンまで一気呵成に続くエネルギーに感嘆させられた。

その「Produced by 地球ゴージャス」による音楽劇『クラウディア』を新たに生み出した、キャストたちそれぞれの個性と輝きも素晴らしい。

禁じられた愛に心を奪われていく「根國」の剣豪・細亜羅の大野拓朗は、自分たちの愛が遠く隔たった二つの国に希望の橋をかける、という趣旨の台詞に何よりも説得力がある。はじめて知った「恋」という感情に、禁忌を犯した恐れ以上に希望を見出している明るさが前面に出るのが、大野が演じるならではの細亜羅の個性で、歌声もよく伸びた朗らかな演じぶりが舞台に明かりを灯すようだった。

一方、次世代のミュージカルスターとして破竹の勢いで駆け上っている甲斐翔真は、この恋を掌中の珠のように感じながら、自分の生き様、何よりもクラウディアの命を案じる懊悩が見える細亜羅を造形している。豊かな歌唱もドラマチックだし、殺陣も鮮やかにキメながら、どこかで常に不安を抱えている細亜羅像で、大野とのアプローチの違いがWキャストの興趣を深めた。

細亜羅と対立する「幹國」の長・毘子蔵の廣瀬友祐は、見惚れるばかりのビジュアル力とのギャップが目を奪う、思いっきり振り切ったコミカルな芝居と、これまで数々の大作ミュージカルで示してきた群を抜くカッコよさとのバランスが絶妙。近年ちょっと変わった人を演じる機会も増えた廣瀬だが、その妙味とここぞという時に発揮する美丈夫ぶりとが混然一体となった毘子蔵に、廣瀬の美点が全て生かされた出色の出来だった。

一方、ダンスパフォーマンスグループs**t kingz(シットキングス)で活躍するOguriとして既に世界中で評価されている小栗基裕が、持ち前の身体能力を生かした殺陣やダンスを軸に、初演で岸谷が演じたことを改めて思い出させる親しみのある毘子蔵を活写。何よりも柔らかく伸びやかな歌声には驚かされるばかりで、これを機会に是非ミュージカルの舞台にも積極的に出ていって欲しい人材だ。

タイトルロールのクラウディアは、豊かな歌唱力と演技力で、ミュージカル女優として確実に地歩を固めている田村芽実が、愛にひた走っていくクラウディアを体当たりで演じ、作品をぐいぐいと引っ張っていく。まるで役柄に憑依したかに感じさせるパワーが漲り、田村にとっての憧れの人で、クラウディアのオリジナルキャストでもある故・本田美奈子.の全身全霊の舞台を彷彿とさせる渾身の演技が光った。

もう一人のクラウディアの門山葉子は、活動の軸足を歌に置いていた人だからこその、多彩な歌唱が実に魅力的。特にサザンオールスターズの既成曲でできている作品だから、場面、場面で歌う曲調がガラリと変化するが、そのいずれをも作品を生きるクラウディアが歌っているという説得力をきちんと持たせていて、この音楽劇の根幹を支えていた。素直な芝居にも好感が持てる。

「幹國」一の女戦士で、男性からも一目置かれる織愛の美弥るりかは、宝塚歌劇団退団後も様々な分野で発揮してきたジェンダーフリーな魅力に、男役時代を彷彿とさせるキレの良さ、また現代に生きる女性を演じた直近の舞台『The Parlor』で見せたナチュラルな表情と、全ての経験値が織愛のなかに生きているのを感じる。戦うことに疑問を感じ始める織愛の惑いは、この舞台の独特の世界観に疑問を抱く観る側の視点に近いし、それぞれの毘子蔵に対してバディ感は残しながら、絶妙に異なる接し方をしているのも面白い。しなやかな殺陣を含めて、美弥るりかという表現者の大きな可能性を改めて見る思いがした。

「根國」の長・ヤンの上山竜治は、神親殿の教えを絶対のものとして疑わず、ひたすら忠実に国を治める人の厳格さと盲信が、作品に強い道しるべを残していく。恋に揺らいでいく細亜羅を諫め、彼の信じる正しい道に戻そうとする迫力も怖いほどで、根國に君臨している様がよく伝わってきた。

他方、中河内雅貴のヤンはどこかに無頼さがあって、非常にダンサブルな動きと共に国民に対して、良き兄貴分の香りがする。だからこそ細亜羅とクラウディアの愛を許さない様に、自らの葛藤をねじ伏せる狂気に似たものが孕み、アイデンティティーと戦うヤンが鮮烈だった。

神親殿の教えを民に守らせる存在として両国に恐れられている龍の子は、平間壮一が持ち前の身体能力の高さと、主演作品を多く務めてきた経験値が生かして、龍の子自身の感情を知りたいと思わせる造形をしてきたのが新鮮。特に龍の子の気持ちが常に神親殿に向いている、ひたすらに神親殿を見つめ続ける視線に切なさと哀しみが募る龍の子だった。

もう一人の龍の子の新原泰佑は、神親殿の立ち位置と自身が同化している、高みから人々を見ていると感じさせる表現が美しい。『ポーの一族』『ニュージーズ』とアンサンブルで出演していた舞台でもひと際目を引いたビジュアル力と、難役に挑んだ『ラビット・ホール』で見せた登場人物のなかの異色さの双方がこの役柄にも生きていて、末頼もしいニュースター誕生を印象づけた。

そして、この物語の世界観の全てを担う神親殿の湖月わたるが、登場しただけで舞台の空間全てを掌握する絶大な存在感を見せて圧倒的。元宝塚歌劇団トップスターとして大舞台の空気を動かしていた人が持つセンターオーラが眩いほどで「むかし、むかし…」と、何故神親殿が人々に愛を禁じたのか?を語り、歌う場面の迫力はこちらの背筋が伸びるほど。余人をもって代えがたいと思わせる、湖月自身にとっても近年の白眉と言えるベストパフォーマンスに拍手を贈りたい。

ほかにクラウディアに希望を託す小池の一色洋平のコメディ部分との対比で示した強いコントラスト。伸びやかな明るさが常に目を引く口ノ助の塩田康平のチャーミングさ。アクロバティックな動きと共に、力強い台詞が印象的な銀次郎の蒼木陣。コミカルなグループ芝居のなかでも、芯が通っていると感じさせる頭皮郎の健人はもちろん、キャスト全員に役名があり、必ず目立つ台詞やダンスや殺陣がある、全員がこの舞台を作る等しく大切な一人ひとりという岸谷演出の美徳に応えたアンサンブルメンバーの力量も極めて高く、この舞台が最後に届ける希望を全員が支えている。何よりも、ケレンも遊び心もふんだんにある舞台から、人がすべての他者を認め合える、愛のある世界を作ろうとすること。少なくともそこに理想があることだけは忘れない、という尊いメッセージが演劇の力を信じる人々によって発信されていることを、多くの人に受け止めて欲しい舞台になっている。

【公演情報】
Daiwa House Special 音楽劇『クラウディア』Produced by 地球ゴージャス
脚本・演出:岸谷五朗
主題歌:サザンオールスターズ「FRIENDS」
楽曲協力:タイシタレーベル/ビクターエンタテインメント
音楽監督:大崎聖二 高木茂治
美術:土屋茂昭
衣装:高谷健太 藤井康詞(山本寛斎事務所)
ヘアメイク:冨沢ノボル
振付:原田薫 大村俊介(SHUN) 藤林美沙
殺陣:島口哲朗 (剱伎衆かむゐ)
出演:大野拓朗/甲斐翔真(Wキャスト)  廣瀬友祐/小栗基裕(Wキャスト)  田村芽実/門山葉子(Wキャスト)
美弥るりか  上山竜治/中河内雅貴(Wキャスト) 平間壮一/新原泰佑(Wキャスト)  湖月わたる
一色洋平 塩田康平 蒼木陣 健人 ほか
●7/4~24◎東京・東京建物BrilliaHALL(豊島区立芸術文化劇場)
〈料金〉S席12,500円 A席8,000円 B席5,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉チケットスペース 03-3234-9999(平日 10:00~12:00/13:00~15:00)
●7/29~31◎大阪・森ノ宮ピロティホール
〈料金〉全席指定 12,500円 立ち位置指定 11,500円(税込)
〈お問い合わせ〉キョードーインフォメーション 0570-200-888(11:00~16:00 ※日曜・祝日は休業)
〈公式サイト〉https://www.claudia2022.com/

【ライブ配信情報】
●7月14日12:30/18:00 両公演ライブ配信(アーカイブ付き)
◇12:30公演
Wキャスト:大野拓朗、廣瀬友祐、門山葉子、上山竜治、平間壮一
※7月12日12:30公演で収録したアフタートークの模様も本編終了後に配信。
◇18:00公演
Wキャスト:甲斐翔真、小栗基裕、田村芽実、中河内雅貴、新原泰佑
※当日終演後に行なわれるアフタートークも配信。
■アーカイブ配信
両公演共に、生配信終了後準備が整い次第開始~7月20日23:59まで
【配信チケット販売期間】
7月13日10:00~(予定)
【配信チケット料金】
4,500円(税込)
PIA LIVE STREAM  https://w.pia.jp/t/go-claudia/

 

【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳 撮影(湖月&新原)/曳野若菜】

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