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電撃的襲名から10年目の夏は、久々の2演目出演!市川中車「七月大歌舞伎」合同取材会レポート

あらゆる劇場関係者の努力はもちろん、観客の協力もあって、コロナ禍が始まってからもクラスターを出すことなく、「こんな今だからこそ観たい!」という名作を上演し続けている歌舞伎座。

7月4日から開幕予定(29日まで。第三部は16日まで)の「七月大歌舞伎」は、引き続きの三部制興行で、第一部は、盲目のあんま市川中車)と泥棒(尾上松緑)が奇妙な攻防戦を繰り広げる『あんまと泥棒』と、市川猿之助の六変化が見どころで、ファンの声に応えて8ヶ月ぶりの再演となった『蜘蛛の絲宿直噺(くものいとおよづめばなし)』。第二部は、恐妻家のくせに浮気性な大名(松本白鸚)と嫉妬深い奥方(中村芝翫)のやり取りが滑稽な松羽目物(能狂言がモチーフの正面に大きな松を描いた舞台)の名作『身替座禅』と、お尋ね者の白皙の美少年・白井権八(尾上菊之助)と江戸随一の侠客・幡随院長兵衛(中村錦之助)の出会いを描く『御存鈴ヶ森』。第三部は、市川海老蔵が悪役・善人など五役を演じる通し狂言『雷神不動北山櫻(なるかみふどうきたやまざくら)』。夏の暑さを吹き飛ばす、爽快で楽しい気分にさせてくれそうなラインナップである。

6月上旬、この「七月大歌舞伎」で『あんまと泥棒』のあんま秀の市と、『蜘蛛の絲宿直噺』で四天王の渡辺綱を勤める市川中車が会見を行った。今回の役のこと、久しぶりに2演目を演じること、襲名から10年目を迎えた心境などをたっぷり語った。(文中の「瀉」はワカンムリです)

秀の市を演じるのは今回で4度目。あんま役なので上演中はずっと目を閉じたまま、頼れるのは耳だけで、いつもより感覚が敏感になるという。最初に相手役の泥棒権太郎を演じたのは、いとこの猿之助。今回の相手役は前回に続き松緑で、2度目の共演となる。「松緑さんの間(ま)が、僕にとっては『あんまと泥棒』の本質ではないかと教えてくれた気がする。松緑さんは本当に真面目で面倒見がよく、僕にとっては“いい人”。権太郎の人の良さが内蔵されていて、そこも味わいながら演じました。今回、もう一度秀の市として彼の心の息遣いを感じたい」と意気込みを見せた。

足取りや動きで、盲目であることを表現する。「久しぶりに自分の映像を見たが全然ダメでした。1991年に中村嘉葎雄さんの秀の市、(中村)歌六のおにいさんの盗人で演じた映像を見て、それをお手本に真似していたはずなのに、すごく誇張していた。今回改めて、嘉葎雄さんの飄々とした感じ、リアルな動きを勉強し直したい。笑いを狙わず、あんまが一人暮らしで泥棒に入られた状況を写実にやりたいと思います」と課題をあげた。

『あんまと泥棒』は、日本最古の芝居小屋である金丸座の「四国こんぴら歌舞伎大芝居」でも演じたことがある。「こんぴらは風情のあるところで、箸が転んでも笑ってもらえる空気で、本当にやりやすかったです。歌舞伎座で前回演じた時は、『阿古屋』の次の演目で、張り詰めた雰囲気の後、お客様の笑いパートを一身に背負っていたので、下駄を履かせてもらっていたと思う。今回は第一部の序幕ですので、歌舞伎座のお客様に初めて試されると思います」と気を引き締めた。

『蜘蛛の絲~』では渡辺綱として猿之助と対峙する。綱役そのものより久々に2演目演じることが気がかりのよう。「一度離れると、1演目だけ出るのが当たり前になってしまうので、早く昔の形(役の掛け持ち)に戻らないと、歌舞伎の俳優としてちゃんとやれるか…。『蜘蛛の絲~』は、猿之助さんがシン(主役)で、『小鍛冶』の延長で声を掛けてくださったと思います。一門として父(市川猿翁)を支えてくださったお弟子さんの皆さんと、四代目猿之助の息遣いを感じながら四天王を勤めたい」と話した。

4月に澤瀉屋に縁の深い『小鍛冶』で三條小鍛冶宗近を演じた。「自分では、新歌舞伎でもここまで芯の役をいただくとは思っていなかった。折を見て四代目から避けて通れない演目を与えられ、やらせていただくなかで、『小鍛冶』はやらせていただいてよかった。昔の父と(市川)段四郎の叔父の映像を見て、力量感あふれる狐の精に、どれだけ力が入っているか聞いたら、力はゼロですと答えた。その時、こんな演目は到底できないと思いました。2人には遠く及ばないが、四代目に引っ張ってもらって相槌を打つのは、僕にはかけがえのない瞬間」と感慨深げに語る。どんなに稽古を重ねても、残音の関係で上手側と下手側で音がずれて聞こえるようで、「それを間違えていないかのようにフォローし合うのが、しびれます(笑)。僕が思わぬところで音が出なくて、四代目が打ちながら「エーッ!?」と(笑)。上下を入れ替わる時、裏で「すいません!」と言ったり、本当に2人にしかわからないことがあった。父と叔父の間でもあったんだろうなと思いました。槌を打つのが不思議な行(ぎょう)のようで印象的だった」と舞台裏を教えてくれた。

2012年6月に九代目中車を襲名して10年目。歌舞伎ならではの醍醐味を、個人的な意味では「生きている実感がある」と話す。『小栗栖の長兵衛』で歌舞伎の初舞台。簀巻きのまま仰向けで舞台に転がっている時間、天井から吊り下げられている曽祖父(初代猿翁)と祖父(三代目段四郎)の写真を眺めながら「ああ俺は生きている」と感じたという。「その実感は今も変わっていない。『小鍛冶』で相槌を打っている時、そこらへんに間違いなく先代の猿翁さんも中車さんも段四郎さんもいて、聞いてくださっていると実感しました。よく映像のほうが形に残ると言われるが、僕には形に残らない日々の舞台のほうが実感がある。それは歌舞伎俳優の血が流れているからではないか」と熱い思いを吐露した。

いつもとは違う日常で歌舞伎を上演することについて「粛々と、歌舞伎座という伝統ある劇場で新作と古典の2つをさせていただく。しっかりと日々同じことをしていく。何があってもできるのは歌舞伎の強みでもあり、我々の使命でもあり、半分の観客動員を元に戻すためにもしっかり勤めなければならないし、気持ちを締め直す月だと思います」と決意を語った。

【公演情報】
歌舞伎座「七月大歌舞伎」

2021年7月4日~29日
第一部・第二部
休演/8日(木)・19日(月)

2021年7月4日~16日
第三部
休演/8日(木)

◎第一部 午前11時開演

一、村上元三 作・演出 石川耕士 演出
『あんまと泥棒』

あんま秀の市 市川中車
泥棒権太郎 尾上松緑

二、再びのご熱望にお応えして
『蜘蛛の絲宿直噺(くものいとおよづめばなし)』
市川猿之助六変化相勤め申し候

女童熨斗美
小姓澤瀉
番新八重里  市川猿之助
太鼓持彦平
傾城薄雲実は女郎蜘蛛の精

平井保昌 尾上松緑
坂田金時 坂東亀蔵
碓井貞光 中村福之助
卜部季武 市川弘太郎
金時女房八重菊 市川笑三郎
貞光女房桐の谷 市川笑也
渡辺綱 市川中車
源頼光 中村梅玉

◎第二部 午後2時30分開演

一、岡村柿紅 作
新古演劇十種の内『身替座禅』

山蔭右京 松本白鸚
侍女千枝 中村米吉
侍女小枝 中村莟玉
太郎冠者 中村橋之助
奥方玉の井 中村芝翫

二、四世鶴屋南北 作
『御存鈴ヶ森』

幡随院長兵衛 中村錦之助
東海の勘蔵 河原崎権十郎
北海の熊六 坂東彦三郎
飛脚早助 中村吉之丞
岩間の蟹蔵 市村橘太郎
和尚の鉄 片岡亀蔵
土手の十蔵 市川團蔵
白井権八 尾上菊之助

◎第三部 午後5時40分開演

安田蛙文・中田万助 作 奈河彰輔 演出 藤間勘十郎 演出・振付
通し狂言『雷神不動北山櫻(なるかみふどうきたやまざくら)』
市川海老蔵五役並びに空中浮遊相勤め申し候

鳴神上人
粂寺弾正
早雲王子 市川海老蔵
安倍清行
不動明王

八剣玄蕃 市川右團次
秦民部 市川男女蔵
雲の絶間姫 中村児太郎
八剣数馬/制多迦童子 市川九團次
小野春風/矜羯羅童子 大谷廣松
錦の前 市川男寅
小原万兵衛実は石原瀬平/黒雲坊 片岡市蔵
秦秀太郎 市川門之助
白雲坊 市川齊入
小野春道 大谷友右衛門
腰元巻絹 中村雀右衛門
後見 市村家橘

〈料金〉1等席15,000円 2等席11,000円 3階A席5,000円 3階B席3,000円 1階桟敷席16,000円(全席指定・税込)
未就学児童は、満4歳よりお一人様につき1枚切符が必要です。
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹 0570-000-489(10:00~17:00)または03-6745-0888
チケットWeb松竹 検索

〈公式サイト〉https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/721/
〈松竹HP〉https://www.shochiku.co.jp

 

【取材・文/内河 文 写真提供/松竹】

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