る・ひまわり×明治座の年末“祭”シリーズ10周年を飾る『チャオ!明治座祭10周年記念特別公演「忠臣蔵 討入・る祭」』小林且弥×安西慎太郎インタビュー
演劇製作会社る・ひまわりと創業140年を越える老舗大劇場の明治座がタッグを組み、歴史ものをテーマに上演を続けてきたシリーズが、本年末に10周年を迎える。
今回はおなじみ「忠臣蔵」を題材にした『チャオ!明治座祭10周年記念特別公演「忠臣蔵 討入・る祭」』(通称:忠る(ちゅーる))を上演する。
主演は、寺坂吉右衛門役の平野良、そして大石内蔵助役の小林且弥という演技力では定評のある2人が、W主演で挑む。また、年末“祭”シリーズで2度座長を務めた安西慎太郎が浅野内匠頭に扮するほか、蒼木陣、前川優希、百名ヒロキといった注目の若手たち、さらに多才な伊藤裕一や元宝塚トップスターの水夏希といった顔ぶれが参加。豪華な顔ぶれでの記念公演となる。
このシリーズでは三度目の共演となる小林且弥と安西慎太郎に、今回の役柄やお互いのことなどを語ってもらった。
作品や関わっている人にこんなに愛を持っている人がいる!
──このシリーズも10周年を迎えますが、お二人ともかなりの回数、出演されていますね。
小林 全部で6本くらい出ていると思います。でも最後に出た『納祭』(2015年の『晦日明治座納め・る祭~あんまり歌うと攻められちゃうよ~』)からもう5年になるのかな。ちょっと久しぶりですね。
安西 僕はこれが5作目です。2014年の『る典』(『聖☆明治座・るの祭典~あんまりカブると怒られちゃうよ~』)が初めてで、そのときの座長が且弥さんだったんです。
──このシリーズ含めてお二人は何度も共演している印象があります。
小林 そんなに沢山は共演してないけど、次の年の『納祭』に一緒に出て、その直後にやはりる・ひまわりさんの『僕のリヴァ・る』で共演したので、『納祭』が終わると同時にそのまま地続きで稽古、みたいな感じでしたね。
──以前、安西さんにインタビューしたとき、小林且弥さんをすごく尊敬しているという話をしてくれました。
安西 且弥さんと初めて会ったとき、役者が自分の役を愛するのは当たり前なんですけど、作品や関わっている人たちに対して、こんなに愛を持って行動している人がいるんだ、すごいなと思ったんです。
小林 2014年にまだ何も染まってない安西慎太郎と出会ったとき、「取材とかで尊敬する人とか聞かれたら俺の名前を出せ」と。それが6年後にこういう形で実を結んでいるのがわかって嬉しいですね(笑)。
安西 (爆笑)いや、本当に舞台上でも稽古でも懐が深いなと。今も他の取材を受けているのを聞いていたんですけど、視野が広いしボキャブラリーも多いし、面白いなと。
小林 いや慎太郎の顔、見えていたけど一切笑ってなかったよね。みんなが笑ってくれてるところでも、慎太郎だけ笑ってなかった。
安西 (笑)いえ、心では笑ってましたから!
小林 いや、自分のヘアメイクのことしか頭にないって感じだった(笑)。
慎太郎は自分の中の確固たるものを出していく
──その当時、安西さんはまだ21歳の若さながら頭角を現していましたが、小林さんから見ていかがでした?
小林 いい意味で異質な感じが良くて、起用する側からみるとどう転ぶかわからないというところがあって、へんな転び方をするとよくないけど、いいほうに転んだときすごく返ってくるものがある。そこがいろんなクリエイターが慎太郎に魅力を感じるところだと思うんです。たとえば、こういう座組でこの役を与えられたらこうするとか、こういう立ち位置をとるとか、そういう経験則みたいなもので迎合してしまったり、自分を出せなかったりという人が大半だと思うんですよ。でも慎太郎は自分の中の確固たるものを、本人はわかっているかどうかわからないけど、ちゃんと出していく。そういうものは周りの人間は感じ取りますからね。そういうことを当時思った記憶があります。
安西 僕は自分で道を作るのが本当に苦手だったんです。初めてこのシリーズに出たときも、且弥さんとか板さん(演出の板垣恭一)とか、皆さんに誘導してもらって、結果、ある程度のことができたし、そういうところを歩いたり走ったりしてこれたのかなと。このコロナ禍の中ですごくいろんなことを考えて、自分で道を作ったり自分をコントロールできるようにならないと、この先あがっていけないなと思っていたところなので、今の話に改めてハッとする部分がありました。
──今回はまたいろいろ教えてもらえる機会になりますね。
安西 お久しぶりの共演ですから、いろんなところを見ていただき、指摘していただけるといいなと思っています。役としてはけっこう関わりそうですよね?
小林 大石内蔵助と浅野内匠頭だからね。主従の関係だから。
──お二人の役は歴史上で有名な人物ですね。小林さんは以前、四十七士の1人、不破数右衛門も演じたことがありますね。
小林 『大江戸鍋祭』(2011年)ですね。今回は大石ですから、出世しました(笑)。大石は、去年、近松門左衛門を描いた舞台に出演したのですが、そのときの描かれ方がよく言われている「昼あんどん」というような感じでした。でも「昼あんどん」という形にもいろいろあるのではないかと。それに、大石と浅野の関係は歴史的にすでにわかっていることなので、そこを強みに、どう崩してどう本来の関係を守っていくかですね。そこが出来上がっていくと、いろんなことが整理されていくと思うし、そこさえしっかりしていれば、あとは台詞はなくても。
安西 それずっと言ってますね。初めて会った『る典』から言ってます。「全然しゃべりたくないんだ、俺は」って(笑)。
──でも討ち入りの掛け声は大石が掛けますよね。
小林 それだね!討ち入りの掛け声だけしかしゃべらない大石(笑)。
安西 だめですよ!(笑)
余白があったり何をやってもいいと鍛えられる現場
──安西さんの浅野内匠頭についてはどう演じようと?
安西 歴史上のイメージがあっても、このシリーズならではの「もしも○○だったら」というような別の読み解きがあるので、史実とはまた違うこの作品の中での役割り、そこしか考えないという感じですね。
──確かにただの歴史劇ではないのがこのシリーズですね。出演者としてこのシリーズならではの面白さ、あるいは難しさは?
小林 自由にやるというのが意外と難しいんですよね。余白があったり何をやってもいいというのは、けっこう鍛えられます。それと、もともとの史実を逆手にとることで、歌ありダンスあり、笑いや涙ありの作品にしているので、そこに関しては出ている人間のバランス感覚にかかってるから、ある意味賭けみたいなものなんです。だから荒通しするくらいまで作品が見えないこともあって。でも6回もやっていると、そこを楽しむしかないじゃないかとなってくる。
──そういう意味ではちょっと劇団感がありますね。出演者は入れ替わっているのに、ここでなくては観られない色があるなと。
小林 そうかもしれませんね。やっぱり10年という時間があるわけですから。以前プロデューサーと話したときに、『スター・ウォーズ』じゃないけど続くものをやりたいのかなと思ったことがあって。明治座さんという劇場も同じですし、演目や人の変化があるにしろ、続いてきたからこそ他で観られないものがあると思います。今回はその10周年というので、ちょっと集大成的なものになるのではないかと。
安西 カンパニー感ありますよね。ほかの現場よりセッションみたいなものが多いなと思います。じゃないと余白の部分とかが出来上がっていかない。バランスの話が出ましたけど、ひとりひとりがバランス感覚を持ってないと余白も埋められないし、出来上がっていかないだろうなと。
──今回もいわゆる時代劇ですが、所作とか意識しますか?
小林 そこはあんまり考えてなくて(笑)。いつもと同じでやりたいというか、資料なども沢山あるだけに、情報を入れれば入れるほど縛られて動けなくなるんです。どんな芝居でもそうですが、その物語の中で起きていることや関係性しか考えない、というかそれ以外に気が回らないから。でも今年はちょっと所作はやろうかなと。大石ですからね。
安西 ははは(笑)。
──安西さんは時代劇への出演も多いし、殺陣も上手ですね。
安西 いや、殺陣もいろんな流派とかあって難しいです。いつもこのシリーズは渥美(博)さんで、けっこうガチな立ち廻りをさせてもらっていて、それはすごく勉強になるので有り難いなと思っています。
いらないもの全部なしでやれたのが綿麻呂
──おふたりにとってこのシリーズで、一番好きだった役、あるいは忘れられない役は?
小林 『納祭』の桓武天皇はなかなか面白かったですね。ちょっと男色も入れたりして。板さんには映画の『アンタッチャブル』を観てと言われたんですよ。暴力ということを一緒に考えようと。もっとゆるい感じの役なのかなと思っていたら、板さんがけっこうちゃんと作っててそっちに持って行こうとしてて。もともと僕もそういうのをやりたかったから楽しかった。
──あの作品の桓武天皇は真面目な顔をして暴力的な人でインパクトありました。安西さんは好きな役は?
安西 僕も『納祭』の綿麻呂が一番好きで、なぜかというと一番いろんなことを忘れてやれたというか、舞台でも稽古でもいらないもの全部なしでやれたのが、綿麻呂であり『納祭』だったんです。とくに桓武天皇とか三上(真史)さんの田村麻呂と3人のシーンが好きで、別に何をしているとかではないし、すごいメッセージ性とかあるわけではないんですけど、すごくよく覚えているし、ふっと思い出したりするんです。
小林 何かをしなきゃいけない空間になってる時って間違ってることが多いんだよね。何かを表現しなきゃいけない、伝えなきゃいけないと思った瞬間に、「あ、間違ったな」と思うことがあるから。台詞がないほうがいいっていうのは「ああ、もう勝手に伝わるな」という、そういう感覚になれるからで、何かを表現しなきゃと思った瞬間、もう何かを説明してるんだろうなと。
安西 舞台だから、お客さんに見られているわけですよね。それも主演とかでシーン数が多ければ多いほど、見られてる回数があがればあがるほど、表現して説明してしまう。それも大切だとは思うんですけど、それをまったくなくできたのが綿麻呂だったんです。それと、急に裏切るというのも好きでしたね(笑)。
年末にあるべきものがあってくれることの安心感
──伺えば伺うほどこのシリーズは賑やかで楽しいだけでなく、内容も深い面白い舞台ですね。年末にこういう華やかな舞台に出るのは楽しみなのでは?
小林 そうですね。ただ僕は歌と踊りはNGにしているので(笑)。
──ショーは出ていませんでしたか?
小林 二部はいつもMCをさせてもらってました。
安西 二部も難しいんですよ。ある程度こちらにまかされてユニットのみんなと考えていくんですけど、とっちらかって全然決まらない(笑)。
小林 稽古時間が短いからね。
安西 必ず誰か間違えたりするし、たいへんなんです。
──そのちょっと出来てないゆるい部分も楽しさになっていて、その全部がこの公演の魅力だと思います。では、そんな舞台を観にきてくださる方へメッセージを。
安西 そもそもこの時期にこの作品が上演できるということが、まず幸せに思います。コロナ禍の中で、お客さんも僕らも1人1人さまざまな思いがあると思いますが、これは年越しの公演ですから、嫌なことを忘れる、コロナのことも忘れる。なかなか難しいかもしれませんが、年末年始に心の中を浄化するような感じで、楽しい気持ちで観ていただくのが一番なので、自分自身もそうしたいなと思っています。
小林 自粛期間があって、世の中がどう動いていくかわからなかったし、役者も演出家もスタッフさんも一斉に仕事がなくなったわけですよね。そういう時、変わらないもの、そこにあるべきものがあってくれる、そのことの安心感がどれほど自分たちの日常というものを形成していてくれたのか、ということを思い知らされました。だからシリーズで年末にやっているものが今年もちゃんとある。変容は迫られているけど、その中でやっていけることは本当に有り難いですし、そう思ったこともすべて踏まえたうえでやることが大事で。みんな不安な月日を過ごしてきて、廃業した同業者もいるし、自分もそれを考えた瞬間があった。そういう中でやっぱり慎太郎なら浅野内匠頭ではあるんだけど、安西慎太郎として出てほしいし、自分も大石内蔵助というフィルターは通すけれども、小林且弥として出たい。今回みんなで「忠臣蔵」という作品をやるわけですけど、無視はできないんですよねコロナ禍の時期は。そういう何ヶ月かを経て年末にやるわけだから、それぞれの思いみたいなものを乗っけられれば素敵だなと思うし、来てくれたお客さんにもそういう思いでお返ししたいなと思います。
■PROFILE■
こばやしかつや〇山口県出身。01年モデルとしてデビューし、02年に俳優デビュー。以後、テレビ、映画、CM、舞台と幅広い活躍を続けている。近年の主な舞台作品は、『幕末太陽傳』、『僕のリヴァ・る』、『英雄の運命』、『魔王コント』、『僕のド・るーク』、『THE BLANK!』~近松門左衛門 空白の十年~、『ウエアハウス─double─』、『完全にそうだけど恋をしようよ』など。
あんざいしんたろう〇神奈川県出身。12年舞台『コーパス・クリスティ 聖骸』でデビュー。近年の主な舞台作品は、『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』、 舞台『野球』飛行機雲のホームラン、『RE:VOLVER』、DisGOONie Presents Vol.5『Phantom words』、TRUMPシリーズ『COCOON 月の翳り星ひとつ』、『絢爛とか爛漫とか』、崩壊シリーズ『派』、る・ひまわり×明治座年末“祭”シリーズ明治座の変『麒麟にの・る』、一人芝居『カプティウス』など。
【公演情報】
『チャオ!明治座祭10周年記念特別公演「忠臣蔵 討入・る祭」』
第一部:芝居「O-ICCEAN’S11~謎のプリンス~」
第二部:ショー「煮汁プロジェクト」
構成・演出:板垣恭一
脚本:土城温美
出演:平野良、小林且弥/
安西慎太郎、木ノ本嶺浩、蒼木陣/
前川優希(Wキャスト)・松田岳(Wキャスト)、大薮丘、小早川俊輔、
井深克彦、谷戸亮太、加藤啓、林剛史/
伊藤裕一、百名ヒロキ、大山真志(Wキャスト)・原田優一(Wキャスト)/
辻本祐樹/水夏希
●12/28~31◎明治座
※全公演ライブ配信あり
〈料金〉S1席・S2席13,000円A席5,800円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※31日夜公演のみ13,500円
〈配信料金〉4,500円(31日夜公演のみ5,500円)
※詳細は「忠る」公式ホームページにて。
〈公式サイト〉https://chu-ru.jp
出演者発表番組動画 https://www.youtube.com/watch?v=hEg3UnezV8A
出演者コメント動画 https://youtu.be/NenG9ATopjU
【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】
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