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新装紀伊國屋ホールこけら落とし公演『新・熱海殺人事件』『改竄・熱海殺人事件』荒井敦史・多和田任益インタビュー

日本の演劇の聖地として57年の伝統を誇る紀伊國屋ホールの新装なったこけら落とし公演がいよいよ幕を開けた。

第一弾として『新・熱海殺人事件』が、6月10日~21日、続く第二弾で『改竄・熱海殺⼈事件 モンテカルロ・イリュージョン 復讐のアバンチュール』が、6月24日~27日に上演される。

紀伊國屋ホールと聞けば、演劇に携わる人間であれば誰しもが思い起こす作・演出家つかこうへい、そして日本演劇史上屈指の名作であり、紀伊國屋ホール 57 年間の歴史の中で最も上演され続けている伝説的作品が『熱海殺人事件』なのである。

今回のこけら落とし公演2作で、それぞれ主人公である木村伝兵衛役をつとめるのは荒井敦史と多和田任益。すでに伝兵衛役を演じた経験のある2人だが、この記念公演の看板を背負う立場として、ますます大きな期待がかけられている。そんな2人に、つか作品について、そして公演にかける思いを話してもらった。

荒井敦史    多和田任益

伝兵衛役の第一印象は「とにかくカッコいい!」

──新装紀伊國屋ホールこけら落とし公演に主演するお二人の今の気持ちを話していただけますか? まず第一弾『新・熱海殺人事件』の荒井さんから。

荒井 素直に嬉しかったです。1月に紀伊國屋ホール幕締め公演、『熱海殺人事件 ラストレジェンド~旋律のダブルスタンバイ~』をやらせてもらって、今度はこけら落とし第一弾ですから、とても光栄で有り難いなと思いました。それに僕にとっては今回、『熱海殺人事件』での単独主演は初めてなんです。これまで伝兵衛は2回演じましたが、いつもダブルキャストでもう1人の伝兵衛と交互出演で、おかげで体力的にも精神的にも助けられる部分があったのですが、今回は完全に単独で伝兵衛をやらなくてはならない。ある意味、ここが僕の本当の意味での『熱海殺人事件』のスタートラインだと思っています。

──多和田さんは今回、第一弾で熊田刑事を演じて、その千秋楽から3日後に、第ニ弾『改竄・熱海殺⼈事件 モンテカルロ・イリュージョン』で伝兵衛を演じます。すごいハードスケジュールですが、よく受けましたね。

多和田 最初に『モンテカルロ・イリュージョン』の伝兵衛で出ることは決まっていたんですが、その後に『新・熱海』の熊田の話がきまして。プロデューサーの岡村(俊一)さんが、「とにかく本人のやる気にしか頼れないハードなことをしようとしてるけど」と。最初はちょっと笑いました。「え、本気ですか?」と。でも良いタイミングかもしれないなと。いつも自分にとって必要なタイミングで必要な役はくると思っているので、『熱海殺人事件 NEW GENERATION』から4年ぶりに熊田をできる、しかもあっちゃん(荒井)が伝兵衛のときにできるのは、たぶん運命で、これは受けるしかないと思いました。

──久しぶりの熊田役はいかがですか?

多和田 すごく楽しみでした。実際に今稽古していても、あれ?こんなに熊田って楽しかったっけ?と。前回も楽しさはありましたが、やはり頑張りとか必死さのほうが勝っていましたから。

──お二人は同じ1993年生まれで、まさに『熱海殺人事件』の次世代を背負う方たちですが、それぞれ『熱海』との出会いは?

荒井 僕は馬場徹さんが伝兵衛をされていた時に初めて観て、「なんだこれ!」と衝撃でした。幕が開いたら、タキシードでスモークの中に1人立って喋ってて、すごい早口で大きな声で。とにかくカッコいいな!と。ここまで派手なエンタメは観たことなかったし、作品の熱量もすごくて、これカッコいいから出てみたいなと、すごく単純な動機で(笑)。

──荒井さんは岡村俊一さんの演出するつか作品には以前から出ていましたね。 

荒井 最初が『新・幕末純情伝』(2016年)でしたが、つかさんの作品の意味や凄さがよくわかってなかったし、つか作品への足の踏み入れ度は浅かったんです。ただ周りに馬場さんとか山崎銀之丞さんとか、つか作品の経験者が多かったので、いつも身近にはありました。

──多和田さんも岡村演出ではないものの『新・幕末純情伝』(2015年)には出演したことがありますね。

多和田 その公演を岡村さんが観てくれて、『NEW GENERATION』に呼んでくれたんです。僕も『熱海』を最初に観たときは、すごい早口で(笑)、とにかく凄いな!と。でもこれができたらカッコいいなと思ったし、これをちゃんとやれたら役者としてステージが上がりそうだなと思いました。

舞台上で「はじめまして」が二人の出会いだった 

──多和田さんが初めて出たその『NEW GENERATION』に、荒井さんはなんとゲストで出たそうですね。

荒井 岡村さんに呼ばれて観に行ったら、席が通路側だったので、なんとなく察してはいたんですけど(笑)。途中で舞台裏に連れて行かれて、舞台に出されていろいろやらされて(笑)、出番が終わってからも幼稚園児の服を着たまま席に座って芝居を観ていたという(笑)。

多和田 すごく浮いてたね(笑)。舞台では僕らが必死で芝居やってるのに客席に園児の服着た人が座ってて(笑)。

荒井 しかもぎりぎり照明の光が(笑)。

多和田 そう!当たるところだから目立って(笑)。

荒井 それが僕の初熱海で、たわちゃん(多和田)と一緒で、同期生なんです(笑)。

多和田 しかもあのときが本当に初対面で、舞台上で「はじめまして」って。

荒井 覚えてる!「荒井です。はじめまして」って(笑)。そこが僕たちのなれ初めですから(笑)。

──そのあと、『戯曲探訪 つかこうへいを読む 2019春』にも一緒に出ていますね。

荒井 あれも大変だった!劇場に入っていきなりこの本を読んでくださいと言われて、それが1冊じゃなくて、『傷だらけのジョニー』と『モンテ』と『銀ちゃんが逝く』に『売春捜査官』。

多和田 その場で台本渡されて。

荒井 あれこそ時間に追われて焦った。「もう開演しちゃうよ、やばい」と。

多和田 でもあの時のメンバーは全員、キャッチする能力を持っていた。凄かったよね。

──そういう経験を経て、2020年の「つかこうへい演劇祭」で、それぞれ『改竄・熱海殺人事件 ザ・ロンゲストスプリング』と『改竄・熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン』で伝兵衛役に挑みました。いかがでした?

荒井 必死でしたね。とにかく一生懸命しかなくて。伝兵衛像というのがまだちゃんと掴めてなかった気がします。

──それまでの伝兵衛役の人たちを意識しましたか?

荒井 ある程度の形として頭に残ってはいましたけど、一番鮮明に残っているのは、冒頭のシーンと、最後のほうの「あのドアを出ると」のシーンで、とにかくそこがカッコよかったという記憶しかなくて、事細かに覚えてないんです。だから逆に最低限、誰かの真似でもできればと。それがカチッと自分の感覚にはまるんだったらそれでいいし、そこから自分の新しいものが作れればいいんじゃないかと思いました。

──荒井さんの『ロンゲストスプリング』は、スタンダードな伝兵衛だけに自分のオリジナリティをどう出すか大変だったでしょうね。でも人物像としては荒井さんとどこか重なる部分もある気がします。男気とか包容力とか。

荒井 包容力はあると思います。あとは自分自身に破天荒な部分がもっとあればなと。そこを演じるのがけっこう大変でしたから。

『モンテ』の伝兵衛とは運命の出会いだった

──破天荒という意味では『改竄・モンテ』の多和田さんは意外でした。それまでいわゆる好青年の役が多かったので

多和田 『モンテ』には『戯曲探訪』公演で初めて出会って、阿部寛さんの舞台ももちろん観ていなくて、どんな話なのか知らないまま、こうかなというイメージで読んでいたら、そのイメージが遠くなかったみたいで、そのとき観ていた久保田創さんに、「たわちゃんなら『モンテ』ちゃんとできるよ」って言われて。自分でも楽しかったので、終わったあと岡村さんに「これやりたいです」って。やっぱり運命の出会いだったのかなと。でも演出の中屋敷さんはずっと僕に『モンテ』をやらせたかったみたいです。中屋敷さんは僕が変態というか変な人間だというのを知っているので(笑)。だって『戯曲探訪』でみんなはいろんな役を読んでいるのに「たわちゃんはこれだけね」って、「『モンテ』の伝兵衛だけお願いします」とニコニコしながら言うんですよ。僕は「この人頭がおかしい?」と(笑)。みんないろんな役やってバタバタしてるのに、僕は『モンテ』だけですみませんみたいな(笑)。でも実際にやってみたらめちゃめちゃ楽しくて、やれたことに感謝しました。

──その公演でお互いの伝兵衛像を観て感じたことは? 

荒井 『改竄・モンテ』は全体がとにかくめちゃ面白かったです。たわちゃんはたしかに好青年な部分もあるけど変な部分もあって(笑)、『戯曲探訪』で初めてそれを発見して「ええっ!面白い!」と(笑)。さらに『改竄・モンテ』を観て、嵌まり役という言い方は好きじゃないんだけど、たわちゃんに本当にぴったりだし、凄いなと。

多和田 やっぱりあっちゃん(荒井)の伝兵衛があるから僕の伝兵衛も生きるんだと思いました。ある意味王道でベースになるものをあちらがやってくれているから、こちらのちょっと異端な感じが立つわけで、本当に良いバランスだったなと。『ロンゲストスプリング』の伝兵衛があっちゃんで本当に良かったと稽古のときから思ってました。僕らが何をしでかそうとあちらが戻してくれるという安心感、それは一緒に出ていた3人も言ってました。

──どちらのバージョンも成立してしまうところがつか作品の懐の深さですね。そしてお二人は今回、『新・熱海殺人事件』の伝兵衛と熊田で、ついに同じ舞台上でぶつかり合うことになりました。

荒井 たわちゃんの熊田はヤバイです。こちらが返しを間違うと持っていかれるという怖さとか面白さがある。それに、今稽古してても「なんなんだよこいつ」ってツッコミたくなる瞬間があって(笑)。そこがまた新しい熊田だし、一緒にやっててめちゃめちゃ楽しいですね。

──荒井さんの伝兵衛はいかがですか?

多和田 ガンガンいけますね。気にせずいろいろぶつけたくなる。

荒井 稽古してて二言ぐらい多く返ってくるもんね(笑)。普通1ラリーで戻ってくるところを3ラリーくらいやることになって(笑)。純粋で真っ直ぐなんだけど、クレイジーな熊田だと思います(笑)。

『熱海』は観ると元気になる作品なんです!

──そして多和田さんは、千秋楽後、休む間もなく『改竄・熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン』の伝兵衛になるわけですが。

荒井 クレイジーから変態にメタモルフォーゼだね(笑)。

多和田 まずは熊田に集中したいなと。ただ、ある時期からは伝兵衛に切り換えないと間に合わないのでそこからがんばろうと思ってます。

荒井 俺もたわちゃんの『モンテ』で、速水刑事をやらせてもらいたいな(笑)。

多和田 それも面白いよね。

荒井 岡村さんに頼んでみよう(笑)。

──お二人が良い意味で競い合いながら、『熱海殺人事件』、そしてつか作品を背負っていく姿を楽しみにしています。

荒井 そうなったらいいですね。

多和田 一緒にがんばります。

──最後にこの作品を観てくださる方たちにメッセージを。

荒井 今は演劇の好きなお客様にとっても僕らにとっても不安な世の中ですが、でも演劇は止まらないでほしいと思っています。そして、劇場に来てさえいただければ、そこには僕らがいて、一生懸命に芝居をしていますから、その熱とかパワーを感じて、元気になっていただければと思います。来たいという気持ちが少しでもある方は、新しくなった紀伊國屋ホールを楽しみにぜひいらしてください。

多和田 紀伊國屋ホールが改装してどうなったか、皆さん気になると思うんですけど、でもそのことさえ忘れてしまうくらい、舞台にのめり込んでいただけるものにしたいと思っています。つか作品の中でも僕はとくに『熱海』が好きで、それは言葉の力がとてつもなくて、それが集まってすごい熱量になっている作品だからで。今、いろいろな業界がつらいと思いますけど、そういう時期だからこそ、言葉の持つ力を正面からぶつけたいし、きっとその力で元気になっていただけると思っています。『熱海』は観ると元気になる作品なんです。それを紀伊國屋ホールでぶつけたいなと。

荒井 つかさんの作品は本当に元気になるよね。

多和田 言葉が美しいし泣けるし、本当に凄いですから。

荒井 俺たち、やばいくらい頑張ってますから、ぜひ観に来てください。

多和田任益 荒井敦史

あらいあつし〇1993年生まれ。埼玉県出身。09年に俳優デビュー。映像や舞台で活躍中。最近の主な出演作品は、【映画】『神さまの轍-checkpoint of the life-』主演、『居眠り磐音』、『HiGH&LOW THE WORST』、『夏の夜空と秋の夕日よ冬の朝と春の風』、【ドラマ】『水戸黄門』(BS-TBS)、『デジタル・タトゥー』(NHK)、『サ道』(TX)、『まだ結婚できない男』(KTV・CX)、『伴走者』(BS-TBS) 、『柳生一族の陰謀』(NHK BSプレミアム)、ドラマスペシャル『はぐれ刑事三世』(EX)、【舞台】『改竄・熱海殺人事件 ザ・ロンゲストスプリング 』主演、舞台『どん底』主演、『熱海殺人事件 ラストレジェンド ~旋律のダブルスタンバイ~』主演、『いとしの儚』主演、FICTIONAL STAGE『亡国のワルツ』など。映画『信虎 信玄陣没! 国主の帰還』が2021年11月公開予定。

たわだひでや○1993年生まれ。大阪府出身。2011年に舞台デビュー、映像や舞台、ダンスエンターテインメント集団「梅棒」のメンバーとしても活躍中。最近の主な出演作品は、【映画】『ひだまりが聴こえる』主演、【ドラマ】『仮面ライダージオウ』(テレビ朝日)、『100文字アイデアをドラマにした!』第8話 「人生公演、リハ日」(テレビ東京)主演、【舞台】『天才てれびくん the STAGE ~てれび戦士 REBORN~』、梅棒 EXTRA シリーズ 『ウチの親父が最強』、『改竄・熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン』主演、『Nostalgic Wonderland♪~song & dance show~ 2020』、『舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 2』、梅棒 11th STAGE『ラヴ・ミー・ドゥー!!』、FICTIONAL STAGE『亡国のワルツ』など。ニコニコチャンネル「多和田任益のはねやすめ」配信中。

【公演情報】

『新・熱海殺人事件』
作:つかこうへい
演出:中江 功(フジテレビジョン)
総合プロデューサー:岡村俊一
出演:
木村伝兵衛部長刑事/荒井敦史
熊田留吉刑事/多和田任益
婦人警官水野朋子/能條愛未・向井地美音(AKB48)
犯人大山金太郎/三浦海里・松村龍之介
新装開場記念特別公演ゲストヒロイン/愛原実花
●6/10~21◎新宿・紀伊國屋ホール
〈料金〉7,500 円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※公演パンフレット・クリアファイル付き 10,000 円
〈お問い合わせ〉Mitt 03-6265-3201(平日 12:00~17:00)
〈公式サイト〉http://www.rup.co.jp/

『改竄・熱海殺⼈事件 モンテカルロ・イリュージョン~復讐のアバンチュール~』
作:つかこうへい
演出:中屋敷法仁
出演:
木村伝兵衛部長刑事/多和田任益
速水健作刑事/菊池修司
婦人警官水野朋子/兒玉 遥
犯人大山金太郎/鳥越裕貴
●6/24~27◎新宿・紀伊國屋ホール
〈料金〉7,500 円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉Mitt 03-6265-3201(平日 12:00~17:00)
〈公式サイト〉http://www.rup.co.jp/

 

【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】

 

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