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『熱海殺人事件 バトルロイヤル 50’s』開幕! ゲネプロレポート到着

『熱海殺人事件 バトルロイヤル 50’s』が、8月4日(金)、紀伊國屋ホールにて幕を開けた。(20日まで)

戯曲が発表された1973年以降、様々な形で上演され続けて、今年で50周年を迎えた『熱海殺人事件』。記念すべき50周年の上演に先立ち、公開ゲネプロと舞台挨拶が行われた。

《公開ゲネプロ》
スタンダード公演キャストでのゲネプロが公開された。
爆音でチャイコフスキーの「白鳥の湖」が流れる中、幕が上がるとタキシードを着た木村伝兵衛部長刑事(荒井敦史)が黒電話の受話器を握りしめてセリフをがなり立てている。『熱海~』おなじみの幕開きシーンだ。

そこに富山県警から東京警視庁に転任してきた熊田留吉刑事(高橋龍輝)が、ボストンバッグ片手にやってくる。隙あらばつかみかかろうかと言わんばかりの眼光の鋭さでセリフを畳みかける熊田と、それを軽やかにいなす伝兵衛の掛け合いのスピード感が、観客を一気に『熱海~』の世界へと引き込んでいく。

荒井は圧倒的な存在感で作品世界を駆け抜ける。包容力があり、時折見せる愛嬌で人を魅了しながらも付け入る隙は見せない、荒井独特の伝兵衛像を持って終始舞台を牽引する。

高橋は高い熱量を持って、伝兵衛に打ち負けない強靭な熊田を体現し、舞台をさらに盛り上げる。逞しい肉体と坊主頭という風貌に反して、周囲に翻弄されながらのぞかせる可愛らしさも魅力的だ。


水野朋子婦人警官役の新内眞衣は、黒のパンツスーツでクールに決めながら登場し、茶目っ気たっぷりに合いの手を入れたり、熊田相手にすごんでみせたりと、様々な表情を見せる。今回が3度目の水野役ということもあり、立ち振る舞いも含めどこか余裕と遊び心を感じさせる。

これまで『熱海~』には4回挑んできた多和田任益は、初の大山金太郎役で役者としての柔軟性を発揮する。派手な登場シーンから、長崎弁の朴訥な青年、そしてクライマックスに向けて伝兵衛の力で“立派な犯人”へと変貌していく大山の推移が心身からにじみ出ている。伝兵衛も熊田も経験して作品を多角的に見る目が養われた多和田だからこそ演じることのできる“犯人大山金太郎”の誕生だ。

発表から50年を迎えてもなお進化し続けることができる作品はそうそうない。戯曲自体が時代と共に変化してきたことも大きいが、この50年の間、日本の根本的な問題が何ら変わっていないということも、この作品が上演され続ける理由の一つだろう。マスコミは人の不幸をエンタメに仕立て上げ、大衆はそれを喜んで消費する。無気力が蔓延して、安易に人を傷つけることで一時的に空虚を満たそうとする。政治による弱者の救済は停滞し、弱者同士が足を引っ張り合う。

差別、貧困、格差、ルッキズム等々、そういったものからの脱却を図ろうとする近年のムーブメントは重要だが、それらが確かに存在した過去を「なかったこと」にはしないのが、つかの流儀だ。未来に進むために、歴史を否定しない。「人間はこうやって他者を蔑み差別してきただろう」と言わんばかりに、伝兵衛は差別的な言葉を口にする。そうやってこの『熱海殺人事件』は世の中に殴り込みをかけ続けて来た。つかは、泥にまみれてたくましく生きる人間の美しさを舞台上に立ち上げる。華やかなショー仕立てにして、この世の中はまがい物だらけだと糾弾する、つかの「叫び」がこの作品には息づいている。人々はその「叫び」に熱狂し、『熱海~』はますます輝きを増していく。

「バトルロイヤル 50’s」と副題のついた今回、「きみたちは戦っているのか」という問いを突き付けるようなヒリヒリする『熱海殺人事件』が、紀伊國屋ホールに熱気を起こしている。

 

《舞台挨拶》

北野秀気 高橋龍輝 池田純矢 荒井敦史 新内眞衣 多和田任益 三浦海里 佐々木ありさ

総合演出の河毛俊作、出演者の荒井敦史、新内眞衣、多和田任益、池田純矢、高橋龍輝、三浦海里、佐々木ありさ、北野秀気が登壇。最初に一人ずつ挨拶を述べた。

河毛 生前のつかさんと親しくお付き合いさせていただいて、作品も何本かやらせていただいたが、『熱海~』は初めて。稽古場に入ってみて「すごい芝居を書いたんだな、あの人は」と改めて思った。役者という生き物の体にかける負荷のすさまじさ、セリフとセリフの行間に埋まっているもの、時代を感じさせない深さや広がり、そういうものを日々掘り起こす作業をひと月やってきた。俳優たちには肉体的にも精神的にも負担をかけながら、みんなで苦労して練り上げてきて、何はともあれ「つかさんに本当に見ていただきたかった」というものは作れたと思っている。一人でも多くの方、特に若い方にこの作品に触れていただきたい。

荒井 この紀伊國屋ホールで『熱海殺人事件』50周年という記念公演をやらせていただけることを本当に嬉しく思っている。僕としては『熱海殺人事件』と名のつく作品は4度目。毎回進化できるように精一杯必死こいてやっています。

新内 3度目の水野朋子役への挑戦。一緒にやらせていただく役者の方々で毎回変わる舞台だなと思う。セリフは一緒のようでも、感情が揺さぶられるところが違ったりして、何度演じても楽しい作品。多くの方に見ていただきたい。

池田 毎回生死の境をさまよいながらカーテンコールまでたどり着けるのかどうなのか、そんな心持ちで一本一本集中してやっている。この作品にしかない独特の熱量を届けて、お客さんの心に何か響くものがあれば、と思って一生懸命頑張りたい。

多和田 僕もあっちゃん(荒井)と同じで『熱海~』と名の付くものは今回で4度目。今回初めて大山役をやらせていただけるということで、今この場に立って「大山としての『熱海~』が始まるんだな」と改めて身が引き締まる思い。個人的には今までの『熱海~』の中で一番精神的なパワーをつかった稽古だったと同時に、このキャストと河毛さん岡村さんと必死に頑張って来て、とても楽しい稽古だった。あとは最後まで駆け抜けて、皆様に届けられるように頑張っていきたい。

高橋 『熱海~』は今回で2度目の出演、そして2度目の熊田留吉を演じさせていただく。こうして紀伊國屋ホールにまた熊田として帰ってこられたことを心から嬉しく思っている。今回はダブルキャストということで、役者によってそれぞれの味や伝わり方が違って、楽しい演劇作品になると思う。

三浦 『熱海~』は2年前に大山役で出演して、今回は初めて熊田留吉役として再び『熱海殺人事件』に関われることを嬉しく思う。今自分ができる精一杯を舞台上で、アクセル全開ベタ踏みで一生懸命突っ走りたい。

佐々木 『熱海殺人事件』には初めての挑戦。とにかく仲間を信じて、この大好きな紀伊國屋ホールで一生懸命頑張りたい。

北野 滾ってしゃあないです。よろしくお願いします。

──河毛さんはテレビ版の『熱海殺人事件』を演出されていましたが、今回舞台版を手掛けてみての感想は。

河毛 あのときはまだつかさんがお元気で、稽古場に来て口立てでわけのわからないことをたくさん言うので、みんなで羽交い絞めにして出て行ってもらったという(笑)、今となっては懐かしい思い出。テレビは編集で何とかすることができるが、舞台は走り出したら役者のもの。今回はみんなを信じて送り出せる。

──今回キャストの組み合わせがいろいろあるが、お互いにやりやすい・やりにくいなどあれば。

荒井 高橋龍輝くんが矢継ぎ早にぶっ放してくるので息継ぎができない。やりにくいとかではなく苦情として言っておきます。

多和田 (三浦)海里とは「新・熱海~」で共演したときに役が逆だったので、「今回詰められてるけど、前回は逆だったよな」と不思議な感じがする。本番で海里がどれくらい詰めてくるのか楽しみ。

佐々木 『熱海~』はその人の個性がどうしても現れてしまう作品だと思っている。エキサイト公演ではいろんな人とご一緒できるので、各々の面白いところを体感できるのが楽しみ。

──最後にメッセージを。

荒井 紀伊國屋ホールで、50周年を迎えた『熱海殺人事件』という作品に出させてもらえて感謝しているし、このキャストでお届けできることを本当に嬉しく思っている。任されたからには、それぞれが本気でこの作品にぶつかって、見てくださる方々に何か一つでも記憶に残るようなものをお届けできたら。いろんなキャストの組み合わせがあるので、ぜひ全パターン見ていただきたい。

 

【公演情報】
50 周年記念特別公演
『「熱海殺人事件」バトルロイヤル 50’s』
作:つかこうへい
総合演出:河毛俊作
演出:岡村俊一
出演
木村伝兵衛部長刑事:荒井敦史・池田純矢(Wキャスト)
婦人警官水野朋子:新内眞衣(スタンダード公演) 佐々木ありさ(エキサイト公演)小日向ゆか(フレッシャーズ公演)
熊田留吉刑事:高橋龍輝・三浦海里(Wキャスト)
犯人大山金太郎:多和田任益 北野秀気(フレッシャーズ公演)
●8/4~20◎東京・紀伊國屋ホール
〈料金〉7,500円 学生料金 3,000円 熱海50周年記念割引 5,000円(税込・全席指定・未就学児童入場不可)
※学生料金(学生証提示・当日引換・8/15、16 除く)
※熱海 50 周年記念割引(8/8、9、13、18 のみ)
〈チケット問い合わせ〉Mitt 03-6265-3201(平日 12:00~17:00)
〈公式サイト〉http://www.rup.co.jp/

 

【取材・文/久田絢子 写真撮影/アール・ユー・ピー】

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