芝居噺弐席目『後家安とその妹』間もなく開幕! 豊原功補×毎熊克哉 インタビュー
豊原功補による芝居噺の弐席目『後家安とその妹』が、5月に紀伊國屋ホールで上演される。
一昨年、初めて手がけた芝居噺『名人長二』で、企画・脚本・演出・主演という4役を見事に果たし、大きな反響を呼んだ。昨年は脚本家の坂元裕二と初タッグを組んで、坂元の書き下ろし新作『またここか』を上演、その戯曲が岸田國士戯曲賞にノミネートされるなど、次々に優れた舞台を発表し続けている。
今回の『後家安とその妹』も『名人長二』同様に、三遊亭圓朝と古今亭志ん生の落語を原案とする物語で、御家人を追われた恨みを腹に持つ年若い兄妹に翻弄される人々の運命を描き出す。
その作品で主人公後家安を演じるのは、ドラマや映画で大きな注目を浴びている演技派俳優の毎熊克哉。豊原演出のもとで放蕩三昧の悪党をどう演じるのか、本作への抱負を豊原とともに語り合ってもらった。
落語を元にした作品の可能性をさらに探りたい
──芝居噺は『名人長二』に続いて2本目ですが、この題材を選んだ理由は?
豊原 1本作ってみて、次は落語を元にした作品の可能性をもう少し違うところに求めてみたいなと思ったんです。圓朝と志ん生の噺からという点では同じですが、前回とは違う角度とか、人との交わりみたいなものをより表現できたらと。それに『長二』は演出自体初めてだったので、落語に対して大事に思う加減が高かった。主演もやっていましたから、脚本・演出としては壊れきれないところもありました。今回は自由度を広げたいなと。『後家安とその妹』は、後家安にしても妹のおふじにしても、その行動などを突き詰めて行くと、ドキュメントというか、お話をきちんとお伝えするしかないみたいなところに行きかねない。でもそこに他者が絡んでくることで、人間というものの持っている本質が、言葉ではなく、様(さま)で見えてくる。そういう作品で自分自身の芝居を作る可能性を、色々探りたいというのもありました。
──毎熊さんは豊原さん演出の2作はご覧になりましたか?
毎熊 『名人長二』はDVDで、『またここか』は生で観させてもらいました。その2作の印象が全然違っていて、だから今回はまた全然違うものになるんじゃないかと思ってますし、出る側としても楽しみです。
──後家安という人物についてはどう感じますか?
毎熊 読んだ時、魅力があるなと、それは自分にとっては大事なことでした。「何やってんだこいつは」と思う中にも、脆い部分などが書かれてないのに伝わってくる。そういう人物は昔から好きです。悪だったり善だったりの裏側にある複雑な部分、そういうものはサラリーマンの役をやるにしても必要ですし、とくに後家安はわかりやすく悪人なので、そういう裏側をちゃんと持っていたいですね。
存在の無力さや純粋さを忘れたくない
──毎熊さんは10年近く下積みの時期があったわけですが、役者としてこれだけは捨てたくない、妥協したくないというものはありましたか?
毎熊 役者を始めたのは21歳ぐらいだったんですが、最初の何年かはよく分からずにやっていました。同年代でも既に活躍している人がたくさんいる中で、自分は当たり前ですがエキストラから始まって、思ってるのと何だか違うなあと現実に気付いて、そこからが始まりというか。バイトもしなきゃいけないし、警察に職務質問されても「役者です」と言えないし(笑)。そこで辞めるか辞めないか考えて結局やってるんですけど。その時期に自分が感じた存在自体の無力さとか純粋さとかは、例えば『ケンとカズ』のような底辺に生きている役をもらったとき、そういう経験がなかったらきっとその役はできなかっただろうなというのがあるんです。自分自身がゴミのような感じ、そういう感覚はこれから仕事が絶えなかったとして持っていたいし、気持ち的には常に低いところにいるというか、それはこれからも大事にしたいなと。
──今回、毎熊さんにオファーしたのはやはり彼のこういうところがいいなと?
豊原 映像でしか拝見してなかったので勘によるところが大きいんですけどね。俳優という職業についている方たちは沢山いますが、個人的にはどこか清水(せいすい)が流れてないといけないと思っていて。外側がボロくなっていく鞄でも元がすごく良い物で骨組みがしっかりしてると、傷ついていく様を愛しんでいける。でも元がいい加減な鞄はよごれると汚くなる。そういう意味で彼は中身がちゃんとしてるんじゃないかと。役者はスキルも必要で、舞台の立ち方や映像の映り方を覚えていくことで上手い俳優と言われるので、それは必要なものなんですが、それに汚されてしまう役者も多い。汚されないで立つためには、本人の中にある純粋さ以外ないんですよね。
落語の根幹の面白さに自由度を加えて
──間もなく稽古も始まりますが、豊原演出への期待は?
毎熊 豊原さんは落語を愛してずっと聴いている方なので、見たいものは明確にあると思うんです。だから稽古ではある意味制限が出てくるかもしれない。でも自分がそこにとらわれない自由さみたいなものは大事かなと。さらに着る物だったり、言葉や動きだったり、その全部が自分には拘束になってくるだろうなと。そこを越えていきたいし、最終的に拘束された中で楽しめたら、今の自分とはまた全然違う成長ができるんじゃないかと思います。
──今回は豊原さんの演出も挑戦があって、ラップやギターなど出てくるそうですね。
豊原 どういう表現が一番この人たちに合うかなと考えて思いついたんですが。そういう「え?」って部分も、「なるほど、こういう遊びも入れてきたか」と面白がってもらえたら。基本的に落語の面白さの根幹は失いたくないけれど、前回より自由度を増して、役者の年齢層も下がったぶん肉体の強さを感じる芝居になるんじゃないかと思っています。「芝居噺」という、落語を演劇にするリスクを越えた面白さが絶対にあると思いますので、初めて観る方にもぜひ興味をもって観ていただきたいですね。
──毎熊さんも観にきてくれる方への意気込みをぜひ。
毎熊 今回まさに崖っぷちに立っていると思っていて、そういう火事場の馬鹿力みたいなやつを観に来てもらえたらと。慣れてないし、上手くできないかもしれないけれど、なんとかしなきゃいけないという馬鹿力をちゃんと発揮できれば、良いものを見せられるじゃないか。例えばこれから毎年舞台に出続けて、5年後にこの作品で同じ役をやっても、今の自分の良さが出るかと言えば出ない気がするんです。だから今回に限っては火事場の馬鹿力で行きたいなと。
豊原 火事場の馬鹿力いいね! その馬鹿力で、歩行者天国でチンドン屋の格好して、『後家安とその妹』って旗持って宣伝してもらおうかな(笑)。
とよはらこうすけ(写真右)○東京都出身。俳優として数々の映画やドラマで活躍。ナレーターとしても活躍、音楽活動も行っていて99年にはシングル『星空』でバンドデビュー。映画『受験のシンデレラ』では、「モナコ国際映画祭」最優秀主演男優賞を受賞。最近の主な出演作品は、映画『たたら侍』、ドラマ『愛を乞うひと』『重要参考人探偵』、舞台は『シブヤから遠く離れて』『空ばかり見ていた』など。『名人長二』では企画・脚本・演出・主演、『またここか』では演出を手がけた。
まいぐまかつや(写真左)○広島県出身。2016 年公開のW主演映画『ケンとカズ』で第71 回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞ほか多数受賞。最近の出演作品は、映画『止められるか俺たちを』『おまえ次第』『ご主人様と呼ばせてください』『轢き逃げ 最高の最悪な日』(5 月10 日公開)、ドラマはWOWOW『コールドケース2』「未解決事件File.7『警察庁長官狙撃事件』」『京都人の密かな愉しみBlue 修行中』連続テレビ小説『まんぷく』など。
【公演情報】
明後日公演2019 芝居噺弐席目
『後家安とその妹』
企画・脚本・演出◇豊原功補
原案◇三遊亭圓朝「鶴殺疾刃庖刀」/古今亭志ん生「後家安とその妹」
出演◇毎熊克哉 芋生 悠/森岡 龍 広山詞葉 足立 理 新名基浩/福島マリコ 塚原大助/古山憲太郎 豊原功補
●5/25~6/4◎紀伊國屋ホール
〈料金〉一般¥7,800 U-22¥3,000(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉明後日 03-6412-7205(平日11:00~18:00) https://asatte.tokyo/2018/12/gokeyasu/