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「浅草新春歌舞伎」尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助インタビュー

坂東巳之助 尾上松也 中村歌昇

新春の浅草で歌舞伎の若手花形たちが活躍する「新春浅草歌舞伎」。来年も1月2日に浅草公会堂で幕を開ける。この公演は40年の歴史があり、地元浅草の人びとの協力のもと、お正月の風物詩として親しまれている。平成27年からは尾上松也を最年長とするメンバーで、歌舞伎の古典や大作に挑んでいる。

その「新春浅草歌舞伎」の2020年の公演について、尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助3人を囲む合同取材会が開催され、浅草歌舞伎ならではの魅力、演目の見どころや公演への抱負をそれぞれ語ってくれた。

大作や名作でそれぞれ大役を演じる

──本公演では、それぞれ大役や縁のある役を演じられると思います。改めて役についてどのように考えているか教えてください。

松也 僕は第1部の『寺子屋』で松王丸、第2部『仮名手本忠臣蔵』で大星由良之助を勤めさせていただきます。『寺子屋』では、過去に武部源蔵を2回させていただきましたが、その時から松王丸がどういう思いで対峙しているのかということに興味がありましたし、自分自身もいつか松王丸を演じてみたいという気持ちでおりました。浅草歌舞伎の演目について相談したり話し合う機会があるときに、必ずといっていいほど『寺子屋』の話は出ていましたので、ようやく上演する機会に恵まれたという感じです。現代ではなかなか理解できないような出来事がその場で起きておりますが、なぜそうなったのか、最終的にお客様が胸につまるような思いになっていただけるように勤めたいと思います。由良之助に関しては、30代前半で由良之助をさせていただけるとは想像もしていませんでした。今できることを精一杯させていただきたいと思います。自分の本当の思いを押し殺しているところは松王丸と共通ですが、由良之助でさらに難しいところは、放埓を装ってはいますが、くだけた状況でやってはいけないので、雰囲気とにじみ出る大きさが自然に出なくてはいけない。それこそ年齢と経験値というものが必要だと思います。2役とも(片岡)仁左衛門のお兄さんにご指導いただくので、なるべく近づけるように尽力したいと思っています。

歌昇 今回演じさせていただく『絵本太功記』の武智光秀は(中村)吉右衛門のおじ様に教えていただくのですが、以前おじ様から「座頭の方が勤めるようなお役」と教えていただきました。そういう大きなお役を勤めるには役者としても大きさが必要ですが、今は自分ができることを精一杯させていただきたいと思いますし、教えていただいたことをきちんと出せるかということに尽きると思います。『寺子屋』は、自分の会で松王丸をさせていただいたことがあり、播磨屋にとっても大切な演目ですから、僕としてはすごく嬉しいです。少しでも経験が生かせればと思っています。『茶壺』に関しては、巳之助くんとしっかり一緒に踊るということはあまりなかったので、すごく嬉しく思っています。巳之助くんに叱られながら(笑)勤めたいと思います。

巳之助 なんで叱るのよ!(笑)。僕は今回、第1部で『茶壺』、第2部の『仮名手本忠臣蔵』で寺岡平右衛門と2つの役をさせていただきます。『茶壺』に関しては父も祖父も代々演じてきた演目で、坂東流として非常に大切にしている演目でもあります。ユーモアがあって面白い、クスッと笑えるような作品ですので、お客様を笑顔にすることが作品を大切に残していくということとイコールだと考えています。同い年の歌昇くんが参加してくださることは、僕も嬉しく思いますし、僕自身が目いっぱい楽しみながら、お客様を楽しませることができたらと思っています。平右衛門に関しては、こうした古典の大きなお役というのは、教えていただいたことを大切にすることが、お客様に作品の魅力を伝えることにつながっていくと思いますので、教えていただいたこと一つひとつを自分の中に取り込んで吸収し、体を使って表現できるように励みたいと思います。浅草歌舞伎は若いお客様や普段歌舞伎をご覧にならないお客様も大勢いらっしゃると思いますので、そうした方に代表的な古典歌舞伎の名作を楽しんでいただければと思います。

年明けに歌舞伎を観て良かった!と

──浅草歌舞伎で初めて歌舞伎を観る人もいると思います。それぞれの演目の魅力を教えてください。

松也 『寺子屋』は歌舞伎の中でも人気演目の一つですし、いつかは勉強したいと思うような演目でもあります。理解しがたいような設定や状況になるわけですけれど、その中で魂というか心構えがあったということを知っていただきたいです。また、親、兄弟への愛情、主人への忠誠心がより濃くにじみ出ている作品だと思います。そういったところは、今の時代の方でも共感して感動していただけると思いますし、どれだけそれを受け取っていただけるかは、僕たちの努力次第だと思います。『仮名手本忠臣蔵』に関しては、これも人気演目の一つで、場面としては非常に華やかですから、全員で盛り上げていきたいと思います。その前の『絵本太功記』も非常にどっしりとした重い作品ですが、そういうことを感じさせないように僕たちもできるだけ熱い思いを持ってしっかり取り組みたいと思います。

歌昇 『絵本太功記』は悲劇といいますか、戦国の世の中で謀反をした光秀の母や子どもなど、家族それぞれにスポットが当たっているので、それぞれに見せどころがあります。光秀が謀反を起こしたことによって、どういう悲劇が起きたのか、そしてそれを受けて光秀がどう思うのかというところを、一つの家族のドラマとしてお見せすることができるようにしたいと思います。

巳之助 『茶壺』に関しては、これは説明不要といいますか、現代にも通じる日本古来のコントのような作品です。何も考えずにご覧いただいても、笑っていただける、肩肘張らずに楽しんでいただける演目だと思います。第1部は『花の蘭平』『寺子屋』と続きまして、最後に『茶壺』を観て、ニコニコ笑顔で劇場をお出になっていただきたいですね。そして浅草歌舞伎は終演が早いので、ぜひとも華やかな楽しい気持ちで浅草の街を歩いていただいて、「年明けに歌舞伎を観て良かったね、楽しかったね」と言いながら『寺子屋』や『花の蘭平』のことも思い出して、歌舞伎って面白かったと思っていただける最後の一押しとして『茶壺』が機能してくれれば一番だと思います。

若いからこそ緊張感を持って挑む

──皆さん、仲が良さそうな雰囲気が漂っていますが、本公演は同年代の方が多いということで、稽古場はどんな雰囲気ですか?

巳之助 若いからこそ、すごく真面目ですよ!

松也 普段はこんな和やかな感じですが、そのままの空気感を持ってやってしまうと緊張感がなくなってしまうので、稽古場や劇場に入ってからは緊張感を持ってやるように心掛けています。先ほど巳之助くんが言ったように、それぞれが初役なのでみんな緊張していると思います。

──5月の團菊祭五月大歌舞伎でも、若い世代の皆さんが「次の時代はこうだよ」と見せているような演目だった気がします。新しい令和の時代を自分たちで切り開いていくところを見せたいという部分はあるのでしょうか?

松也 浅草歌舞伎以外でも、それぞれが活躍する場、責任を持たせていただける場面が増えてきていることは確かです。それはひとり一人が自覚していることだと思います。令和だからということではなく、それぞれがそういう立場に立っていろいろ考えたり経験をしたりしているからこそ、浅草の舞台に立った時に、僕らができる浅草歌舞伎というのはどういうものなのかということをより強く考えるようになりました。浅草歌舞伎でしっかりと自分たちができる限りのことをやりたいという思いがあります。

歌昇 新しい時代だからということではなくて、僕たちはまず、歌舞伎というものをきちんと継承しなくてはいけないということだと思います。まだ新しい時代に新しいことを何かしたいと考えるようなレベルではないのかなと思っています。

巳之助 僕たちの世代で、歌舞伎に足を運んでくださるお客様を増やすという意味で、新しい客層を切り開いていかなければいけないという使命感はあります。しかし新しい時代、新しいものを開拓していこうという意識は、基本的に歌舞伎役者は若手だけでなく、みんなが持っているものだと思います。

浅草の街も含めて楽しんでほしい

──1月はいろいろな劇場で歌舞伎がありますが、浅草ならではのアピールをしていただければと思います。

松也 浅草は地元の皆さんと協力して作っている公演ですし、(市川)猿之助兄さんや(中村)獅童兄さんの時代からそういうことを考えて上演時間を設定しているので、街ぐるみで楽しんでいただける公演になっていると思いますし、どの劇場よりもお正月のムードがあります。お芝居を観たあとに浅草の街に繰り出してごはんを食べたりすることができるのが、浅草の醍醐味ではないでしょうか。浅草は街自体がテーマパークのような部分もありますし、非常に魅力的な街だと思いますので、そこで幸せを感じつつ、お客様に楽しんでいただきたいです。

巳之助 上演時間が短いということもありますが、ご観劇料が他の劇場よりも抑えられています。そして上演時間が短いということは、浅草の街も含めて見ていただきたいという思いもあります。普段なかなか歌舞伎をご覧にならない方にとっては、コンパクトに楽しんでいただける公演ですし、お財布にも優しいというのも浅草歌舞伎ならではの魅力ではないかと思います。

──改めて新春浅草歌舞伎に向けた抱負をお聞かせください。

松也 僕らの代になって「新春浅草歌舞伎」は6年目になります。初めに比べればそれぞれが経験を重ねてきましたが、その時に自分たちができる限りのことを精一杯出し尽くすというのは、これまでずっと変わらなかったことです。その中で少しずつ余裕が出てきている部分もありますが、何年経っても芸事に対する初心を忘れるべからずという精神を持って、今できるベストは何かというところをお客様に見ていただきたいです。また、初演の時から観ている方には、僕らが積み重ねてきたものを楽しんでいただける。それも歌舞伎の楽しみ方の一つです。6年目ということや令和ということはあまり意識し過ぎずに、今までどおりしっかり勤めることを念頭に置きながら1ヵ月勤めたいと思います。

歌昇 毎年お正月に会って、一緒に演目をさせていただいている中で、去年と違うなと感じたりすることが自分の刺激になりますし、それがすごく良い方向に向いていると思います。今のお兄さんの話のように、一つずつ教えていただいたことがきちんとできるかということに尽きると思います。

巳之助 6年間の積み重ねということで申しますと、「お年玉ご挨拶」ももちろんそうですし、お兄さんもおっしゃっていましたように、浅草歌舞伎は地元の方が力を貸してくださってやらせていただいている公演です。地元のいろいろな団体さんの催しに参加させていただいたり、イベントも目白押しなのが、我々にとっての「新春浅草歌舞伎」の特徴です。そうしたことをこれまで積み重ねてきたことによって、今の「新春浅草歌舞伎」があると思いますので、それも含めて今までどおりしっかり勤めたいと思います。

【公演情報】
「新春浅草歌舞伎」
第1部
「お年玉<年始ご挨拶>」
 一、『花の蘭平(はなのらんぺい)』
 二、『菅原伝授手習鑑 寺子屋(すがわらでんじゅてならいかがみ てらこや)』
 三、『茶壺(ちゃつぼ)』
第2部
「お年玉<年始ご挨拶>」
 一、『絵本太功記 尼ヶ崎閑居の場(えほんたいこうき あまがさきかんきょのば)』
 二、『仮名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋の場(かなでほんちゅうしんぐら ぎおんいちりきぢゃやのば)』
出演◇尾上松也 中村歌昇 坂東巳之助 坂東新悟 中村米吉 中村隼人 中村橋之助 /
中村錦之助
●1/2~26◎浅草公会堂
〈お問い合わせ〉 チケットホン松竹(10:00~18:00)0570-000-489(ナビダイヤル)または03-6745-0888
http://www.asakusakabuki.com

 

【取材・文/咲田真菜 撮影/友澤綾乃】

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