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新国立劇場『アンチポデス』いよいよ開幕!  高田聖子インタビュー

新国立劇場ではピュリッツァー賞受賞作家アニー・ベイカーの『アンチポデス』を、4月14日から24日まで上演する。『アンチポデス』は、小川絵梨子芸術監督4年目のシリーズ企画「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話…の物語」の第1弾。翻訳は、新国立劇場では『タージマハルの衛兵』が記憶に新しい小田島創志が手掛け、小川絵梨子が演出、今回が日本初上演となる。

【あらすじ】
会議室に8人の男女がいる。リーダーであるサンディのもと、彼らは企画会議として「物語を生み出す」ためのブレインストーミングを始める。新たなヒット作を生むために。ゾクゾクするような、見たことがない、壮大な、集合的無意識を変えるような怪物級の話を創りだすのだと。
誰も聞いたことがない新しい物語を紡ぐため、必死で頭をひねるチームのメンバーたち。閉ざされた空間の中でアイデアも出尽くし、不安は募るばかり。チームも、そして物語の迷走も止まらない。やがて会議室の外に世界の終末のような嵐が訪れる。
最後に彼らの手の中に残るのは、どんな「物語」なのか──。

シリーズ「声」は、人に渡す言葉の在り方を、他者との関係性を、今一度、立ち止まって考えたい、という考えからスタートした企画。その第1弾となる『アンチポデス』は「だれかが”おはなしをする”お話、を描いた物語」であり、様々な危機に陥った世界にとって、「ものがたり」がどのような価値を持つのかを問いかける。

3月中旬、この作品で会議に参加しているエレノアという女性を演じる高田聖子に、役柄や俳優としての現在などを聞いた。

実際に会議室で会議しているような感覚に

──高田さんは小川絵梨子さんの演出は?

初めてです。もちろん演出された作品は何度も拝見していて、素敵だなと思っていました。

──まだ稽古開始から間もない時期だそうですが、今はどんな稽古を?

最初に本読みを沢山しました。今は立ち稽古に入っているのですが、立って動いていても、どこか本読みの延長にあるような稽古をしている感覚です。それはこの本だからなのかもしれませんが。

──劇の輪郭としては、白井晃さん扮するサンディというリーダーのもと、これまでにない「新しい物語」を考えるためのチームが、それぞれネタ出しみたいな形で話をしていく。そのために集められた人たちという設定ですね。

そうです。出自も年齢や職業もバラバラな8人で、お互いのこともそんなにわかってなくて、でもわからなくてもいいという、そういうフリーな関係の集団なんです。そういう創作の仕方って実際に海外でのドラマ作りなどではあるそうで、作家が1人ではなく複数の人のアイデアなどをもとに作るケースもあるそうです。

──その中でアイデアという形で、それぞれが自分の物語や発想を言葉にしていきますね。それがリアルな話だったり哲学的なことだったり、個人個人の「お話」が次々に出て来て、その人物の背景もなんとなく見えるような。

ただ、台詞に書かれていないことも多いし、むしろ書かれていていないことが大事かなという気がします。誰かが話しているときも、語っているその内容自体より、それを聞いたり共有したりする周りの反応のほうが大事なのだと。小川さんがそういう話をされていて、私もそうだなと思う部分があります。

──つまり、語られる話をみんながどう受け止めるかのほうにテーマがある?

話そのものよりも、話している人を、ですかね。今、稽古していてなんか不思議な感覚があるんです。小川さんがよくおっしゃっているのは、物語であったりそれを話している人であったり、そういうものととにかく出会ってほしいと。自分で考えたことをいかに出すかということより、その時、相手とか物語とかに1つ1つちゃんと出会っていってほしいということで。私もこれまで色々な演出家さんや俳優さんたちとご一緒してきましたが、出会った方たちに言われたことなどが、走馬燈のように浮かんで、それが集まってくるような。この作品と向き合っているとそんな感覚がするんです。それにもう1つ不思議な感覚があって、宣伝チラシのビジュアルに描かれているように会議室でみんなで話しているのですが、普通は客席に向かってというか、観られているのを意識して芝居をしますけど、この作品は完全にみんなと会議している感覚になっているんです。

──というと、観客はその会議をどこかから覗かせてもらっている感じなのかもしれませんね

そういう意味では観客の方たちは会社の上層部なのかもしれません(笑)。会議室を監視カメラではないですけど、どこかから眺めていて、あいつは駄目だなとか(笑)、この話は使えるなとか。そういうふうにも考えられるので面白いです。

──劇の途中でいなくなる人も出てきますから、管理されている感じもありますね。クリエイティブチームとしては、そういう状況の中で、とにかくこれまでにない物語を生み出さないといけないわけですね。

そうなんです。でも結局は自分の経験とかルーツとか、自分の持っているものの中からしか出せなくて、そこから物語が生まれそうで生まれなさそうで、という渦の中にみんながいるんです。まだ「答えの解き方」みたいな基本のところを考えている

──集められた8人の1人である高田さんのエレノアは、30代~40代ぐらいの女性ですが、ちょっと個性的で楽しいところもありますね。

よかれと思って空気をあたためるけど失敗したりするところは、愛せるなと思います(笑)。でもたぶんあの場所にいる人はイラッとしたりするでしょうね(笑)。

──エレノアについて理解できる部分を探して、そこから作っていくような感じですか。

自分の中にあるものを踏まえつつ、でもまったく新しく作っていってる感じですね。小川さんは、どんな設定でも正解は1つではないし、間違いもない、それを踏まえてやっていけばいいとおっしゃってくれたので。

──先ほどの「走馬燈のように」浮かんだこれまでの経験が役に立ちそうですね。

役に立つというより、ようやく意味がわかってきたなという感覚ですね。長くやっていますから、これがいいかなとかあれかなとか、無意識に芝居の方向みたいなものをチョイスしていると思います。でもそれが早道になって良かったかというと、そうとも限らないので。そういう今までの経験の中で先輩に言われた色々なことが、なんとなく繋がってきているような、そういう感覚を持ちながら、まだ漂っています(笑)。

──経験がうまく繋がると腑に落ちませんか?

まだ、「あ、ちょっと繋がったな」くらいですね(笑)。今は、観せるためのものを作るという作業と、一から立ち上げるという、その間にいて、「答えの解き方」みたいな基本のところを考えている感じです。ちゃんとやらないで感覚的に飛ばしてきたところを、改めてもう一度丁寧にやっているという感じです。

──小川さんは、その人の中にあるものをいかに引き出すかという演出だと聞きますが、引き出されている感じですか?

そう思います。私だけでなく出演者全員を、それぞれの方向を懐中電灯の灯りで照らすみたいなかたちで導いてくれているのを感じます。

全員が真摯で風通しがいい、「清い」人たちの稽古場

──このチームを率いているサンディは白井晃さんが演じています。白井さんとの共演は?

白井さんが演出された『オセロ』(2013年)に出演して、白井さんも少しだけ出ていらっしゃいましたけど、あれは共演と言えるのかどうか(笑)。ですから今回初めてちゃんとお芝居をさせていただいてます。

──ほとんど同時代にスタートして、それぞれ活躍してきたお二人が本格的に出会ったということは観客側としても嬉しいです。そういう意味では、高田さんのフィールドはこの10年ぐらいでどんどん広がっていますね。

本当に私はラッキーだと思っています。イメージが強烈な劇団の出身なのに、色々なところに参加させてもらえて、すごくありがたいです。

──2018年に山崎一さんが立ち上げた劇壇ガルバの活動なども今回に繋がっているのかなと。

本当に!  私自身、アーサー・ミラーの戯曲をやるなんて思ってなかったですから。20歳ぐらいで芝居を始めたときに大先輩から言われた言葉とか、当時はよくわからなかったんですけど、今回もこの作品で、ふっと「そういうことか」と思ったりしますから、長く続けてきたおかげですね。

──白井さん以外の共演者の方々も実力派ばかりです。

皆さん「清い」んです。稽古場にそういう空気があります。それは小川さんの演出のおかげでもあるのかなと。全員が真摯で風通しがいいんです。こういう芝居って自分の考えに入り込みがちですけど、「出口がなくなるから外に目を向けてください」というようなことも演出しながらおっしゃって。たしかに自分ひとりでは解決できないような作品ですからすごく納得しました。

──劇中の話は日常的なことから哲学的な言葉まで広がりますし、それぞれ自分の過去などを吐き出すとき、その人の精神の歪みとか変な部分などもふと零れ落ちたりします。演じていて突きつけられることも多いでしょうね。

だからこそ、ちょっと笑えたり(笑)。人間は一生懸命なときほどおかしかったりするので。最終的にはここに出ている人たちのことを「みんな頑張れ」と思ってもらえたらいいなと小川さんもおっしゃっていて、確かにそうだなと思います。


覗き見の感覚でも、神様みたいな視点でも

──高田さんはますますフィールドを広げて活躍していくと思いますが、これからの夢というか目指すものなどは?

この作品に関わっているからか、すごく今、「一からだな」という気がしているんです。たとえば自分の所属する劇団☆新感線との関わり方なども、少し変わっていけたらいいなと思っていて。いつも言われたことに「はい」と言って「すいっ」(笑)と乗っているつもりなんですけど、これからは、言われたことは「すいっ」と乗りつつ、もっと丁寧に、より役立ちたいなと。「はい」だけじゃなく、「すいっ」と役立ちたいんです。それも目立たずに、ふっとそこで花が咲いていたみたいに(笑)。

──外部ですごく沢山のものを手にしてきたそれを還元するみたいな?

そうです。そういうものを、なんとか「すいっ」と(笑)。もちろん別のカンパニーに行ったときにも新感線で得たことが役に立てばいいし、それぞれの作品で役立ちたいなと。せっかく色々な経験をさせてもらっているので、それを何かに使いたい。それがちゃんと身になっているかも自分で確かめたいです。

──この作品もたくさん身になりそうですね。最後に舞台を観てくださるお客様へメッセージをいただければ。

目の前に美味しいご馳走をドーンと、どうぞ!というお芝居ではありませんが(笑)、じわじわと栄養が沁みていくようなお芝居です。物語を追いかけるというより、その場にその会議に参加しているような感覚でいてもらうときっと面白く観ていただけると思います。なにしろ机を挟んで相手と話し合っているので、どう見えているのか自分たちではわからないんです(笑)。途中で抜ける役の富岡晃一郎くんが外から観て、「苦しんで何か出そうとしているのが、たいへんそうで面白いよ」と言ってくれましたから、きっと面白いと思います(笑)。お客様も覗き見の感覚で観ていただいても、神様みたいな視点で楽しんでいただいても面白いのではないかと思います。

──そういえばタイトルの『アンチポデス』は「地球の裏側」という意味だそうですね。

地球の裏側には自分とそっくりな人がいて、逆なことをやっていたり、繋がっているようで反面だったり、という台詞があります。それもあって、私は初めて読んだときに、会議室でやっていることは神様の遊びみたいで、試されているような感じもしたんです。不思議なお芝居ですよね。でもこういう不思議なお芝居ができたり、観られたりすることはとても豊かなことで。簡単に泣かされるとか簡単に嫌な気持ちになるとか、簡単に感動するというものではないけど、不思議なタイミングでぐっときたり、不思議なタイミングでおかしかったりします。そういう意味でも観客参加型ですので、色んな視点で参加してください。

■PROFILE■
たかだしょうこ○1987 年『阿修羅城の瞳』より劇団☆新感線に参加。95 年に自身が立ち上げたプロデュースユニット「月影十番勝負」続く「月影番外地」では、様々な演劇人とコラボレートするなど新たな挑戦を続けている。第 51 回紀伊國屋演劇賞個人賞受賞。【主な舞台】『狐晴明九尾狩』『ベイジルタウンの女神』『ざ・びぎにんぐ・おぶ・らぶ』『あれよとサニーは死んだのさ』『けむりの軍団』『メタルマクベス disc2』『森から来たカーニバル』『江戸は燃えているか』など。新国立劇場では『夢の裂け目』『舞台は夢~イリュージョン・コミック~』に出演。2023年1月に月影番外地公演の新作『暮らしなずむばかりで』を上演予定。

【公演情報】


新国立劇場 演劇『アンチポデス』
作:アニー・ベイカー
翻訳:小田島創志
演出:小川絵梨子
出演:白井 晃 高田聖子 斉藤直樹 伊達 暁 亀田佳明
チョウ・ヨンホ 草彅智文 八頭司悠友 加藤梨里香
*出演者一部変更のお知らせ(3月29日更新)
https://www.nntt.jac.go.jp/release/detail/23_023027.html
*出演者変更のお知らせ(4月11日更新)
https://www.nntt.jac.go.jp/release/detail/23_023137.html

●4/14~24◎新国立劇場 小劇場
〈料金〉A席7,700円 B席3,300円 (全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉新国立劇場ボックスオフィス:03-5352-9999(10:00~18:00)
〈公式サイト〉https://www.nntt.jac.go.jp/play/antipodes/

「シリーズ 声」演劇3作品通し券
4月『アンチポデス』 5月『ロビー・ヒーロー』 6月『貴婦人の来訪』
料金20,700円(正価より10%OFF/税込)
〈詳細〉https://www.nntt.jac.go.jp/play/news/detail/13_021415.html

 

【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】

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