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上田誠(ヨーロッパ企画)×小御門優一郎(ノーミーツ) クリエイター対談

舞台のみならず幅広く活躍する2人のクリエイター、劇団「ヨーロッパ企画」代表の上田誠と、ストーリーレーベル「ノーミーツ」主宰の小御門優一郎による対談が実現した。

ヨーロッパ企画は京都を拠点に活動している劇団で、今年25周年を迎えた。演劇公演にとどまらず映像分野などでも幅広い活躍を見せており、現在はヨーロッパ企画が制作した長編映画第2弾『リバー、流れないでよ』が6月23日の公開以降、高い評価を得て全国で公開中である。上田はヨーロッパ企画の全公演の作・演出を手掛けるほか、外部の舞台作品、映画、テレビドラマ、アニメ、バラエティー等、脚本家・演出家・構成作家として幅広く活躍している。

ノーミーツは、2020年4月9日にフルリモートで活動する「劇団ノーミーツ」としてスタート。新型コロナウイルス対応の特別措置法に基づいて緊急事態宣言が発出されたのが4月7日だったので、そのスピード感と実行力は驚きを持って迎えられ、演劇の新たな可能性を感じさせる存在として注目を集めた。2021年10月にストーリーレーベル「ノーミーツ」へと改名して以降は、演劇作品をはじめドラマ、映画、ゲーム、漫画、ライブ等幅広いジャンルで作品制作に携わっている。小御門は旗揚げから主宰の1人として脚本・演出を担い、現在はゲームシナリオやドラマなどにも活躍の場を広げ続けている。

それぞれの公演は、上田は9月9日~11月12日にヨーロッパ企画第42回公演『切り裂かないけど攫(さら)いはするジャック』のツアー公演、小御門は10月14日、15日にニッポン放送とノーミーツが手掛ける舞台演劇番組イベント生配信ドラマ『あの夜であえたら』が控えている。その公演の話に始まり、お互いの活動や、ともに手掛けている配信ドラマなどについてもじっくり語ってもらった。

小御門優一郎 上田誠

ミステリーというジャンルを取り扱うのが怖かった

──まずは上田さんに『切り裂かないけど攫いはするジャック』についてお聞きします。ヨーロッパ企画25周年という記念すべき年に、ミステリー劇に初挑戦しようと思われたのはなぜでしょうか。

上田 ヨーロッパ企画はエンターテイメントを志向している団体なので、ミステリーというジャンルも取り扱えた方が絶対にいいなとずっと思っていたんです。でもミステリーって、ジャンルとして深いし、ファンやマニアの方が多いから取り扱うのが怖かったんですよ。

小御門 その気持ちわかります。ミステリーとかサスペンスとか、やっぱりファンの方たちはものすごく読んでいらっしゃるから、そのハードルの高さは同じく感じています。

上田 ミステリーとなると、どうしても作家の力に寄りがちになってしまいますしね。演劇、特にヨーロッパ企画は役者とスタッフと作家の総合力で作品を立ち上げる団体だと思うので、作家がものすごい頑張る感じになってもしんどいなぁ、と思っていたんです。ミステリーをやるならちゃんと世界観のあるものにしたらいいんじゃないかと考えて、19世紀後半のイギリス、切り裂きジャックとかシャーロック・ホームズの時代ってなんだか演劇的な雰囲気があるじゃないですか。そういう世界観を作ってミステリーをやりつつ、演劇としても面白いことができそうだな、と思って場所をロンドンに設定しました。

──劇団立ち上げから25周年という節目の公演、何か意識されていることはありますか。

上田 25周年ということで、ある程度お祭りっぽくなるのかな。最近映画とかテレビドラマとかいろいろやっている中で、演劇って一番ラディカルにフルスイングできるような場所だから、あまり“集大成”みたいなことにならずに、ちょっと振り切ったことができればいいな、と考えているところなので、割と失敗するかもしれないです(笑)。でも、いいんです別に、仮に失敗の可能性を孕んでいるとしても、25年目の僕らにはその姿勢が大事というか。

ライブ感があって空間を楽しめる作品にしたい

──小御門さんは、脚本・演出を手掛ける『あの夜であえたら』が10月に上演されます。この作品は昨年3月に上演された、オールナイトニッポン55周年記念公演『あの夜を覚えてる』の続編ということで、前回は生配信の公演でしたが、今回は東京国際フォーラムホールAで開催されます。

小御門 今作は前作と同じ世界線で、引き続き登場するキャラクターもいる、という作品になっています。会場に来ていただいて生でも見られるし、もちろん配信で見ることもできるし、というダブルで楽しめるようになっています。公演では、ステージ上はもちろん、楽屋とかロビーとか、バックヤードを含めたホール全体を使うんですよ。バックヤードで起こることは配信映像はもちろん、会場のモニター上にも映るようにしています。会場で見るのと配信で見るのとでは距離感とか空気感も全然違ってそれぞれに楽しめると思うので、会場チケットと配信チケットの2種を用意していますが、両方見られるセット券もあるのでそちらもぜひ(笑)。

──東京国際フォーラムホールAのキャパシティは約5000人とうかがいました。そのサイズの会場での上演についてはどのように感じていますか。

小御門 歌舞伎座とか帝国劇場でさえ約2000人なので、それを超えたキャパシティとなると、もちろん物語が展開されるんですけど、どこかコンサートやライブのような、ドラマに集中して見てもらうというよりかはその空間を楽しむ、体感するものというニュアンスを強めないと、と感じています。前作は視聴しているリスナーがメールを送ることで作品に参加してくれて、それで初めて物語が完結する、という感じだったので、今回もそのライブ感は大事にしたいですね。

──ニッポン放送とノーミーツのタッグは、今年3月の『背信者』も含めて今回が3回目になります。上田さんも、2018年の『続・時をかける少女』、公演中止にはなってしまいましたが2020年の『たけしの挑戦状ビヨンド』、そして今年の3月から4月にかけて上演された『たぶんこれ銀河鉄道の夜』と、これまでニッポン放送とは3回タッグを組んで来ました。お2人はニッポン放送についてはどのような印象をお持ちですか。

上田 ニッポン放送は、ノーミーツや僕らみたいな存在を面白がってくださるし、キャスティングとかも含めて、演劇という枠にとらわれずにプロデュースしてくださる自由なイメージがありますね。だから『あの夜』シリーズの第1作目も、多分ニッポン放送じゃないとなかなかできない作品ですよね。もちろん場所のことも含めて。

小御門 社屋一棟をほぼ使って生配信をやらせてくださいって言って、会社全体を巻き込んで実現させてくれるって、すごいことですよね。我々みたいに企画性で勝負しなければと思っている団体としては、本当にありがたい存在です。

コロナ禍だからこそ生み出されたものもある

──上田さんと小御門さんは、ノーミーツがヨーロッパ企画第40回公演『九十九龍城』のライブ配信を手掛けたときが最初の出会いだったのでしょうか。

上田 ノーミーツとはそうなんですけど、小御門さんとは『背信者』のアフタートークでお会いしたのが初接点でした。正直、ノーミーツの実態がつかめてないんですけど、パワーバランスとかってどうなっているんですか?

小御門 結成してからこれまでの間にいろいろ形も変わったんですけど、始まりは2020年の4月に緊急事態宣言が出ていろんなことがストップしてしまったので、生配信コンテンツだったら作れるんじゃないかということで、様々なジャンルから集まった同世代で結成されたのがノーミーツという団体なんです。あのときに一斉にいろんな現場が止まるということがなかったら、多分交わらなかった人たちが集まった、という感じでした。こういう言い方は不謹慎かもしれないですけど、あの時は特殊な文化祭が毎夜続いている、みたいな状態でしたね。

上田 そういうことなんですね。とてもお世話になっているのに、ノーミーツがどんな団体なのかその全貌がよくわからなくて。いや、僕らも人のこと言えないんですよ。「何だあの集団は」みたいな謎めいたところがあると思うので。だから何かノーミーツにはシンパシーを感じるんです。Zoomでやった作品とかを拝見して、その企画性とか集団性に惹かれて「なんか関わると面白そうかも」と思ったこともあって、生配信とかでご一緒させていただいて。

小御門 ありがとうございます。もちろん、我々はヨーロッパ企画のことをずっと存じ上げていて、ノーミーツという団体を始めたときも、話し合いの中で目標とする団体としてヨーロッパ企画の名前が上がりましたし、一方的にすごく意識させてもらっていました。

上田 コロナ禍初期の頃って、多分作り手たちは誰がどんな手を繰り出すのかをお互い探り合っていたと思うんですよね。その中で自分らもいろいろやっていましたが、下の世代からこんな人たち出てきた、と思ったのがノーミーツで。

小御門 ヨーロッパ企画も早かったですもんね。嵐山線からの生配信劇とか。

上田 そうですね、あれは2020年の7月でしたね。不謹慎ですけど、あの時期はめちゃくちゃエキサイティングだったんですよ。作る側としては、あんなふうに全員一斉にお題を与えられた、みたいなことってこれまでなかったじゃないですか。

小御門 その気持ち、わかります。観る側と作る側がなるべく交わっちゃいけないっていう、何か共通のお題の下で創作するというね。なかなか普段はみんなが横並びで同じお題に答える、みたいなことってないから、そこはちょっとエキサイティングな部分ではありましたよね。

上田 そうそう。新型コロナ自体はもちろん忌むべきことでしたけど、その中でどんなものを作るのかということを考えていたあの時期は、すごくドキドキしていましたね。だから、コロナ禍だからこそ現れた集団みたいなノーミーツの、新人類的なミュータント感がすごかったです。「え、みんな直接会ってないの?」って。やっぱりこういう時期でないと出てこない集団やチームワークってあるんだなと思いました。コロナ禍が比較的落ち着いてきたこの時期に、これからノーミーツがどういうチームになっていくんだろうっていうのはちょっと楽しみですね。

小御門 そうですね。コンサートとか劇場とかも普通に再開していって、リアルな空間の方にお客さんが戻っていったところもあるので、配信オンリーと打ち出したときのリアクションがこれまでとは違ってきていて、我々が最初は持っていたかもしれない特異性みたいなものがどんどん失われていく中でどうやって生き残っていくか、どうやって続けていくかというのは、目下の課題としてありますね。

もはや物理的な距離はあまり問題じゃない

──お互いの公演の時期が被っているのですが、ヨーロッパ企画は9月から11月までと長期ツアーで、『あの夜であえたら』は10月の2日間のみの公演となっています。

上田 すごいですね、真逆ですね。1回のキャパシティがたくさんで、2日間ですもんね。僕はそのとき、どこにいるんだろう?

──ヨーロッパ企画はちょうど福岡公演中ですね。

小御門 遠い!(笑)

上田 じゃあ「配信であえたら」ということで(笑)。

小御門 ぜひ(笑)。でも実際に、物理的に会うことだけが「会う」ってことじゃないですからね。

上田 そうなんですよね。これ、大事なテーマですよ、今のエンタメには。

小御門 マルチバースとかが流行っているのも、そういうことなのかなと思ったりするんですよ。もはや物理的な距離というものがあまり問題じゃない、という感覚を2020年以降みんなが持ったんじゃないかって。

上田 ああ、なるほど。

小御門 だから距離を感じられるものとして、次元を隔てるぐらい離さないと、もう我々の心が感動したり悲劇性を感じたりしなくなっているから、パラレルワールドものとかマルチバースものがいっぱい作られているし、それを割と当たり前のようにみんなが受容して、「世界線」とかそういう単語が日常会話の中にも侵食しているじゃないですか。それってすごいことだな、と思うんですよ。

上田 僕らの場合は、映像はいろんな場所に持って行けるという感覚があって、国内はもちろん海外の人にも見てもらえるじゃないですか。だから映像作品は自分たちの地元というか、身の回りで撮ったものを各地に持って行く方がいいなと思っているんです。逆に演劇は国内ツアーが精一杯で、海外にはなかなか行けないので、だったら作品の内容自体はロンドンを舞台にしてやろうとか、そういう考え方なんです。

小御門 なるほど、どうせその場所じゃないんだったら、嘘の、というか。

上田 そうそう、フィクションの空間を作ろう、と思ってやっています。でも『あの夜であえたら』はまた全然違うやり方ですよね。会場に架空の空間を作るのではなくて、その場所をリアルに使うというやり方なので、なるほどな、と思います。

小御門 そうなんですよ、国際フォーラムで行われる架空のパーソナリティの番組イベントの幕が無事開くかどうかという、そこで起こる物語はフィクションなんだけど、場所はリアルという。

上田 お互いの団体名も面白いなって思いますね。僕ら「ヨーロッパ企画」って名乗ってるけど、どこがヨーロッパやねん、って感じだし(笑)、ノーミーツって名前なのに作品タイトルで「あえたら」って言ってるし(笑)。

小御門 今となっては結構会ってるので、我々もどこがノーミーツやねん的な感じなんですけど(笑)。最初は緊急事態宣言中の限定ユニット的な感じになるのかなと思っていて、こんなに続く団体だとは思ってなかったんですよ。

上田 僕らもそんなに続くと思ってなくて、劇団名もその時の感じで付けちゃったんですよ。今となっては、日本人なのに“ヨーロッパ”ってつけていることの日本人らしさ、が面白いと思っているんですけどね。

小御門 最初から目標定めてガッチリ肩回して、って始めちゃうと逆に続かないみたいなことも、もしかしたらあるのかもしれないですね。

 

【公演情報】
『あの夜であえたら』
製作総指揮:石井玄
脚本・演出:小御門優一郎
監修:佐久間宣行
主題歌:Ado
キャスト:髙橋ひかる
中島歩、工藤遥、入江甚儀、井上音生、高野ゆらこ、渡辺優哉、小松利昌
山口森広、吉田悟郎、山川ありそ、鳴海唯、相田周二(三四郎)
千葉雄大
●10/14・15◎東京国際フォーラム ホールA
〈公式サイト〉https://event.1242.com/events/anoyoru2
〈公式SNS〉https://twitter.com/ann55_anoyoru

【公演情報】
ヨーロッパ企画 第42回公演
『切り裂かないけど攫(さら)いはするジャック』
作・演出:上田誠
音楽:青木慶則
出演:石田剛太、酒井善史、角田貴志、諏訪雅、土佐和成、中川晴樹、永野宗典、
藤谷理子 / 金丸慎太郎、早織、藤松祥子、内田倭史、岡嶋秀昭
●9/9~11/12◎栗東プレビュー、京都、東京、高知、広島、名古屋、魚津、福岡、大阪、横浜
〈公式サイト〉https://www.europe-kikaku.com/e42/

【取材・文/久田絢子 撮影/山崎伸康】

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