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劇団アレン座『土の壁』まもなく開幕!  鈴木茉美×來河侑希×林田麻里×塚越健一×山田愛奈 インタビュー

劇団アレン座の第7回本公演『土の壁』が、 3月9日からすみだパークシアター倉にて上演される。(3月13日まで)

本作は、2019年に上演された、原発事故を題材に地上と地下に住む人々の日常を描いた『積チノカベ』の再演で、今回はキャスト・脚本を一新して上演する。

放射能汚染により「土の上」と「土の下」とが分断された近未来を描くサイエンス・フィクションで、犠牲の上に立つ人々と犠牲を負った人々の中で起こる社会的事象を架空の世界を通して、現代社会に問題を提起する。

その作品の演出・脚本を手掛ける鈴木茉美、出演キャストの來河侑希(劇団アレン座主宰)、林田麻里、山田愛奈、塚越健一(DULL-COLORED POP)にインタビュー。
なぜ今、本作品を再演するのかという想い、そして、新たに出演するキャストにはそれぞれが演じる役について語ってもらった。

來河侑希 塚越健一 林田麻里 山田愛奈 鈴木茉美

コロナ禍で改めて「断絶」について考えさせられた

──本公演『土の壁』は、2019年に上演された『積チノカベ』の再演となります。なぜ今、本作を再演しようと思ったのでしょうか?

來河 2019年に『積チノカベ』を上演して3年が経ちました。その間、アレン座はコロナ禍ということもあり、出演者を3~4人ぐらいの少人数に限定して活動を続けてきました。『土の壁』は出演者が12人いるので、なかなか上演に踏み切れなかったのですが、世の中の動きを感じながら劇団活動をする中で、そろそろもとに戻していきたいと考えるようになりました。そしてもう一つの理由として、コロナ禍で、福島の原発事故のことが世の中で忘れられているのではないかと感じました。本公演は3月9日から13日に上演しますが、震災が起きた3月11日、そして福島の原発事故を思い出すきっかけになるような公演ができたらと考えました。
この作品は、土の上と土の下で原発事故によって分断された人々の話を描いています。どちらの側にいても、ないものねだりや偏見、差別が存在しており、コロナ禍でも全く同じような状況になっていると感じています。僕の持論ですが、分断されることによって、ひとり一人の思想が独立してしまい、他者との距離感ができてしまうのではないかと思います。それによって職業差別や家庭内で起きるDVが生まれるのではないかと。
今「断絶」を描くことで、何か劇団として皆さんに届けることができるのではないかと考えたことが、今回の再演につながりました。

──再演とはいえ、脚本を大幅に変更していますが、その狙いは何でしょうか?

鈴木 この作品の原題は『土の壁』ですが、初演を『積チノカベ』というタイトルにしたのは、私の中で歴史的なことというのは、積もっていくものだ…というイメージがあったからです。でもコロナ禍のこの2年間、『土の壁』は、降り積もったあとの結果だと思うようになりました。すでに作られてしまっているものがあるのではないかと思い、今回の公演では原題の『土の壁』にしたいと考えました。
今回は人と人との心の孤立の問題というものが結構強めに入っています。この2年間で私が感じてきたことがそのまま入っているのではないかと思います。コロナ禍で引き起こされた感情の変化というものを脚本にしたいという思いが強くありました。

──アレン座はコロナ禍でも地道に活動を続けていて、とてもパワーのある劇団だと感じていましたが、いろいろと考えるところがあったのですね。

鈴木 一度公演ができなくなってしまったことがあり、緊急事態宣言などで家を出なくなったことをきっかけに「断絶」というものを改めて感じるようになったと思いますね。

來河 コロナのことがあったから、「断絶」が浮き彫りになったということですよね。日本人はもともと本心を言わないところがありましたが、それぞれが独立することによって、SNSなどを通じて本音を言うようになりました。そのことによって、目の前で会話するのではなく、文字や画面を通じてさらっとした情報しか入ってこなくなりました。そうした傾向を客観的に見て、(鈴木)茉美さんは今回の新しい『土の壁』を生んだんじゃないかなと思います。

──今回はキャストも一新されますが、どのようにしてキャスティングをしたのでしょうか?

來河 キャスティングは毎回、僕が考えています。この2年間、アレン座では3カ月に1度公演を行ってきましたが、以前のような大規模な公演ではなかったため、自分の中で力があり余っていました。そんな中、劇団の将来のことについて、いろいろ考える時間があったのです。今回、新たに『土の壁』を上演するのなら、前回の『積チノカベ』とは明らかに違うものになると感じましたから、それに合ったキャストを探したいと思っていました。僕が観て面白いと思った作品に出演している方や、めちゃくちゃ芝居が上手だなと思う方、この人はいい役者さんだと思う方々を選びました。僕自身が映像作品を手掛ける機会が増えたので、映像に出演している俳優さんの素晴らしさも知ったので、あらゆることを考えてキャストを一新しました。
塚越さんとは、以前舞台で共演する機会があったのですが、その公演が中止になってしまったので、いつかご一緒したいと考えていました。塚越さんは「福島三部作」と言われる作品に出演されていたこともあり、今回の作品のような題材に詳しいと思います。塚越さん以外の方たちは、コロナ禍以降、この2年間でお知り合いになった方たちばかりです。

新キャストがそれぞれの役に寄せる想い

──すでに稽古が始まって2週間ほど経っているとのことですが、今回新キャストとなる皆さんにご自身の役柄についてお伺いしたいです。まず、林田さんが演じる樹の母、伊吹は土の上で生活している人物ですね。演じてみてどのように感じていますか?

林田 「私も母親役をやるようになったのか」ということをまず思いました。年齢的にはやってもおかしくないのですが、特に舞台では、お腹に赤ちゃんがいるという役はやったことがあっても、やり取りをするほど大きな子供のいる母親役というのは殆ど演じたことがないもので。ですから最初は「キャラじゃないな」と戸惑いはありましたが、今は全く違和感なく演じることができています。

──「キャラじゃない」というところから、違和感なく演じられるようになったきっかけはあったのですか?

林田 母親らしく…ということをあまり考えなかったからかもしれません。私が演じる伊吹は、確かに母ではあるんですけれど、彼女自身が心に傷を負っていて、母というよりも、とても人間臭さが出ている人物です。そこがすごく面白いと感じていて、家庭の中でも親と子の立場が逆転しているところもある。最後は、子どもたちの成長に導かれて、彼女が閉ざしていた扉を開けて進んでいくことになるのですが、そういうところが家族のストーリーとして見どころになるのではと思っています。

──塚越さんは、土の下の住人として生活し、來河さんが演じる太陽の友人・峻哉を演じますが、ご自身の役についてどのように感じていますか?

塚越 僕は若い頃から、自分の年齢よりも上の年齢の役柄を演じることが多かったので、今回のように実年齢より若い役を演じた経験がほぼないんです。だから演出の茉美さんに、「いや違うんだって。その言葉に対しての距離感が違うよ」とすごく言われるんです。自分より若い年齢の人物を演じるということで、日々戸惑い、格闘しているという感じですね。
作品に関しては、僕はDULL-COLORED POPという劇団に関わっていて、劇団の代表作でもある「福島三部作」では、福島の原発誘致から3.11までを描いたものをやらせていただいています。それ以前には『Caesiumberry Jam(セシウムベリー・ジャム)』といって、チェルノブイリの原発の事故後も現地に住み続けるサマショールと言われる人たちを描いた作品をやっています。僕は原発絡みのお芝居を多くやっていますが、そこで描かれていることは、差別や分断、孤独、そして他人への攻撃性なんです。それが原発の事故をきっかけにして浮き彫りになっていくという構成が多かった。
『土の壁』は、観てくださるお客様に何を考えていただけるんだろう、という問題提起の作品だと思うんです。この作品を観てくださった方々ひとり一人が、もう一度自分たちを囲んでいる社会状況に目を向け、考えるきっかけにしてもらえればなと思っています。そのために今必死に稽古をしている感じですね。

──山田愛奈さんは、土の下の住人・16歳の萌葱を演じますね。他のキャストに比べて少しカラーが違う役柄のように感じます。

山田 私が演じる萌葱は、すごく良いシーンのあとに登場して、舞台上の空気をガラッと変えていくキャラクターなんです。私が今まで演じてきたのは、内気だったり心に闇があったりする役が多かったですし、舞台で今回のような明るいキャラクターを演じたことがないので、どうやってエネルギーを前面に出せばいいのか、なかなかつかめませんでした。演出の茉美さんと話し合いながら、とにかく無邪気で元気なキャラクターでいこうと。萌葱は16歳ですが、それよりも少し幼いところがあって、知らないことがたくさんあるんです。だからそういう雰囲気を出していければと思っています。
私は役を日常生活に持ち帰ってしまう傾向があるんですが、担当しているラジオ番組で、以前は「もっと楽しそうに大きなリアクションをして」とマネジャーに言われることがありましたが、萌葱を演じているおかげで最近は全く言われなくなりました(笑)。

強い気持ちで作り上げている『土の壁』をぜひ観てほしい

──最後に、公演を楽しみにしている方々へメッセージをお願いいたします。

鈴木 アレン座の作品を観たことがある人や『積チノカベ』を観たことがある人にとっては、ああ、これだけ進化したんだということ、初めて観る方にとっては、これがアレン座なんだ、ということを見てほしいです。私は、演劇界に入って以来、一番強い気持ちでこの作品をつくっているので、最高傑作にするつもりです。最高傑作に相応しい役者がそろっていると思っているので、ぜひ『土の壁』を観に来ていただきたいと思っております。

山田 この時代、この時期だからこそ観てほしい題材になっています。いろいろな年齢の方々に観ていただきたいですね。そしてさまざまなメッセージが詰まっているので、受け取り方はそれぞれだとは思いますが、いろいろなことを感じ取ってくれたらいいなと思います。個人的には、ファンの方に「こういう元気なキャラクターやってます!」というのを観てほしいですね。元気に頑張ります!

林田 つい先日までは「コロナ禍で…」という話をしていましたが、今日現在の私の正直な気持ちを言うと、ウクライナ情勢が気になって仕方がなくて、台本を読まなくてはいけないのに、手につかない状況なんです。乱暴な言い方になってしまいますが、演劇をやっていていいのだろうか…という気持ちになったりもしますが、私は私にできる演劇をやっていくしかない。
実は今回の公演は、2年ぶりに東京で舞台に立つんです。今、とても良い稽古ができていて、マスクをしながらですけれども、演劇を満喫しています。演劇はお客様に観ていただくことによって、最終的に完成すると私は考えています。ぜひ皆さんに劇場でご覧いただければと思います。

塚越 コロナ禍になってから、舞台をやることって何なんだろうとか、お客さまに観に来ていただくことって何なんだろうとか。果ては、演劇なんて不要不急のものだ、いらないものだ、というような風潮、論調が巻き起こる中で、それに対して、いろんな先輩たちがいろいろチャレンジしてくださり、それに対する世間のリアクションがある中、僕なりにいろいろ考えたりもしてきました。役に立つとか必要ということを決めるのは、個人の価値観です。我々は役者である以上、板の上でそれを表現していかなくてはいけないと思います。今私たちが社会に対して思っていること、そして私たちがやっていることを見て、どうぞ決めてみてください。
そして、演劇のことだけじゃなくて、今世の中に起こっていること、自分の周りにあること、いろいろなことを考えてみてください。どうかそのきっかけをつくりに劇場へ来てくださいと伝えたいです。

來河 今、作家が描く物語を受け取る機会はいろいろあると思います。YouTubeやSNS、映画館以外にもNetflixなどのサブスプリクションが豊富にあります。そんな世の中で、新型コロナの感染リスクもある演劇を観に、お金を払って劇場へ行くというのは大変なことだと思います。いくつものハードルがある中、僕たちの作品を選んで観に来てくださるお客様に対して、相当なものを発信しなくてはならないと考えています。アレン座の主宰として、今一番悩んでいることは外にどのようにして発信していくかということです。そのことを演劇界は考えていかなければいけないし、一つの劇団だけじゃなく全劇団が動いていかなければいけないと思っています。
演劇が特別だなと感じるのは、劇場へ行くことで人と会話をしたと同じようなレベルでものごとを受け取れるところです。人間というのは、人と目を見てコミュニケーションをしないと、自分の中で考え方を完結してしまいます。演劇を通していろいろな考え方を知ることができるので、人間にとって必要な刺激です。だから演劇という文化はなくならないと思います。今、こういう時代だからこそ、作家は作品を書きやすいと思うし、良い作品が生まれています。ぜひ「必要な刺激」である演劇を劇場へ観に来ていただきたいです。

來河侑希 塚越健一 林田麻里 山田愛奈 鈴木茉美

■PROFILE■
すずきまみ○静岡県出身。日本演出者協会員大学で心理学(主に臨床心理)を専攻していたこともあり、人間心理の深層を追求している脚本を得意とする。最近では社会心理や行動心理、発達心理にも興味を持ち、社会の中で起こる人間関係についてよりリアルな人間を描いている。俳優とは役について納得がいくまで話し合う。教員免許を取得しており、新人俳優には自身で成長できるよう役への考え方・向き合い方を丁寧に教え、また役者自身の知らない自分に気づかせる演出手法を用いている。

きたがわゆうき○福岡県北九州市出身。モントリオール世界映画祭ノミネート作『Noise』(17/松本優作監督)などに出演。厳しい検閲を通過し、5年の月日をかけて完成させた映画『僕の帰る場所』(17/藤元明緒)では、出演・共同プロデューサーを務め企画の立案から参加した。同映画は、東京国際映画祭(アジアの未来部門) にて、作品賞と国際交流基金アジアセンター特別賞の2冠を達成。その他、21カ国30 以上の国際映画祭に選出され注目を浴びている。同映画は、2018年文部科学省選定作品、特別選定作品、アジアの映画祭や映画を紹介するサイトAsian Film Festivals にて2017年“見逃せないアジア映画100作品”の中にも選出された。また、スぺイン・サンセバスチャン国際映画祭に出演作品がノミネートされた。他、2021年に制作した実験映画『未曾有』がエストニア/タリンブラックナイト映画祭Rebels with A Cause部門にノミネートされた。

はやしだまり○福岡県出身。映像と舞台で活躍中。第48回紀伊國屋演劇賞個人賞受賞。最近の主な出演作品は、映画『いのちスケッチ』『望み』『ガチ星』『人魚の眠る家』、ドラマ『スナックキズツキ』『警視庁・捜査一課長』『最高のオバハン』『ライオンのおやつ』『おかしな刑事』『ノースライト』、舞台、『虚像の礎』『儚みのしつらえ』『たわけ者の血潮』(いずれもTRASH MASTERS)、『エル・スール』『スィートホーム』『残花ー1945 さくら隊 園井恵子ー』『素晴らしい一日 2017』朗読劇『少年口伝隊一九四五』、『アンネの日』『ちゅらと修羅』(いずれも風琴工房)、流山児★事務所『わたし、と戦争』、serial number『アトムが来た日』、TABACCHI『なるべく派手な服を着る』、劇団銅鑼『蝙蝠傘と南瓜』、FPAPプロデュース『世界は右側でデキている』など。

やまだあいな○新潟県出身。フリーペーパー「新潟美少女図鑑」でモデルデビューし、2017年「non-no」専属モデルに抜擢され、テレビドラマ、映画CMにも多数出演。近年の主な出演作品は、ドラマ『霊魔の街』『シグナル~長期未解決事件捜査班~』『恋のツキ』『dele』『名もなき復讐者 ZEGEN 』、映画『最低。』『いつも月夜に米の飯』『遮那王 お江戸のキャンディー3』『シグナル100』『NO CALL NO LIFE』『ダンシング・マリー』、舞台『らん』『単純明快なラブストーリー』『fire』など。

つかごしけんいち○DULL-COLORED POPに所属し副代表を務める。同劇団は、福島三部作(第二部)にて、鶴屋南北戯曲賞、岸田國士戯曲賞の2冠を達成するなど大きな注目を集める。ネオ歌舞伎のみならず、ギリシア悲劇や、W.シェイクスピア、T.ウィリアムズ、チェーホフ等の海外戯曲、アングラ、三島由紀夫と、30年間の自身のキャリアの間に様々なジャンルの舞台を経験。2015年佐藤佐吉演劇賞優秀助演男優賞受賞、他様々な作品で高い評価を受けている。また、劇団チョコレートケーキ、世田谷シルク、木ノ下歌舞伎等多くの作品に客演している。

【公演情報】
劇団アレン座第七回本公演『土の壁』
演出・脚本:鈴木茉美
CAST:小野翔平 林田麻里 山田愛奈 塚越健一(DULL-COLORED POP) 來河侑希(劇団アレン座)
北村優衣 桜彩 松田崚汰
髙野春樹
五頭岳夫
映像出演:磯野大(劇団アレン座)

●3/9~13◎すみだパークシアター倉
〈料金〉プレミアム前方シート6,500円 一般指定席4,500円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈チケット〉http://www.confetti-web.com/tsuchinokabe
〈公式サイト〉http://allen-co.com/tsuchinokabe/
〈公式Twitter〉 @Allen_suwaru

 

【取材・文/咲田真菜 撮影/中田智章】

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