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可児市文化創造センター×リーズ・プレイハウス 日英共同制作『野兎たち』制作発表レポート

可児市文化創造センター×リーズ・プレイハウスによる日英共同制作公演が実現、スタッフ、キャストとも日本とイギリスから起用された混合チームで上演される。作品は『野兎たち』、2月8日〜16日の新国立劇場 小劇場公演を皮切りに3月にかけて東京・岐阜、そしてイギリスにて公演を行う。

岐阜県可児市にある(公財)可児市文化芸術振興財団(ala)と英国随一の地域劇場リーズ・プレイハウスは、2015年4月21日付けで提携を結び、人事交流などを行ってきた経緯があるが、共同制作はこれが初めて。昨年12月にリーズ・プレイハウスで稽古を行い、1月からは可児市文化創造センター(ala)に場所を移した。。その公演の制作発表が、1月16日に可児市文化創造センターにて行われた。
alaの館長兼劇場総監督の衛紀生、作家のブラッド・バーチ、演出を務めるマーク・ローゼンブラットと文学座の西川信廣、そしてオーディションで選ばれた出演者たちが登壇した。

【物語】
舞台となるのは、岐阜県可児市。中村家に、ロンドンで暮らす娘・早紀子が、婚約者・ダンとその母・リンダを伴い帰ってくる。早紀子の母・千代が迎え入れ、しばし流れる、和やかな異文化交流の時間。だが早紀子は様変わりした自室や、娘の帰省を知りつつ不在を決め込む父・勝に不信感を募らせ、「 “違う生き方”を選んだことで、自分は今も両親に罰さられているのだ」と鬱積した想いをダンに吐露する。やがて、早紀子の兄・弘樹の見舞いと称して、彼の同僚が来訪する。名古屋で妻と暮らすはずの兄。次第に、知られざる家族の姿が浮き彫りになっていく――。

【制作発表挨拶とコメント】

衛紀生(館長兼劇場総監督)
初めてリーズ・プレイハウスに出会ったのは1998年。まだ日本はホールの建築ラッシュでハコモノとバッシングを受けていたころです。リーズ・プレイハウスに楽しそうに市民のみなさんが集っているのを見て、こういう劇場が日本に10あれば、日本人は非常に幸福感を持って生活を送れるのではないかと感じたのを思い出します。2015年に提携が実現し、そして24年目にして共同制作を行うことになりました。私の仕事は9割以上終わっており、あとはここにいる演出家、役者さんスタッフに委ねる気持ちです。リーズ・プレイハウスの芸術監督ジェイムス・ブライニングがこれから社会包摂をさらに進め、社会的処方箋を展開していきたいと幹部会議で決めたそうです。私どもも足並みをそろえていく、その第一歩がこの共同制作。そしてそれは単に作品を作るということではなく、お互いの経営理念、演劇を通して、芸術を通して社会課題に向き合おうということです。だからこそ、この作品でなければなきゃいけなかったよね、と思えるような作品に仕上がればいいなと思います。

西川信廣(共同演出)
この企画は、alaとリーズ・プレイハウスの今までやってきた仕事の一つの集大成であり、同時に新しい関係のスタートです。興奮かつ楽しみにしています。12月にリーズで稽古を始めて、共同演出のマークとともに、お互いにあるものを出し合い、ないものを補うという作業をやってきました。今がちょうど産みの苦しみの時期、バトルの真っ只中です。でもとてもいいカンパニーで、いい作品になるんじゃないかなと思っています。国際共同制作というと、スタッフはどちらかの国に統一されたりということになりがちですが、今回は照明、音響がイギリス人、衣裳と舞台装置が日本人、舞台監督は両方という日英混成チームです。俳優チームだけではなく、スタッフチームもかなりやり方が違っていて、今日もスカイプミーティングをします。それはすごく大変なことだけれど、とてもエキサイティングなプロダクションだとも思います。

マーク・ローゼンブラット(共同演出)
この企画では共同演出で、リーズ・プレイハウスではアソシエイトディレクターをしています。社会の片隅に追いやられた人たち、社会から阻害された人たちの物語をというところから企画が始まって、それが今、とても演劇的なものになってきました。3、4年前にイギリスと日本の登場人物両方を登場させて物語を作りたいと思いました。日本のことをリサーチしているときに興味深かったのは失踪者や行方不明者がたくさんいることでした。社会のプレッシャーに押しつぶされる人がたくさんいるんですね。残された家族はどうやって現実と向き合っていくのか?ということを軸に、難しい作業でしたが作家のブラットさんが脚本化してくださいました。日本とイギリスの観客両方が何かを感じられる作品にするべく頑張ります。
イギリスは個人社会、日本は集合社会だと思います。イギリスで稽古するときは登場人物は何を欲しているのか、そしてそれを止めるのは何なのかを細かく探り、作り上げます。日本人の役者さんは場面の雰囲気を直感的に捉え、集合体的に芝居を作っていくように感じます。二つの異なったアプローチを一体化させていく作業が、この稽古で一番エキサイティングなことです。

ブラッド・バーチ(脚本)
イギリス、日本、両方の観客の皆様に芝居を見ていただけるのは本当に光栄なこと。行方不明の人たちを探求していくというテーマは、誰もが知っているような家庭、つまりどこでも起こりうる。日本とイギリスの両方の背景に対応する、苦しみながらもがきながら、生きる人びとのストーリーを書いています。脚本を書くために、私は3回日本に来て、東京、大阪、可児、そして名古屋に行きました。貧困について詳しい方、子供食堂や学校で苦労している子供たちの面倒を見る人、自殺の電話相談をやっている人たち、さまざまな分野の専門家と会いました。心に残ったのは大阪の釜ヶ崎です。釜ヶ崎では行方不明者や失踪者が暮らしている場でもあるわけですが、そこで感じたのは日本とイギリスの貧困、メンタルヘルス、社会構造といった課題は共通していということでした。この作品は常田景子さんが翻訳をしてくださっていますが、彼女の翻訳がなかったら成り立ちません。翻訳と通訳の重要さもこのお芝居のエッセンスになっています。

サイモン・ダーウェン(早紀子の婚約者ダン役)
素晴らしい劇場で公演ができることを非常に光栄に思っています。2月に可児で公演するのが待ちきれません。このメンバーでお芝居が作れることは非常に楽しい。演劇を作るときの稽古の進め方はどこでも同じかなと思っていたんですけど、ホスピタリティーも含め、いろいろと違うことがあって、新しい素晴らしい発見がありました。このお芝居はコミュニケーションの重要さが語られています。ちろんイギリス人と日本人の言葉の違いもありますが、同じ言葉をしゃべっていてもコミュニケーションがないことはよくあるものです。

アイシャ・ベニソン(ダンの母親リンダ役)
イギリス以外の外国でいろいろな仕事をしていますが、今回の経験はすべての初めてのことばかり。別の国でお芝居を作るというのは非常にエキサイティングなこと。それは自分の住んでいるところではないけれど、何週間かは自分の故郷、自分の場所になるわけです。稽古場に入れば自分のうちになるわけです。日本の方々と演劇を作るのも初めてで、稽古の仕方が違うんだなと思うこともあります。しかしやっぱり一緒に芝居を作るということはみんなが家族なんだと感じるひと時です。今回の作品づくりは素晴らしいアドベンチャーです。

スーザン・もも子・ヒングリー(中村早紀子役)
私は母が日本人で、東京生まれです。ただすぐにイギリスに移って、ずっと住んでいます。イギリスで俳優をしているわけですが、日本で、日本語でお芝居をしたいという気持ちがあって、このオーディションを受けるにあたって本当に燃えました。そして早紀子役を演じることができるのはとても光栄です。早紀子は可児生まれ、可児育ち。でもこの町で暮らすことに物足りなさを感じてロンドンに行ってしまい、そこでダンと出会い、親には会いたくないけれどもダンをとリンダとともに久しぶりに帰郷します。そこでさまざまなハプニングがあるわけですが、可児を今この瞬間に感じられるわけですから、経験も演技に取り入れられたらと思います。

小田豊(早紀子の父・勝役)
単なる翻訳劇ではなく、作家も含めた共同作業で作っております。芝居の作り方は日本とイギリスでは流れが違います。現在は産みの苦しみですが頑張っております。ぜひ、この公演が成功することを祈っています。

七瀬なつみ(早紀子の母・千代役)
興味深い企画に参加できることをうれしく思っております。alaにお邪魔してお稽古するのは3年ぶり、2回目ですが、本当にお芝居のことにだけに集中できることが幸せで、豊かな時間を過ごしています。イギリスの皆さんとのコミュニケーションは苦労していますが、素敵な作品にかかわっているという実感があります。私は、もも子さんの母親役でございますが、イギリスで頑張っている娘が10年ぶりにフィアンセとそのお母さんを連れて帰ってくる、とても幸せな設定から始まるのですが、いろいろな家族の問題が出てくる、コミュニケーションのことを書いている作品です。家族はとても近い存在なのに、近いからこそコミュニケーションの難しさを感じます。家族ってなんだろう?、人間の幸福ってなんだろう?と考えていただける作品になると思います。

田中宏樹(斎藤浩司役)
この作品はブラッドさんが、日本のことを尊重して、理解して書いてくださった本です。しかも日本が舞台になっているので、本に負けないように我々も頑張らなければと思います。このカンパニーはすごく暖かいのですが、お互いに違うからこそ一生懸命寄り添おう、理解しようとしているからこそなのかなって思っています。ただ登場人物は、全員がそれぞれのことに苦しんでいます。そんな彼らに負けないように、可児市の空気を吸いながら、いいものを作っていきたいと思います。

永川友里(早紀子の義姉・康子役)
alaとリーズ・プレイハウスの企画は本当に素晴らしく、参加できることをうれしく思います。この作品を読んで役作りをする中で、日々、家族や夫婦のあり方、幸せや孤独について自問自答しています。自分なりの答えを稽古中に見つけられたらうれしく思います。そして私は東京出身ですが、康子は可児市出身で、朝に可児川付近などを歩きながら、こういうところで暮らしたんだな、過ごしたんだなということが滞在制作だからこそできる役作り、そういう環境を作っていただけたことをうれしく思います。日本人とイギリス人のチームが、いい化学反応を見せられたらと思います。

【公演情報】
可児市文化創造センター×リーズ・プレイハウス 日英共同制作公演『野兎たち」
作◇ブラッド・バーチ
翻訳◇常田景子
演出◇マーク・ローゼンブラット 西川信廣
出演◇スーザン・もも子・ヒングリー 小田豊 七瀬なつみ サイモン・ダーウェン アイシャ・ベニソン 田中宏樹(文学座) 永川友里(文学座)
●2/8~16◎新国立劇場 小劇場
〈料金〉一般5,000円 学生券2,500円[事前予約・当日引換券](全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉石井光三オフィス 03-5797-5502(平日12:00~18:00)
●2/22~29◎可児文化センター
●3/12~21◎英国 リーズ・プレイハウス
〈公式サイト〉https://www.kpac.or.jp/event/detail_908.html

 

【取材・文・撮影/今井浩一】

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