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虚構の夢に生きた男の半生を描くミュージカル『BARNUM』上演中!

19世紀半ばのアメリカで大きな成功を収めた興行師、P.T.バーナムの半生を描いたブロードウェイ・ミュージカル『BARNUM』が、東京芸術劇場プレイハウスで上演中だ(23日まで。のち26日~28日兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール、4月2日神奈川・相模女子大学グリーンホールでも上演)。

ミュージカル『BARNUM』は見世物とサーカスの運営に生きた史実に名高い興行師P.T.バーナムを主人公に、虚実をとりまぜて展開した作品。彼の人生は2017年に公開され世界的大ヒットとなった映画『グレイテスト・ショーマン』でもお馴染みだが、この作品はその映画版より遥かに早い1980年にブロードウエイで開幕し、ミュージカルにサーカスの要素も取り入れたスペクタクル溢れる舞台が好評を博して、854回のロングランを記録している。今回の上演はそんな作品の日本初演で、P.T.バーナムを加藤和樹、その妻チャイリ―を朝夏まなとが演じるのをはじめとした個性豊かなキャストと、独自の美意識と世界観で幻惑する荻田浩一の演出と、魅力的な布陣を揃えての上演となっている。

【STORY】
バーナム(加藤和樹)の興行師としての人生は、「ジョイス・ヘス」(中尾ミエ)という女性を”世界最高齢の160歳“として売り出すことから始まる。彼の誇大な広告や作り話によって、見世物の興行は成功をおさめるが、妻のチャイリー(朝夏まなと)は人々をだますような仕事ではなく、社会的に尊敬される安定した職に就くことを望んでいた。しかし、見世物こそが自分の世界に彩りを与えてくれるのだと考えているバーナムは、エイモス・スカダー(原嘉孝/内海啓貴 Wキャスト)と共に博物館を経営したり、世界で最も小さい男「トム・サム将軍」(矢田悠佑)といった話題性のある見世物を手掛けることによってますます有名になっていく。

その後スウェーデン人のオペラ歌手ジェニー・リンド(綿引さやか/フランク莉奈・Wキャスト)と契約した彼は、すっかり彼女に熱中し、チャイリーを置いて彼女とともにツアーへと旅立つ。公演は大成功となり、ジェニーとの距離も縮まる中、バーナムはふと愛する妻が共にいない生活への虚しさを感じ、ジェニーのそばを離れる。チャイリーの元に戻ったバーナムは、時計工場で働き、ついには市長に選ばれ、彼女が望む通りの安定した生活を送ることになるが、そんな生活にも突如終わりが訪れる。失意のバーナムは再び、自らの才能をショーの世界で生かそうと決意して……。

バーナムが創り出そうとした虚構の世界は、19世紀半ばのまだ娯楽が文化とは考えられていなかったアメリカで花開いたものだ。世界最高齢の女性や、世界で最も小さな男など、鳴り物入りの見世物は言ってしまえばイカサマで、どこか猥雑で隠微な香りも振りまくが、だからこその魅力を秘めていたものだったのだろう。そこには、技術が限りなく発達し、CGで何もない空間からどんなものでも創り出すことが可能になった現代が失ってしまった、きっと嘘だろうけれども、もしかしたら本当?という、好奇心が刺激されるドキドキが、色濃く存在していたに違いない。

そう考えると、今回の作品がコロナ禍の只中の日本で上演されたことには、何か運命のようなものを感じる。何故ならこの作品は、現実世界に困難が多いからこそ、虚構の世界にひと時心を委ねて、現実を忘れることで得られる活力の大きさを、謂わば「イカサマの力」を、この作品はくっきりと立ち上げているのだ。元々の脚本では、劇場をくぐったその時からキャストが観客をもてなし、まやかしの世界に引き入れるスタイルを取っていたそうだが、もちろん2021年の今の日本で、そうした舞台と客席が触れ合う演出を施すことはできない。舞台上のスペクタクルの展開にも、やはり様々な制約がある。だが、その制約を逆手に取った演出家・荻田浩一は、舞台上の展開をむしろ人力に頼った非常にアナログな手法で見せていて、簡略化された乗峯雅寛の美術を含めて、もっと小さな、例えばキャパ100人程度の劇場で繰り広げられてもおかしくないような、観客の想像力に委ねる舞台をまず土台に持ってきている。その演出を、更に東京芸術劇場 プレイハウスでの上演サイズに広げたのが九頭竜ちあきの映像で(映像協力・ウォーリー木下)、映像出演のフィリップ・エマール、石田純一をはじめ、どんな世界も瞬時に映し出すことのできる映像効果が、作品のスケールを押し上げた様が美しく、人が演じるLIVE感と映像による飛翔とが、この作品に相応しい虚構の世界を映し出して見事だった。

そんな舞台で主演のP.T.バーナムを演じた加藤和樹が、ほぼ出ずっぱりの舞台で躍動している。創造力と熱意にあふれ、言葉巧みにまやかしを真実に見せてしまう興行師の、所謂山師的な雰囲気は、加藤の一本筋の通った生真面目な好青年ぶりとは一見遠いが、その加藤が、歌い、踊り、話し、まさに大車輪の熱演で舞台を走り回る姿そのものが、イカサマこそ夢、イカサマこそ生きる活力と信じたバーナムの情熱につながって見えてくるのが不思議なほど。数多いミュージカルナンバーも歌いこなし、新境地を感じさせた。

その妻、チャイリー・バーナムの朝夏まなとは、夫を愛し、彼の仕事に協力してはいるが、人をある意味で騙す見世物の興行主ではなく、人に尊敬される安定した職に就くことを望んでいるチャイリ―を、重くなり過ぎずに演じているのが良い。特に、自分の望み通りに夫が選挙に打って出た折に初めて、誇張した話術が必要だと気づいた時の、変心ぶりがなんとも微笑ましいのは朝夏のおおらかな持ち味あってこそ。歌唱面でも高音がますます伸びるようになっているし、チャイリ―が退場するシーンの踊れる人ならではの、宙に浮いているかのような身のこなしも美しかった。

世界で最も小さい男性のトム・サム役の矢田悠祐は、体調不良で残念ながら急遽降板となった藤岡正明の持ち役だった、サーカスのパフォーマーであり作品のストーリーテラーでもあるリングマスターと、ジェームス・A・ベイリーを一人三役で務め、加藤に負けず劣らずの出ずっぱりになった舞台を見事に支えている。『アルジャーノンに花束を』『ハムレット』等、近年荻田作品で多く主演を務めている、荻田の信頼厚い矢田だからこそできた離れ業で、その奮闘にはただただ感嘆した。藤岡の早い本復を願うと同時に、矢田がこの作品で示した地力の高さに惜しみない賞賛を贈りたい。

バーナムと浅からぬ関係になるスウェーデン人のオペラ歌手バジェニー・リンドはWキャストで、綿引さやかが繊細で緻密な役作りで、フランク莉奈が噴出するパッションでそれぞれのプリマドンナを描き出して魅了する。

またバーナムとともにニューヨークのアメリカ博物館を経営するエイモス・スカダーもWキャストで『両国花錦闘士』での鮮やかな主演ぶりが記憶に新しい原嘉孝が華やかに視線を集めれば、『アナスタシア』の大役ディミトリで確かな歌唱力を示した内海啓貴が、ミュージカル作品との親和性を感じさせ、こちらも面白い競演になった。

更に、世界最高齢160歳の女性という触れ込みのジョイス・ヘスを演じる中尾ミエが、カンパニーの重鎮的な存在感を発揮。2幕でブルースシンガーを歌う歌手も務めるが、この歌唱がまたとびきりブルージーで、作品の多彩な音楽的魅力に貢献していた。

また大きな役割を果たす章平をはじめ、様々なジャグリングもこなすアンサンブルの面々の大活躍も舞台を支えていて、バーナムの愛したサーカス、虚構の世界への憧れが、そのまま演劇世界への愛につながる、演劇ファンにとって何よりも愛おしい作品になっている。

【公演情報】
ミュージカル『BARNUM』
Music by CYCOLEMAN / Lyrics by MICHAEL STEWART / Book by MARK BRAMBLE
演出:荻田浩一
翻訳・訳詞:高橋亜子
音楽監督:荻野清子
出演:加藤和樹 朝夏まなと 矢田悠祐
フランク莉奈・綿引さやか(ダブルキャスト) 原 嘉孝・内海啓貴(ダブルキャスト)
章平 工藤広夢 斎藤准一郎 泰智 福田えり 咲良 米島史子 廣瀬水美
中尾ミエ
映像出演:フィリップ・エマール/石田純一(Performer Ai)
●3/6~23◎東京 東京芸術劇場 プレイハウス
●3/26~28◎兵庫 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
●4/2◎神奈川 相模女子大学グリーンホール
〈料金〉東京・神奈川 S席 10,500円 A席 7,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈料金〉兵庫 10,500円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈公式サイト〉https://musical-barnum.jp/

©ミュージカル「BARNUM」製作委員会/岡 千里

 

【取材・文/橘涼香】

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