沖縄在住の若手劇作家・兼島拓也の書き下ろし作品『ライカムで待っとく』開幕!
沖縄本土復帰 50 年となる今年、沖縄在住の若手劇作家・兼島拓也が書き下ろし、沖縄に出自を持つ田中麻衣子が演出を手掛ける舞台、『ライカムで待っとく』が 11 月 30 日にKAAT神奈川芸術劇場にて開幕した。
本作は、アメリカ占領下の沖縄で起こった 1964 年の米兵殺傷事件を基に書かれたノンフィクション「逆転」(伊佐千尋著、新潮社・岩波書店刊)に着想を得て、当時の資料や、現代を生きる東京の若者たち、基地問題の専門家、同じ基地の町・横須賀に暮らす人たちなどにヒアリングし、田中と推敲を重ねながら、1 年の歳月をかけて兼島が書き上げた。
この事件を全く知らなかったという 30 代の兼島は米軍基地が身近にある環境で生まれ育ち、現在も基地と生活が隣接している中で、劇作家活動を行っている。この作品に通底するのは、「沖縄は日本のバックヤードではないのか」「沖縄の犠牲の上に成り立っている日本という国」という想いである。沖縄の過去と現在と未来が交錯するこの戯曲は、まさに複雑性を包含する沖縄と日本の国の在り方を直視する物語になっている。
戦後 80 年近い時を経ても、辛い戦争体験をした者たちは語りたがらず、忘れることができないゆえに語らない、語りたくない、語れない「記憶と時間」を持っている島。島の中で基地賛成、反対と対立が続きながら、観光都市沖縄としての存在を益々高め、大きな経済のうねりの中で、共に生きながら歴史が刻まれていく。
《登場人物》
浅野悠一郎 …… 亀田佳明
藤井秀太 …… 前田一世
浅野知華 ……魏涼子
伊礼ちえ ……蔵下穂波
運転手 ………南里双六
金城(きんじょう) …………あめくみちこ
佐久本 寛二(さくもと かんじ) ……南里双六
嘉数 重盛(かかず しげもり) ……神田青
平 豊久(たいら とよひさ) ………小川ゲン
佐久本 雄信(さくもと ゆうしん)…… 前田一世
大城 多江子(おおしろ たえこ) ……あめくみちこ
栄 麻美子(さかえ まみこ) ……蔵下穂波
《あらすじ》
雑誌記者の浅野は、五八年前の沖縄で起きた米兵殺傷事件について調べることになったのだが、実はその事件の容疑者が自分の妻の祖父・佐久本だったことを知る。
佐久本やその共犯として逮捕された男たちの半生を絡めた記事を書きはじめる浅野だったが、なぜか書いた覚えのない内容に文章が書き換えられていた。そしてついにはその記事の中に、いつのまにか自分自身も飲み込まれていく。
過去と現在が渾然となった不可解な状況のなかで、沖縄が歩んできた歴史や現在の姿を知っていく浅野。記者として何を書くべきなのか少しずつ気づきはじめたとき、突然娘の行方がわからなくなってしまう。混乱する浅野に、それは「沖縄の物語」として決められたことなのだと佐久本は告げる。その「決まり」に沿った物語を自身が書いていて、また書き続けていくのだと、次第に浅野は自覚していく。
【コメント】
初日を迎えた兼島拓也、田中麻衣子の開幕コメントが届いた。
兼島拓也(作)
開幕直前で足止めを食ってしまいましたが、ようやく、今日、スタート地点に立ちました。一年以上のあれやこれやがこうして日の目を見ることができてひと安心です。
僕の書いた言葉が、僕の手を離れてどんどん拡がり、拡がる過程でいろんなものを取り込んで、とてもとても豊かで面白い作品になっていました。もがきながら迷いながら創り上げてきた痕跡があちこちに見えた気がして、そこにこそ日本と沖縄の未来についての微かな「希望」があるのではないかと思いました。
役者から放たれる鋭く強い矢が、観客席に突き刺さっていく様を、最後列から眺めていました。作者でありながら、迫り上がってくるものを抑えつけるのに必死だった瞬間も数多くありました。カーテンコールの拍手だけでは払いきれず、劇場の外にまで引きずっていってしまうような、そういう作品になっていると思います。これからご観劇なられる方にも、いろいろなものを持ち帰っていただけたら幸いです。
田中麻衣子(演出)
1年以上にわたる兼島さんと KAAT スタッフとの創作を経て、ついにこの日を迎えた、という気持ちです。
ずっと準備をしてきた中で、色々なことを考えたり、想像したり、目を向けたり、より深くそこに潜ってみたりしてきて、今日、初めてお客様が入った劇場で、作品として上演することが出来て、ひとまず良かった、と思います。
これからまた、役者の皆さんも含めて、進化していくと思います。進化というのは、おそらく、より現実とつながっていく、観客の皆さんと、劇場という空間にいる役者・スタッフの皆さんを含めた私たちが、この作品を通して何を感じられるのか。少し大きな言い方ですが、どんな明日を、どんな未来を迎えることが出来るのか。変化をもたらすことが目的ではありませんが、何か変わったり、気づいたりすることがあったりするといいな、と思っています。
【公演情報】
KAAT 神奈川芸術劇場プロデュース
『ライカムで待っとく』
作:兼島拓也
演出:田中麻衣子
出演:亀田佳明 前田一世 南里双六 蔵下穂波
小川ゲン 神田青 魏涼子 あめくみちこ
●11/30~12/4◎KAAT 神奈川芸術劇場<中スタジオ>
〈料金〉一般5,500 円 神奈川県民割引[在住・在勤]4,950 円 U24 チケット(24 歳以下)2,750 円 高校生以下割引1,000 円 シルバー割引[満 65 歳以上]5,000 円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉チケットかながわ 0570-015-415(10:00~18:00)
〈公式サイト〉 https://www.kaat.jp/d/raikamu
【舞台撮影: 引地信彦】
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