歌舞伎座「八月花形歌舞伎」開幕!
歌舞伎座では「八月花形歌舞伎(はちがつはながたかぶき)」が、8日3日に初日の幕を開けた。
各部完全入替えの三部制で上演する「八月花形歌舞伎」は、松本幸四郎、中村勘九郎、中村七之助をはじめ勢いのある花形に、中村雀右衛門、中村扇雀が舞台を引き締め、多彩な魅力のラインナップで楽しめる公演だ。
(第一部は既報の通り、市川猿之助が当面の間休演することとなり、坂東巳之助が代役にて六役を勤める)
歌舞伎座では、引き続き出演者・観客は各部総入替え、客席数(1808 席)は 50%(904席)を維持して公演を行う。安心して歌舞伎を楽しめるよう、換気や消毒を徹底するなど、今後も感染予防対策に万全を期していく。
第一部は、三代猿之助四十八撰の内 『 加賀見山再岩藤 ( かがみやまごにちのいわふじ )』 。
江戸時代に加賀藩で起きた御家騒動を題材とした『鏡山旧錦絵』の後日譚として、名作者・河竹黙阿弥の手により、安政 7(1860)年に初演。昭和 48(1973)年には三代目市川猿之助(現・猿翁)が台本に大幅な改訂を加え、早替りや宙乗りなどを駆使した新演出で上演し評判を博すると、上演のたびに改訂が施される人気作に。当月は従来の通し狂言から名場面を抜粋し、亡霊となってまで恨みを晴らそうとする岩藤のエピソードに焦点を当てた「岩藤怪異篇」として上演。
演出をつとめる市川猿之助は、「様々な制約の中、今回は亡霊となった岩藤の復讐に焦点を当て、『怪異篇』としてお届けします。コロナ禍に於いては、長時間に及ぶ通し 狂言はなかなか上演が難しいが、逆に、コロナ禍でなければこの『怪異篇』は生まれなかっただろう。閉塞感漂うこ の ような時代こそ、マイナスをプラスに変える発 想の転換が何より必要なのではないかと、 強く感じる次第です。 お客様の頭上を宙乗りで飛べる日が来ることを 心から願っています 」と筋書の演出家挨拶で述べている。澤瀉屋の家の芸「三代猿之助四十八撰」屈指の人気作を楽しみたい。
既報の通り7月30日、初日の4 日前に市川猿之助が当面の間休演することとなり、坂東巳之助が代役を勤める初日。序幕、浅葱幕が振り落とされ、満開の桜が咲き誇る花見の場に巳之助が演じる一役目、多賀家の領主・多賀大領が登場すると、客席からはあたたかい拍手が送られる。そこから御台梅の方、奴伊達平、望月弾正と次から次へと男女の役を早替り、客席を魅了。善悪が入り乱れる物語がテンポよく進み、「骨寄せの岩藤」の通称で知られる本作のみどころ、土手に散らばる岩藤の白骨が暗闇の中で集まり、岩藤の亡霊が姿を現しす。
中村雀右衛門演じる二代目中老尾上への恨みを晴らそうと亡霊になって現れる岩藤。闇の中では尾上と、巳之助が早替る望月弾正、安田隼人がだんまりを見せ、一幕目のクライマックスには、岩藤の亡霊が在りし日の局姿となり舞台上を宙乗り。巳之助が局岩藤の姿で舞台上を舞うと、客席からは拍手が鳴りやまない。多種多様な六役を早替りで魅せるだけではなく、舞台上で展開されるドラマティックな物語に、客席は食い入るように見入り、舞台を締めくくるように巳之助が演じる多賀大領が「めでたい」と声をかけると、客席も一体となってめでたい空気のまま、万雷の拍手が送られた。
第二部は、三遊亭円朝の口演をもとにした怪談噺『真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)』 で幕を開ける。中村七之助演じる豊志賀は、20 歳ほど年の離れた中村鶴松演じる新吉と恋仲だが顔に腫れ物ができる病となり、不安と焦りを募らせる。新吉と中村児太郎演じる若い娘のお久の仲を疑い、嫉妬を抱きながら悶死。若い男に恋焦がれる執念深さと悲哀を持つ豊志賀を、七之助が妖艶に恐ろしく魅せていく。中村勘九郎演じる噺家さん蝶が、豊志賀の死の様子をテンポよく語ってみせる場面も見どころ。客席からは笑いも起きる一方、新吉の恐怖をいつの間にか観客も一緒になって体験してしまう怪談ものの傑作。夏の風物詩・怪談話にご期待。
続いては、おとぎ話のような展開が魅力の『 仇ゆめ( あだゆめ)』 。昭和 42(1967)年の初演以来、狸役は十七世から十八世勘三郎へと受け継がれた中村屋ゆかりの舞踊劇。中村七之助演じる深雪太夫に恋に落ちた中村勘九郎演じる狸は、溢れる想いをユーモラスな踊りで表現。太夫や中村扇雀演じる揚屋の亭主を交えて軽快で楽しい雰囲気に包まれ、特に勘九郎の狸がアクロバティックな動きやテンポの速い踊りを見せると客席からは笑いと拍手が起きる。勘九郎は、大河ドラマ「いだてん」の走りや、「久保くん、今日もゴール決めてね!」とサッカー日本代表へエールを織り込み客席を沸かす。後半は一転、太夫への純情一途な狸の姿がしんみりと、その想いを受け止める太夫の優しさが温かく描かれ、胸が熱くなる幕切れに客席からはあたたかい拍手が送られた。『狐狸狐狸ばなし』でも知られる劇作家・北條秀司が描いた、おかしくも切ない傑作。
第三部の序幕は、木曽義賢の壮絶な最期が描かれる義太夫狂言の名作『 義賢最期( よしかたさいご )』 。昨年 4月、松本幸四郎は自身の襲名披露狂言として初役で勤める予定だったがコロナ禍で公演中止に。約 1年越しに歌舞伎座の舞台で義賢を勤める。
前半は、下部折平が実は源氏一族の多田蔵人であることを見抜き、源氏再興への本心を明かす義賢の心の推移が、義太夫との掛け合いにより描かれます。組んだ戸板の上で立ったまま倒れる「戸板倒し」や、直立のまま倒れ込む「仏倒れ」など、迫力に満ちた立廻りは必見。源氏再興を願い、一人で平家に抗う義賢の覚悟が観る者の心に響く一幕。
続いては『伊達競曲輪鞘當(だてくらべくるわのさやあて)』。荒事味あふれる中村歌昇演じる不破伴左衛門と、和事味漂う中村隼人演じる名古屋山三による「渡りぜりふ」は聴きどころ。二人の対照的な衣裳が美しく、そこへ坂東新悟演じる茶屋女房お新が揃うと錦絵のような鮮やかさがあり、廓情緒にあふれる。歌舞伎の様式美に富んだ華やかな一幕を楽しめる。
幕切れは、清元の代表的な舞踊『 三社祭( さんじゃまつり )』 。16 歳の市川染五郎と 17 歳の市川團子は、歌舞伎座の本興行で『三社祭』を勤める 2 人としては最年少タイ。それぞれ「悪」と「善」の面をつけた二人が、悪尽くし、善尽くしの振りを躍動的に踊る。近年、歌舞伎座 8 月公演で息を合わせてきた染五郎と團子が、互いに初役で挑む競演が楽しめる。
【公演情報】
歌舞伎座「八月花形歌舞伎」
2021年8月3日~28日
※開場は開演の40分前を予定
休演/10日(火)・19日(木)
◎第一部 午前11時~
一、三代猿之助四十八撰の内
加賀見山再岩藤(かがみやまごにちのいわふじ)
骨寄せの岩藤
多賀大領
御台梅の方
奴伊達平 猿之助
望月弾正
安田隼人
岩藤の霊
鳥居又助 巳之助
安田帯刀 男女蔵
蟹江一角 亀鶴
花園姫 男寅
蟹江主税 鷹之資
局浦風 笑三郎
お柳の方 笑也
花房求女 門之助
二代目中老 尾上雀右衛門
◎第二部 午後2時30分~
遊亭円朝 口演より
一、真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)
豊志賀の死
豊志賀 七之助
お久 児太郎
新吉 鶴松
噺家さん蝶 勘九郎
伯父勘蔵 扇雀
北條秀司 作・演出
二、仇ゆめ(あだゆめ)
狸 勘九郎
深雪太夫 七之助
舞の師匠 虎之介
揚屋の亭主 扇雀
◎第三部 午後6時~
源平布引滝
一、義賢最期(よしかたさいご)
木曽先生義賢 幸四郎
九郎助娘小万 梅枝
下部折平実は多田蔵人 隼人
待宵姫 米吉
太郎吉 小川大晴(奇数日)
太郎吉 小川綜真(偶数日)
進野次郎 廣太郎
九郎助 錦吾
矢走兵内 片岡亀蔵
葵御前 高麗蔵
伊達競曲輪鞘當(だてくらべくるわのさやあて)
二、三社祭(さんじゃまつり)
〈鞘當〉
不破伴左衛門 歌昇
名古屋山三 隼人
茶屋女房お新 新悟
〈三社祭〉
悪玉 染五郎
善玉 團子
〈料金〉1等席15,000円 2等席11,000円 3階A席5,000円 3階B席3,000円 1階桟敷席16,000円(全席指定・税込)
未就学児童は、満4歳よりお一人様につき1枚切符が必要です。
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹(10:00-17:00)0570-000-489
または東京は03-6745-0888、大阪は06-6530-0333
チケットWeb松竹 検 索
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/722/