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歌舞伎座「二月大歌舞伎」第一部「御浜御殿綱豊卿」で魂のぶつかり合いを演じる! 中村梅玉・尾上松緑 取材会レポート

尾上松緑 中村梅玉

歌舞伎座では、2月1日から「二月大歌舞伎」が開幕した(25日まで)。

第一部は、新歌舞伎の名手である劇作家・真山青果の『元禄忠臣蔵』から、次期将軍と目される徳川綱豊と、赤穂浪士の富森助右衛門の、緊迫感のある台詞の応酬が見どころの「御浜御殿綱豊卿」。そして勇壮に舞う獅子の姿、激しい毛振りなどが見ごたえのある舞踊『石橋(しゃっきょう)』の2作品。

第二部は、仇討にはやる曽我兄弟とそれを諫める静御前による舞踊『春調娘七種』。もう1作は、歌舞伎屈指の古典『義経千本桜』からスケールの大きな物語「渡海屋・大物浦」の知盛を、当たり役とする片岡仁左衛門が一世一代で演じ納める。

第三部は、テンポのいい曲調や遊び心ある詞章(歌詞)、様式美ゆたかな立廻りなどが楽しめる舞踊『鬼次拍子舞(おにじひょうしまい)』。そして、義賊の鼠小僧を中心に描く義理人情のドラマ『鼠小僧次郎吉(ねずみこぞうじろきち)』となっている。

出演は、片岡仁左衛門、中村梅玉、市川左團次、中村魁春、中村東蔵、中村歌六、中村時蔵、中村雀右衛門、中村又五郎、中村芝翫、中村錦之助、片岡孝太郎、尾上松緑、尾上菊之助など、人間国宝から中堅、若手花形まで幅広い顔ぶれだ。

1月12日、東京・竹芝のメズム東京において、第一部の「御浜御殿綱豊卿」でタイトルロールの綱豊卿を勤める梅玉と、赤穂浪士の富森助右衛門を勤める松緑が取材会を行った。

綱豊は、梅玉にとって30年前の1992(平成4)年に名古屋での襲名披露興行で初演した思い出深い役であり、本興行では今回で6回目となる。「節目の時に、大好きなこのお役をまたやらせていただけて本当にありがたい。新歌舞伎の名作の1つ『元禄忠臣蔵』のなかの「御浜御殿」で、演じていて気持ちがいいお芝居! 本当に素敵なお役です」と表情をほころばせた。また今回、赤穂浪士の仇討をめぐって綱豊と対峙する助右衛門を、仲が良いという松緑が勤めることについては、「お客様もよくご存じの『忠臣蔵』の外伝で、きっと楽しんでいただけると思います。松緑さんとも久しぶりの共演で、どんな対決をするか今からワクワクしています」と語る。

『元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿』富森助右衛門=尾上松緑(C)松竹

松緑にとっては、助右衛門は初役となるが、「綱豊は、梅玉にいさんのご襲名のときから何度も拝見していますし、助右衛門は、父(初代尾上辰之助)がやった時には(二代目中村)吉右衛門のおじが綱豊卿だったこともあって、とても目に残り、素敵な役だな、かっこいい役だなと思っていました。この年まで勤めることがなかったので、一生縁のない役だと諦めていましたが、今回にいさんが松緑でと仰ってくださり、嬉しく、ありがたく、このチャンスをいただいて本当に御礼を申し上げたい」と、喜びをかみしめる。惚れこんでいた助右衛門を初演するにあたり、「これからも機会があれば助右衛門をずっと勤めていきたい。後輩とやることになってもそう思っている。その1回目として、梅玉にいさんの胸を借りて全身全霊でぶつかっていきたい」と意気込んだ。

古典作品をはじめ、上演が重ねられている演目の役は、同じ役を経験している先輩や、その演目を熟知する先輩などに習うことが多い。松緑は今回梅玉に稽古を頼んだが、返事は「君に合う役だから自分なりに考えて勉強しなさい、何かあれば稽古で言うから」という愛の鞭だった。一途に思い込む性格の助右衛門役は、素顔の松緑に重なるのだろう。助右衛門の役作りについては目下自習中だという。「(五代目)中村富十郎のおじさんの助右衛門は、僕が拝見した時は割とお年を召されていましたが、歯切れもよく、爽やかで、綱豊の爽やかさとは違う、ものすごく熱いものをもちながら、若さがあって素敵でした。また吉右衛門のおじは対照的で思慮深い助右衛門。色々な出し方(表現)があるなかで、父が演じた助右衛門は、本当に若いうちにやって、若いうちに死んでおりますので、若さ全力投球の助右衛門でした」。今の自分より若くして亡くなった父の匂いを残しつつ、記憶に残る先輩たちの助右衛門像から混合して役を作りたいと松緑は語る。

一方の梅玉は、綱豊を何度も勤めているからこその難しさを語った。「歌舞伎のお役は再演、再々演のほうが難しさが増すもので、その難しさを感じないようではむしろダメ。若い頃は、まず何よりも綱豊に大切な風格が全然なかったんです。テクニックとは別の問題ですが、それも心がけて今回も勤めたい」。初演から指導をしてくれたのは、青果の娘である真山美保(劇作家・演出家)だった。「もちろん(三代目市川)寿海さんなどの素晴らしい舞台がありますが、貴方は貴方で貴方自身の綱豊を作り上げなさい、と常々仰っていました。ずいぶん対面でお稽古させていただき、少しずつ自分の役にすることができているのかなと思いますが、また新たに勉強し直したい」と気を引き締めた。

ちなみに取材会場は、綱豊(六代将軍徳川家宣)が実際に住んでいた御浜御殿(現在の浜離宮)を眼下に見下ろせる場所で、梅玉、松緑ともに「おお…」と感嘆をもらした。松緑は「ああ舞台面と同じだな、と。もちろん劇場内に作るので狭くはなっていますが、こういう風情のなかでストーリーが進行したのだと感じました」。梅玉は「まったくの創作だとは思いますが、そういう風情や風景も考えてお芝居を作り上げていくところに、青果先生の素晴らしさがある」と、真山青果の力量に改めて敬意を表した。

本作は、大局から事の成り行きを見守る綱豊の核心を突いた淀みない言葉に、頑なだった助右衛門の心が揺れる。その表れが、ふたりの身分だけでなく心の隔たりの象徴でもあった「敷居」を、助右衛門が自ら超えてくる場面だ。「あらしちゃん(松緑の本名)がどうやって(敷居を)超えてくるか、楽しみにしています。なかなかねじ伏せられないから(笑)。どの芝居でもそうですが、普段の仲の良さがある程度必要で、あらしちゃんとは昔から仲が良いので、芝居の間(ま)のイキは合うと思う」と、幼い頃から松緑を知るからこその言葉も。

また、梅玉の養子であり、近年は「新春浅草歌舞伎」(コロナ感染拡大でこの2年は中止)などでも活躍中の中村莟玉は、今回綱豊の愛妾お喜世を初役で演じる。お喜世は、血は繋がっていないが助右衛門の妹である。松緑は「最近は莟玉君ともご一緒させていただくことが多く、にいさんはもちろん、彼との仲の良さも出るのでは。助右衛門は直情的な男なので、お喜世の莟玉君が手綱を引いてくれると思います」と笑顔で語った。

今年は梅玉にとって梅玉襲名30年目の節目であるとともに、松緑にとっても松緑襲名から20年目の節目にあたる。また、松緑が前名(二代目辰之助)を襲名したのは梅玉襲名の翌月だった。「辰之助時代は10年と短くて、松緑を襲名させていただいてから20年、自分に対してはもどかしさしかない。本当に不器用で、(十七代目市村)羽左衛門のおじさんにも、僕みたいなタイプは千穐楽まで1日半歩ずつでも進んでいくことが意義があると言われ、今でも肝に銘じています。莟玉君をはじめ、活躍している後輩たちがどんどん出てきているので、若い人に馬鹿にされないためにも、半歩ずつでも死ぬまで成長していきたい」と、決意を新たにした。

一時は落ち着くかと思われたコロナの感染拡大は、楽観視できない状況が続いているが、ふたりから観客に向けてのメッセージが送られた。

梅玉「まだまだ密なところへは行きたくないという方が大勢いらっしゃる。それを乗り越えて歌舞伎座へ足を運んでくださったお客様に、来てよかったと思ってお帰りいただけるよう、充実した舞台を作り上げることが使命だと思っております」

松緑「舞台に立つ者はもちろん、みんな自分たちが演じるものを観てほしいが、以前のように両手を広げて来てくださいとは言えません。それでも来てくれるお客様には、嫌なことや現実を忘れて、晴れやかな気持ちで帰っていただけるような舞台を勤めたい。ありがたいし、お身体にも気を付けてください」

【公演情報】
歌舞伎座「二月大歌舞伎」
●2022年2月1日(火)~25日(金)
【休演】8日(火)、17日(木)

◎第一部 11:00~

真山青果 作
真山美保 演出
一、『元禄忠臣蔵』
御浜御殿綱豊卿

徳川綱豊卿 中村梅玉
富森助右衛門 尾上松緑
中臈お喜世 中村莟玉
上臈浦尾 中村歌女之丞
小谷甚内 片岡松之助
新井勘解由 中村東蔵
御祐筆江島 中村魁春

二、『石橋』

獅子の精 中村錦之助
同 中村鷹之資
同 尾上左近

◎第二部 14:30~

一、『春調娘七種』

曽我十郎 中村梅枝
静御前 片岡千之助
曽我五郎 中村萬太郎

二、『義経千本桜』
渡海屋
大物浦
片岡仁左衛門 一世一代にて相勤め申し候

渡海屋銀平実は新中納言知盛 片岡仁左衛門
源義経 中村時蔵
女房お柳実は典侍の局 片岡孝太郎
入江丹蔵 中村隼人
銀平娘お安実は安徳帝 小川大晴
相模五郎 中村又五郎
武蔵坊弁慶 市川左團次

◎第三部 18:15~

一、『鬼次拍子舞』

山樵実は長田太郎 中村芝翫
白拍子実は松の前 中村雀右衛門

河竹黙阿弥作
鼠小紋春着雛形
二、『鼠小僧次郎吉』

稲葉幸蔵 尾上菊之助
刀屋新助 坂東巳之助
芸者お元 坂東新悟
杉田娘おみつ 中村米吉
蜆売り三吉 尾上丑之助
石垣伴作 中村吉之丞
左膳弟子左内 市村橘太郎
養母お熊 嵐橘三郎
与之助 坂東亀蔵
早瀬弥十郎 坂東彦三郎
本庄曾平次 河原崎権十郎
大黒屋抱え松山 中村雀右衛門
辻番与惣兵衛 中村歌六

〈料金〉1等席16,000円 2等席12,000円 3階A席5,500円 3階B席3,500円 1階桟敷席17,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹(10:00-17:00)0570-000-489
または東京 03-6745-0888 チケットWeb松竹 検 索
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/743

 

【取材・文/内河 文  写真/松竹】

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