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松竹新喜劇の先頭に立つ!藤山扇治郎インタビュー

1948年に大阪道頓堀で誕生した「松竹新喜劇」が、今年2023年劇団創立75周年を迎えるのを寿ぐ記念公演 松竹新喜劇五月新緑公演が、開場100周年を迎える大阪松竹座で5月13日~25日上演される。

この新たな節目を機に、1991年より「松竹新喜劇」を率いてきた三代目・渋谷天外が劇団代表としての立場を勇退することが発表され、藤山扇治郎、渋谷天笑、曽我廼家一蝶、曽我廼家いろは、曽我廼家桃太郎の、5人の若手俳優を軸に、劇団は新たな第一歩を踏み出すことになった。三代目渋谷天外も役者・作者の両面で今後も劇団を支え続けていく。

そんな記念公演は、天外の父である二代目渋谷天外のペンネーム、舘直志の作品である『花ざくろ』と、同じく舘直志の作品で久々の上演となる時代劇『三味線に惚れたはなし』の二本立てで、伝統ある上方喜劇を未来へ繋げていくべき演目が並んだ。

その『花ざくろ』で祖父・藤山寛美の当たり役として知られる植木職人の垣山三次郎を演じる藤山扇治郎が、記念公演への思いと、松竹新喜劇の魅力と未来に向けた意気込みを語ってくれた。

大きな節目の年だからこそ進化していかなければならない

──この度は松竹新喜劇75周年と、大阪松竹座開業100周年記念という大変おめでたいことが二つ重なる公演となりますが、いまのお気持ちはいかがですか?

本当によく重なったなと思いますし、まずはお客様に喜んでいただける公演にしたいなと気持ちを新たにしております。

──またこの公演から、と言いますか4月末日をもって三代目渋谷天外さんが劇団代表を勇退され、扇治郎さんをはじめ、渋谷天笑さん、曽我廼家一蝶さん、曽我廼家いろはさん、曽我廼家桃太郎さんの5人の若手の皆様で新たに松竹新喜劇を引っ張っていかれるとの発表もありました。

まずびっくりしました。天外さんの代わりなんてとてもできないですし、しかも5人の若手でやっていくということで、正直話を聞いた時から不安でした。でもこうした大きな節目の年だからこそ、新しい体制にしていかなければいけないと言われ、自覚を持てと言われてもいる訳ですから、5人で力を合わせてたくさんのお客様に観にきていただけける、また観たいと言っていただける松竹新喜劇にしていけるように、みんなで話しあってやっていきたいと思っています。

──この体制になると聞かれてから、皆さんで特に何か共通の意思疎通などははかられたのですか?

これまでもずっと一緒にやってきた5人ですけれども、この公演の製作発表会見で集まった時に、とても新鮮な感じを受けました。やはりこういう体制で5人でとなった時に、ひとり一人の働きがとても重要になってきますし、こういうことをしたい、とそれぞれが話している、その意見がみんな新鮮で、すごく良いことだなと思いました。

三次郎の実直さや、純粋さを大切に演じていきたい

──その記念公演についてですが、まずご自身が主演される『花ざくろ』についての思いを教えていただけますか?

いまの自分の年齢で、まさかこの作品をさせていただけるとは思っていなかったです。藤山寛美の当たり役ですし、むしろ自分は一生できないんじゃないかなと思っていました。でもこういう体制になって、やらせていただける機会を作ってもらえたのは本当にありがたいことで。笑いというのは時代と共にどんどん変わっていきますが、この『花ざくろ』という作品は、ただ面白いだけではなくて、人として共感したり、共鳴できる人情の部分が描かれているのがとても大事だと思うんです。笑って泣いて共感できる作品なのが素晴らしいなと思います。

──演じる植木職人の三次郎役については?

去年が(藤山寛美の)三十三回忌だったのですが、まだまだ藤山寛美の三次郎を観られている方が多いんです。新喜劇をご覧になるお客様には五十代、六十代、七十代、八十代の方もたくさんいらっしゃるので、よく思い出話を伺いますし、僕に面影を照らしてご覧になる方もいらして。そもそも三次郎という役柄自体に寛美カラーが色濃く出ていると思います。でもだからこそこういう作品を受け継いで今上演するのはとても大事だと思いますし、普遍的なテーマが詰まっている作品でもあるんですね。40年前の作品ですから、価値観などは変わっている面もありますけれども、やっぱり見ているお客様が共感できる三次郎として、まだまだ到底追いつけませんが参考にすべきところもいっぱいありまから、キャラクターを大切にしつつ自分なりに演じられたらいいなと思っています。本当に勉強になる機会をいただいたので、三次郎の実直さや、純粋さを大切に一生懸命演じていきたいです。

──またもう一作の『三味線に惚れたはなし』は、大変久しぶりの上演とお聞きしていますが。

僕もこの作品は生で見たことがないんです。それくらい上演回数としては多くないのですが、『花ざくろ』と同じく二代目渋谷天外さんの劇作家名である、舘直志さんの作品で、大阪の爆笑ものです。とても新喜劇らしい物語で「最終的には多分こうなるんやろうな」と分かっているけれども面白いんですよ。やっぱりこういう定番の、お決まりをそのままやって面白いというのは、すごいことだなと。新作ではないですが、本当に久しぶりの上演になるので、お客様に喜んでいただけると思っています。

松竹新喜劇にはここにしかない人情話がある

──そんな公演を前に改めて伺いたいのですが、扇治郎さんが考える松竹新喜劇の魅力を言葉にしていただくとすると?

笑いを追求しているというか、面白いというだけだったら、色々なジャンルがありますよね。例えば僕も子供の頃から吉本新喜劇も観させてもらっていて、とても面白いし大好きなんです。そうしたなかで松竹新喜劇の何が魅力なのか?と言ったら、やっぱり人情芝居だと思います。そこがほかにないものだと思っていて。とてもわかりやすくて、先ほども言いましたが、笑いも涙も両方バランスよく入っていますし、古典の脚本を使っているようでいて、ちゃんと今の時代のことも反映されている。嫁と姑の話だったり、夫婦の話だったり、変わっているようでいて変わらないものがたくさんあって、観ていただくと「あぁ、これうちもそうやなぁ」と思ってもらえたり、お子さんにも「これうちのお父さんとお母さんと一緒やわ」と思ってもらえる。重厚で考えさせられるお芝居も素晴らしいと思うのですが、客席で共感して「あるある」と思ってもらえる芝居もとても大事だと信じているので、それが松竹新喜劇の1番の魅力じゃないかと思います。

──そうした世界をこの舞台から新しい体制で進めていくにあたって、こういうことをやってみたいなというビジョンはありますか?

松竹新喜劇って本当に財産と言える作品がたくさんあるし、お話してきたように根本的なテーマや、人間同士の普遍的なものって全く変わっていないので、それらはもちろん大切にしていきたいのですが、反面で例えば晩ご飯を家族がどういう形で食べているか?だけをとっても人の暮らし方はずいぶん変わっていますよね。当然価値観や、夫婦の関係も変わっているので、そういう今日的なテーマを盛り込んだ新作は必要になってくると思います。そういった今の喜劇を書ける作家さんとどんどんタッグを組んでいきたいですし、色々な方にゲストで出ていただきたいと思っています。アイドルの方が一人入ってくださっただけでも、作品も変わってくると思うんですよ。

──OSK日本歌劇団の桐生麻耶さんが特別出演された時にも、「OSKのファンの方だろうな」というお客様がたくさんいらしていましたよね

そうなんです。それがきっかけで「松竹新喜劇もおもしろいな」と思ってもらえたら本当に嬉しいですし、松竹新喜劇ってそういう色々なことができる、時代劇も現代劇もできる劇団なので、僕らも「松竹新喜劇に出たい」と思ってもらえるような劇団にしていかなければと思います。こんな舞台をやっていますよ、面白いですよということを、まず僕らからどんどん発信していきたいです。

──そういう意味でも、この節目の記念公演を楽しみにしていますが、是非皆さんにもメッセージをお願いします。

この3年間まず劇場にお芝居を観にきていただくこと自体がとても難しい時期が続いて、自分も考えるところがたくさんありました。コロナ禍の前に気を抜いていた訳では全くありませんが、それでもこの幕がいつ上がるのか、いつまで続けられるのか?という危機感が常にあるなかを過ごしてきて、まだこれから先どうなるかも分からないですけれども、こういうなかでも劇場に来てくださるお客様には、日常の窮屈なことや辛いことを、このお芝居を観ている間だけは忘れて、心から楽しんでもらいたいという気持ちがとても強くなりました。お客様の拍手も演じていると胸に突き刺さるというか、とても迫ってくるものがあって、もっと頑張らないといけないなと思っています。創立75周年を迎えて新しい体制として踏み出す松竹新喜劇の第一歩として、みんなで進化していきますので、是非楽しみに開 場100周年の大阪松竹座にいらしてください!お待ちしています。

■PROFILE■
ふじやませんじろう○昭和の喜劇王と称された藤山寛美を祖父に、名女優・藤山直美を伯母に、小唄白扇流の家元を父に持つ環境で育ち、幼い頃より日舞に接し、歌舞伎の舞台で名子役ぶりを発揮。祖父の追善興行でも『桂春団治』の池田屋の丁稚を好演するなど研鑽を積み、平成26年新橋演舞場「朗らかな嘘」で主演したのをはじめ、数々の舞台で活躍。喜劇俳優として躍進を続けている。

【公演情報】
大阪松竹座5月公演
大阪松竹座開場100周年記念
劇団創立75周年松竹新喜劇 「五月新緑公演」
〈演目〉
一、花ざくろ
二、三味線に惚れたはなし
●5/13~25日◎大阪松竹座
〈料金〉1等席:11,000円 2等席:5,500円 3等席:3,300円(税込)
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹 0570-000-489
https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/shochikuza202305

 

【取材・文/橘涼香 撮影/井川由香 ヘアメイク/suzawa・花井菜緒(JOUER)】

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