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文学座公演『ジャンガリアン』いよいよ開幕! 奥田一平インタビュー

文学座では横山拓也作、松本祐子演出の『ジャンガリアン』を11月12日から20日まで、紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで上演する。

Iakuの横山拓也と文学座の松本祐子は、2019年に『ヒトハミナ、ヒトナミノ』(企画集団マッチポイント)で初タッグを組み、松本はこの作品と『スリーウインターズ』(文学座アトリエの会)の成果で、第54回紀伊國屋演劇賞個人賞と第27回読売演劇大賞最優秀演出家賞を受賞している。横山拓也も『エダニク』で、日本劇作家協会新人戯曲賞を受賞、『逢いにいくの、雨だけど』や『あつい胸さわぎ』をはじめ次々に評価の高い作品を発表している。今回はその2人がコンビを組んでの最新作となる。

物語の舞台となるのは創業60周年を迎えようという老舗のとんかつ屋「たきかつ」。家業には見向きもしなかった長男の琢己が、決意も新たに店を継ぐという。ついては大々的にリニューアルも行うらしい。店が変わってしまうことに一抹の不安を覚える母・幸子とベテランの料理人・金村は、将来への期待も同時に持っていた。そんな折、常連客の一人が留学生を連れて来て…。古い店に新しい風は吹くのか、私たちとほとんど同じ姿を持つ、異国の誰かはどんな風を吹かせるのか…。小さなとんかつ屋に起きた、ささやかだけど深い変化の物語の中に、今の日本を取り巻く様々な問題が浮かび上がる。

この作品で「たきかつ」で働くことになるモンゴルからの留学生に扮するのが奥田一平。2018年に文学座の座員になり、めきめきと頭角を現し、2019年の『一銭陶貨~七億分の一の奇跡~』では陶貨作りに情熱を傾ける青年役で、今年9月の『熱海殺人事件』の大山金太郎役でそれぞれ高い評価を受けている。今まさに期待の若手俳優である。

とにかく素直にやろう、生の感覚でいこうと

──文学座9月アトリエの会公演『熱海殺人事件』で演じた大山金太郎がたいへん好評でした。

自分ではそのへんはよくわからないんですが(笑)。あの公演はつかこうへいさんが1973年に文学座に書き下ろされた初演の台本をもとにしていたので、演出家の稲葉(賀恵)さんや役者全員で、これを今の時代に受け入れられるためにはどうやればいいのだろうという話をしました。そして、つかさんらしさをなくしていく方向で作ろうと。いわゆる型のようなものはやらないで、でもどうしてもここは見得を切りたいという部分だけ、そういう見せ方をしていこうとかいろいろ考えて。

──つか作品らしさも残しながら、文学座らしいリアリズムを感じました。レトリック満載でどんどん飛躍する話なのに、キャストの皆さんが柔軟に演じていましたね。

内容が二重構造のようになっていて、大山金太郎を犯人として成長させるという物語でもあるけれど、出来ない役者を育てるという物語でもあって、警察官が現場で犯人がこう言ったらこう対応するというような捜査のリハーサルとも取れる。そういうふうに考えていくと、果たして山口アイ子という女性は本当にいたのか、本当に大山金太郎が殺したのか、そこまで考えられるし、演じていても「今、僕はどの軸で演じているのだろう」とわからなくなったりするんです。ただ、その軸を1本にしてしまうとそれでは乗り切れない場面も出てくるので、場面によってはその場の流れに応じてやるという感じでした。

──全体の流れはまったく違和感がなかったです。何よりも昭和の時代に社会の底辺を生きていた大山金太郎の、朴訥さとか内にある哀しみのようなものが確かに伝わってきました。

稲葉さんと話し合って、とにかく素直にやろうと。僕も九州出身なので金太郎の博多弁には馴染みがありますし、感じたことをそのまま出してみようと。作ろうと思えばある程度作れる役でもあるのですが、それは極力やめようと思いました。生の感覚でいこうねと言われたので。犯行を再現するところの長い台詞も、とうとうと喋るのではなく、初めて自分の言葉で喋れる場を用意してもらって、人生で初めて自分の感情を喋れた人間に見えるように、とにかく演技の手管を使わないようにしようと思いました。

美しい物語として仕立てていくけれど、それでいいのかと

──良い意味で手垢のついていないシロウトっぽさを感じさせてくれて、それも新鮮でした。

金太郎という役は、相手がすごく歩み寄ってくれているのに今回はそれに乗らない役なので、木村伝兵衛の石橋(徹郎)さんや、熊田刑事の上川路(啓志)さんが一生懸命に演劇的に「ほら」みたいに来てくれているのに、「違います」と言うのがとても申しわけなくて(笑)。思わずに乗りたくなっちゃうんですけど、とにかく乗らないように。でも自分のそういう芝居で流れを止めていたらどうしようとか、そのへんも気になりましたが、とにかく金太郎らしくいようと。

──巻き込まれないでいることが、この役ではたぶん一番大事だったのでしょうね。

底辺の人間が心から発している言葉なのにそのまま信じないで、上から押さえつけていろんなイメージで語ったり、理解しているようで実は決めつけてへんな同情をするとか、そういう人たちの流れに乗らない金太郎でいようと思いました。

──そういう金太郎だからこそ、伝兵衛や熊田自身に突きつけられるものがあったと思います。

それが今回の伝兵衛さんの最後の長台詞につながっていくのかなと。自分たちのやり方そのものを疑うという意味でも、あの長台詞が語られているのではないかと思っていて。伝兵衛さんは、自分たちはないがしろにされている人間たちを美しい物語として仕立てていくけれど、それでいいのでしょうかと。「法律を作動させ犯人を仕立てあげる私は自分の責務を憂いております」という、あの言葉が本当のテーマだったのかなと思いました。

──時代の闇と不条理を嘆くあのモノローグは、今回の舞台では語られるのが必然だったのですね。その意味でも大山金太郎を演じた奥田さんの存在は大きかったと思います。もちろんキャストの皆さんがそれぞれ素晴らしくて、チームワークの良さも感じました。

それこそ伝兵衛役の石橋さんが話し合いが好きな方なので、みんなもそれに呼応してよく話し合ったし、そういう時間があったことで僕も自分の考えを整理できたし、いろいろ発見がありました。

──ディスカッションでの作り方は文学座の伝統ですね。

演技を考える基準とかアプローチが一緒だからできることで、さらにそこにそれぞれの個性とか考え方が加わるので、話し合うことですごく触発されます。それを1年やってきましたから。この作品は去年上演するはずでしたが、稽古を4週間やったところで中止になってしまって。今思うとあのまま初日になっていたら、こんなにちゃんと出来てなかったかもしれません。

──演出の稲葉さんも1年間で作品の捉え方が変わったと言っていますね。

最初はつかさんの演出のイメージが強くて、僕も思わず見得を切ってしまいそうになったり、今のように素朴にはやっていなかったんです。そういう意味では時間があったことは良かったのですが、俳優としては舞台がないというのは本当に何もできないので苦しかったです。演劇は不要不急と言われて、それこそ伝兵衛の長台詞に出てくるレーゾンデートル、存在意義をすごく考えました。3か月間ずっと家に閉じこもって、自分はなぜ役者をやっているんだろうとかずっと考えていましたから。それは稲葉さんや役者全員が考えていたことで、この1年、自分たちの存在意義とか社会の格差などをリアルに感じたことが、この作品作りにも大きく役立ったと思います。

ジャンガリアンの話を、違う国の人が来ることに重ねて

──そして今度は、11月公演の『ジャンガリアン』に出演することになりました。横山拓也さんの作品は?

何回か拝見したことがあります。『あつい胸さわぎ』とかすごく好きでした。僕の勝手な解釈なんですが、横山さんの世界は、日常の無駄なように思える会話の中に、ちょっと重いものとか棘のあることがチクッと入っていて、その傷口がだんだん大きくなっていって、最後に溢れ出すという感じなんです。でも、出演者が「実はこういうことがあって」とか吐露するシーンでも押しつけがましくなくて、それこそ素直に訥々と語られるから逆に痛みがすごく伝わってくるし、こちらの心に素直に入ってくるんです。今回の作品も「こんなに苦しいことがあるんです」「こんなに悲しいことがあるんです」と押し出さなくても、お客さんが自然に心を開いて観てくれている中で、「あ、そうだな」と思ってくれる作品だと思います。

──タイトルの『ジャンガリアン』は、ジャンガリアンハムスターを指しているのですね。

舞台となる老舗のとんかつ屋の2階にネズミが出るんですが、ジャンガリアンハムスターを飼ってその縄張りにすることでネズミがいなくなるんです。それを違う国の人が自分のテリトリーに入ってくるという話に重ねてあります。

──奥田さんが演じるのはネルグイ・フンビシという24歳のモンゴルからの留学生の役です

ジャンガリアンハムスターは、モンゴルのウイグル地区ジャンガル盆地が発祥地で、フンビシが貰ってきて、老舗のトンカツ屋の2階にハムスターと一緒に住むことになるんです。たまたまその店の若主人が怪我をしたのでお店も手伝うことになるのですが、店の存続問題や人間関係に巻き込まれて、差別の問題などが出て来てきます。

──その騒ぎの中で、登場する人たちの意識の差などもリアルに浮かびあがりますね。

日本は移民を受け入れるのに抵抗のある人が多いし、差別と意識せずに差別している人も沢山いると思います。それをさりげなく気づかせてくれる作品だと思います。

──演出の松本祐子さんとは2回目ですね。前回の『一銭陶貨~七億分の一の奇跡~』で経験した松本さんの演出はいかがでした?

とにかく情熱的でパワフルで演劇が大好きで愛に溢れている、その熱量みたいなものに刺激を受けました。それに僕は役を考えるとき、自分の考え方で理解しようとしがちなんですが、他の人の考え方を知ることで修正できる。とくに松本さんは考え方が真逆に近いのですごく新鮮です。そのぶん最初は戸惑ったりするのですが、実際にやってみるとそのほうが上手くいく。ですから僕が持っていないものを教えてくれる方だと思っています。

──今回の役についてはどんなふうに演じてほしいと?

とくに言われていることはないのですが、僕自身が外国人の友だちが多いので、その経験でわかるリアルをそのまま出そうとしたら、それを出しすぎないほうがいいと言われました。自分の中でのリアルでも、出てくる表現としてのリアルは、ちゃんと演劇的に考えていかないといけないんだとわかりました。

さりげない起爆剤というか着火剤的な役割りになるフンビシ

──フンビシという人については、奥田さんはどう捉えていますか?

僕としては気づきとなる役どころでいたいなと思っています。素直にやるにしろ意図的にやるにしろ、フンビシの何かの言葉や行動で、他の人たちが差別を持っていることに気づいていく。そういう意味で、さりげない起爆剤というか着火剤的な役割だと思っています。そこのポイントとなる部分で真実味を出していけたらと。

──あるコミュニティに1つ異種が加わることで、そこにあった澱のようなものに気づかせてくれることがありますね。

知らず知らず固定観念でものを考えていた人たちが、何かのきっかけで他の人のやり方とか考え方を認めるようになったりしますよね。この作品もいろいろな問題が明るみに出るのですが、最後はお互いを認め合うし小さな希望のようなものが残るんです。そこが横山さんの作品の良さで、僕が好きなところで。だからずっと出たいなと思っていたので、今回出演できてすごく嬉しいです。

──最後になりましたが、奥田さんが演劇の世界に入った経緯も聞かせてください

中学2年のとき、歴史を学ぶ旅で海外に行く機会があって韓国に行ったんです。そこで歴史的な建物を見学したりする中で、歴史上の出来事についての見方が日本と韓国ではまったく違うことも知りました。それでもっと視野を広げないといけないと思って、その後、ドイツとかイギリスとかスイス、フィリピンにも行きました。フィリピンでは1週間ぐらいホームステイとワークショップをしたのですが、その中で現地の人と僕の感性とがすごく違うことにすごく驚いたんです。それに彼らのものの捉え方や心の豊かさに衝撃を受けました。そして、僕もそういう心の豊かさを持ちたいし、それを表現できる人間、芸術に携わる人間になりたいと。最初は声優を志望してその勉強をしていたんですけど、だんだん舞台のほうが面白くなってしまってやっぱり俳優になろうと。

──眠っていた感受性がいろいろな出会いで目覚めたのですね。

そうかもしれません。とにかく感じたことを素直に出すというのがずっと僕のテーマなんです。まだまだ技術が足りないので、技術をもっと身に付けて、そのうえでどんな台詞も心から言うことができるようになりたいです。

──これからの奥田さんがますます楽しみです。最後にこの『ジャンガリアン』を観に来られるお客様へのメッセージを。

まずは肩肘はらずに観ていただいて、どれか1つでいいので自分の身近なことに重ねて考えてくださったら、きっと共感できることが見つかると思います。その感じた思いを大事にそれからの日々に生きていただけたらと思っています。

 

おくだいっぺい○1991年生まれ、大分県出身。日本工学院専門学校芸術専門課程声優・俳優科卒業。13年に文学座研究所入所、18年4月、文学座座員となる。近年の主な出演舞台は、17年『冒した者』(文学座アトリエ)、18年『うちの子は』(せんがわシアター121)『最後の炎』(文学座アトリエ)『となりのとむらい』(ハイアーザンザサン) 『いじはり』(大森カンパニープロデュース)、19年『罪と罰』(Bunkamura)『COCOON 月の翳り星ひとつ』(ワタナベエンターテインメント)『赤玉★GANGAN~芥川なんぞ、怖くない~』(流山児★事務所)『一銭陶貨~七億分の一の奇跡~』(文学座本公演)『リベリアン・ガール』(ITI×東京芸術劇場)、21年『一銭陶貨 ~七億分の一の奇跡~』(文学座旅公演)『熱海殺人事件』(文学座アトリエ)など。

【公演情報】
文学座公演『ジャンガリアン』
作:横山拓也
演出:松本祐子
出演:たかお鷹 高橋克明 林田一高 奥田一平 川合耀祐 吉野由志子 金沢映実 吉野実紗
●11/12〜20◎紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
〈料金〉一般6,200円 夜割4,500 円[11/12・15夜のみ] 夫婦割11,000円 ユースチケット[25 歳以下対象]3,800 円 中高生2,500円 留学生割2,800円(全席指定・税込)
※ユースチケット・中高生は観劇当日、年齢が確認できる証明書等を要提示。留学生の方は在留カードの在留資格欄を確認。
〈お問い合わせ〉文学座 03-3351-7265(10:00〜18:00 日祝を除く)
〈文学座チケット専用ダイヤル〉0120-481-034(シバイヲミヨー)(10:00~17:30日祝を除く)
〈公式サイト〉http://www.bungakuza.com/djungarian/

【配信情報】
◎=Streaming+にてライブ配信
11月18日(木)18:30開演の回をライブ配信、18日以降は見逃し配信で視聴可。
視聴期間:11月18日(木)18:30~11月24日(水)23:59
視聴チケット料金:3,000円(消費税込・別途手数料)
チケット販売期間:10月11日(月)10:00~11月24日(水)20:00
※購入にはイープラスの会員登録(無料)が必要。配信日2日前からはカード決済のみ。

 

【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】

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