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文学座『挿話』的早孝起インタビュー

戦争を描いた傑作を若い感性で立ち上げる

かつて文学座に所属し、若くして亡くなった作家・加藤道夫。彼が戦時中の実体験を基に描いた傑作『挿話(エピソオド)~A Tropical Fantasy~』(以下『挿話』)が、気鋭の若手演出家・的早孝起により3月14日から文学座アトリエ上演される(26日まで)。この作品は、1949年に文学座が初演し、実に74 年ぶりの再演となる。

1945 年 8 月 20 日、遠い南の果てにある架空の島「ヤペロ島」に終戦の報せが届く。島の住民が歓喜に湧く一方、日本軍の師団長・倉田は終戦を信じられず戦闘準備を命令する。そこに島の住民や侵略により命を落とした亡霊達が姿を現す。軍人として威厳を保とうとするものの、亡霊達と対話するうちに倉田にも変化が……。
幻想の島で起きる混沌を通して、生者と死者、そして戦争の現実が浮かび上がる。

この物語を、2016年に座内の勉強会で朗読劇として一度手掛け、今回はいよいよアトリエの会として立ち上げる演出の的早孝起に、本作への思いを聞いた「えんぶ4月号」のインタビューを別バージョンの写真とともにご紹介する。

自分の中の混乱の元凶を知ろうとする思い

──的早さんはアトリエの会は、21年の『Hello~ハロルド・ピンター作品6選~』に続いて2度目の演出になります。ピンターからこの作品へというのは独特なチョイスですね。

そうかもしれません(笑)。以前、劇団の演出家で亡くなった高瀬久男さんにどんな芝居が好きかと聞かれて、そのとき「俳優を生かすものや俳優によって変わるものが好きです」と答えたのですが、今回『挿話』を演出することで、2つの作品がともに第二次世界大戦にまつわる話であることに気づきました。そして、それは今の時代に自分が感じる違和感に関係があるのだと。政治的な志向を特別もっていない僕でも日常の中で感じる不安や息苦しさ、そういう、自分の中の混乱の元凶を知ろうとする思いが作品に繋がっているのだと今は思っています。

──この作品は、加藤道夫さんが南方に従軍した経験をもとに、架空の島の出来事として書かれています。島の住民と日本の軍人との関係などが生々しく、でも平明にどこかユーモアをもって描かれていますね。

たとえば師団長は住民を当たり前のように「土人」と言うんですが、あちらも師団長を「山豚」というあだ名で呼んでいるんです。彼らにとってはそういう姿なのでしょう。一方で兵隊と住民の間では人間的な交流もあったりする。そして、頑迷で横柄だった師団長が、終戦という現実の中で裸の個としての自分に気づいて混乱していく。そういう生々しい人間の姿を加藤さんはフラットに書いていて、そこに加藤さんの純粋で透き通った眼差しを感じます。戦争は絶対に悪ですが、そこで終わってしまうと本当の姿が見えなくなる。加藤さんは戦争に反対するために書いているというよりも、この戦争の中でも人間にある善なる魂や理想に向かう力、理想とか理念とか、人間の可能性を書きたかったのだろうと思います。

──だからこそファンタジー仕立てにしてあるのでしょうね。演出ではそのあたりをどう見せたいですか?

漠然とした夢物語的にではなく、当時タブー視されていたことや、語られない死者たちのことを伝えるために、俳優さんたちと死者を交流させたいと思っています。そして島自体を擬人化して考えることで、すべての生き物も死者も公平に生きているという加藤さんの視線と繋がるのではないかと思うので、アトリエという空間自体を島にします。そこで観客の方々は、この島のすべてを子どものような眼差しで見つめる、そういう芝居にしたいと思っています。

宮崎駿さんが『挿話』に繋がった!と

──的早さんは文学座の座員になって10年目です。劇団にいてよかったと思うことは?

沢山あります。今回の企画についても周りからいろいろな情報をいただくんです。ある先輩が「堀田善衛さん知ってる?人間を見る目が加藤道夫さんと近いから読んでみて」と。読んでみたら加藤さんとは大学の同級生で、戦後すぐに書かれた『祖国喪失』はアトリエで上演されている。それにどこか僕の好きな宮崎駿さんに作風が似ているなと思ったら、宮崎さんが尊敬する作家として堀田さんの名を挙げていらっしゃったんです。「宮崎駿さんが『挿話』に繋がった!」と、なんとも言えない感動がありました。そういう繋がりは、劇団の長い歴史と様々な世代の方々、劇団に今も在籍する、あるいはかつて在籍した人たちの広がりの中で生まれたもので、その輪の素晴らしさを僕も伝えていきたいし、輪を広げていきたいと思っています。

──劇団の財産を引き継ぐ的早さんのこれからが楽しみです。最後に作品のアピールをぜひ

ポスターに「みんなでヤペロ島へ行こう」とあるように、ファンタジーの中に行けるのが演劇の醍醐味ですから、心が行く、魂が行く、そこで、生と死を超えた繋がりを感じていただいて、観終わって苦しい現実に戻ってきたとき、違う明日や新しい希望が見えてくるといいなと思っています。

 

■PROFILE■
まとはやたかおき○東京都出身。高校演劇部から演劇を始める。和光大学卒業。2008年文学座附属研究所入所。13 年座員に昇格。文学座公演に演出部として参加するほか文学座では多数の演出家の演出助手を務める。演出作品は、文学座シェイクスピアフェスティバル『あらし』、文学座有志による自主企画公演『幸淡小幡小平次』(脚色・演出も担当)、文学青年部『美しきものの伝説』、アトリエの会『Hello~ハロルド・ピンター作品6選~』など。

【公演情報】
文学座3月アトリエの会
『挿話(エピソオド)~A Tropical Fantasy~』
作:加藤道夫
演出:的早孝起
出演:中村彰男 清水明彦 沢田冬樹 横山祥二 山森大輔 相川春樹 小石川桃子
●3/14~26◎文学座アトリエ
〈お問い合わせ〉文学座チケット専用 0120-481034(シバイヲミヨー)(11:00~17:30 日祝を除く)
〈公式サイト〉http://www.bungakuza.com/episode/index.html

 

【文/宮田華子 撮影/田中亜紀】

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