傑作戯曲『ともだちが来た』を3人で上演! 稲葉友、大鶴佐助、泉澤祐希 インタビュー
今、演劇界でちょっと面白い試みを企てている若い役者たちがいる。
上演するのは、第2回OMS戯曲賞大賞を受賞した鈴江俊郎の傑作戯曲『ともだちが来た』。「私」と「友」。かつて高校時代に同じ教室で過ごした2人の、ある暑い夏の別れの物語だ。この2人芝居を、稲葉友、大鶴佐助、泉澤祐希という3人の役者が演じる。
ただし、演出家はいない。自分たちの力で作品をつくり上げていく。しかも配役は当日舞台上で行うコイントスによって決定、さらに千穐楽(11月7日)の2公演は出演者と配役の両方をコイントスで決定するという。どこまでも野心的で、実験的な企画だ。それを27~28歳の役者たちでやるのだから、その心意気に胸がワクワクしてくる。
はたして、この無謀とも言える挑戦からどんなものが生まれるのか。俳優ファンはもちろん、小劇場ファンにも注目してほしい1本が、まもなく幕を開ける。
これを乗り越えられたら役者としての覚悟と自信が深まる気がする
──今回の公演は、稲葉さん自身が企画から入っていると聞いています。自分で企画をやってみたいという気持ちがあったのでしょうか。
稲葉 20代前半の頃は、今よりずっと舞台中心の生活で。その頃からなんとなく最初の部分からやってみたいなっていう気持ちはありました。なんだろう。そこにタッチすることで自分が何か変わるんじゃないかという期待があったというか。単純にどういう感じで公演ができているのか知りたかったという好奇心もあったし。
俳優をやっていると、いろいろ準備が整ってから入ることが多いので、感覚的にしかわからないんですよ、その前行程がどうなっているかって。だから1回経験してみたかった、というのがいちばん近いかもしれないです。
大鶴 俳優って作品に呼んでもらって成立する職業だから、どうしても受動的になるところがあって。でもやっぱり能動的に何かものづくりをしてみたいという気持ちは僕にもあるので、稲葉くんの言ってることはわかるし、シンパシーを感じますね。たぶんこれをやることで、役者としての分厚さにつながるだろうなって。
泉澤 僕も監督とかつくり手側にはめちゃくちゃ興味があって。やれる機会があるならやりたいと思うし。磯村勇斗が監督をやったりとか、最近若手にもそういうチャンスがまわってくる場が増えてきた気がして、それはすごくいいなと思います。
友くんの言う通り、俳優側だけやっているとわからない部分って多いし、監督の苦労まで知ることで、参加する作品への思い入れも強くなると思うんですよね。そこに一歩踏み込んでいけるのが、今回の企画の楽しみな部分です。
──しかも今回は演出を入れず、俳優3人でつくるというスタイルです。
稲葉 演出家を立てるという案ももちろんあったんですよ。でも、今後この仕事を続けていけば、演出家がいて、普通に自分が俳優部の仕事だけする現場の方が割合的には確実に多い。だったら、ここで1回演出家がいない舞台をやってみてもいいんじゃないかって。攻められるだけ攻めたというか、こっちの方がなんだか面白いんじゃないかという選択肢ばっかり選んだら、なんかすごいいびつなかたちになったっていう…(笑)。
大鶴 演出家がいない分、公演の責任は自分たちにのしかかってくるじゃないですか。それってすごいリスキーだけど、そのリスクを背負って乗り越えることで、役者としての覚悟と自信が深まる気がしています。しかもそれを20代のうちにやれることが大きくて。
稲葉 それは思う。20代のうちにっていうのは、僕も意識したところで。
大鶴 僕も以前、演出家をつけずに、姉貴と一緒に2人芝居をつくったことがあって。そのときはきょうだいだからっていうのもあると思うけど、一瞬、ものすごい仲が悪くなった(笑)。
泉澤 えー(笑)。
大鶴 だから、今回は3人っていうのがありがたくて。
稲葉 そこなのよ。2人じゃないのよ。
大鶴 2人だとやっぱりぶつかり合うから。
稲葉 3人だとバランスがとれる。
大鶴 しかも同性だし。あときょうだいじゃないから。
泉澤 確かに。きょうだいはめっちゃ喧嘩しそう(笑)。
稲葉 想像を絶するね。
大鶴 どっちかが火がついたら戦争だから、もう片方が我慢するしかない(笑)。でも今回はこの3人ならいい意味で能動的に作品づくりができる気がします。
稲葉 こういう企画だから、共演する俳優は楽しい人がいいなと思って。自分が信用できる、信頼できる人がということで、この2人に声をかけさせてもらいました。共犯者ですね。
泉澤 言い方悪いな(笑)。でも3人で本読みをしてみて、演出家がいなくて役者だけでつくるというのは、実は本来あるべき姿なのかなとも思った。
稲葉 わかる。あっていいよねっていう感じがした。
泉澤 もちろん演出家がいることで1本筋を通しているところはあるんだけど。それとは別に、役者たちが自分たちで動いたり台詞を言ったりしながら、ここはこうだよねって自由に言い合えるのがすごい楽しいというか。
大鶴 たぶん稽古ではいろんなことを試していくんだろうなと思う。とにかく試せるものは全部試したい。
泉澤 演出家がいたら絶対これはできないっていうこととかやりたいですよね(笑)。
稲葉 とりあえず1回やってみようって。見るだけ!見るだけだから!って言って(笑)。
大鶴 で、見て、それはなしだなと(笑)。
稲葉 そうそう。やってよかった~、絶対ないわこれ、みたいな(笑)。
泉澤 その全然なしだっていうのを今回は思い切りやってみたいです。
稲葉 とりあえず出せるものは全部出していきたいよね。この『ともだちが来た』って、大人しくやろうと思ったら大人しくできちゃう本でもあると思うから。もちろんいろいろ試した結果、静かでぎちぎちにつまった芝居になるかもしれないけど、僕たちがやるとなると、そうじゃなくなりそうだねみたいな話はしていて。トライ&エラーがいっぱいできる、ポジティブなエネルギーの交換を稽古場では多めにしていけるといいなという感じです。
朝食のバイキングでとりすぎちゃった人っていう気持ちです(笑)
──今回は演出家がいないだけでなく、配役も当日にコイントスで決めるという型破りな企画です。なぜこうも難題を背負いこむのかと思いました(笑)。
稲葉 本当それですよね(笑)。
泉澤 どうしたんですか(笑)。コイントスってなんですか。
稲葉 そういうのもあるよってスタッフさんから聞いちゃって。さっきの演出家がいるいないと同じで、これからの俳優人生、コイントスで配役を決める公演がどれだけあるかといったら、これが最初で最後だろうなと。だったら今後やれなさそうなことはここで全部やっておこうって。欲張りセットですね。今回はバリューセットでお送りしています(笑)。
大鶴 普通、役が決まった上で本番に臨むじゃないですか。そのときの緊張感と、コイントスまでどっちの役をやるかわからないときの緊張感ってどう違うんだろうって。やってみないとわからないですけど、どういう感覚になるかはちょっと気になりますね。
泉澤 たぶん僕、初日漏らしますけど、大丈夫ですか?(笑)
大鶴 台詞が飛ぶこととか本当にありそうで怖いんだよなあ…(苦笑)。
泉澤 今回、僕の気持ちとしては失敗しにいこうっていう感じなんで。
大鶴 その心構えはいいと思う。
泉澤 なので、思い切り突っ切っていきますよ。
稲葉 僕の気持ちとしては朝食のバイキングでとりすぎちゃった人っていう感じです(笑)。お皿の上に全部乗せ。
泉澤 そんな食えない(笑)。
稲葉 でも食うんだよっていう(笑)。そんな企画ですね。たぶん毎日の本番のフレッシュさが普通の演劇の比じゃないと思う。
大鶴 そういう意味ではいいですね。
稲葉 みんな毎日初日みたいな顔していると思う(笑)。2日目なんて概念はないから。
泉澤 同じ配役同士でもまったく違うものになりますもんね。そこは楽しめると思います。
大鶴 舞台って役者が裸になるって言いますけど、この舞台は本当に裸になる(笑)。
稲葉 余計なものは一切持てない。裸で突っ込んでいくのみです。
ただ来る仕事を受けているだけじゃ前に進んでいかない
──3人は同世代。20代後半の役者として、もっとこうなっていかなければいけないという、ある種の危機感や飢餓感はありますか。
泉澤 それこそ受動的になりがちというところはかなり危機感があります。これからって、役者も自己発信していかないといけない時代になってくる気がするんですよね。
大鶴 SNSが普及して、自分の作品を発表できる場が増えてる。面白ければ評価されるし、うまくいけば海外の人にも自分のやっていることを見てもらえるチャンスがある。
泉澤 そういう意味でも、ただ来る仕事を受けるだけじゃ前に進んでいかないんだろうなというのはひしひしと感じています。
大鶴 僕はやっぱり劇場をもっと日常に近いものにしたいという願望は強く持っていますね。今の日本って、映画館に映画を観に行く感覚と、劇場に舞台を観に行く感覚にかなり差があると思うんですよ。もちろん演劇を好きな人もいるけど、お休みの日に舞台を観に行くのが普通という人はかなり少ない。
ひとりの日本人として、演劇がもうちょっと生活に身近になればいいなというのは常に思っているし、そのためには面白いと思える作品を僕たちがちゃんと提供していくことが重要。そこをちゃんと担える役者でありたい。自分で劇団を旗揚げしてやっているのも、もっといろんな人に演劇の楽しさを知ってほしいという想いがあるからなんですよね。
稲葉 2人の言ってることは本当にその通りだと思う。こうやって役者が企画の立ち上げからやることが必ずしも正義だと思っているわけではないけど、こういうことができる場がもっとあっていいよねとは思う。
お仕事をいただけるのは最高だし、この監督とやれるっていうだけで他の条件は一切無視して飛び込むときもある。だから別にプレイヤーだけをやっている自分を否定しているとかではまったくなくて。
なんだろうな。こうやって企画からやったという経験が各々の中で残ると、それだけで今後怖いものが少し減る気がするんですね。それに、また何か面白いチャンスに出くわしたとき、やっていいんだってフットワークが軽くなる。それはすごく大事なことだと思っていて。20代のうちにやっておきたかったっていう話をしましたけど、でも20代前半だとたぶんできなかっただろうし。そういう今じゃなきゃダメだっていうタイミングってこれからも絶対あるから。そこを逃さないように、飛び込めるときに迷わず飛び込める感覚を、ちゃんと研ぎ澄ましていたいなって思います。
■PROFILE■
いなばゆう○1993年生まれ、神奈川県出身。2010 年ドラマ『クローン ベイビー』(TBS)にて俳優デビュー後、多くのドラマ、映画、舞台に出演。近年の主な出演作に、ドラマ『小吉の女房 2』(NHK BS プレミアム)、『病院の治しかた』(TX)、『ギヴン』(FOD)、映画『シライサン』(安達寛高監督)、『ホテルローヤル』(武正晴 監督)、舞台『エダニク』(鄭義信 演出)、『ぼくの名前はズッキーニ』(ノゾエ征爾 演出)ほか。J-WAVE『ALL GOOD FRIDAY』(毎週金曜 11:30~生放送)にてナビゲーターを務める。映画『ずっと独身でいるつもり?』(ふくだももこ監督)が11/19(金)公開のほか、長編初主演作となる映画『恋い焦れ歌え』(熊坂出監督)が来春公開予定。
おおつるさすけ○1993年生まれ、東京都出身。2005 年、映像デビュー。ドラマ、映画、舞台など幅広く活躍。近年の主な出演作に、【TVドラマ】『ネメシス』(NTV)、【映画】『劇場版 ひみつ×戦士 ファントミラージュ!』、【舞台】『MANN IST MANN -男は男だ-』(19)、『エダニク』(19)、月影番外地『あれよとサニーは死んだのさ』(19)、『いかけしごむ』(20)、『ボクの穴、彼の穴。』(20)、『両国花錦闘士』(20)、『ピサロ』(21)、『リボルバー』(21)など多数。鄭義信らと立ち上げた新劇団「ヒトハダ」の座長を務める。
いずみさわゆうき○1993年生まれ、千葉県出身。2014 年、初主演ドラマ『東京が戦場になった日』(NHK)以降、幅広く活躍。主な出演作に【舞台】ナイロン 100℃『百年の秘密』、【映画】『マスカレード・ナイト』『茜色に焼かれる』『今日から俺は!!劇場版』『マスカレード・ホテル』『サバイバルファミリー』『君と 100 回目の恋』『過ぐる日のやまねこ』、【TV】『白い濁流』『ナイト・ドクター』『青の SP-学校内警察・嶋田隆平』『少年寅次郎』『わたし、定時で帰ります』『ひよっこ』等がある。
【公演情報】
『ともだちが来た』
原作:鈴江俊郎
監修:中山祐一朗
出演:稲葉友、大鶴佐助、泉澤祐希
企画:稲葉友
●10/27~11/7◎浅草九劇
〈料金〉劇場観劇チケット:4,800円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
取り扱い:チケットぴあ https://w.pia.jp/t/tomodachigakita/
オンライン生配信チケット:2,500円(税込・24時間アーカイブあり)
取り扱い;PassMarket
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/02mpbistfjw11.html
※オンライン生配信対象公演は10/31(日)13:00開演・11/4(木)19:00開演/11/7(日)13:00開演の3公演
〈公式サイト〉https://asakusa-kokono.com/kyugeki/2021/08/id-9572
【取材・文/横川良明 撮影/岩田えり】
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