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人生の輝きを描く、桑原裕子作・演出、川野太郎・モロ師岡・デビット伊東『サンセットメン』上演中!

撮影・保坂萠

プリエールプロデュースの新作『サンセットメン』が、7月16日から東京芸術劇場 シアターウエストで上演中だ。(24日まで)

作・演出は劇団 KAKUTA 主宰で、作家・演出家・女優として幅広く活躍する桑原裕子。
キャストは川野太郎・モロ師岡・デビット伊東を中心に、山本芳樹、三津谷 亮、岩橋道子、山野 海、小飯塚貴世江、山口森広、松村泰一郎、吉田紗也美と、幅広い年代から実力派の役者たちが集結した。

物語の舞台となるのは、海沿いの町「海凪町」の歓楽街にある老舗キャバレー「落暉館(らっきかん)」。
栄華を誇った70年代からすでに半世紀、時代の移り変わりで今や見るかげもなく、昼は定食屋を営業してなんとかしのいできたが、ついに最後の日を迎えることに。そのラストデイを飾るため、かつてそのステージで輝いていた「サンライズボーイズ」のメンバーだった3人が集まる。だがアラ還3人のステージはさんざんな出来で、そのうえ3人は、なぜかそのラストディを何度も繰り返すことになって……。

同じ1日を繰り返さなくてはならなくなった3人は、繰り返しの中で自分の過去と向き合い、自分について改めて考え、自分と周囲の未来を見つめ直していく。そのための繰り返しと3人の変化がこの作品の見どころになっている。

ストーリーの軸になる「サンライズボーイズ」の3人を演じるのは川野太郎・モロ師岡・デビット伊東。年齢とともに重ねた陰影がそのまま役に生かされて、リアルで等身大の深みと面白さを醸し出す。

川野太郎の演じる日向光太郎は、大手プロダクションに引き抜かれて東京で売り出したものの、今や通販番組と警備員のバイトで暮らしている。だが歌手としてのプライドは捨てきれないままで、どこか敗北感に似た思いを抱えて生きる光太郎を、川野はスターだった男の華やかさを残しつつ、哀愁も漂わせて演じる。

その兄の久一郎は、老舗キャバレーをついに閉店させることになった無力感に加えて、妻が突然家出してしまうという衝撃に、すっかり落ち込んでしまう。トイレに閉じこもる姿は可笑しみの中にも放っておけない可愛さがあって、モロ諸岡ならではアイロニーが漂う。

デビット伊東が演じるのは、今は地元で酒屋を営んで地道に暮らしている初島竜也。妻を亡くしたことで愛娘から子離れできないのが弱みで、生活力のある男の頼もしさとは裏腹に、娘の行動や言葉にいちいち振り回される姿に父親としての悲哀を滲ませる。

そんな3人と、彼らを囲む8人の登場人物の人生模様が、ツッコミやボケを交えた台詞の応酬と、テンポのよい展開の中で、鮮やかに綴られていく。

光太郎の別れた妻で今は獣医となっている夏木真夜を演じるのは岩橋道子。かつてはスターの夫に依存していた女性の、自立したからこその優しさと程よい距離感を見せてくれる。

久一郎の妻充子とその双子の妹実子を演じるのは山野 海。両極端な性格の姉妹という設定を、大きな振り幅で演じ分けてみせる。とくに実子では、グループ企業を率いる女社長というアクの強さを前面に出して、この舞台の強力なスパイスとなっている。

竜也の愛娘の朝を演じるのは吉田紗也美。恋する若い娘のひたむきさをまっすぐに表現、デビット伊東との父子の情愛が心地よく温かい。

キャバレー落暉館には3人の従業員が最後まで残っていて、その中で最古参なのが、雑用係の梶悟。髭モジャのおっさんで一見地味な脇キャラなのだが、演じているのが山本芳樹なのはそれなりの理由があって、後半でその正体を見せて一気に場面をさらっていく。

三津谷亮が演じるアルバイトの片野海太はデスメタルのロッカーだが、落暉館の閉館とともにバンドも卒業することに決めている。三津谷は、一見軽そうな海太の中にある真面目で誠実な一面をさりげなく覗かせて魅力的。

小飯塚貴世江が扮する入間とき枝は、落暉館のホステスで昼は定食屋の店員も兼ねている。まるで我が家のようにこの店に馴染んでいて、落暉館のラストディといえども変わらないその日常感で、この作品の根底にある絆のようなものを伝える。

光太郎のマネージャーの田野辺浮夫を演じるのは山口森広。鉄骨の階段を見ると「トゥナイト」を歌いたくなるクセや、マネージャーらしい気遣いがチャーミングで、おまけにギターでとき枝とデュエットしてみせるなど、さまざまな飛び道具で楽しませてくれる。

松村泰一郎が演じるのは、この町出身のご当地歌手として人気の円美純。落暉館の最後のショーにゲストとして呼ばれたものの、アクシデントで歌えなくなって……イケメン俳優ながら身を挺して笑いを取りに行く松村に拍手。落暉館への過去の思い出を語る場面はしみじみと涙を誘われる。

劇中で歌われる昭和の歌謡曲やブルース、ポップスのノスタルジックな曲調、そしてオープニングやラストで繰り広げられる華やかなショーは、芸能の原点に体ごと引き込んでくれる高揚感にあふれていて、「サンライズボーイズ」が歌う中尾諭介によるオリジナル曲「夕空、焼けて」と「サンセットメンのテーマ」には、夕陽の輝きに自分の人生を重ねる人々の思いが託されていて、心に沁みる。

フィナーレ、その歌の歌詞そのままに真紅のタキシードで登場する「サンライズボーイズ」の3人は、すでに色褪せていたアラ還の彼らではなく。このままでは終わりたくない、まだまだ輝ける、そんな思いに魂を熱く燃やして、ただ眩しい。

【公演情報】
プリエールプロデュース『サンセットメン』
作・演出:桑原裕子
出演:川野太郎 モロ師岡 デビット伊東
山本芳樹(Studio Life) 三津谷 亮 岩橋道子(ラッパ屋) 山野 海(ふくふくや)
小飯塚貴世江 山口森広(ONEOR8) 松村泰一郎 吉田紗也美
●7/16~24◎東京芸術劇場 シアターウエスト
〈料金〉一般/前売5,500円 当日5,800円 22 歳以下/前売4,500円 当日4,800円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※22歳以下入場時身分証提示
〈お問い合わせ〉プリエール 03-5942-9025(平日11:00~18:00)
〈公式サイト〉https://priere.jp/

 

【文/榊原和子】

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