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世界的人気ゲームを初めて歌舞伎化! 新作歌舞伎『FINAL FANTASY X』製作発表レポート

壮大な旅の始まりと終わりを一日ですべて追体験できるスペシャルな公演!
人気ゲーム『FINAL FANTASY(以下FF)』シリーズのなかでも屈指の輝きを放つ第10弾『FFX』。キャラクターボイスの採用やフェイシャルアニメーションの採用によって、大いなる脅威に立ち向かう少年と少女の物語を感情豊かに描いたこの作品は、世界累計出荷・DL販売本数2,110万本以上を記録し、ゲームの金字塔を打ち立てた。

これまで『NINAGAWA十二夜』『マハーバーラタ』『風の谷のナウシカ』など、挑戦的な新作歌舞伎を作ってきた尾上菊之助が、コロナ禍のステイホーム期間中で先が見えない暗闇のなか、再び手に取ったこのゲームがきっかけで、伝説の『FFX』が20年の時をこえて新作歌舞伎の通し狂言『FFX』としてよみがえることとなった。

超巨大スクリーンを有し、座席が360度回転するIHIステージアラウンド東京(豊洲)にて、2023年3月4日から上演が予定されている(4月12日まで)。前後編を通して観れば8~9時間の大長編となる意欲作である。

脚本は、NHKの連続テレビ小説『おちょやん』や『家政夫のミタゾノ』『下町ロケット』など、大ヒットドラマを手掛け、繊細な人間ドラマを紡ぐ八津弘幸。演出は、大物ミュージシャンのコンサートや『ドラゴンクエスト ライブスペクタクルツアー』など、大規模なショーの演出に定評のある金谷かほり(菊之助との共同演出)と、適材適所のブレーンが集まった。

出演者は、スピラに迷い込んだ謎の少年で、ブリッツボール(水球のような競技)の選手であるティーダに菊之助。
亡き友との約束を胸に秘めた伝説の剣士アーロンに、歌舞伎の枠を超えて活躍している中村獅童。
幼少期の家族関係が原因で歪んだ思考の持ち主で、グアド族の若き族長シーモアに、映像でも話題沸騰中の尾上松也。
無口だがユウナを守ろうという決意は誰より強いロンゾ族の青年キマリに、その美声をいかした活躍でも知られる坂東彦三郎。
ユウナの姉のような存在で、しっかり者の女黒魔導士ルールーに、進境著しい若手花形の中村梅枝。
父の遺志をついでスピラを救う旅に出る召喚士の少女ユウナに、『風の谷のナウシカ』のヒロイン・ナウシカ役が記憶に新しい中村米吉。
ブリッツボールの選手兼コーチという兄貴肌で、ルールーの幼馴染で共にユウナを守るワッカに、様々な舞台で経験を積んでいる中村橋之助。
元気で頑張り屋、ユウナを守るアルベド族の少女リュックに上村吉太朗。
それぞれ注目のメンバーが揃った。
さらに、アルベド族の族長で、飛空艇を操る剛胆だが優しいリュックの父シドに中村歌六、ユウナの亡き父で、スピラをかつて脅威から救った名召喚士ブラスカに中村錦之助、ブリッツボールの名選手で、行方不明になったティーダの父ジェクトに、大河ドラマで人気爆発の坂東彌十郎などのベテラン勢も力を貸し、豪華な座組みとなった。

《あらすじ》
◎前編(開場11:30 開演12:00)
大いなる脅威『シン』に人々がおびえて暮らす、死の螺旋にとらわれた世界スピラ。そんなスピラへと迷いこんだ少年ティーダ。そこで可憐で気丈な召喚士ユウナと出会う。ユウナの目的はただ一つ。『シン』を倒すこと。そのための『究極召喚を手に入れること』であった。ユウナの決意に胸をうたれるティーダは同じくユウナを援護する仲間たちと共に旅にでる。水球競技ブリッツボールでの熱戦や、父の盟友アーロンとの再会により、一行は「真実」に近づくこととなる。だがそこに立ちはだかるグアド族の族長・シーモア。「死の安息こそスピラの願い」というゆがんだ考えを抱いている男である。その原因ともなった彼の幼き頃の悲哀に満ちた物語とは果たして……。

◎後編 (開場17:00 開演17:30)
グアド族の族長・シーモアの策略はティーダたちをますます追い込んでいく。狡猾なシーモアは、ユウナを誘拐し、彼女を利用するために政略結婚を企てる。それに抗った一同は反逆者の汚名を着せられ、旅の中断を余儀なくされる。絶望し泣き崩れるユウナを見て、ティーダはなんとしても彼女を守りぬこうと決心。出会った頃から互いに惹かれあっていた二人は秘めた恋心に身を委ねるのであった。一同は決意を新たに、再び『シン』を倒す究極召喚を手に入れるために立ち上がる。だがそこに待ち受けていたのは衝撃の出来事……『シンの正体』『究極召喚と引き換えになってしまうユウナの命』そして『ティーダの存在の真実』……。彼らはそれを乗り越え、自分たちの物語をつむごうとする。

《会見レポート》

11月下旬、都内でその製作発表が開催された。尾上菊之助、中村獅童、尾上松也、坂東彦三郎、中村梅枝、中村米吉、中村橋之助、上村吉太朗に加えて、SQUARE ENIXの北瀬佳範(『FFX』プロデューサー、今回の監修)と総勢9名が出席し、華々しい会見となった。

尾上菊之助

コロナ禍当初、公演が中止となり、先の見えなかった苦しい期間が奇貨となった。元は“ゲーマー”だった菊之助は、ステイホーム期間中に久しぶりにゲーム機を買い直し、以前やって心に残っているゲームをやろうと思って手に取ったのが『FFX』だった。「PS2の2001年当時にさせていただいたが、ゲームではなく映画を観ているような感覚になった。登場人物がフルボイスで、それまでのゲームでは自分が主人公でプレイしていたのが、キャラクターに感情移入してキャラクター目線でプレイしたのが『FFX』の世界で、非常に感動した。次の新作歌舞伎を作りたいと思っていた矢先に『FFX』に巡りあい、今の(コロナの厳しい)状況で力強いメッセージになると思い、仲間たちと相談し、企画書を作り、SQUARE ENIXさんの門を叩きました(笑)。まだ対面での面会ができなかったので、ビデオレターを作ってお送りしました」と振り返る。

北瀬佳範

この思い切ったオファーに、北瀬プロデューサーは驚きつつ「そこで語られることが、しっかりゲームをプレイして、テーマやキャラクターなどを理解された上でのお話だったので、『FFX』を預けて再び蘇らせてもらうには、まったく不安のない方だと思った」と太鼓判を押す。

新作歌舞伎『FFX』について「登場人物たちは、初めはバラバラだが、物語が進むうちに心を通わせ合い、それぞれの葛藤を越えながら成長していく。1人がみんなのために、みんなが1人のために、互いを思い合いながらシンという強大な敵に向かい、諦めない姿勢は、コロナ禍の世界、戦争が起きている世界に強いメッセージになる」と菊之助。メンバーには、菊之助が直接オファーしたという。当時の心境や、衣裳合わせの感想などをそれぞれに尋ねた。

中村獅童

菊之助との共演は約10年ぶりという獅童は「私自身も家にずっと籠って、自分の生き方や歌舞伎界のこれからを考えるなか、菊之助さんの熱い気持ちを伺って賛同しました。熱い心に応えられるよう一生懸命勤めさせていただき、菊之助さんについていきたい」と誓いを新たにした。「衣裳合わせも立ち会ってくださり、お互い意見を出し合いながら、楽しく作りました。袖を通した時は、テンションが上がりました。新しいものを菊之助さんと一緒に作れる喜びが一番大きい」と頬を緩めた。

尾上松也

オファーまでは『FFX』をよく知らなかった松也。「『FFX』を歌舞伎にしたいと聞いた時、非常に驚くと同時に、コロナ禍でも常に前進しようとするお兄さんの姿勢に感動した。非常に嬉しく光栄で、微力ながら力になれれば。皆さんが観たことのない歌舞伎体験をしていただけるよう勤めたい」と意欲を見せた。「衣裳を着て撮影した時は、すごく高揚感が沸き上がった。この衣裳と鬘をつけてやるんだとリアルに想像できるようになると、舞台ではこうしたほうがいいのではという想像が自然とでき、知らず知らずのうちに舞台へのボルテージが上がった」と、気持ちの高まりが取材陣にも伝わってきた。

坂東彦三郎

菊之助とは同じ菊五郎劇団育ちの彦三郎。「歌舞伎で新作を作ったり、外部出演に誘ってくれたり、新春の国立劇場では復活狂言で100年近く埋もれていた作品に今の息吹を入れたり、歌舞伎を再構築する姿を見てきたので、彼から誘われたことが嬉しく、一つ返事で「はい、やります」と言った」と信頼関係を感じさせた。「皆さんが気になるのがキマリのコスチュームだと思います(笑)。菊之助さんも再現度が高いと言ってくださったし、米吉さんと松也さんは、写真を送ったら爆笑してくれたので、キマリとしてハマったかな? でも歌舞伎の要素をしっかりと入れていて、ここから稽古して歌舞伎のキマリを作っていくなかで、第一歩として大成功という感じの衣裳です」と自信をのぞかせた。

中村梅枝

普段から菊之助と共演も多い梅枝は、すでに『FFX』をクリア5周目の猛者。「『FF』という大きなコンテンツの役をいただき大変光栄です。世界中で愛されているゲームなので、怖い思いもありますが、ティーダとユウナの旅を少しでも支えていけるよう、原作に敬意をもって演じたい」と責任感を滲ませた。「ルールーは非常に色気のある大人の女性の服装ですが、それを和装に仕立て直してくださり、見た瞬間に「ああ、これはルールーだ」とわかるような衣裳で、非常に満足しています」と嬉しそうな表情。「役をいただいて、改めてルールーばかり見てゲームしてみました。そういうのは初めてで、新しい発見があって面白かった」と梅枝。その発見が役作りにどう活かされるか楽しみだ。

中村米吉

『風の谷のナウシカ』で菊之助が新作に挑む姿を傍で見てきた米吉は「このゲームをプレイしながら、こんなすごいヒロインをやるんだ、心して勤めなければと思いました。ティーダとユウナは、どこか淡い恋心を抱きながら旅を続けます。ここまで男女の恋仲は(菊之助との共演で)ないので、それもちょっと楽しみ」と照れ笑い。「(原作では)上半身は肌がほとんど露出していて、さすがにそういうわけにはいかないので工夫して、そこからもっと歌舞伎らしい、豊かな、舞台衣裳として素晴らしいものができました。とにかくユウナが魅力的であるほど、作品がより面白く、より切なくなると思うので、まずはビジュアルの再現度を頑張りたい」と、ヒロインの矜持をみせた。

中村橋之助

松也と同じく、オファー後に初めて『FFX』をプレイした橋之助は「友達に『FFX』の大ファンがいて、まだ詳しく知らないと言ったら「橋之助君がまだストーリーを知らないことが羨ましいぐらい良いお話だから、むちゃくちゃ楽しんで」と。ワッカらしく、楽しくのびのびと、お兄さん方の力を借りながら、『FFX』の力になれるよう一生懸命勤めたい」と溌剌と語った。「原作ファンの方が多いので、不安がありましたが、衣裳もとても歌舞伎らしく、(撮影当日)菊之助のお兄さんが「いいよ、いいよ! ワッカだよ!」とどんどん機嫌が良くなったので、舞台が楽しみです」と笑った。

上村吉太朗

吉太朗は、なんと『FFX』と同い年。「この作品は2001年に発売、私が生まれたのもちょうど2001年で、ご縁のある作品だと思います。とても重要なキャラクターだと思うので、大切に勤めたい」と最年少ならではの決意表明。「すぐ「FFX リュック」でググったら、リュックもすごい露出で、僕にこんな格好ができるか不安でしたが、歌舞伎の衣裳にしていただいて、金髪(の鬘)もかぶって。人生で一度も髪を染めたことがないので、楽しみたい」と期待を膨らませた。

会見では、菊之助があえて3つに絞ったという見どころ映像が流れた。まずは、ティーダとユウナが初めて秘めていた恋心を通わせる場面で、映像美あふれる「マカラーニャの森」。この水中の名シーンについて、菊之助は「IHIステージアラウンド東京では8mの巨大スクリーンがあるので、映像を使いつつ、歌舞伎には本水(ほんみず)という本物の水を使った立廻り(タテ)などがありますが、演出の金谷かほり先生と相談して、今回は水を使わずに表現できないかというところに辿り着いています」と語った。ラブシーンについては「歌舞伎でも色事、色模様というものがあり、キスシーンみたいな表現の仕方もある。心を形にするのが「型」だと思います。先人たちが築き上げてくれた型に落とし込みつつ、ティーダとユウナならではの感情を、新しい型を生み出せるところまでもっていければ」と語った。

次に、ユウナが死者の魂を鎮める「異界送り」。表現には日本舞踊を使う。「美しくもあり、とてもこわいような儀式をどう表現するか、振付家の尾上菊之丞先生と相談しながら、これも映像を使いつつ、日本舞踊と融合する世界がどう再現できるか、ご期待いただければ」と菊之助。

そして「ブリッツボール」、こちらもあえて本水を使わない。菊之助は「水の代わりになる表現を、お客様にアッと驚いていただけるような最先端のテクノロジーを使いつつ、山崎咲十郎さん、尾上菊次、中村獅一さんという心強い百戦錬磨の立師(たてし)が入ってくださるので、みんなでブリッツの世界観を表現しつつ、歌舞伎ならではの立廻りとして表現したい」と自信を見せた。

名場面以外にも要注目の見どころが、ティーダと父のジェクト、ユウナと父のブラスカ、シーモアと父のジスカルという3組の親子の物語だという。菊之助は「ジェクトはティーダに対して愛情表現があまり得意ではない親子。ユウナとブラスカは、子どもがとてもお父さんをリスペクトしている親子。ジスカルは、シーモアに対して誤解を招くような愛情表現しかできない。3組さまざまな親子模様があり、これは現代にも通じる親子関係という感じがする。『FFX』はゲームだからわからないという方もいるが、キャラクターの葛藤や親子関係、感情は決して遠い世界の話ではなく、普遍的なもの」と語った。特に父と子の関係が深い歌舞伎界にあって、より感じるところがあるのかもしれない。ゲームではシーモアとジスカルのエピソードは回想だが、歌舞伎版では、シーモアがなぜ闇落ちしたのかはっきりわかる脚本になっている。原作ファンこそ必見のポイントだ。

また今回の公演では、観客が長丁場を少しでも快適に過ごせるようさまざまな工夫が凝らされている。まず、全席シートに長時間座っても背中や臀部に優しい高弾性ウレタンフォームクッションを設置。また、休憩時間にはロビー内の併設カフェやキッチンカーで公演限定フードやドリンクが楽しめる。IHIステージアラウンド東京初の歌舞伎公演を記念して、劇場横には幟(のぼり)も立つ。さらに近隣ホテルとのコラボで、日帰りプラン、宿泊プラン、特製ケーキセットの販売も決定し、観劇の前後や幕間の過ごし方も含めて楽しめるようになっている。

公演に向けた準備を尋ねられ、菊之助は「このなかでIHIステージアラウンド東京に出演経験があるのは松也さんだけ。伺うと、劇場のなかの動線を理解するのが大変ということと、結構長距離を走り回らなければいけないので、体力作りを考えています」と苦笑いした。

新作歌舞伎『FFX』が私たちの前に全貌を表すまであと少し。新たな伝説の幕開けを、そしてティーダたちのザナルカンドへの旅の結末を、ぜひその目で実際に確かめてほしい。

【公演情報】
新作歌舞伎『ファイナルファンタジーⅩ』
〈配役〉
尾上菊之助/ティーダ
中村獅童/アーロン
尾上松也/シーモア
中村梅枝/ルールー
中村萬太郎/ルッツ、23代目オオアカ屋
中村米吉/ユウナ
中村橋之助/ワッカ
上村吉太朗/リュック
中村芝のぶ/ユウナレスカ
坂東彦三郎/キマリ
中村錦之助/ブラスカ
坂東彌十郎/ジェクト
中村歌六/シド
ほか

●2023/3/4~4/12◎IHIステージアラウンド東京(豊洲)
※休演日:3月8日(水)、15日(水)、22日(水)、29日(水)、4月5日(水)
〈前編・後編通しチケット料金〉SS席32,000円 S席28,000円 A席24,000円 B席19,800円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※SS席/非売品オリジナルCGビジュアルアクリルスタンド付き、S席/オリジナルCGビジュアルポスター付き
※SS席、S席の非売品特典グッズはご観劇日当日、劇場内でのお渡しとなります。
〈前編のみ後編のみチケット料金〉SS席18,000円 S席16,000円 A席14,000円 B席11,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈公式サイト〉https://ff10-kabuki.com
〈公式Twitter〉https://twitter.com/ff10_kabuki

 

 

【取材・文/内河 文 写真提供/『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』製作委員会】

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