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世田谷パブリックシアター『ハムレット』いよいよ開幕! 野村萬斎・野村裕基・藤間爽子インタビュー

世田谷パブリックシアターでは野村萬斎演出・出演による『ハムレット』が3 月6日に開幕する。

芸術監督として20年間、世田谷パブリックシアターを牽引してきた野村萬斎が、任期中最後の公演として 昨年2月に上演し、次代の演劇人たちへメッセージを託した舞台が、「戯曲リーディング公演 『ハムレット』より」だった。

その公演でハムレット役を演じたのは、萬斎の長男で弟子でもある狂言師・野村裕基。そして今回はいよいよ本公演で再びハムレットに挑む。恋人オフィーリア役を演じるのは舞踊家・三代目藤間紫を襲名し、同時に阿佐ヶ谷スパイダースの団員として活動中の藤間爽子。

今回、大役に抜擢された若い2人が、古典と現代劇という2つのフィールドについて先達の萬斎とともに語り合う。

(※えんぶ3/9発売4月号の記事を、発売に先がけてその一部を本誌とは別カットの写真とともにご紹介!)

藤間爽子  野村萬斎  野村裕基

言葉を弾き飛ばせる身体がある

──今回の『ハムレット』は萬斎さんが演出を手掛けます。その公演で裕基さんは初めて本格的に狂言ではない舞台に挑むことになりました。

萬斎 私自身はハムレット役を2度演じていて、作品の魅力に取り付かれ、一度演出してみたいとずっと思っていました。自分の考える世界観で作ってみたいなと。そして私の観たいハムレットを構築するためには、能狂言の感性を持った人間のほうが、意図するところを表現してもらいやすいだろうと考えて、今回は裕基に託すことにしました。

──裕基さんは昨年のリーディング公演で一度ハムレット役を演じましたが、この役のイメージは?

裕基 リーディングを踏まえてのイメージですが、思っていることをよく口に出して喋る人だなと(笑)。ただ、それだけ沢山の葛藤や苦悩がある人物なのだと思いますので、それをお客様にちゃんと伝えることが大事だと思っています。デンマークの王室の話ではありますが、今の世の中にも通じる混沌とした状態があり、その中で生きる若者という意味では僕も同じかなと思いますし、自分なりに演じたいと思っています。

 

──オフィーリア役の藤間さんはシェイクスピアは?

藤間 初めてです。どこからどう手をつけていいのかわからないほど大きな作品で、私自身が古典芸能に携わっているからこそ恐いという気持ちが強かったのですが、皆さんと一緒に読み解いていくうちに、いろいろな発見もあったりして、恐い気持ちはなくなりました。むしろ様々な解釈や捉え方ができ、面白いなと。ただ、だからこそ好き勝手にやってはいけないと思いますし、時代背景などをきちんと理解したうえでの新しい考え方や表現が大事かなと思っています。

──古典の規範を大事にしながら新しい精神を吹き込む、そこはまさに萬斎さんが常に目指しているところだと思いますが、おふたりにはそれぞれどんな要望を?

萬斎 オフィーリアはやや古い時代の女性像で、家父長制の中での生き方しかできない人ですが、その中にどこまで現代的な部分を取り入れてアップデートしていくかですね。古典芸能の世界の人はある種の規範に沿うことはできる。大切なのは、その先をどう見せてくれるか。その先というのは、規範をちゃん落とし込んだうえで次にいけるということです。稽古の当初感じたのは、爽子ちゃんは小劇場系のアプローチだなと。まず動いてみる。感情も入っている。裕基は、まだそうやって心のままに自由に動くという訓練はしていないので、これからの稽古で覚えていくしかない。

裕基 はい。

萬斎 でも感情で動き過ぎると、今度は戯曲の言葉がちゃんと伝わらなかったりする。シェイクスピアはある意味言葉が主役ですから、俳優は言葉を的確に捉え、発しなくてはいけない。その言葉に負けない身体性を俳優がどれだけ発揮できるかというときに、我々には古典の規格の中で培ってきた言葉を弾き飛ばせる身体があるという強みがあると思うのです。

(中略)

 

生と死の混沌をそのまま写す「鏡」

──裕基さんは今回、どんなアプローチを考えていますか?

裕基 まずは、シェイクスピアがハムレットをどういう人物像として描きたかったのかを、言葉の1つ1つから深く理解することで分析したいと思っています。

萬斎 稽古場でまず生きてみる。その中で役の真実がつかめたらそれが一番です。「こう動くとこうなんだ。だからこの言葉なんだ」と1つ1つが腑に落ちていく。そうすると自然に身体から言葉が出てくる。

藤間 本読みで、墓掘りのシーンのとき、萬斎さんがハムレットの台詞をふと言われて、「あ、これなんだ!」と。

萬斎 つい出ちゃったんだよね。

藤間 これが身体から出るということなんだと。

──いよいよ開幕ですが、この作品を観にいらっしゃる方にメッセージをいただけますか。

裕基 現代にも通じる混沌の中で、死んだ父親の復讐を果たすためにハムレットが何を選択したのか、葛藤しながらもいかに自分と向き合っていたか、その彼の生き様を自分の言葉で証言することができたらと思っています。ぜひ観ていただきたいです。

藤間 この『ハムレット』がどんなふうに出来上がっていくか、私たちにも未知であり、楽しみです。違う時代の物語ですが、想像をふくらませて楽しんでいただければ嬉しいです。

萬斎 サブタイトルの「To be, or not to be」がまさしく大きな1つのテーマで、この台詞は「生きるべきか死ぬべきか」「あるのかないのか」「自分は生きているのか死んでいるのか」などと、生きていることの不思議や、人間が抱えている問題を提示しています。そういうことに悩みつつ生き抜こうとするのがハムレットでもあって、それに周りの人間も翻弄される非常に混沌としたこの物語は、今この国の内外で起きていることにも通じている。我々が生きている現代社会をそのまま写す「鏡」の芝居にしたいので、その鏡を精一杯磨かせていただきます。

 

■PROFILE■
のむらまんさい○東京都出身、狂言師。人間国宝・野村万作の長男。重要無形文化財総合指定保持者。国内外で多数の狂言・能公演に参加、普及に貢献する一方、現代劇や映画・テレビドラマにも出演。舞台『敦―山月記・名人伝―』『国盗人』『子午線の祀り』『マクベス』、能狂言『鬼滅の刃』など、古典の技法を駆使した作品の演出・出演で幅広く活躍中。02 年から世田谷パブリックシアター芸術監督を20年にわたり務めた。21年より石川県立音楽堂邦楽監督、公益社団法人全国公立文化施設協会会長。23年2月公開のWOWOWアクターズ・ショート・フィルム『虎の洞窟』では初の映画監督を務めた。

のむらゆうき○東京都出身、狂言師。野村萬斎の長男。祖父野村万作及び父に師事。能楽協会会員。3 歳の時に『靱猿』で初舞台。国内外での狂言・能公演に出演する一方、21 年連続ドラマ W『ソロモンの偽証』でドラマ初出演。アニメーション映画『ブライト:サムライソウル』(Netflix 制作)では主人公・イゾウの声を務めた。22 年 2 月「戯曲リーディング「ハムレット」より」ではハムレット役。同年、能狂言『鬼滅の刃』で我妻善逸、錆兎の 2 役を演じた。同年10月、狂言の卒業論文と称される『釣狐』を披いた。

ふじまさわこ○東京都出身。幼少より祖母・初世家元藤間紫に師事し、21 年、三代目藤間紫を襲名。17 年、連続テレビ小説『ひよっこ』でデビュー、18 年に舞台『半神』(W 主演)に出演。日本舞踊家・女優として舞台や映像を中心に活動中。劇団「阿佐ヶ谷スパイダース」に所属。近年の主な舞台は、『いとしの儚』(21年 主演)阿佐ヶ谷スパイダース『老いと建築』( 21 年)など。22 年 5 月には明治神宮で奉納舞踊『島の千歳』を納めた。

【公演情報】
『ハムレット』
作:W.シェイクスピア
翻訳:河合祥一郎
構成・演出:野村萬斎
出演:野村裕基 岡本圭人 藤間爽子 釆澤靖起
村田雄浩 河原崎國太郎 若村麻由美
野村萬斎 ほか
●3/6~19◎世田谷パブリックシアター
〈お問い合わせ〉世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515(10~19 時)
●3/25◎江戸川区総合文化センター・大ホール
●3/29◎枚方市総合文化芸術センター・関西医大 大ホール
https://setagaya-pt.jp/

 

[構成・文/宮田華子 撮影/中田智章 ヘアメイク/川口博史 スタイリング/中川原寛(萬斎・裕基) 和田ミリ(藤間)  衣装協力/ポール・スミス(萬斎 スーツ、シャツ)AKIKOAOKI(藤間 トップス、スカート)Jouete(藤間 イヤリング)]

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