ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』間もなく開幕! 川平慈英・白井晃インタビュー
2017年日生劇場で初演され、熱い喝采に包まれた家族劇ミュージカルの決定版『ビッグ・フィッシュ』が、新たに「12chairs version」として、11月1日からシアタークリエで上演される。(28日まで。その後、名古屋、兵庫公演あり)
『ビッグ・フィッシュ』は巨匠ティム・バートンが2003年に手掛けた同名映画の舞台化で、2013年に誕生し、その後ブロードウェイでも上演される。
更に2017年新たな日本版として登場し、スペクタクル感にあふれながら、良い意味のアナログ感も残す生の舞台の醍醐味と、親から子へと伝わる夢を信じることの大切さという心に深く残る家族の物語が大きな感動を呼び起こした。
そんな作品の待望久しい再演の舞台が、「12chairs version」と銘打たれ、新たな息吹を得て今蘇る!
自らの体験談を現実にはあり得ないほど大げさに語り、聴く人を魅了するのが得意な主人公エドワード・ブルームを演じたのが川平慈英。長いキャリアと確かな実力を誇る川平の、ハマり役ぶりが文句なしの代表作と讃えられたことは記憶に新しい。そんな川平あってこそこの舞台は成立したと言い切る演出の白井晃が、初演の思い出から新たな舞台への意気込みを語ってくれた「えんぶ10月号」のインタビューをご紹介する。
毎回、毎公演、感動する作品は、そうあるものではない
──高い評価を得た初演を受けての再演となりましたが、今改めて振り返ってみていかがですか?
川平 ひと公演毎に完全燃焼しきったステージでした。とにかくラストシーンが素晴らしくて! 物語としては僕が演じたエドワードは亡くなるんだけれども、その場面の音楽と歌詞の力によって、舞台で本当に生かされているというパワーをもらえた。あんな経験は今までなかったし、それが毎公演でしたから、強烈な記憶として残っています。
白井 奇想天外な話に見えるけれど、実はどこの家庭にもある家族の物語で。どんな年代の人にでも、それぞれの見方ができるし、自分の家族を思い返すことのできる作品です。今慈英さんが言ってくれたラストシーンは、僕も自分で演出していながら毎回涙ぐんでいました。正直、毎日観ていてそこまで感動するというのはそうあることではなくて。慈英さんとはかれこれ20年近く濃い交流を重ねてきた、演劇界に於ける戦友という意識が強い方なのですが、その人にこれだけ心を打つ作品の主演をやってもらえたことが僕にとって非常に大きなことでした。『ビッグ・フィッシュ』は川平慈英という役者がいなければ成立しなかったものだと思っているし、僕は勝手に「川平慈英の代表作を演出させて頂いた」という喜びでいっぱいでした。ですから千秋楽が終わった時に、「またやれたら良いな」と願った作品でもあったのですが、そういう願いはおいそれと上手くいくものではないのに、奇跡的に再演できることになった。そうしためぐりあわせに、本当に感動していますし、役柄の年齢より大きくなってしまった子役さんを除いて、初演のキャストが全員集まってくれた。中には無理に無理を重ねて、スケジュールをこじ空けてくれた方もいらっしゃるんです。それくらい皆がこの作品を愛してくれていたのか、と思うと本当に嬉しいですね。
初演の良さを更に凝縮した濃縮ジュースに
──その再演がシアタークリエで「12chairs version」という形になりますが、どのような変化が?
白井 基本的には12人のメインキャストだけで全てを演じるので、日生劇場で上演したものをギュッと凝縮してお見せする形になります。だからと言って日生劇場にあったスペクタクル感をなくすつもりは毛頭ないので、より深まった濃縮ジュースにしたいと思います。その為には倍以上の稽古が必要になるかも知れないんだけど(笑)。
川平 ひぇ~!(笑)
白井 勿論、お互い歳を考えながら、労わりながらやっていくつもりですが(笑)より面白い演劇的な刺激があるものにしていきたいですし、役者さんの人数が絞られた分周りの皆は倍くらい大変になります。そして慈英さんは同じくらい大変(笑)ということです。
川平 その「同じ」ということが一番大変なんですよ!(笑)でも僕シアタークリエの舞台に立つのは初めてなんです!
白井 本当に?
川平 そう。役者仲間はたくさん出ているから、客席にはしょっちゅう座っているんだけど、出るのは初めてなので今からワクワクしています! また新鮮な気持ちでエドワードを生きられるなと。どの席からでも細かい表情が見える劇場ですしね。
白井 だからこそ人間ドラマを充実させたいなと思っています。
手綱を引いてくれることで開放された
──信念と魂が年代を超えてリレーされていく尊さが描かれていて、劇中エドワードの年齢も大きく変化しますね。
川平 最初はもうそれが不安で! 高校生から老人までなんて絶対にできない! と思ったんだけど、白井さんのアイディアやスタッフ陣の尽力のおかげで何とか乗り切れました。もう段々自己暗示にかかっちゃって「俺、若いな!」と思ったりね(笑)。
白井 映画では若い時と年配の時で役者さんが変わっているんです。でも舞台では一人で演じる、それが生の舞台の醍醐味で、慈英さんが見事に演じて下さったからこそ大きな見どころになりました。でも大変だろうな、とは本当に思っていて「ごめんね、大変だろうけど」って言いながら演出していましたね。
川平 「ごめんね」って言われる度に本当に大変なことをやってるんだなと思った(笑)。
──お二人に深い信頼感があるのが伝わりますが、お互いに感じている魅力は?
白井 それは先に言わせてもらうと(笑)僕にないものを全て持っているんです。慈英と一緒にいると元気をもらえるし、表現に関しても前向きになれる。でも一方でとても繊細な男だと言うことも知っているし、そのサービス精神で場を常に和ませてくれるので、彼と一緒にものを創れる喜びは大きいです。
川平 白井さんは繊細なところもある人で、抱きしめたい! という気持ちになることもあるんですが、反面鉄人で! 僕なんてすぐ「出来ないよ! 大変だよ!」とか言うんだけれども、ネガティブなことを一言も言わない人です! そして稽古が長いと聞いていたんだけど(笑)。
白井 それ皆に言われる!(笑)。
川平 でも決して長いとは思わなかった。全てが必要な時間だったし、僕がこうするともっとウケるかな? みたいな気持ちを持ってしまった瞬間に「慈英too much!」と手綱を引いてくれるので、コントロールは任せて自分は伸び伸びと演じられたという思いが強いです。この舞台は生に対する賛美、生きる喜びをキャスト、スタッフ、客席の全てで共有できる作品なので、白井さんをはじめとした信頼でつながっている全員でこの想いをお届けします! 是非観にいらして下さい!
かびらじえい〇沖縄県出身。86年スーパーロックミュージカル『MONKEY』で俳優デビュー。以降舞台を中心にドラマ、CM、映画と多数出演。97年ミュージカル『雨に唄えば』で第4回読売演劇大賞男優賞受賞。サッカーナビゲーターとしても広く知られている。近年の主な舞台作品に『ピカソとアインシュタイン~星降る夜の奇跡~』『日本の歴史』『ショーガール』『フロッグとトード がま君とかえる君の春夏秋冬』『Shoes on!』『Forever Plaid』等がある。マペットとの歌やダンス、芝居でエンターテインメントする『コレナンデ商会』(ETV)に出演中。
しらいあきら〇京都府出身。早稲田大学卒業後83年~02年、遊◉機械/全自動シアター主宰。演出家として独立後はストレートプレイからオペラ、ミュージカルまで幅広く手がけ緻密な舞台演出で高い評価を得る。また俳優としても舞台・映像で活躍中。近年の主な演出作品に『恐るべき子供たち』『春のめざめ』『Memory of Zero』『出口なし』『No.9─不滅の旋律─』『華氏451度』『バリ―ターク』等がある。第9回、第10回読売演劇大賞優秀演出家賞、平成17年度湯浅芳子賞(脚本部門)、第10回佐川吉男音楽賞、第11回小田島雄志・翻訳戯曲賞等、受賞歴多数。16年4月よりKAAT神奈川芸術劇場芸術監督に就任。9月同劇場にての演出作品『怪人と探偵』が控えている。
【公演情報】
ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』
脚本◇ジョン・オーガスト
音楽・詞◇アンドリュー・リッパ
演出◇白井晃
出演◇川平慈英 浦井健治
霧矢大夢 夢咲ねね
藤井隆 JKim 深水元基
佐田照/佐藤誠悟(Wキャスト)
東山光明 小林由佳 鈴木蘭々 ROLLY
●11/1~28◎東京・シアタークリエ
〈料金〉12,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777(9時半~17時半)
〈HP〉https://www.tohostage.com/bigfish/index.html
●12/7~8◎愛知・刈谷総合文化センターアイリス
〈お問い合わせ〉キョードー東海 052-972-7466
●12/12~15◎兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 06-6377-3888(10時~18時)
【構成・文/橘涼香 撮影/岩田えり】
Tweet