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『湊横濱荒狗挽歌~新粧、三人吉三。』いよいよ開幕! シライケイタ×玉城裕規 インタビュー

作・野木萌葱×演出・シライケイタで、歌舞伎の名作『三人吉三』をモチーフにしたハードボイルド現代劇『湊横濱荒狗挽歌~新粧、三人吉三。』(みなとよこはまあらぶるいぬのさけび~しんそう、さんにんきちさ。)が、KAAT 神奈川芸術劇場で明日、8月28日に初日を迎える。(9月12日まで)

本作は、悪事を重ねながら生きるアウトローの主人公や、因果応報が生み出すドラマティックな展開など、歌舞伎の魅力が詰まった人気演目を、気鋭の作・演出家として注目される野木萌葱が、湊町を舞台に繰り広げられる現代の物語に置き換えて書き下ろした。

演出は、劇団温泉ドラゴンの主宰で、外部でも脚本家・演出家として活躍するシライケイタ。出演は、和尚吉三にあたる柄沢純役を玉城裕規、お嬢吉三にあたる弁才瞳役を岡本玲、お坊吉三にあたる矢部野晶役を森優作が演じる。この刺激的な作品について、シライケイタと玉城裕規が語り合ってくれた。

玉城裕規 シライケイタ

よく僕のところに持ってきてくれたと

──まず今回の企画を聞いたときの気持ちと、どう取り組もうと思ったかを聞かせてください。

シライ お話をいただいた時は単純に嬉しかったです。KAATという劇場がもともと好きだったこと。また、今年から長塚圭史さんが芸術監督に就任されて、新しく一緒にものを作る仲間を探しているんだと誘っていただいて、そういう人と一緒にもの作りをできるのは嬉しいなと思いました。精一杯やらせていただきたいなと思っています。

──素材が『三人吉三』ということについてはいかがですか?

シライ よく僕のところに持ってきてくれた!と思いました。僕は不良の芝居ばかりやっていたので(笑)。自分では言ったことがないのになぜか社会派とか言われて、そう言われると自分でも、「俺、社会派なんだ」と無理にそういうものを勉強してやっていたこともあるのですが、もともとはただの不良が「面白いことをやろう」と集まった劇団ですから。去年、玉城くんが出てくれた舞台も、僕が10年前に脚本を書いた『BIRTH』(千葉哲也・演出)という、オレオレ詐欺をする話で、そういうやんちゃな話がやりたくて芝居をやっていたので、「あ、『三人吉三』がやれるんだ」と。アウトローを描いたカッコイイ話なので、久しぶりに大暴れしたいと思っています。

玉城 ぼくがこのお話をいただいたのは、その『BIRTH』に出させていただいたことがきっかけになったので、すごく嬉しかったです。『BIRTH』は僕にとって久しぶりの演劇で、役者同士のぶつかり合いとかすごく楽しくて、やっぱり演劇っていいなと思った作品でした。この芝居のビジュアル撮影の時に、シライさんが「ぐちゃぐちゃにやりたいよな!」とおっしゃっていましたが、僕も「ぐちゃぐちゃになりたいな!」と心の準備はばっちりです(笑)。

──シライさんは『BIRTH』の玉城さんを観て、どんなところが良かったですか?

シライ 玉城くんは僕が当時演じた役を演じていて、それもあってかなり興味深く観ていたのですが、変な役者だなーと(笑)、もちろん良い意味でですが。ストレートじゃないように見えるけど、彼にとっては別に変化球で勝負しているつもりはないのだろうなと。本人が真っ直ぐ投げているつもりでも曲がって飛んでくるという感じで、面白い俳優さんだなと思ったんです。『BIRTH』の演出をした千葉さんとも話したら「玉城面白いだろ」と。そこに今回の話がきたので、プロデューサーに「面白い俳優さんがいるんだけど」と観てもらったんです。

玉城 僕は変化球を投げているつもりはなくて、自分ではストレートなんですけど(笑)。でも経験を積まれている演出家さん、監督さん、役者さんには、よく「変だね」とは言われます(笑)。僕の中ではそれは喜んでいるのですが、たまに違う意味で言われている可能性もあるので(笑)「はい!」と聞いています。

シライ でも「変」っていうのは必要なんです。みんな、はみ出しちゃいけないんじゃないか、変わったことをしちゃいけないんじゃないかと、とくに若い俳優さんは思っているので、僕は「もっとやっていいんだよ」と稽古場では言ってます。やりすぎるのを「押さえてください」と言うほうがラクだし、そういうふうにものを作りたい。だから「変」というのは、俳優さんにとってとても大切な武器だと思います。

玉城 今回の共演の皆さんは、僕にとっては「初めまして」の方ばかりなのですが、皆さんが「変な」可能性があるんですよね(笑)。みんなやばいです。

シライ うん。みんなやばい!猛獣ばかりです(笑)。

 

人間の生き死にが身近で、生命力も高い時代の話

──もとになっている歌舞伎の『三人吉三』の内容については、どう捉えていますか?

シライ 社会の底辺に近いところで生きている人たちが、必死に生きようとしている物語だし、必死に他者を求める物語なんじゃないかなと。だからすごく強いエネルギーがあるんですよね。

玉城 僕は『三人吉三』を芝居では見ていなくて、昔の上演台本を読ませていただいたのですが、人間模様というか人間のドラマが描かれているなと。今回は現代版ということですが、当時のほうが人間の生き死にが身近で、人間の生命力も高いという気がするので、その人間模様を現代に持ってきたときに、より熱量とかエネルギーを増やさないと成立しないんじゃないかと思っています。全身でぼろぼろになってもいいくらいの覚悟で臨みたいです。

──三人吉三役のほかのお二人の印象はいかがですか?

シライ お嬢吉三にあたる役になる岡本玲さんは可愛くて、芯の強いところがある人だと思うので、それを存分に出してもらったらいいかなと。原作では男が化けている役ですからね。そしてお坊吉三の森優作くんは朴訥とした素朴な雰囲気が素敵です。

玉城 僕は玲ちゃんとは一緒の舞台に2度出ていて、最初は朗読劇で稽古時間も少なかったのでほぼ喋らなかったんですが、シライさんのおっしゃった「芯の強い」という印象がありました。その次の『カレーライフ』という作品では、僕は途中まで他の公演に出ていたので後から入ったら、みんなはすっかり仲良くなってました(笑)。でも玲ちゃんはその後も舞台に沢山出ているので、どれだけ化け物化しているか(笑)、恐くもあり、楽しみでもあります。森くんは、映像の世界の方ならではの瞬間的に引き込まれるところがあって、その要素を会った瞬間から感じているので、それが舞台上でどう顕れてくるかが楽しみです。彼の空気感はとても好きで、あの空気感になりたいなと思います。

──引き込まれるところというのは、具体的にはどんな感じなのでしょう?

玉城 邦画の感じなんです。僕は映画が好きなんですが、彼は邦画の雰囲気で、素敵だなと思いました。

──他のキャストの方々もそれぞれインパクトある方が多いですね。

シライ ベテランの方々はアングラ劇団から小劇場までいらっしゃるので、そういう方たちに舞台上でごちゃごちゃになっていただいて(笑)。あまり僕の世界観で固め過ぎないようにしたいし、存分にめちゃくちゃをやってもらいたいです。

玉城 良い意味で化け物揃いですから(笑)、負けないようにしたいです。

 

この作品を「看板俳優」の復権のチャンスに

──今回、芸術監督の長塚さんが「作家と演出家をあえて分けた」とおっしゃっていますが、そこはどう思われますか?

シライ 僕はどちらでもいいと思っているんです。同じ人間が脚本と演出を兼ねる強みもあるし、別の人がやる意味もあって、今回は別の人なので、僕もより純粋に客観的に作品世界に向き合えるかなという気がしています。僕らの世代はたぶん演劇が大きく変わったはざまで、僕が先輩たちから受けてきた影響と、僕らが下の世代に対して見ている演劇って、だいぶイメージが違うんです。もちろん先輩方の中にも作・演出家で大活躍されている方は沢山いらっしゃるのですが、下の世代のほうが作・演出を兼ねる人の存在感が大きいと思うんです。そして、相対的に俳優の存在感が小さくなっている。かつては、例えば野田秀樹さんや唐十郎さんなど、作・演出と同時に役者も兼ねる方がいて、その時代は役者がもっと立っていた。でも今の時代は作・演出家の名前ばかりが立って、俳優がなかなか出てこない、ということが若い世代にも言えると思っていて。この20年で日本の演劇界から「看板俳優」という言葉が消えたと思っているんです。看板俳優がいない。看板はすべて作・演出家の名前で、これは僕の好きな演劇からすると残念なことです。ですから今回は、俳優の復権というか、もともと持っている魅力を引っ張り出すチャンスなんじゃないかなと。作家と演出家が別々である意味がそこに大きくあると思う。つまり僕が僕の世界感を作ろうと思っても無駄で、俳優が世界を作るんだ、役者ってこんなに面白いんだぞ、ということも含めて、めちゃくちゃやりたいということです。

──役者さんを立たせたいんですね。

シライ もちろん、それしかないです。そもそも僕が演出家をやっている理由として、なにを見たいかと言うと、俳優さんが見たいので。「シライとやるときが、この人は一番生き生きしていて面白いよね」と言われることが、演出家としての最大の誉め言葉だと思っていますし、実際にそういうふうに言ってもらえることが多いんです。だから今回もきっとそうなります。俳優さんの魅力が最大に溢れ出る作品になると思います。

──脚本の野木萌葱さんについてはいかがですか?社会派という印象もありますが。

シライ いや、社会派というのは違うと思います。社会的な事件や歴史的な事実を素材にしていますが、メッセージが先にくるわけではなくて、そういう素材を使って人間を描く方だと思っています。台本、文字通り台になる本をもとに、演じる俳優さんを立たせている方だと思っています。

玉城 僕は野木さんの作品は1つも拝見していないので、そのへんはわからないのですが、いつも初めての作家の方や演出家の方との出会いはワクワクしますので、今回も楽しみでしかないです。

──最後に本作への意気込みをぜひ。

シライ 僕が信じる演劇の面白さをふんだんに盛り込みたいと思っていますし、作り手の世界観、それはあってしかるべきなのですが、それを突き破ってそこに存在する俳優の肉体や、劇場からはみ出ていくような人間存在の力強さを実現したいし、先ほど言った看板俳優という意味では、かつての看板俳優とこれから看板俳優になっていく人たちとで存分に闘ってほしいなと。そういう暑苦しい芝居をしたいですね(笑)。

玉城 やっぱり演出家としてシライさんがいてくださるのが楽しみで、おっしゃるようにはみ出られるように精一杯やりますし、化け物揃いの役者の皆さんや、シライさんの凄まじい世界に負けないように、しっかり看板を背負いたいなと思います。凄い作品になると思いますので、楽しみにしていてください。

■PROFILE■

しらいけいた○東京都出身。桐朋芸術短期大学在学中に、蜷川幸雄演出『ロミオとジュリエット』(彩の国さいたま芸術劇場)のパリス役で白井圭太としてデビュー。テレビドラマ、CM多数。2011年よりシライケイタとして劇作・演出を開始。現在、温泉ドラゴン座付き作家・演出家、日本演出家協会会員、日韓演劇交流センター委員として活躍中。演出を手がけた舞台『実録・連合赤軍 浅間山荘への道程(みち)』『袴垂れはどこだ』の2作が高く評価され、第25回読売演劇大賞「杉村春子賞」を受賞。

たまきゆうき○沖縄県出身。2010年、Japan Anime Liveにて『NARUTO -ナルト-』サスケ役を務め、2010年には舞台『少年ハリウッド』で注目を集める。その後、舞台・ドラマ『弱虫ペダル』、舞台『ライチ☆光クラブ』、『里見八犬伝』、『曇天に笑う』などに出演。映画『のぞきめ』(三木康一郎監督)、『新宿スワンII』(園子温監督)、『ゼニガタ』(綾部真弥監督)、『トリノコシティ』(山口ヒロキ監督)、『ONLYSILVERFISH』(西田大輔監督)など映像でも活躍しながら、『魔界転生』、『刀剣乱舞 悲伝 結いの目の不如帰』など話題の舞台にも出演している。

【公演情報】


KAAT 神奈川芸術劇場プロデュース『湊横濱荒狗挽歌~新粧、三人吉三。』
(みなとよこはまあらぶるいぬのさけび~ しんそう、さんにんきちさ。)
作:野木萌葱
演出:シライケイタ
出演:玉城裕規 岡本玲 森優作/渡辺哲 山本亨 ラサール石井
村岡希美 大久保鷹 筑波竜一 伊藤公一 那須凜 若杉宏二
●8/27~9/12◎KAAT 神奈川芸術劇場 <大スタジオ>
〈料金〉一般6,800円  U24チケット(24歳以下)3,400円  高校生以下割引1,000円 シルバー割引(満65歳以上)6,300円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
チケットかながわ 0570-015-415(10:00~18:00)
〈公式サイト〉https://kaat.jp/d/minatoyokohama

 

【取材・文/榊原和子 撮影/中村嘉昭 ヘアメイク/谷口ユリエ】

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