お芝居観るならまずはココ!雑誌『えんぶ』の情報サイト。

歌舞伎座「十二月大歌舞伎」で再び『阿古屋』に挑む! 中村梅枝&中村児太郎インタビュー

歌舞伎座で12月2日から26日まで「十二月大歌舞伎」が上演中だ。

記念すべき令和元年を締めくくるのにふさわしい演目が勢ぞろいしているが、中でも注目されているのが、『檀浦兜軍記 阿古屋(だんのうらかぶとぐんき あこや)』で、遊君阿古屋を坂東玉三郎、中村梅枝、中村児太郎が日替わりで演じている。楽器を奏でながら、心情を表現しなければならない阿古屋は、女方屈指の大役と言われ、平成9年から玉三郎が演じ続け、昨年12月の歌舞伎座公演で、玉三郎、梅枝、児太郎が日替わりで阿古屋を演じ話題となった舞台だ。

その他にも、昼の部『村松風二人汐汲(むらのまつかぜふたりしおくみ)』を二人で踊り、序幕の『たぬき』には児太郎が初役で、夜の部の『神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)』では、やはり初役お舟に梅枝が挑む。そして夜の部の注目演目、グリム童話をもとにした新作歌舞伎『本朝白雪姫譚話(ほんちょうしらゆきひめものがたり)』にも出演するなど、まさに期待の二人が大活躍する十二月の歌舞伎座だ。

その初日を目前にしたある日、梅枝と児太郎の取材会が行われ、阿古屋を演じることが決まった時の心境や玉三郎について、そして本公演にかける意気込みを語ってもらった。

中村児太郎 中村梅枝

1年間一緒に稽古を重ねた昨年の『阿古屋』

──最初に『阿古屋』についてお話をお伺いしたいと思います。昨年、初めて『阿古屋』をやると決まった時のお気持ちからお聞かせください。

梅枝  『阿古屋』が決まる前から、おじ様(坂東玉三郎)からは「楽器の稽古はしているのか」と言われていたんです。

児太郎  話が決まる2カ月前に、歌舞伎座で『秋の色種』という舞踊があって、その中でお兄さん(梅枝)と二人で琴を弾く機会がありました。そうしたら「胡弓はちゃんとやっているのか?」と。僕はその2年ほど前から「阿古屋をやりたい」という話をおじ様にしていました。本当に『阿古屋』をやるしかない状況になっていきました。

──でも児太郎さんの中にはやってみたいという思いがあったのでは?

児太郎 やりたいと思っていても、実際にあの作品の稽古を始めると、途方もない道だったということがよく分かりました。でも一人だったら到底無理なことでしたが、お兄さん(梅枝)も一緒にでしたので、お兄さんが本当に支えでした。

──一緒にお稽古をしていらっしゃったのですね。

梅枝  一緒にできる時は、一緒にしていました。

児太郎 同じ楽屋でずっとやっていましたよね。

梅枝  周りの人たちはうるさかったでしょうね(笑)。

──一緒に稽古したことで良かったことは?

梅枝  楽器も芝居もそうですけれど、集中していくと自分ではなかなか客観的に見ることができなくなるものですが、全く同じ役を別の人がやっているのを客観的に見ることができたので、お互いにダメが出せるのは大きかったですね。

児太郎 僕は1年間、いまの自分ではあり得ないような大役に臨まなければいけないプレッシャーがあって、一人だったら絶対に心が折れていました。お兄さんがいつも気にかけてくださって、「一緒にやろう」とか「こうしたらいいんじゃないか」と言ってくださったので、気がついたら終わっていたという感じです。

梅枝  1年間かけて一つの役にアプローチしていくことはまずないことなんです。ですから稽古をしていく中で、何が課題なのか、これ以上何をやればいいのだろうか、そういう疑問が出てきたときにも、彼(児太郎)が何か言ってくれたり、僕も彼に何かを言ったりということできたので、非常に助かりました。

阿古屋(梅枝)

次から次へとくる波を乗りこえながら

──一緒に稽古をして、見えてきた自分の課題は?

児太郎 例えばここで「二人の個性は何ですか?」と質問されたら、お兄さんはものすごく器用で、僕はものすごく不器用だと答えます。だから、お兄さんが言ってくださることは、自分にはない考えなので、「なるほど。だからこういうふうに見えるんだ」と思うことが多くて参考になりました。玉三郎のおじ様はいろいろなところに目配りをし、俯瞰して自分を見ていらっしゃるんです。

梅枝  僕らはとてもじゃないけれど、そんな余裕はないですからね。

児太郎  次から次へとくる課題をこなすだけで、終わってしまうんですよね。例えば、『阿古屋』で琴を弾いていてちょっと間違えても、次にいくしかないですよね。

梅枝  確かにミスなんて考えている暇もないからね。

児太郎 だから阿古屋を演じている時は、ものすごい荒波に揉まれている船に乗っているみたいな気分でした。次から次へとくる波を乗りこえていたら、いつの間にか陸に着いていたという。

梅枝  沈没する可能性もあるけど(笑)、沈没するわけにはいかないものね。

──梅枝さんはご自身の課題はなにか見つかりましたか?

梅枝  僕は自分のテリトリーの中で収まってやってしまいがちなところが課題なんです。その分、動きや感情的なものが大きく見えない。でも彼(児太郎)はそれがなくて、芸が大きい。それは歌舞伎俳優に絶対に必要なものなので、大きなヒントになりました。

──『阿古屋』を前回の公演で演じた時、初日から千穐楽にかけてお二人の中で変わっていったことはありますか?

梅枝  玉三郎のおじ様に日々いろいろなダメを出していただいたので、その課題を頑張っていくぐらいしかできなかったですね。いざ本番が始まると、実際の出演は5回で、だいたい3~4日空いて出ていたので、ほぼ毎日初日みたいで、なかなか体で覚えることができませんでした。

児太郎 自分もそこは葛藤がありました。体の使い方なども、いつもなら1週間やっていくと見えてくるものがあるんです。でも間が空くと本当に毎回が初日のようで、だから悩んでしまって。

梅枝  気にしなくてもいいことを気にしはじめちゃうんです。

児太郎  ここどうだったっけ?とか、普段は感じることのない不安に襲われるんです。これだけ稽古をしているのだから、せりふを間違えるはずはないのですが。

──今回は前回に比べるとお二人とも8回出演しますから、何か違うものが見えてくるかもしれませんね。

児太郎 今回は8回できるということだけでなく、2日連続でできるのがうれしいですね。昨日できなかったことを、今日フォーカスできるというのは大きいです。小さい頃から毎日やることで、“体で覚える”という教育を受けてきましたから。日にちが空くことに慣れていなくて。

梅枝  僕たちにとって25日間連続で出演する公演は当たり前のことで。そういう環境の中で育ってきましたので、毎日やることで、何も考えなくても体が動くようになるんです。今回は2日連続でできるということで、昨年とはだいぶ違うと思います。

阿古屋(児太郎)

心がなかったらやる意味がない

──坂東玉三郎さんから『阿古屋』の稽古を通してどんなことを学びましたか?

児太郎  『阿古屋』だけでなく他の役の時にもおっしゃられるのが、何もしなくてもその役に見えるように、無駄な動きをしないようにということです。そして、とにかく心を出しなさい、すべての力を使って芝居をしなさいとおっしゃいますね。意外に思われるかもしれませんが、細かなことに対して怒られることはほとんどないですね。

梅枝  本当にないです。

児太郎  例えば楽器でミスをしても、「大丈夫、次にいきなさい」と。それよりも、心がなかったら、やる意味がないのだからと。作品の中で阿古屋になりきれと常に言われています。でも、それが一番難しいです。確かに、おじ様を見ていると、座っているだけでも、何をやっていても阿古屋になっているんです。そこが究極のところなのかなと思います。

梅枝  おじ様は、基本的に気持ちで芝居をしろとおっしゃいます。歌舞伎は型をはじめ固定概念が多い演劇ではあるのですが、それが歌舞伎だと思い込んでいるのだとしたら、それは間違いだともおっしゃいます。楽器のミスなどは1年間稽古したんだから気にするなと。それよりも、阿古屋がどういう人生を歩んできたのかということを掘り下げなければ阿古屋にならないし、感情を表現できないから、ちゃんとそこを組み立てて出なさいと。

──アドバイスを受けたことで、とくに気にかけたことはありますか?

梅枝  阿古屋の、何が難しいかというと、“傾城”であるということ、“景清の恋人”だということ、お腹に子どもがいるので“母”であるという、女性として大きな3つの像を複合させた役だというところだと思います。傾城としての大きさが一番大事だとは思うのですが、その大きさの中に、恋人として母としての弱さみたいなものが出てこないといけない。せりふも動きもほとんどないお役なので、やっぱり難しいですね。

児太郎 動きたくなってしまうというところですね。衣裳も鬘も重くて、座っている時間が多いお役なので、動けない制約がいっぱいあります。衣裳を着るまではわからなかったのですが、実際に衣裳を着た時、愕然としました。

──衣裳が重いということですか?

児太郎 ただ重いというだけではなく、こんなに凄い衣裳を着て楽器を弾いていたのかと…。今まで楽器を稽古してきた3年間は何だったのかと(笑)。

梅枝  確かに、今までの稽古は何だったんだって思ったよね(苦笑)。

児太郎  本当に、玉三郎のおじ様はすごいと思いました。昨年、稽古のときにポスター用の写真を撮らせていただいたのですが、いざ衣裳を着てみたら、楽器が全くできなかったんです。胡弓なんて二人ともほぼできないし、三味線も全然ダメ。(梅枝のほうを見て)終わった…と思いましたよね?

梅枝  思った(笑)。初日まで2週間しかないのにね。

児太郎  楽器の稽古をしてきたのに、音が出ないのですから…。でも、あの撮影のときに衣裳を着て楽器を演奏してみたのは大きかったですね。つくづく『阿古屋』という作品は半端じゃないなと思いました。

あの玉三郎のおじ様と並んでる!家に飾りたい!

──そういう経験の中で、成長したところは大きいでしょうね?

梅枝  役者としての基礎体力が上がったなと、他の役をやるようになってから思いました。度胸も必要な役でしたから舞台での見せ方、芝居の仕方、それに悲しい時や楽しい時の表現の幅が広がりました。

児太郎  僕は焦らなくなりました。玉三郎のおじ様に言われたことは、「根性を決めていけ」ということでした。

──今回、阿古屋の3人がそろい踏みしたポスターがとても素敵で、まさしく女方の優雅さを堪能させていただいていますが、このポスターを見た時の感想はいかがでしたか?

梅枝 感慨深かったですね。おじ様と3人で並んでる!って。

児太郎  僕もそれはありました。あの玉三郎のおじ様と並んでる!(笑)家に飾りたくなりました(笑)。

──そして1年が経ち、前回とは違う気持ちで臨まれるのでは?

梅枝  前回は1年間稽古できましたけど、今回は決まるのも遅かったので…。皆さん『阿古屋』と言えば楽器と思われますけど、楽器だけが見どころではないので…。

児太郎 そう!楽器じゃないんです(笑)。だから今回は、サワリ(心情を説明する動き)とせりふのテンポをすごく勉強しました。お兄さんの阿古屋を見直すとテンポがいいんです。そしてちゃんとせりふとせりふの行間で心情が変わっている。僕は全部が長いんです。それを見た時に、「あ、こういうことか」と思って、今回はサワリを一つずつ丁寧にやることにフォーカスしました。

梅枝  基本に立ち返って、昨年、玉三郎のおじ様に言われたことを一から洗いなおしています。今日も稽古があるから、おじ様が何かおっしゃってくださるでしょうし、一つひとつ課題をクリアしていくしかないです。今回は、この1年間でやってきた役々を、どれだけ阿古屋に生かしていけるかということですね。

『神霊矢口渡』娘お舟(中村梅枝)渡し守頓兵衛(尾上松緑)

昼夜両方見ると歌舞伎が分かるようになります!

──今月の歌舞伎座は、昼夜お二人とも出ずっぱりですね。

児太郎 お兄さんは、僕の比じゃないくらい大変です。阿古屋をやって、『神霊矢口渡』でお舟をやって、新作の『本朝白雪姫譚話』で鏡の精をやるんですから!3つの役が連続で続くというのは大変ですよ。そもそも、阿古屋とお舟を同じ日にやるなんて考えられない!(笑)本当にそれぐらい大変なんです。みんな阿古屋をやったことがないから!

梅枝  『神霊矢口渡』のお舟はすごくいい役で、いつかやってみたいと思っていた憧れの役です。でも稽古が始まってみたら、なんでこんな無謀なことをやっているのかと思いました(笑)。

──お話を伺っていると、まるでトライアスロンのようですね。

児太郎  『神霊矢口渡』は、もともとそれだけでトライアスロン並みにきついんです。

梅枝  阿古屋もトライアスロンを2周する感じ(笑)。

児太郎  しかもタイプが違う、静のトライアスロンと動のトライアスロン。そして、『本朝白雪姫譚話』も新作ですから、すごく大変…。

梅枝 『本朝白雪姫譚話』は、彼がダントツで大変なんです。もはや『白雪姫』の話ではなく、彼が演じる意地悪なお母さん、野分の前の話になってますから(笑)。ずーっと出てしゃべってます。僕は鏡の精だから、彼が呼ばないと出てこないし、「鏡よ、鏡」と言われて出て行って、「いやーそれは…」と言って引っ込む。それで終わりだから(笑)。

児太郎  二人でしゃべっているところの8割は僕が話してます(笑)。

『白雪姫』野分の前(児太郎)鏡の精(梅枝)

──ちなみに『本朝白雪姫譚話』はコメディーなのでしょうか?

梅枝  ご覧になるお客さまは「喜劇だったね」と言うかもしれません。野分の前を演じる児太郎が良くなかったら、面白くなくなってしまうけれど。

児太郎  自分の出来次第で作品の面白さが変わってしまうと思うと大変です!

梅枝  白雪姫も鏡の精もほとんどといっていいほど人格がない役なので、彼にかかる比重が高いんです。だから芝居をまわしていくのも盛り上げて作っていくのも彼にかかっているので、(児太郎の肩をポンと叩いて)本当に頑張って!(笑)でも、二人で踊る『村松風二人汐汲』もありますし、『神霊矢口渡』にも出てくれているから、彼のほうがずっと大変ですよ。

児太郎 『神霊矢口渡』は自分から立候補したんです。お兄さんに直接言ったことはないですけれど、お兄さんのことをとても尊敬していて。お兄さんがやるのを近くで見ていたいし、息の吸い方吐き方なども肌で感じたいと思っていて。勉強したいなと思いました。

梅枝  体力的に大変だから出なくていいって言ったんですけどね。芝居の中でそんなにからんでいるわけでないのですが、彼が出たいと言ってくれたこと自体がうれしかったですね。

──お二人は本当に大変だと思いますが、観る側は楽しみが盛りだくさんですね。

梅枝  12月は、役者として一回りも二回りも大きくなれるといいなと。

児太郎 僕たちは大きくなるしかないですよね。

──改めて『十二月大歌舞伎』公演のアピールをお願いします。

児太郎  Aプロ、Bプロ気にせず、昼夜ともに見ていただきたいですね。

梅枝  皆さんは『阿古屋』のことばかりをおっしゃいますが、昼夜にわたってそれぞれ全く違う役をやりますので。

児太郎  こんなに違う役をやることはなかなかないので、Aプロ(玉三郎の阿古屋)、Bプロ(梅枝の阿古屋)、Bプロ(児太郎の阿古屋)、夜の部と、是非4回見ていただきたいですね!

梅枝  昼夜、両方見ていただくと“歌舞伎”の面白さが分かっていただけるのではないかと思います!

【公演情報】
『十二月大歌舞伎』
●2019/12/2~26◎歌舞伎座
昼の部
「たぬき」(Aプロ、Bプロ共通)
「村松風二人汐汲」(Aプロ)
「保名」(Bプロ)
「壇浦兜軍記 阿古屋」(Aプロ、Bプロ共通)
夜の部
「神霊矢口渡」
「本朝白雪姫譚話」
出演:坂東玉三郎、尾上松緑、中村獅童、市川中車、中村梅枝、中村萬太郎、中村児太郎 ほか
〈お問い合わせ〉
チケットホン松竹 0570-000-489 または03-6745-0888(10:00~18:00)
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/655/

 

 

【取材・文・撮影/咲田真菜 舞台写真提供/松竹】

記事を検索

観劇予報の最新記事

三島由紀夫没後五十年に三島歌舞伎第一作目『地獄變』を花組芝居がネオかぶき化!
タクフェス 春のコメディ祭!『仏の顔も笑うまで』宅間孝行・モト冬樹・肥後克広・樋口日奈 インタビュー
自分のスマホで解説が聴ける「シネマ歌舞伎イヤホンガイド」アプリスタート!
原嘉孝の主演で舞台『逆転裁判 ~ 逆転のパラレルワールド~』5月に上演!
conSeptが過去作品3作を期間限定配信

旧ブログを見る

INFORMATION演劇キック概要

LINKえんぶの運営サイト