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松原俊太郎の書き下ろし『メモリアル』 今井朋彦(演出)・太田志津香(出演)インタビュー

「演劇立体化運動―これからの演劇と岸田國士―」をテーマに掲げた2019年の文学座アトリエの会、その掉尾を飾るのは、2018年度の岸田國士戯曲賞を『山山』で受賞したばかりの松原俊太郎による最新作。2015年、デビュー作『みちゆき』で第15回AAF戯曲賞大賞を受賞、劇作・演出を兼ねるスタイルが全盛の現代日本の演劇界では希少な、“劇作だけを行う劇作家”の作品に、アトリエの会初演出の今井朋彦が立ち向かう。文学座アトリエの空間に、松原戯曲をどう開花させるのだろうか。

【あらすじ】
登場人物は、花嫁、独身者、娘、入国者、取次者、相続人の6人と、ほかたくさん。
それぞれの行く末を抱えた6人が交叉点のまん中で衝突(!)します。
川のように流れていた時間が中断し、人びとの足は止まり、そもそもふおんだった空気はさらにふおんになり……
みんなで、なんとか、出口を見つけられるでしょうか……
当然ながら人物たちはこうしたあらすじからは脱出します。
言葉というのは便利なもので、いま、とか、ここ、で起きていることを明確に差し出すことができません。
そのせいもあってか、不足が、軋轢が、格差が、対立が生じ、みんなばらばら、罵声あるいは沈黙。
というのが、人物たちが身をさらす、ふつーの背景です。
ふつーの背景では、必ず、どこかに不定の動きが発生し、拡散します。
いま、とか、ここ、に不在なのは人権ではありません、キボーの叙情事です。
(松原俊太郎)

地点が2017年に上演した『忘れる日本人』を観て「新たな価値観との出会い」があったという今井朋彦。今回の公演も自ら企画して立ち上げた。そしてこの新作に参加する文学座の女優、太田志津香は、花嫁役などを演じる。そんな2人に本作の内容などを話してもらった。

松原戯曲をほぼ本来の形で上演したらどうなるだろう

──今井さんが松原さんの作品を上演したいと思ったきっかけは?

今井 『忘れる日本人』をはじめ松原さんが書かれたいくつかの作品を観て強く惹かれたので、もっとわかりたいと思って台本を読んでみたのですが、彼の世界を理解するのは読んでいてもわからない。そこでやってみれば少しはわかるかなと思ったんです。それに、松原さんの作品をいつも演出している「地点」の三浦(基)さんは1つの形で答を出していますが、それは三浦さん流にテキストを解体して、原形をとどめないくらいにして上演しているわけです。では戯曲をほぼ本来の形で上演するとどうなるのだろうと。その時点ではまだ、どう演出しようという具体的なことはまったくありませんでした。でもこんなに道筋が立たない、どうしたらいいのかわからない台本だからこそ逆にそそられる部分があって、今回は劇団のアトリエの会の企画の中で、多少時間をかけて準備もできるということで、ちょうどいい機会なので企画を出してみようと。その結果、すんなり通って上演できることになりました。

──今回の今井さんの演出の基本は、戯曲の言葉をまず大事にするということなのですね。

今井 そうですね。この『メモリアル』だけでなく、これまでの松原さんの作品にはドキッとする言葉がはしばしに出て来る。それをそのまま届けたうえで何を感じてもらうか、そこはかなりお客様に委ねる形になります。たとえば「この主人公がこうなってこうでした」というような分かり方は、逆に松原さんの世界にとっては相応しくないだろうと思っていますから。

──言葉に惹かれたという意味では、自分が出演することを考えなかったのですか?

今井 最初はやはり俳優の立場から考えました。これをどう喋れば成立するのだろう?「地点」の俳優さんたちとは違うアプローチはあるだろうかとか。でも俳優として出るとなると誰に演出してもらうのか、自分と同じイメージで一緒に作れる演出家がすぐ見つかるのかという点で見つけるほどの時間はなかったので、じゃあ自分が演出をするのが近道かなと思ったんです。

俳優の存在の強度を信じて、そこに焦点を当てる

──出演することになった太田さんは、企画を聞いた時、そして今稽古をしていていかがですか?

太田 出演することが決まってすぐに、東京ではなかったのですが『忘れる日本人』を上演していた劇場があったので、そこへ観に行きました。『山山』も上映会で観ました。「地点」の皆さんの身体能力の高さが素晴らしかったので、これをそのまま同じ形でやるのは無理だろうなと思いました。ただ、今回の『メモリアル』も、松原さんの本ならではの言葉の強さとかリズムの心地よさとか、そういうものはとても感じますので、それをお客様に届けるにはどうしたらいいのか、出演者もスタッフも全員で試行錯誤しながら作っているところです。

──文学座で上演する作品は、基本的に写実的でリアルな演技が要求されますね。『メモリアル』は抽象的で寓話的な戯曲で、キャラクターもあるようでないような感じです。

今井 一応、太田さんは花嫁という役名があるんですが、読んでいくとずっと花嫁かというとそうでもない瞬間があったり、取次者という人はずっと取次者かというと急に奴隷だと言い出したり、1つのキャラクターということで固めることができない役ばかりです。ですから物語とかキャラクターに寄りかかれない。もちろんそうなると、「地点」の上演でもそうでしたが、頼るべきはその場の反射と体そのものでしかない。そこに確実に人がいる。けれどこの人がどう見えるかというのは、演じ分ける役ではなく、台詞を聞きながらその台詞を吐いているその人の状態とか言葉で、「あ、この人はただの花嫁ではないのかもしれない」とか、「ただの独身者ではないのかもしれない」とか、そうお客様にイメージしてもらう。そういう作品なのではないかと。

──そのために俳優さんはどうあればいいのですか?

今井 通常の作品でも言えることですが、とにかく舞台上で強く存在してもらわなくてはいけない。とくにこの作品は、俳優の存在の強度を信じて、そこに焦点を当てることが必要で、稽古では何よりも俳優さんの体の状態みたいなものにフォーカスをあてて演出しています。確実にここに人がいる、その人は松原さんの台詞をある強度を持って喋っている。それがお客様の耳にあの独特の文体が届く1つの要因になればいいんじゃないかと思っています。

──この戯曲は、役柄は抽象的ですが台詞はとても具体的ですね。現在の日本や世界に起きている事件や事象をイメージさせる、生々しいとも言える言葉がどんどん連なって出て来ます。

太田 私の役も花嫁という役名ではあっても、今起きている現実をいくつも思い起こさせるような大きなイメージで描かれています。ただ、いつもの文学座の芝居でしたら、その意味や気持ちをそのまま出すことが多いのですが、この作品ではそれでは意味づけしてしまうことになるので、まずは台本を読んだときに私も感じた、いろいろな捉え方ができるような、そういう物言いを考えているところです。

──具体的なイメージをなるべく渡さないということですか?

今井 まあ、そうですね。たとえば今この人は悲しいとか嬉しいとか、そういう通常の芝居の表現をしないためにこういう言葉で松原さんは書いている。この文章でこの言葉を発語しろというのは、方向を限定したくないからだろうと思います。でも俳優も人間ですから感情があって、感情をなくせと言ってもなくせないわけです(笑)。だから現場で皆さんにそういうことをお願いしながら、自分でも頭の隅ではなんて無茶なことをお願いしているのかと(笑)。でもそのへんは出演者のみんなも感じてくれているので、じゃあどうしたらいいのかと、今みんなでトライしているところです。

こういう本をやるのを一緒に喜んでくれる人と

──今井さんはこれまでに何作か劇団外で演出を手がけていますが、演出をしようと思った経緯は?

今井 僕はわりと他力本願というか、自分で切り拓くタイプではないので、自分から演出をしようと言い出したわけではないんです。先に「演出をやってみたら」という話があった。もちろん演出には興味はありました。俳優が稽古で一番近くにいる存在で、色々な演出家の方に会う度に、「何故その演出になるのか」、「なるほど、この方法になるんだ」とか考えたりする中で、演出家という生き物が何を考えているのだろうか(笑)、そこは知りたかったので。ほぼ演出家としてのキャリアゼロの人間に演出してみないかという話には正直びっくりしましたが、でもやらせてみたいという人の目を信じるというか、人の目というのはけっこう正しいと思っていて、役もそうで自分がやりたい役と合う役はズレがあったりする。そこでやらせたいと言ってくれる人の目を信じてやってみようと。それが最初でした。

──演出をすることの面白さは?

今井 演出しているときはまったく無我夢中で、面白さはわからないです。でも終わって俳優に戻った時に積み上がった発見があって、それは俳優をやっていくうえで演出側からの目を持てたという意味では役に立っています。共演する他の俳優たちについても、それぞれの解釈とか演技プランなど、全体の中でのバランスも含めて客観的に見れるようになりました。

──今回のキャスティングも今井さんだそうですが、選んだ決め手は?

今井 キャスティングの段階では台本はほぼない状態で、男3人女3人という登場人物になるということだけありました。そこでまず松原さんの本を面白がってくれる人、そして文学座でこういう本をやるのを一緒に喜んでくれる人を考えました。どんなに能力があってもその現場のやり方を体が拒絶してしまう人の体は、どうしても舞台上にそれが表われてしまうので。「これ、なんか面白いね」と思ってくれている俳優の肉体からでないと、この本は伝わらないと思ったので。

太田 その話は初めて聞きました。私はこの本ができる前に、『山山』の台本も読んで、面白いな、でもやるとなると大変そうだなとも思いました。でもなんだか心に響いてくるというか、それが何かははっきり言えないんですけど、この人が紡ぐ言葉を声にしてみたいなという思いはありました。

──今井さんの演出をご覧になったことは?

太田 観ていないんです。実は共演もしていなくて、今回が初めてご一緒する作品になります。今までほとんどお話ししたこともなくて、でも出演している作品は観ていますし、俳優としての今井さんは信頼していますから。

──同じ劇団でも必ず共演するとは限らないのですね?

太田 同じ劇団でも共演していない人のほうが多いです。

今井 僕も同じで、今回出てもらう6人は、よく知っているからというより、ほとんど直感で選んだ人たちなんです。たぶん共演する仲間を集めるのだったら、よく知っていて気心が知れているほうがいいのかもしれませんが、演出家と役者という場合、僕はある距離があったほうがいい。あまり仲の良い役者さんとだったらきっとやりにくいと思うので。

それぞれに新しい展開を求めていくために

──作品の話に戻りますが、松原さんの戯曲を三浦さん以外の人が演出するのは初めてですが、そのプレッシャーは?

今井 いや三浦さんはあまりにも凄い方ですし、彼独自の世界がありますから。もちろんプレッシャーはまったくないわけではありませんが、僕らの出来ることを精一杯やるしかないので。僕も「地点」は大好きですし、自分自身も身体性の高い集団に出たこともありますのでその方向性も好きですが、やはり自分の血の中にあるのは台詞であり会話劇で、そういう芝居の枠で育ってきたのは事実なので。稽古で俳優たちに指示を出していても、そこは自覚せざるを得ないところですし、出てくれる人たちもそういう芝居の中で能力を発揮してきた人たちです。それをゼロにして立ち向かいましょうというのは、うちの劇団でやる意味がないと思います。うちの俳優たちが持っている物言いの術などを完全に封印するのではなく、生かしつつも表し方を少し変えたり、演出上でもある枠組を残しつつ、でもその中で松原さんの文体が生きるようにやっていくことを考えています。

──俳優の方々も、文学座で習得してきた台本を読み解いて伝えるという演技を基盤に、この言葉をどう発語するかに挑んでいるということでしょうか?

太田 最初に読み稽古をして、1つ1つ台詞の意味をみんなで話し合いながら稽古してきたのですが、その中で「他の人たちがそう捉えているのか」とか、「この一言にそんなに意味がいっぱい込められているのか」とか、すごい発見の連続なんです。ですから私たちが簡単に気持ちを込めて言ってしまってはいけないと思いますし、この戯曲を書いた松原さんの言葉と、今井さんの演出に縋ってやっていければと思っています。

──松原さんにとっても、また新しいステップの作品になりそうですね。

今井 これまで「地点」に書いている作家という認識で捉えられがちだったと思いますが、そこから1つ踏み出す意味もあって文学座に書いてくれたと思います。すでにこの『メモリアル』の中で、これまでとはちょっと違う、通常の戯曲の対話ということを相当勉強してくださっていて、これまでの作品に比べればかなり対話体になっていると思います。

──確かにモノローグが延々と続くというより、会話体の戯曲になっていますね。

今井 そうなんです。ご自身が演劇とは無縁のところから入ってきた方なので、だったら普通の戯曲ってどんなものなのか知りたいとおっしゃって、その上でこういうものをと書かれたので。もちろんこれも難解だという方は当然いると思いますが、松原さん自身も新しい展開を求めて取り組んでくださった作品であり、僕らもこれまでやってきたことのない作品なので、お互いにそれぞれ新しい土俵にあがって作業して、観てくださる方にきちんと届けたい。その思いでみんなで全力で取り組んでいるところです。

今井朋彦 太田志津香

いまいともひこ○東京都出身。1987年、文学座附属演劇研究所入所。1992年、座員となり、現在に至る。第31回紀伊國屋演劇賞個人賞。第9回読売演劇大賞優秀男優賞。第62回芸術選奨文部科学大臣新人賞。近年の出演作は、『Le Pere 父』(東京芸術劇場)、『Taking Sides~それぞれの旋律~』(加藤健一事務所)、『再びこの地を踏まず-異説・野口英世物語-』(本公演、2018年・2019年)など。アトリエの会の演出は今回がはじめてとなる。

おおたしづか○茨城県出身。1994年、文学座附属演劇研究所入所。初舞台は、1997年文学座本公演『人生と呼べる人生』。1999年、座員となり、現在に至る。近年の主な出演作は、『数字で書かれた物語』(アトリエ公演)自転車キンクリーツSTORE『ツーアウト』(THEATER/TOPS)、『ぬけがら』(本公演)、『長崎ぶらぶら節』(本公演) 、『くにこ』(本公演・地方公演)など。

【公演情報】
文学座『メモリアル』
作:松原俊太郎
演出:今井朋彦
出演:太田志津香、上田桃子、前東美菜子、神野 崇、山森大輔、萩原亮介
●12/3→15◎信濃町・文学座アトリエ
〈料金〉前売4,600円 当日 4,800円 ユースチケット2,700円[文学座のみ取り扱い](全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉チケット専用ダイヤル 0120-481034(10:00~17:30/日祝除く)
〈劇団HP〉http://www.bungakuza.com/memorial/index.html

 

 

【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】

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