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切なくも温かくともった劇場再開の灯 新作オリジナルミュージカル2本立て「TOHO Musical LAB.」配信上演!

 

『Happily Ever After』海宝直人 生田絵梨花

『CALL』田村芽実 木村達成

新型コロナの影響により3月下旬から休止となっていた東宝演劇が、コロナ禍による様々な制約を逆手に取り、長く休館していたシアタークリエを「LAB.」(実験室)に見立て、無観客・ライブ配信による新たなオリジナルミュージカルを創りだした、「TOHO Musical LAB.」が、7月11日一夜限りの上演を行った(7月13日19時までアーカイブ視聴可能)。

上演されたのは、三浦直之作詞・脚本・演出、木村達成、田村芽実、妃海風、森本華出演による『CALL』と、根本宗子脚本・演出、生田絵梨花、海宝直人出演による『Happily Ever After』、2本の新作ミュージカル。いずれも上演時間30分の短編とは言え、発注から11日の配信上演本番まで、1ヶ月という通常あり得ない挑戦を受けて立っただけのことはある、若きクリエーターとキャストの、才能と舞台への愛が詰まった心に染みる新作となっている。

まず上演されたのは『CALL』。脚本を書き下ろした三浦が、無観客上演、つまり「カーテンコール」の拍手がないこと。その静寂から発想されたというタイトル『CALL』の物語世界では、観客がいないシアタークリエの空間全てがアクティングエリアとなり、この状態以外では上演できない作品だった。

ある時は森の中、ある時は深夜の海辺、人がいないところを選び「聴衆のいない音楽会」を開き、旅を続ける姉妹ガールズバンド「テルマ&ルイーズ」が、とある廃墟に迷い込むところから物語は始まる。「テルマ&ルイーズ」と言えばあまりにも著名なアメリカ映画だが、他にも著名な作品のタイトルや、パッと目に浮かぶ実在の固有名詞を巧みに使い、耳目を引きながらイマジネーションを喚起させていく手法が絶妙だ。やがて姉妹たちは廃墟に残されたあるものを見つけ、ここがかつて“劇場”と呼ばれた場所だと知る。けれども末の妹(田村芽実)は、二人の姉、長女(森本華)、次女(妃海風)とは違い、劇場や演劇を観た経験がない。そんな彼女に聞いたことがなかった「音」を送ってくれながら、思わぬ先客(木村達成)が現れて……と転がっていくドラマは、今閉ざされてしまった劇場を、見事に反映させながら進められる。

この世界観の中、誰も座っていない真っ赤な客席で木村と田村が語り合う姿に、2020年のはじめまで、たった4ヶ月前までは観客でいっぱいだったシアタークリエの客席。その熱狂が自然に蘇ってくる。製作発表の席上で「観客のいないシアタークリエを遊び尽くす!という脚本を書きながら、また劇場に皆で集まりたいなと思った」という趣旨の言葉を述べていた三浦の気持ちがストレートに伝わってきた。今、この時にしか生まれない新しいエンターテイメント、新しい作品の発想力に驚くからこそ、シアタークリエに行きたい…あの劇場でもう一度拍手を贈りたいという思いが募った。

そんな物語に誘う劇場の先客役の木村が、華やかさの中に持つどこまでも真摯なもの、伸びやかで芯の通った存在感が、この役どころをよく生かしている。実は相当な難役に当たると思えるキャラクターだが、木村が演じると素直に信じられ、ストンと納得させられる説得力を持つのが不思議なほど。

また、「劇場って何?」「演劇って一度も観たことない」という末の妹の田村芽実の、演じることへの狂気を秘めつつ、あくまでも素朴な持ち味が役柄の純粋を支えた。彼女が「CALL」を求めることから至っていくラストまでの流れもとても良い。

次女の妃海は、屈託を抱えながらそれを跳ね飛ばして行こうとする前向きさに、妃海らしいパワーが漲る。特に、流行りの○○映えを反転させる役柄の痛快な台詞は是非聞き逃さないで欲しいし、ドレスの着こなしが見事なのは言わずもがな。長女の森本は、なんといっても三浦の創り出す作品世界への親和性が抜群で、短い台詞、ちょっとした動きのひとつひとつが目に残り、強烈なインパクトになっている。それでいて決してうるさくはないという理想的な在り方が際立った。

冒頭から舞台に共にいるバンドメンバーにも全て役名があり、エッジも効き、心にも残る歌詞と音楽と共に、シアタークリエの隅から隅までを作品世界観に落とし込んだ、画面越しに惜しみない拍手を贈りたい作品だった。

そこからの2本目が、現実世界の様々なもめごとから、イマジネーションの力で飛翔していく少女が、その飛翔した世界であり得ない出会いを果たす物語『Happily Ever After』。ピアニストとダンサーに大きな役割りはあるが、基本的には二人ミュージカルとして、根本宗子の「祈りと願い」が、清竜人の歌詞と音楽に乗せて紡がれていく。

例えば『赤毛のアン』のアンや、『足ながおじさん』のジルーシャ等、読み継がれてきた不朽の名作に登場する主人公たちは、困難な現実を想像力によって補う力を持っている。『Happily Ever After』の生田絵梨花演じるヒロインも、その豊かな想像力によって、こんがらがった不協和音に満ちている現実から飛翔する術を身につけていた。

そんな世界に突然、海宝直人演じる青年が現れる。思いがけない出会いに戸惑い、あくまでも距離を取りながらも、少女はやがて青年が、表現の仕方が異なるだけで、自分と同じ苦しさを抱え、現実から飛翔してきたことを知る。この十分に現代的でありながら(実際冒頭からの流れは、まるで今、この時代そのままだ)次第に二人が心の距離を縮めていくロマンに満ち溢れた展開に、違和感も絵空事感もないのは驚異的だ。これは根本が「オファーから1ヶ月で本番というムチャぶりをされたので、ムチャぶり返しでキャストを指定させてもらいました」との趣旨で語る、生田絵梨花と海宝直人の二人が揃ったからこそ、できあがった物語に違いなかった。

生田と海宝と言えば『レ・ミゼラブル』で、全ての登場人物が希望を未来に託すコゼットとマリウスでコンビを組んでいる姿がまず思い出されるだろう。けれども当の『レ・ミゼラブル』が全編歌で綴られているグランドミュージカルだけに、意外にも二人が台詞を交わすのは初めてだという。そんな築いてきた長い共演歴がもたらす安心感と、共に並び立った新鮮さが、この二人の男女の邂逅に真実味と希望を与えている。

何より、アイドルとしての生田の完璧な可憐さと、絶大な信頼度を誇る海宝の歌唱力。互いがこれまで最も大きなアピールポイントにしてきたものの上に、更に細やかで豊かな芝居力を身につけていることが巧まずして浮かび上がってきて、作品のちょっとした可笑しさ、彩りを深めた。だからこそ、配信映像のアップに耐える二人の美男美女ぶりを堪能するだけでなく、劇場で実際にこの作品を観てみたい!という思いが映像を観ながら大きく芽生えていくのを感じた。この際、観客からもムチャぶりをさせてもらうと、根本宗子に生田&海宝で、この作品を発展させたオムニバス等の新作ミュージカルを書いて欲しい。それを二人ミュージカルとしてシアタークリエの呼び物にしていって欲しい、という夢まで広がった。それほど心に染みる物語に、清竜人の適度にポップな楽曲が与える現代の香りも見事だった。

そしておそらくは全く偶然に、二人の作家が「期待して傷つくことを恐れるあまりに、閉じてしまう」という、誰の心にも刺さるだろう防御の気持ちから、一歩を踏み出す勇気を描いていること。それがひいては、今、再び歩み出そうとする演劇界に関わる人々、愛する観客たちへのエールになっているのが印象的で、「劇場」が閉ざされるという想像を超えた災禍の中から、新たなエンターテイメントを立ち上げた「TOHO Musical LAB.」の、ここから始まる未来に期待の高まる新作配信となった。

【公演データ】
TOHO MUSICAL LAB.

『Happily Ever After』
脚本・演出◇根本宗子
作詞・作曲/音楽監督◇清竜人
演奏◇大谷愛
踊り子◇riko
美術・衣裳◇山本貴愛
プロップスタイリング◇遠藤歩
衣装スーパーバイザー◇藤林さくら
出演◇生田絵梨花 海宝直人

『CALL』
作詞・脚本・演出◇三浦直之(ロロ)
作曲◇夏目知幸
編曲・音楽監督◇深澤恵梨香
振付◇北尾 亘
美術◇中村友美
衣裳◇神田百実
出演◇木村達成 田村芽実 妃海 風 森本 華(ロロ)

●7/11 19時~配信上映
視聴券料金 3,800円(税込)
イープラス「Streaming+」での LIVE 映像配信のみの上演。
視聴券販売期間 6/29~7/13 (13日16時で販売終了)
LIVE映像配信視聴可能期間
7/11 19時~7/13 19時まで
チケット購入ページ:https://eplus.jp/tohomusicallab/
〈公式ホームページ〉https://www.tohostage.com/tohomusicallab/

 

【文/橘涼香 撮影/桜井隆幸】

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