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三組が奏でる恋に落ちた男女の5年間『The Last 5 Years』開幕!

木村達成×村川絵梨

水田航生×昆夏美

平間壮一×花乃まりあ

2001年にシカゴで初演された後、オフ・ブロードウェイに進出し、世界中で上演され続ける傑作ミュージカル『The Last 5 Years』の、小林香による新演出バージョンが有楽町のオルタナティブシアターで上演中だ(7月18日まで。のち22日~25日まで大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールでも上演)。

ジェイソン・ロバート・ブラウン作詞・作曲・脚本によるこのミュージカルは、駆け出しの女優として奮闘するキャシーと新進気鋭の作家のジェイミーが、恋に落ちてから別れるまでの5年間の姿を、キャシーは結婚生活の終わりから出会いに向かって、ジェイミーは二人が初めて出会った時から別れまでの、それぞれの方向から綴っていくという演劇構成の斬新さが大きな話題を呼び、以後20年に渡って世界各地での上演が続いている。

今回の2021年日本版は、ミュージカルの世界で独自の感性と確かな演出力によって活躍を続けている小林香の新演出による上演で、木村達成×村川絵梨、水田航生×昆夏美、平間壮一×花乃まりあの三組の恋人たちが登場。全編をほぼ歌で綴る、同じ音楽、同じ戯曲による上演であることがむしろ信じ難いほど、異なる三組の男女の5年間が立ち現われている。

なんと言っても作品の肝は、たった二人で演じられる舞台の二人の時間軸が異なっていることだろう。舞台は夫のジェイミーに去られ、呆然としながらもジェイミーの言うように悪いのは本当に自分だけだったのだろうか?と自問するキャシーの姿からはじまり、いつしか別次元に喜色あふれる5年前のジェイミーが登場してくる。宗教も人種も超えて最愛の人=キャシーに出会った!と身体中で喜びを表現していくジェイミー。出会いの感動と喜びが、ひとり残されるキャシーの姿に帰結することがわかっている物語は、軽快な音楽や、コケティッシュな場面も多く含みながらも、常にどこかに切なさが横たわるものになった。特に、そんな二人の時間軸が喜びの絶頂で一瞬交錯する。舞台上に二人だけの役者同士が目と目を合わせるただひとつのその瞬間にある不思議な感動も、この非常に凝った演劇的構成ゆえだ。

だが一方で、この作品には恋に落ちた二人の若い男女が、結婚生活と自己実現の両立に悩み、やがてすれ違い、決定的な亀裂を生んでいくという、誰にでも共感しやすい心の機微が描かれていて、舞台のニューヨークでなく、今の日本で起こっていてもまるで不思議ではない恋模様としてスッと受け止めることができる。それは演出の小林香がいくらでも実験的に作ることもできるだろう舞台を、ある意味とてもシンプルに、繊細に表現していることが大きく寄与していて、実際20年前の戯曲だということは言われなければ全く意識しないでいられる上に、14曲に渡る楽曲のどれもが耳に馴染み、いま生み落とされたかのような作品に感じられるのも良い効果になっている。

そんな舞台で5年間を生きる三組のペアが醸し出す雰囲気がまるで違っているのがまた面白い。

この作品について「えんぶ」2021年6月号でジェイミー役を演じる三人が互いのことを語ってくれているのだが、例えば「危ない!」という場面に出くわした時に、女性に対してごく自然に「そこ危ないよ」と庇うのが平間壮一。「ここで手を出したら馴れ馴れし過ぎるか?」と考えてぎこちなくなるのが水田航生。「庇うは庇うけど、恥ずかしくなってギャグみたいにしちゃう」のが木村達成なのだと言う。

本来の戯曲のジェイミーは、どちらかと言うと思ったことを思ったままにどんどんやり遂げ、しかもそれがトントン拍子に上手くいく人物なのだが、それでもジェイミーの中に、この三人の資質が自然に融合していて、全く違う色あいが生まれている。

初日が早かった順に、水田のジェイミーは天下無敵の前半と、キャシーとの信頼関係が揺らいでいく後半の落差が顕著だ。よかれと思ったことが理解されない都度、言いたいことを飲み込んでしまったジェイミーが、結局それによって二人の亀裂を大きくしてしまっていくことが伝わってくる。

対する昆夏美のキャシーは三人の中で最もパッショネイトで、女優としての上昇指向も強く見える。それだけにどんどん成功していくジェイミーに対する複雑さが負のエネルギーになって噴出する爆発力が、持ち前のエネルギッシュな歌声と共に非常に印象的。互いに尖っているが故に強い引力を持つペアだった。

平間のジェイミーは常に優しいジェントルマンで、自身の作家としてのキャリアももちろんだが、キャシーの女優としての成功を心から願っている人物に映る。だから精一杯の誠意を示し続けるのに、その優しさがむしろキャシーを追い詰めていく現実があまりにも切ない。ひとり涙するジェイミーの空虚に胸が痛んだ。その優しきジェイミーと共にあるキャシーの花乃まりあもまた、ジェイミーの優しさをよく理解し愛している。けれども自己実現を後押ししてくれるジェイミーの応援が、女優として上昇気流に乗れない現実のなかで重荷になり、優しさと哀れみを混同してしまう危うさがよく表現されている。歌唱力もますます進歩していて、最も哀しみの大きなペアになった。

木村のジェイミーは、大切なことをちょっとおどけて伝えるという本質が、クリスマスの夜にキャシーを励まそうとおとぎ話を語るナンバー「The Schmuel Song」にベストマッチ。全体に大きな聞きものになっているし、心からキャシーを愛しているからこそ、作家としての栄光をつかんでいく過程で、キャシーとのすれ違いをどうにもできないもどかしさがよく表れていた。

そんな木村に対する村川絵梨は11年前にこの作品に出演している経験値の高さがあり、非常に複雑なキャシーの心理を丁寧に描写している。自分がジェイミーの人気作家としてのキャリアの一部になっていることに戸惑うナンバー「A Part of That」の、心に澱がたまっていく表現が見事で、いつしか見ているものが違ってしまった二人の関係性が、明確に出るペアだった。

そんな全く異なる三組による二人ミュージカルの上演は非常に刺激的で、特に二人の時間軸が異なるからこそ、再見して改めて「あぁ、この場面をこちら側から見るとこう見えていたのか」が見出せるものも非常に多い。生演奏の豊かな響きも含めて、三組の違いを丁寧にすくいとった小林の演出も光り、是非三組を見比べて欲しい刺激的な上演になっている。

初日を前日に控えた6月27日舞台上で初日前挨拶が行われ、木村達成×村川絵梨、水田航生×昆夏美、平間壮一×花乃まりあ三組のペアと、演出の小林香が登壇。公演への抱負を語った。

木村達成×村川絵梨 水田航生×昆夏美 平間壮一×花乃まりあ 小林香

【囲み会見】

小林 この作品は20年前にオフ・ブロードウエイで誕生致しました。『The Last 5 Years』とありますように、ある男女の5年間を描いたミュージカルとなっております。男性の方は出会いから別れに向けての5年間。そして女性の方は別れから出会いまでの5年間の時を遡るという形を取っておりまして、時が逆行する女性と、時間通りに進む男性の5年間が交錯するという演劇構造が非常に話題になった作品です。ジェイソン・ロバート・ブラウンという作詞・作曲家が作りました。彼の人生を反映していると言われておりますけれども、彼の作った素晴らしい音楽で彩られています。今回2021年版ということで、日本版として新演出で上演させていただきます。20年前に作られた作品を2021年版として作りました。この作品が皆様のお手元に届く日を楽しみに稽古をして参りました。

木村 この作品のお話をいただいた時に、やらないという考えが自分の頭の中に浮かばなくて、いまの自分ができる全てをこの作品に懸けたいと思っての稽古を経て、いまこうやって舞台に立っています。本当にこの作品に出られて良かったなといま心から思えています。そして相手が絵理さんで良かったなとも本当に思えていますので、是非劇場に足をお運びいただきたいです。

村川 私は、実は11年前にこの作品をやらせていただいていて、すごく思い入れが強かった作品でいつかまたできたら嬉しいなと思っていたことが、11年越しでこういった形で叶うことになって。でも全く違う『The Last 5 Years』になっていて、私も毎日挑戦することだらけで、刺激と楽しみと、そんな日々を過ごしていました。シンプルに観に来てください!という気持ちでここにおります。よろしくお願いします。

水田 いまはこのあとに行われるゲネプロのことで頭がいっぱいで、気もそぞろでございます。それくらいの作品に挑戦できること、いまこの時に『The Last 5 Years』を2021年版で出来ることを本当に幸せに思っております。たくさんの方々にこの作品の良さが届くように、一公演、一公演誠意をもって舞台に立っていきますので、よろしくお願い致します。

 いま水田くんが言ったように今日これからゲネで、明日は初日という現実に非常に緊張と色々な思いがありますが、それだけの作品をやらせていただくことに、巡り会いを感じています。もともとこの作品が大好きで、ジェイソン・ロバート・ブラウンが作る楽曲も大好きだったので、参加させていただけることが本当に嬉しく、いまもまだ必死に頑張っている途中なのですけれども、三組とも全く違う個性で、それぞれが別物という形でお客様にお届けできると思うので、できれば三組ともご覧になってはいかがでしょうか?(笑)という感じです。頑張っていきたいです。よろしくお願いします。

平間 今回この作品で一番楽しみにしていたのが(演出の)小林さんと一緒に作品を創れるというところでした。これまで二度ご一緒させていただいているのですが、自分はすごく感覚的なところで稽古をすることしかできないんですね。その感覚的なところを、言葉ではなくて、小林さんとはどこか通じ合えていると感じられていて、今回もあまり作品についてどうこうではない話をしながらも、作品を創ってこられたので楽しくやれました。そんな僕の感じについてきてくれる花乃ちゃんもいて「感覚的な人といることが多かったので、気持ちわかります」と言ってくれて、良い感じで稽古が進んだので本番がくるのが楽しみです。頑張ります。よろしくお願いします。

花乃 たくさんの方に支えられてこの作品が、小林さんの新演出の基で新たな魅力を放ってくれたと思います。難しい楽曲ぞろいで、私にとっては宝塚を退団して初めてのラブストーリーでと挑戦が多いのですが、俳優としてこんな機会をいただけるのは本当にありがたいことだなと思っております。5年間という時間に人生の煌めきがキュッと詰まった素敵な作品だと思います。平間さんと一緒に頑張っていきたいです。どうぞよろしくお願い致します。

──木村&村川ペアにお訊きします。それぞれ相手役の印象は?

木村 本当に頼れるパートナーだと思います。作品の軸を作って下さり、僕はもう彼女の周りを走り回るだけで全部上手くいくという、ジェイミーにとっても木村達成にとっても欠かせない存在、いて欲しい人ですね。この作品の中で1曲だけ目を合わせて愛を誓うシーンがあるのですが、初めて目を合わせた時の彼女の印象が本当に素敵で、よくあるじゃないですか、奥さんがドレスを着た姿を見て泣いてしまうとか。そんな感覚を初めて体感してビビッと来ましたね。

村川 頼りにしているのは私の方です。ミュージカルの経験も豊富でいらっしゃるので、勉強になることばかりで。でもこうしてシュッとしているんですが、日々日々奇想天外な一面も見えて(笑)楽しく過ごしています。喋ると色々なところがある方でね(笑)

木村 そうですね(笑)。

村川 そんな印象です。

──水田&昆ペア、お二人ならではの見どころは?

水田 なんですかね。ならではって難しいね。他の人に訊いていただいた方が。

 エネルギッシュって言われました。パッションとも。

水田 エネルギッシュか。確かにエネルギッシュなパワー、お互いが呼応しあっているというのは、昆ちゃんとやっていて感じます。昆ちゃんが唯一無二のパワーを発してくれるので、それに応えるのが魅力かな。

 花乃ちゃんがグッとくるよ!と言ってくれたから、熱烈に愛し合っているんだって!

水田 頑張ります!

──平間&花乃ペア、稽古を通じてどんなペアだと感じましたか?

平間 小林さんからおっしゃっていただいたのは、見守っていきたくなる二人いう感じのペアになったねということで、その感じは自分たちでもします。三組を形容すると(木村&村川)四角、(水田&昆)三角、(平間&花乃)丸、みたいな感じのペアになったなと思っています。なんとなくわかります?

花乃 わかります。ジェイミーは浮気はしちゃうんですけど、平間さんのジェイミーを見ていると、許してあげちゃおうかな…みたいな、ヨシヨシしてあげちゃおうという女心に刺さるジェイミーでいらっしゃるので、愛情深さがそういう丸い感じになっていると思います。

平間 はい。

──それを受けて小林さんいかがですか?

小林 花乃さんいま浮気を許容する発言をされましたけど、新婚さんですよね?(爆笑)

平間 そうですよ!

花乃 それとこれとは別問題です!(爆笑)

小林 別問題なんですね!(笑)でもおっしゃるように、四角、三角、丸というのは非常によくわかります。言葉で言うならば、木村&村川ペアはナイーブ。水田&昆ペアはパッション。平間&花乃ペアがジェントル。という違いがあります。稽古も別々にやりましたので、お互いの稽古は全く見られないという状況でやらせていただきましたので、自ずと個性を出しながら、それぞれの役者さんの意見を聞きながらやってきました。全く同じ戯曲なのですが、全然違う作品に仕上がっていると思います。先ほど昆さんもおっしゃいましたけれども、是非三組とも観ていただきたいなと思っています。

──では小林さんから最後にご挨拶をお願いします。

小林 皆さん言い残したことはないですか?

平間 はい!

木村 ないです!

小林 水田&昆ペアはゲネのことで頭がいっぱい?

水田 そうです!

小林 とにかく音楽の美しさと、演劇構造の珍しさという話題が取り上げられる作品なのですが、20代の若い男女、これから自分の人生を築き上げようとしている若者たちが、愛する人のことも、そして自分の夢に対しても強い想いを持ちながら、自分に嘘をつくことなく、本当に一生懸命生きているからこそ、すれ違いも生まれていくことが描かれているミュージカルです。今会いたくてもなかなか人に会えないという状況が続いていますが、顔は見ていないけれども誰かのことを強く思っていることがあちこちで見受けられます。その人を強く思う気持ちというものが、人を生かすんだということを、改めてこの演劇作品を通してしみじみと感じました。ですからこの作品は、特に既婚者の方は「あ、わかる!」というところが非常に多いと思いますし、既婚者でなくても出会いと別れを経験したことがある人であれば、自分の人生を照らし合わせながら観ていただける作品となっていると思います。是非オルタナティブシアターまで足をお運びいただけましたらとても嬉しいです。どうぞよろしくお願い致します。

【フォトレビュー】

木村達成×村川絵梨

水田航生×昆夏美

平間壮一×花乃まりあ

【オフィシャルムービー】
◆木村達成×村川絵梨
https://youtu.be/a6I7Ot6ynW8
◆水田航生×昆夏美
https://youtu.be/9hltjQrltvM
◆平間壮一×花乃まりあ
https://youtu.be/RlM_B5SF4iI

【公演情報】
オフ・ブロードウェイミュージカル『The Last 5 Years』
作詞作曲・脚本:ジェイソン・ロバート・ブラウン
演出:小林香
出演:木村達成×村川絵梨 水田航生×昆夏美 平間壮一×花乃まりあ
●6/28~7/18◎東京・オルタナティブシアター
〈料金〉8.800円(全席指定・税込み)
〈お問い合わせ〉チケットスペース 03-3234-9999 (平日10:00~12:00/13:00~15:00)
●7/22~25◎大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
〈お問い合わせ〉キョードーインフォメーション 0570-200-888 (平日・土曜 11:00~16:00)
〈公式サイト〉http://www.last5years.net

【取材・文・撮影/橘涼香】

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