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永遠の時を生きる少年を描く『ポーの一族』上演中&ライブ配信レポート!

萩尾望都の不朽の名作漫画「ポーの一族」の舞台版である、ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』が有楽町の東京国際フォーラムホールCで上演中だ(17日まで。のち23日~28日まで名古屋・御園座にて上演)。

「ポーの一族」は、少女漫画界の第一人者である萩尾望都の代表作のひとつ。西洋に伝わる吸血鬼伝説を基に、少年の姿のまま永遠の時を生きるパンパネラ(バンパイア)エドガー・ポーツネルを主人公に、個性豊かな登場人物たちが何百年の時を駆ける連作漫画で、1972年小学館の「別冊少女コミック」で第一作が発表されて以来、世界規模で熱狂的なファンを獲得してきた。1976年に物語は一旦完結していたが、2016年「月刊フラワーズ」で40年ぶりとなる新作「春の夢」が発表された折には、掲載誌がたちまち完売状態となり、雑誌では異例の重版がなされたほどで、いまなお愛され続けている。

今回の舞台版は、2018年に宝塚歌劇花組にて初演され大好評を博した作品を軸に、脚本・演出を手掛ける小池修一郎が、男女の俳優が登場する舞台に合わせてアプローチしたもので、主演のエドガー役に、宝塚歌劇初演版で同役を務め、余人を持って代えがたい当たり役ぶりを示した明日海りおが、宝塚歌劇退団後初のステージとして再び登場。エドガーと共に時を超えていく少年アラン役に、初ミュージカル作品挑戦となる千葉雄大が扮し、新たな『ポーの一族』が展開されている。

【STORY】
イギリスの片田舎スコッティの森。当人たちには何の咎もない出生のいわれから、森の奥深くに置き去りにされた兄妹、エドガー(明日海りお)とメリーベル(綺咲愛里)は、薔薇の咲き乱れる館に住む老ハンナ・ポー(涼風真世)に助けられ、健やかに成長していた。
ある日、村の子供たちから捨て子だとからかわれてケンカ沙汰になったエドガーの前に、美しい貴婦人シーラ(夢咲ねね)が現れる。シーラは老ハンナの一族ポーツネル男爵(小西遼生)との結婚の許しを得る為に、薔薇の館を訪れたのだ。その夜一族の長・大老ポー(福井晶一)が司る二人の婚約式をのぞき見たエドガーは、老ハンナから首筋に口づけされ、人ではない一族に加わったシーラの姿に驚愕する。「ポーの一族」はすなわち、吸血鬼=バンパネラの一族だった。エドガーはその利発さと芯の強さを、将来の一族の長にと見込まれ、老ハンナに育てられていたことを知る。
「大人になったら、我々の一族に加わるね?」
秘密を知ってしまったエドガーに誓約を迫る老ハンナの言葉に、エドガーはメリーベルを巻き込まないことを条件にうなづくしかなく、エドガーの希望でメリーベルは養女に出される。だが、やはり婚約式を盗み見ていた子供たちの報告を受けた村人たちが一族の正体に気づき、杭と松明を手に館を襲撃。最初の犠牲者となった老ハンナが消滅し、大老ポーは一族の最も濃い血を引き継ぐ為、エドガーの首筋に口づけると、ポーツネル男爵夫妻にエドガーを託し、村人たちとの戦いの中で消えていく。
混濁した意識の中でエドガーは、自らが変化していくのを感じていた。時の流れが永遠に止まり、少年のままバンパネラとなったエドガー。永遠に成人しない彼はもう、1つ所に長く暮らすことは許されない。終わらない旅に出る前に、一目だけでもとメリーベルに会いに行ったエドガーに、兄が迎えに来る日を信じて待ち続けていたメリーベルもまた共に行く道を選ぶ。
1879年、新興の街ブラックプール。まるで絵のように美しい一家と噂されるポーツネル男爵夫妻と、その「息子」エドガー、「娘」メリーベルは、男爵夫妻が密かに一族に加えるに相応しい人物を探していることを知っていた。永遠に続く旅路は、愛がなければ進むことができない。その時エドガーの前に、この街の全てを握るトワイライト家の跡継ぎとして生れながら、実は心の拠り所を持たず、愛も知らぬまま孤独に生きる少年、アラン・トワイライト(千葉雄大)が現れて……

脚本・演出の小池修一郎が舞台化の夢を見て、原作者の萩尾望都がその夢を信じた日から40有余年。双方の思いの深さが結実した宝塚歌劇版の成功が既にある今、『ポーの一族』舞台化そのものに対する杞憂はみじんもない。ただやはり今回の男女の俳優による上演で最も注目されたのは、宝塚歌劇というある種のファンタジーを有している劇団世界から飛び出した時、この作品の耽美で幻想的な魅力がどう輝くのか?という面だったと思う。当然のことながら、男女の俳優たちが集う舞台には宝塚歌劇とは異なる現実感があって、それ自体がこの非常に稀有な世界観を持つ作品に与える影響が、吉凶どちらに出るのかには、一抹の不安がなかったと言ったら嘘になる。

だが、開幕前の客席に座ってまず目を奪われた『The POE CLAN MUSICAL GOTHIC』の飾り文字と薔薇が咲き乱れる美しい幕が発している力が、その不安を瞬時に期待感に塗り替えていく。三階部分まである松井るみ得意の空間を縦に高く使った装置に、次々と永遠の時を生きる「ポーの一族」が登場してくる様に惹きつけられる冒頭から、作品には大きなスケール感が漂った。特に宝塚版成功の立役者、主人公エドガーを演じる明日海りおが、性別、年齢、役者としての出自が様々に異なる俳優たちの中に、宝塚歌劇時代と変わらぬ姿で立つことそのものが、永遠の少年として生きるエドガーを具現していて、この効果は想像を遥かに超えていた。明日海の発する良い意味の異質な空気感と、エドガーの悲しみ、怒り、愛を繊細に、時に大胆に表現する演技力、瞳の力に吸い寄せられる。宝塚歌劇団退団後の第一作目の舞台が、宝塚時代の代表作になったのは、コロナ禍を含めた様々な要因故だろうが、その運命も味方につけた明日海りおの果てしない底力を感じさせた。

その明日海と並び立つアラン役に扮した千葉雄大は、映像を中心に大活躍を続けていて、これがミュージカル初挑戦。基本的に明日海がエドガーを演じる舞台で、リアル男子がアランを演じるという発表には当初かなり驚いたものだが、まず何よりも美しいマスクで、明日海エドガーと並んで違和感がないのが奇跡のようだ。ミュージカルの舞台に初めて出演する、ある意味もの慣れていない姿が無垢な雰囲気につながっていて、魂が穢れていない少年としてエドガーがアランに目を止めることを納得させていた。

また、ポーの一族の女性陣に宝塚OGを揃えているのも明日海エドガーを取り巻く良い配慮になっていて、老ハンナ・ポーの涼風真世が、この世の者でないハンナを悠然と演じている。特に婚約式の始まりを告げるセンター高見での歌唱と他をはらう存在感は圧倒的で、やはり元トップスターが放つ、舞台空間の掌握力の高さを感じさせた。もう一役霊媒師ブラヴァッキーを演じていて、老ハンナが素晴らしいだけに、その空気感を保って欲しい気持ちも残らないではないが、非常に色濃く作り込んだ役柄を演じる涼風本人があまりにも楽しそうに映り、これも一興と思わせられた。

ポーツネル男爵との愛を永遠に結ぶべく、自ら一族になることを選ぶシーラの夢咲ねねは、男爵への愛の深さがほとんど盲信に感じられるほどの強さで迫ってくる。人のエナジィ(血)を必要とするパンパネラになったことを後悔しないのか?とエドガーに問われて「なぜ?」と訊き返す。その短いひと言に自分の選択に一片の迷いもないシーラの心情が伝わってきて圧倒された。ドレス姿の美しさも元トップ娘役の真骨頂を発揮していて、舞台に欠かせぬ色を加えている。

エドガーの妹メリーベルにはやはり元トップ娘役の綺咲愛里が扮し、地毛と見まごうほど似合う金髪のカツラを含め愛らしさ全開。宝塚版上演時にメリーベルを演じた華優希が当時組のトップ娘役ではなかったという、宝塚世界ならではの事情が取り払われたことによって、メリーベルをセンターに置くことに躊躇がなくなり、作品の座りもぐんと良くなった。原作漫画で、事故によって記憶をなくしたエドガーをメリーベルが迎えに行くエピソードを描いた「エヴァンスの遺書」を思わせる、ただ愛らしいだけではない回転の早さが覗く綺咲の表現も面白い。

そんな彼女たち、老ハンナの召使レダを演じる七瀬りりこを含めた、宝塚OGたちが醸し出すこの世の者でない空気感の中で、全く浮かずにポーツネル男爵を演じている小西遼生のハマり役ぶりが群を抜いて目を引く。誇り高く一族を守り、シーラを愛し、永遠の未来につなげようとする厳格なキャラクターに一分の隙もない。この役柄に生っぽいものが混じると、ポーの一族そのものの世界観が揺らぎかねなかったことを考えると、作品の影のMVP的存在。こういう俳優がいてくれるからこそ、成り立つ企画だと改めて感じた。

また一族の長・大老ポーの福井晶一が、宝塚版では台詞だった部分を含め、登場場面を通じて迫力ある歌声を披露し、作品のミュージカル度を押し上げている。温かく人当りの良い持ち味を、大老・ポーの役柄の中にはみじんも感じさせず、作り込んだ装束や、杖の使い方も堂に入り強烈なアクセントを残している。涼風とのコンビでやはりもう一役オルコット大佐も演じていて、涼風同様本人がこの役替わりをとても楽しんで演じているのがよく伝わってきた。

彼らポーの一族たちに対して人間側の代表格になるジャン・クリフォードには歌舞伎界のプリンス中村橋之助が登場。物語世界の急展開を担う、大きな動きのある後半により見応えがあり、異端の者を排除しようとする思考に全く惑いがない、神への信仰心が強烈。非常に口跡の良いバイク・ブラウン役の丸山泰右と共に「人間より怖い者なんていないさ」という老ハンナの台詞につながっていく、作品の円環を感じさせた。

そのクリフォードのフィアンセ・ジェインの能篠愛未が、引っ込み思案で目立つことが嫌いというジェイン役の内に秘めた葛藤をよく表現していて、もう一役のストーリー・テラーにもなるパンパネラ研究家・マルグリット・ヘッセンとの演じ分けも鮮やか。またアランの母レイチェルの純矢ちとせが、母である前に女であるレイチェルの、アランに対する複雑な感情を強烈に表していて、アランの孤独を深める大任を果たしている。

他にもマルグリットの甥ルイス・バードの石川新太のダンス力と、少年役に違和感がない個性。パンパネラ研究家で作品タイトルを発する重要な役割りも担うドン・マーシャルの武藤寛のよく通る声。ポーの一族を急襲する村人ビルと、ジェインの父の医師カスターを演じ分け、殊にカスターの誠実さが際立つ西村清孝。歌にダンスに力量を見せるホテルブラックプールの支配人サミー・アボットの加賀谷真聡。アランの叔父ハロルドの下世話さを体現した鍛治直人など、実力派が大活躍。男性俳優でここまでストレートの金髪が似合う人がいる時代になったのかと感嘆する、養女にいったメリーベルと関わるユーシスの新原泰佑も作品の世界観を支えた。そのユーシスの母の狂気を見せた花岡麻里名。アランの絶望を深める一人マーゴットの笘篠ひとみの、ただイヤな女の子に終わらない複雑さ。美しいソロを聞かせる花売り娘デイリーの田中なずな。プライドの高い服飾デザイナー、マダム・ビーゴの美麗など、カンパニー全員に多くの持ち場があり、早替わりに次ぐ早替わりをこなして目が足りないほど。

その感覚を助けてくれたのが、2月7日に行われた東京公演のライブ配信だった。演劇作品は本来、広い舞台のどこを観るか?が観客に委ねられていて、目に入ってくる情報量が膨大になる。それがライブ配信では「いま観ておいた方が良いのはここですよ」とある意味でアテンドされることによって、物語世界にすんなりと没入できる。客席では別のところを観ていて気付かなかったポイントに気づかされる面もあり、劇場での観劇とはまた違った醍醐味をもって作品を堪能できる、両方を見比べる良さが伝わってきた。世界を覆ったコロナ禍以降、演劇作品のライブ配信が急速に進んだことは、劇場から遠方の地域に住むファンや、今、劇場にくることが様々な事情で難しい人たちにも、作品を届ける好機になっている。これによって、次は是非客席でという演劇ファンが広がる可能性も大きいだろう。

特に2月13日には「エドガーアングルバージョン」「アランアングルバージョン」と題された配信が決まっている。これは舞台のどこで誰が何をしていても「ひたすら好きな人だけを観ている」という、誰かのファンになったことがある人ならばきっと経験があるだろう観劇体験を、ライブ配信でもやってしまおうという大胆な試み。ここが観たかった!という明日海、千葉のファンにはもちろん、客席で全体を観ていた観客にも、新しい発見がきっとあるに違いない。また2月28日名古屋・御園座での大千秋楽は全国各地、台湾、香港の映画館でのライブ・ビューイングも決定していて、宝塚歌劇で初演された作品を、同じ主演者を迎えて男女キャストで上演するという、この作品自体の挑戦が、更に大きく広がっていくことを感じさせる企画になっている。

【公演情報】
ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』
原作:萩尾望都「ポーの一族」(小学館「フラワーコミックス」刊)
脚本・演出:小池修一郎(宝塚歌劇団)
出演:明日海りお/千葉雄大
小西遼生 中村橋之助 夢咲ねね 綺咲愛里/福井晶一
涼風真世 ほか

●2/3~17◎東京公演・東京国際フォーラム ホールC
〈料金〉S席14,000円 A席9,500円 B席5,500円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
●2/23~28◎名古屋公演・御園座
〈料金〉S席14,000円 A席9,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈公式サイト〉https://www.umegei.com/poenoichizoku/
〈公式twitter〉@poe_musical

【配信情報】

<ライブ配信>
① 2月7日(日)12:30公演(※・配信終了)
②2月13日(土)12:00公演【エドガーアングルバージョン】
③2月13日(土)17:00公演【アランアングルバージョン】
④2月28日(日)12:00公演
料金:4,500円(税込)公演パンフレット郵送サービス付6,500円(税込)
視聴券発売日:1月27日(水)10:00~各回の開演30分後まで購入可能
※アーカイブはありません

<国内ライブ・ビューイング>
日時:2月28日(日)12:00公演
会場:全国各地の映画館60館
料金:5,500円(全席指定・税込)

<台湾ライブ・ビューイング>
日時:2月28日(日)12:00公演(日本時間)
会場:台湾内の映画館6館
料金:NT$1450

<台湾・香港ライブ配信>
日時:2月28日(日)12:00公演(日本時間)
料金:NT$1,200 HK$335

劇場公演・ライブ配信の詳細 https://www.umegei.com/poenoichizoku/
国内・台湾ライブ・ビューイング、台湾・香港配信の詳細 https://liveviewing.jp/poenoichizoku/

 

【取材・文/橘涼香 撮影/岸隆子(Studio Elenish)】

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