【植本純米vsえんぶ編集長、戯曲についての対談】『さよならハッピー・バースディ』カート・ヴォネガット
植本 今回はカート・ヴォネガット。現代アメリカ文学を代表する作家の一人ですね。
坂口 扉に載ってた彼の写真がちょっとおかしい(笑)。
植本 人間的に面白い人なんだろうね。
坂口 クセのある正直な人なんでしょうね。
植本 どうして戯曲を書こうと思ったか、
坂口 金を払って俳優にわたしの言わせたいことを言わせたいって。
植本 笑わせたり泣かせたり出ハケをさせたい、って(笑)。
坂口 面白いよね。
【この戯曲について(カート・ヴォネガット)】
(前略)わたしは自分のために新しい家族と、新しい青年期を書こうとしていた。自分をたぶらかすつもりだったが、小説に出てくる幽霊たちでは、それができそうもない。俳優を雇わなくてはダメだ――俳優に金を払って、わたしのいわせたいことをいわせ、わたしの着せたい服を着させ、わたしがそうしろといったときに笑い、泣き、出て来たりひっこんだりさせたい。(後略)
(「さよならハッピー・バースディ」晶文社刊より)
植本 きっと小説家として名を馳せたけど、孤独な作業だから人と繋がりたかったんだろうね。
坂口 でも本格的な戯曲はこれ一作だけなんですね。本人は「戯曲の中には自分がいない、小説とかは自分を投影させた自分がいる」って言い方をしてますね。
植本 だから小説の世界に帰っていっちゃった人なんですよね(笑)。
坂口 小説の中でも作風が揺れ動いているんでしょうね。とっても信頼できるなって思いました。作品に自分を反映したいし、客観的にもしたいっていう気持ちが、すごく素敵ですね。
植本 この戯曲、小説に比べると読みやすいって言ってる人が結構いるんだけど。
坂口 これはわかりやすいですよね。
【登場人物】
ペネロピー・ライアン 30歳
ポール・ライアン 12歳 ペネロピーの息子。
ハロルド・ライアン 55歳 ペネロピーの夫。
ルースリーフ・ハーパー大佐 50歳 ペネロピーの夫の腰巾着。
ハープ・シャトル 35歳 求婚者。
ノーバート・ウッドリー医師 35歳 求婚者。
ウォンダ・ジューン 10歳 幽霊。
ジークフリート・フォン・ケーニヒスヴァルト少佐 50歳 ドイツ人の幽霊。
ミルドレッド・ライアン 45歳 ハロルドの先妻の幽霊。
【ト書き】
静寂。舞台は真っ暗闇。闇の中で動物の目が光りだす。ジャングルの物音がしだいに高まって、動物の闘争のそれになる。どこかで歌い手の声が聞こえる。<神の子はみな靴をはく(オール・ゴッズ・チレン・ガット・シューズ)の最初の数小節。である。ハロルド、ルースリーフ、ペネロピー、ウッドリーが暗闇の中で客席に向かって一列に並んでいる。彼らは動かない。窓の外に、夕暮れの大都市のスカイラインが浮かび上がる。
しだいに明るくなると、そこは高級アパートメントのリビングルーム。狩猟や戦争の記念品がところせましと飾りつけてある。玄関のドアと、つづき部屋の主寝室へ通じるドアがあり、廊下がそのほかの寝室と、キッチンその他に通じている。
(「さよならハッピー・バースディ」晶文社刊より)
植本 内容の話しを少し(笑)。出演者が観客に話しかけたりするでしょ。
坂口 幕の始まりとか終わりとかね、タイミングがすごく〜いい!
植本 そうね(笑)。
坂口 観客と俳優の距離がぐっと近づくし、観客が物語にのめり込まない作用もありますよね。
植本 こんな書き方は戯曲でしかできないからね。
坂口 オープニングは4人の登場人物が観客に向かって自己紹介をします。
植本 演劇的ですよね。
坂口 お父さんのハロルド。
植本 あとからわかりますけど傍若無人なね。
坂口 (笑)。
植本 あとはその妻のペネロピーとウッドリー医師
坂口 もう一人。ハロルドの腰巾着と言われている人がいますね。
植本 ルースリーフ・ハーパー大佐、50歳。
坂口 この人は長崎に原爆を落とした飛行士です!
植本 びっくりした。
【台詞】
ペネロピー はじめまして。わたしはペネロピー・ライアンです。この無邪気なお芝居は、殺すことが好きな人間と、そうでない人間を扱ったものです。
ハロルド わたしはハロルド・ライアン、彼女の夫だ。ほうぼうの戦争で、二百人ほどの人間を殺した――職業軍人として。そのほかに数千頭の動物も殺した――狩猟家として。
ウッドリー わたしはドクター・ノーバート・ウッドリー――医者、つまり、癒やす者です。いたるところで優しさが暴力にとって代わらければいけない。でないと、人類は滅びるでしょう。
ペネロピー (ルースリーフに)殺すことについては、あなたもなにか一言いいたいでしょう。大佐?
ルースリーフ (当惑して)まいった――わからんなあ。わかるだろう?どうっていわれてもさ。だれにわかる?
ペネロピー ハーパー大佐はもう退役しましたが、第二次大戦では長崎に原爆を投下して、七万四千の人びとを一瞬の閃光で殺したんです。
ルースリーフ わからんなあ、やっぱり。
ペネロピー わからない?
ルースリーフ ひでえもんだ。
ペネロピー ご意見ありがとう。(一同に)もう退場していいわよ。それでは、はじめましょう。
ウッドリー (観客にピースサインを送る)ピース!
ペネロピーを除いて全員退場。
ペネロピー (観客に)これは悲劇です。大詰めにきたときには、わたしの顔はキリマンジャロの雪のようになっているでしょう。
(後略)
(「さよならハッピー・バースディ」晶文社刊より)
坂口 序盤は複雑な家庭の状況がわかります。
植本 冒険家の夫ハロルドが8年も帰って来てないから、残された家族の生活が変わってきています。若い奥さんのペネロピーは旦那さんのハロルドと年の差婚だったので、彼女のことを狙ってる男が二人出てきます。
坂口 だれだっけ?
植本 掃除機のセールスマンのシャトルと医者のウッドリーですね。
坂口 シャトルはやり手のセールスマンですね。
植本 職業を馬鹿にされがちだけど俺けっこう稼いでるぜ、みたいな人ですね。
坂口 もう一人はお医者さんで、ちょっと後で分かりますが、ペネロピーと婚約をしたばっかりっていうところから始まります。12歳になる息子はそんな状況に反発してます。
植本 息子はお母さんを狙ってる二人を気に入ってません(笑)。
*
坂口 滑り出しは恋の鞘当て的な艶笑コメディなのかなっていう雰囲気もありますよね。で、お父さんが帰ってくる!
植本 死んでたと思ってた人が帰ってくるから、そらまあ一悶着も二悶着も起きますよね(笑)。
坂口 もう一つ面白いのはお父さんのパートナーが一緒にいますね。
植本 ルースリーフ・ハーパー大佐。
坂口 長崎に原爆を落とした飛行士!
植本 びっくりした。
坂口 一発で何万人もの命を失わせたみたいなことを言われてます。
*
植本 ハロルドは戦争に行ってるから何百人と殺していて、ハンターもやって動物もすごい数殺していてるんですけど。でも大佐は長崎で直接手を下さず(?)にものすごい数の命を奪っていて、それの比較とかも皮肉られてますね。
坂口 ハロルドはダイレクトに乱暴。自分の手の届く範囲で動物や人を殺してます。
植本 彼はマッチョ思想っていうの?力にものを言わせるタイプです。
坂口 トランプみたいだよね。
植本 豪腕だからそれに惹かれたりする人もいるんだけど。
坂口 でもこのお芝居色々あって最後は彼が混乱して・・・
植本 医者のウッドリーが、アンタは時代遅れだみたいなこと言って議論で攻撃する。
坂口 彼は平和主義で、ハロルドは暴力肯定みたいなね。
植本 そうなの、なんでも力でなんとかなると思っている。
坂口 彼なりのルールの中でやっていて、彼の中では正義。犯罪じゃないんだよね。
植本 今の時代となっては昔の思想というか、今じゃ一般的には通用しないかな。
坂口 でも今だって戦争での人殺しはOKだからね。
植本 で、トランプみたいな人もいるしね。
坂口 トランプは現実の世界だから何も解決してないで、ひたすら「フェイク」ですけど、これはお芝居だからある解決の目処がたって、ちょっとこちらの気持ちが落ち着きますよね。
*
植本 別枠みたいな形で三人の幽霊が登場しますね。
坂口 あれがないとわりと平坦なドラマになっちゃうけど、あの幽霊三人組がいいアクセントになってます。
植本 面白いですね。10歳のウォンダ・ジューンっていう少女の幽霊が出てくるんですけどこれが原題なんですよね。『ハッピー・バースデー ウォンダ・ジューン』。
坂口 ケーキに書いてある名前ですね。
植本 なんでかっていうと、ハロルドの息子がもうすぐパパの誕生日なのにケーキ買ってないってぐずってると、求婚者の一人が気を利かせてケーキ買って来るんですね。
坂口 そのケーキはキャンセルになっていたもので、
植本 なんでキャンセルになってるかっていうと、そのケーキをもらうはずだった子どもジューンは交通事故で死んでしまった。その子どもが幽霊として出てくる。
坂口 それってケーキつながりでしかない。その子どもでタイトルをつけるっていうのが渋いですね。
植本 (笑)。
坂口 作家はけっこうなへそ曲がりをたのしんでます(笑)。
*
植本 で、幽霊のもう一人がジークフリート・フォン・ケーニヒスヴァルト少佐、ドイツ人の幽霊50歳。
坂口 ハロルドが戦争で殺害したドイツの将校ですね。ハロルドが自分の体験を子どもに訊かせてますね。首をかききったり、ピアノ線でなんか・・・そこら辺の殺しの描写もエグイ。
植本 (笑)。
坂口 顔がアボカド色になるとかってね。
植本 その殺されたドイツの少佐が幽霊として出てきます。
坂口 でも、死んじゃっても本人たちは悲しんでない。
植本 楽しそうなんだよね、天国にいるのが。
坂口 自動車に轢かれた女の子も早く死んで良かったとかってね。学校行かなくてすむし、これから結婚したり子どもを産だりしなくていい、とかって。
植本 ずっと遊んで暮らせる天国の方がいい、みたいなこと言っていてね。
*
坂口 三人目の幽霊は、
植本 ハロルドの前の奥さんですね。彼は今が四回目の結婚なんですね。
坂口 前の奥さん全員がアル中になっちゃったって言ってますね。その三人で天国でなんかのチームを作ってますよね。
植本 面白いね(笑)。
坂口 時々こう・・・なんだろうあれ・・・天国のへんてこりんな様子を話しつつ、ハロルドの話題にもふれたりして、良いアクセントになってますよね。稽古も別々にできるから丁度良いんじゃないですか?
植本 (笑)コロナ渦で?
坂口 そう(笑)。このチームはほとんど他と交わらない。気が利いてます。
*
植本 話の流れは割とシンプルですよね。お父さんが8年ぶりに帰って来て、みんなが右往左往するっていうだけっちゃだけなんですけど。
坂口 結構ハイテンションなコメディですよね。
植本 勿論ね、ハロルドは求婚した男二人に対しては高圧的なんだけど、奥さんに対してもすごいでしょう。
坂口 これは70年代に上演されてるんですよね?こんなお父さんいたらたまらんよと思うけど多分今もいると思うんですよ。
植本 家長制度みたいなね。
坂口 正義は自分にしかない、みたいな。でもあれですよね、腰巾着パートナーの大佐のエピソードもかわいいよね。
*
植本 彼はハロルドと違って一家の大黒柱的な存在じゃないようで。
坂口 奥さんが彼は死んだと決めて別の人と結婚しちゃってます。
植本 だもんで、奥さんのお母さんが大佐の顔を見てショックで死んじゃう(笑)。
坂口 彼はちょっとそういうね。そういう人でも一瞬にして7万人殺せるシステムに作家はこだわっているようにも思えます。
植本 彼はコメディリリーフ的な役柄ですけどね。
坂口 面白いですよね。彼は色んな災難を背負う。8年間この二人がアマゾンの奥に行ってたんだけど、現地の人に麻薬的な何か青い食物を・・・
植本 そうそうそう!それしか食べさせてもらえなかったとか。麻薬成分が入ってるもんだから気力が失せちゃうっていう(笑)。だから軟禁状態になっていて、
坂口 朦朧とした状態で暮らしていて帰って来れなかった。でも冒険もしていて、二人は何かの難を避けて木の上で何日も一緒に暮らして大変だった、みたいなことも言ってますけどね。ダイヤモンドを探しにいったのかな?
植本 そうだ!
坂口 探しに行って、一応獲物は持って帰って来たんだよね。
植本 換金すればかなりのお金にはなる。
坂口 お金はあるんだけど行き場がない。切ない感じで面白い。くどいけど、そんな人が一瞬にして大量虐殺の一番の手先だったというのが作家としてみれば面白いですよね。
*
坂口 二幕目に入ると、ハロルドがジャングル熱で苦しんでいて妻の婚約者の医者ウッドリーを呼んだりして、お医者さんとハロルドの中盤のやりとりがありますね。
植本 一方で、天国でドイツ将校と少女ウォンダ・ジューンが友達になってるのか。「私達天国に新しいクラブを作りました」って(笑)。
坂口 天国はなんでも手に入るって言ってますね。
植本 三番目の奥さんの幽霊もでてきて、旦那のセックスについて語ってるでしょ。とにかく早いのよ、あんなに威張ってる様に見えて(笑)って。
坂口 如何にもって感じで上手ですよね。セックスネタ結構あるけど上手に処理してます。
植本 アメリカ人が笑ってるのが目に浮かぶ(笑)。
*
坂口 で、ハロルドが医者のヴァイオリン壊しちゃうのか?
植本 そうなんだよね。自分の奥さんにちょっかいをだしたっていう復讐で、医者が大事にしているヴァイオリンを・・・
坂口 立派なやつを壊しちゃうんだよね
植本 暴力に訴えるっていうか。
坂口 でもそれがさ、結構気持ちいい。ハロルドの反発心は乱暴で無茶苦茶なんだけど憎めない。ここはミソですね。芝居観てる人が、たぶんハロルドのことをそんなに嫌いにならないもんね。困った奴だけどつい面白がっちゃう。
植本 直感的で脳を通さずに生きてる感じですけど、自分のルールには従って生きてるから。
坂口 ハラスメントだらけで、ほとんどの人が認めないってキャラなのに上手に作ってますよね。彼が観客に向けて「二幕は終わり」とか客観的なことを言ってるのもいいですよね。
*
植本 終わりに向かって三幕は駆け抜けていきます。
坂口 最後は医者とハロルドの駆け引き、口げんかみたいな。
植本 そう。医者が言葉でやり込めてやろうってことで戻って来ます。
坂口 奥さんはとにかくずっと警察呼ぶとかやめろとか言ってるんだけど、
植本 このままだとお医者さん殺されちゃうからって言ってね。
坂口 でも彼は一歩も退かないんだよね。ハロルドもそれに応じる訳でね。議論であんたがくるなら、議論でやろうじゃないかっていう。そこらへんはナイト的なというかさ。
植本 騎士ね。
坂口 気質があるんでしょうね。
植本 本人も浦島太郎状態で戻ってきてうすうす気づいているんだと思うんだよね。
坂口 時代が変わっている様子はね。
【台詞】
(前略)
ハロルド 男と男の対決だ。
ウッドリー 癒やす者と殺す者の対決だ。それでもおなじことかね。
ハロルド きみをここへもどってこさせたものはなんなんだ。
ウッドリー あなたをここかしこへと動かしている、あの毛深い、きまじめな古い神々さ。なんなら“名誉”といってくれてもいい。
ハロルド (ペネロピーに)やはり彼はチャンピオンだった。
ウッドリー あなたがわれわれの教育のために作りだす死骸と負傷者のチャンピオンさ――われわれがそこから学べる教訓は、どれほどあなたが残酷かということだけだがね。
ペネロピー これは自殺行為だわ。(ポールに)警察を呼んできて。
ハロルド 止まれ!
ポール止まる。
ハロルド ここでは流血は起こらん。この男がどう戦うかはわかっている――彼にできる唯一の戦い――言葉による戦いだ。真実をつきつけあう戦いだ(ウッドリーに)そうだな?
ウッドリー そうだ。
ハロルド わたしは、香水入りの爪楊枝から攻城用の手榴弾にいたるまで、どんな武器を使ってもこの男をうち負かせる。だが、この男はこの家に乗り込んできてハロルド・ライアンを打倒できると、小さなおつむで思いこんだらしい。それも言葉を武器にしてだ。そうだな?
ウッドリー そうだ。
ハロルド なんという妄想だろう!(笑う)いやはや、まったく。滑稽千万。
ウッドリー こっちの言い分を聞いてからにしろ。
(後略)
(「さよならハッピー・バースディ」晶文社刊より)
植本 うんうん。そうだ。お医者さんとハロルドの議論が・・・
坂口 結構な議論なんだけど、でも最後の方で、お医者さんの方が勝ちそうになって・・・最後になんか、でも、最後はまた逆転しそうに・・・殺さないでくれみたいなことになりません?
植本 ハロルドに銃を取り上げられちゃうからね。
坂口 でも、もうさ、ハロルドは議論で負けた、っていうか反省したみたいになったのに、そのあとにまた逆転があるでしょう。そこはちょっとよくわからなかった。
植本 それは芝居の面白さなのかな、と思ったんだけど、パワーバランスがどっちにいく?みたいな。で、最後あそこにいくから。
坂口 最後で銃をもってハロルドが部屋に戻って、
植本 銃声が聞こえて、
坂口 ハロルドは自殺しちゃったかもしれない、っていうことですよね、観客はね。銃声がするから、死んじゃったのかって・・・
植本 時代に取り残されて死んじゃったのか、と。
坂口 すると、戻ってくる。
植本 撃ちそこなったって。
坂口 何を撃ちそこなったのかな?
植本 自分、ととる人が多いのかな。
坂口 そうだよね。で、終わりでしたっけ?
植本 幕のセリフがハロルドで、観客に向かって「おしまいだ」(笑)。
坂口 とってもいい。笑っちゃうよね。このお芝居、日本ではやってないんですか?
植本 聞いたことないね。でもやって欲しい。これ、だれかで上演を。
坂口 やれる人いるのかなハロルドを。大佐役とか植本さんいいんじゃないですか?
植本 もうそういう年齢ですよね(笑)。
坂口 ハロルド役見つけるの、なかなか難しいかもしれないな。すごい存在感がないと芝居やってるみたいな感じになっちゃうじゃないですか。
植本 日本で見たいので、ぜひ。
坂口 そう言わないで(笑)。やって欲しい人いたらぜひ一緒にやってほしいって、
植本 あ、見つけたら台本届けに行くくらいのことを僕たちもやっていくと。
坂口 「私はこの役でやりますから」って植本さんが言う!
植本 (笑)「この役は僕ですでに決まってるんですけど」って?
坂口 そう「この役だけは決まってます」って言えば良いんじゃないんですか?健全な演劇への関わり方だと思いますよ。
植本 はい、ありがとうございました!
坂口 (笑)いい作品に巡り会えました。
【訳者(浅倉久志)あとがき】
本書は、1971年に刊行されたカート・ヴォネガットの戯曲 Happy Birthday,Wanda June の全訳です。
カート・ヴォネガットは、あらためて紹介するまでもなく、現代アメリ文学を代表する作家のひとり。奇抜な発想と、鋭い問題定義と、ブラック・ユーモアをまじえた軽妙な語り口で、まず60年代のキャンパスの教祖的存在となり、傑作『スローターハウス5』でついに全国的な人気を獲得するにいたりました。ほぼ2年に1冊のペースで発表される新作は、つねにベストセラー・リストの上位にのぼっています。
(中略)
作者の序文にもあるとおり、この芝居は1970年にオフ・ブロードウェイのテアトル・ド・リースで幕を開け、途中でブロードウェイのエディソン劇場に舞台を移して、142回の公演ののち、71年3月14日の最終回を満席の盛況で飾って幕を閉じています。
アメリカ人の男らしさへの執着、マッチョ信仰に批判の矛先を向け、旧来の男女の役割に疑問を投げかけたこの芝居には、上演中からこんな賛辞が寄せられました――
「数多くのシーズンを通じても、最高の機知に富んだ、面白おかしい、しかも最高に痛烈なコメディ。ブロードウェイを見わたしても、現代アメリカの生活の悲喜劇をこれほど正確に表現した芝居はない。絶賛にあたいする」――エモリー・ルイス レコード誌
「ヴォネガットの芝居は、天馬空を往く奔放なウィットと、おどけた狂乱と、陽気な活力に溢れたいる。愚劣な世界に対する風刺」――ウィリアム・グローヴァー AP通信
「ヴォネガットの芝居は歯切れがよく、ユーモアに溢れた力強いイメージに加えて、真の才能が生みだす幾多の瞬間がちりばめられている」――マリリン・スタシオ キュー・マガジン誌
(「さよならハッピー・バースディ」晶文社刊より)
植本純米
うえもとじゅんまい○岩手県出身。89年「花組芝居」に入座。以降、女形を中心に老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。外部出演も多く、ミュージカル、シェイクスピア劇、和物など多彩に活躍。同期入座の4人でユニット四獣(スーショウ)を結成、作・演出のわかぎゑふと共に公演を重ねている
坂口眞人(文責)
さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。
▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼
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