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【一十口裏の「妄想危機一髪」】第78回 残業時代

~ ニュースです。
経営難に見舞われている磯崎商事の本社では、
残業がまったく終わりません。~

かくして現在、この、イ・ソ・ザキ・ショー・ジの、ケ・イリー・ブは、
千四百年間に渡って続く、ザ・ン・ギョー時代にある。

俺はワ・イー・シャツの襟を立たせ、ネ・クー・タイを頭に乗せて、
今日もシュッ・シャーする。
ケ・イリー・ブの大地は、フロ・アーと呼ばれ、
灰色のロウー・カと、肌色のオフィー・スに分かれる。

俺はいつものように、
安息のロッ・カー・ルー・ムを出て、
豊穣のキュー・トー・シツを通り抜けると、
聖なるタイ・ム・カー・ドを高く掲げて、
タイ・ム・レコー・ダーに祈りを捧げる。

このタイ・ム・レコー・ダーには、決して触れてはならぬ。
その名を口に出して発音することさえ、禁忌だ。
もしもその名を口にすれば瞬く間に、このフロ・アー全土が、崩れ落ちるという。

そのフロー・アーが崩れ落ちた先に、一体何があるのか。
それは誰も知らない。

俺は物心ついた頃から、それが恐ろしくて仕方なかった。
なので急いで自分のデスー・クについて、パソー・コンをカタカタ鳴らした。

この儀式こそが、ザ・ン・ギョーである。
我々はスー・ツを着込み、パソー・コンをカタカタ鳴らし続ける。

その音は、一瞬たりとも、途切らせてはならない。
その音色を絶やせば、ウリー・アゲは失われ、カブー・カは下がり、
シャ・チョーの怒りに触れ、このフローア全土は、焼かれるのだ。

このフロー・アーは、パー・テー・ションに守られた地だ。
その中にあってこそ、我々は平和に、ザ・ン・ギョーを続けることが出来る。

そのパー・テー・ションが焼かれた先に、一体何があるのか。
それは誰も知らない。

フロ・アーの大地、パー・テー・ションの山脈。
それらに守られ、日夜続けるカタカタ音。
老いも若きも、男も女も、皆で奏でるカタカタ音。
この音色こそが、我々の生きている証であり、我々の生きている様であり、
我々を未来に生かし続ける、奇跡である。

しかし季節の変わる時、つまり年に四度だけ、その音が静まる夜がある。
祭りの夜だ。

我々は酒を飲み交わし、歌い、踊る。
その踊りは、ブレー・コーと呼ばれる。
カンー・ジと呼ばれる者の取り仕切る中で、
ニ・ジー・カイ、サン・ジー・カイと、その祭りは朝まで続く。

そしてもう一つ。若者たちのみに許された祭りがある。
年に二回ほど、若者たちの中から、新たなカンー・ジの誕生する夜が訪れるのだ。
その夜が訪れると、そのカンー・ジは静かに、若者たちに祭りの開始を告げる。

この祭りは、この地の若者たちにとって、
大人への通過儀礼となり、神聖な儀式となる。
若者たちは、酒を飲み交わし、語り合い、セ・キ・ガエを繰り返す。
そうしてやがて、時が来ると、男は気に入った女に求愛するのだ。
この祭りは、ゴー・コンと呼ばれる。

そこで俺は、妻と結ばれた。
オーサ・マゲー・ムの神の祝福を受け、
シャナ・イ・レンー・アイの儀式を済ませた。

それは神聖なものである。祝福を受けたはずのものである。
なので俺は、妻に何が起きたのか、まるで分からなかった。

妻が、フ・リーンに、取り憑かれたのだ。
妻は否定したが、それは確実だった。
俺は感じたのだ。その悪魔の気配を。

それはどこからか、やって来る。
初めて感じる、見知らぬ気配。不穏な気配。
存在するはずのない気配が、しかし確実に、俺の妻の元を訪れている。

フ・リーンは、人を変える。変えてやがて、その人を消し去ってしまう。
だから俺は、妻を見張った。昼も夜も、見張り続けた。
うっかり眠りについてしまえば、妻は消え去ってしまう。
カ・チョーの妻も、そうして消え去った。

だから俺は、決して眠らなかった。
週に一度、必ず訪れる、カイー・ギと呼ばれる、眠りの悪魔。
それにも俺は、抗い続けた。そうして俺は、やがて見たのだ。

それはやはり、妻の元を訪れた。
暗闇に紛れ、息を潜めて、妻の元を訪れた。
それの影と、妻の影。
その二つが重なり合った時、俺はその真ん中に一気に分け入った。

俺はそれを遂に、捉えようとした。
しかしそれはするりとそれをかわし、闇の中に消えていった。
しかし俺は驚いた。それは我々と、同じ形をしていた。
このフロー・アーに住む我々と同じ、人の形をしていた。

人の形ではあるが、それは我々と違い、
ワ・イー・シャツの襟を大きく開き、
ネ・クー・タイを腰に巻いていた。
スー・ツを、裏表に着込み、その袖を短く、千切っていた。

俺は悲鳴を上げた。妻は奇声を上げた。
俺は、見たことのない奇妙な男を見て、驚愕した。
妻は、男を追い、追いつかず、錯乱した。

俺は、この地の長、ブ・チョーの元に走った。
ブ・チョーは、この、フロー・アの大地の、一番奥に住む。
一番奥の、一番美しいパー・テー・ションの向こうに、住む。
そこを訪れるのが許されているのは、聖なるハンー・コを頂く時だけである。

しかし俺は、そのパー・テー・ションを超えた。
カイー・コと呼ばれる追放を、恐れる間もなく超えた。
しかしブ・チョーは、静かに俺を招き入れてくれた。
そして俺の話を聞くと、静かに語り出した。

古い古い言い伝えがあるという。
その言い伝えは、この地のパー・テー・ションの向こうにも、
別のフロー・アーが、別の大地が、あるというものだった。

俺は目眩がした。信じられないことだった。
代々、ブ・チョーのみに言い伝えられてきたという、その伝説。
それは荒唐無稽なものだった。しかし見知らぬ男をこの目で見た俺は震えた。

ブ・チョーは、続けた。
かつて、大きな戦いがあった。
その戦いにより、この大地は分かたれた。
それより以前は、この大地に、パー・テー・ションは存在しなかった。

そんなことがあるものか。
俺の震えは更に小刻みになり、止まらなくなった。
それは、この、ケイ・リ・ブが生まれる、はるか昔の話だった。
普通であれば信じられない話だった。
普通であれば笑って馬鹿にしただろう。
しかしそれは本当に、存在するのかもしれない。

そして、ブ・チョーは、俺に教えた。
その、かつては我々と一つだった、今は別の地の名を。

ソウ・ム・ブ。
そして、
ジン・ジ・ブ。

俺は、その耳慣れない名に、眉を顰めた。
パー・テー・ションで分かたれたと言う、三つのフロー・アー。
それがもし、本当にあるとしたら、その名は確かに、そうである気がした。
しかし一体、そこがどんな世界なのか、まるで分からなかった。

しかしこの世の者でないと思われる者は全て、パー・テー・ションを超えて来る。
妻の元を訪れた者も、即ちきっと、パー・テー・ションを超えて来た。
その向こうには、別の地があり…。

ブ・チョーは、この話はあくまでも伝説だと言った。
そして、千年に一度だけ、パー・テー・ションの一部が、開け放たれると言った。
だが、それも古い言い伝えだ。何のために何がそれを開け放つというのか。

しかしその時だった。動くはずのないパー・テー・ションが震え出した。
このフロー・アー全土のパー・テー・ションが、小刻みに震え出した。
あちこちで悲鳴が上がった。
俺とブ・チョーは、皆に駆け寄った。
皆は身を寄せ合って、震えるパー・テー・ションから離れた。

何が起きているというのか。
しかしブ・チョーは突如、声を上げた。

「オツ・カ・レ・サマデ・スー!」

それは言い伝えに残された、呪文だった。
この夜こそが、その千年に一度の夜。

ブ・チョーの声で、パー・テー・ションの震えは止んだ。
そしてパー・テー・ションの一部が、ゆっくりと開かれていった。
そこにはそれぞれ、ブ・チョーと同じく、禿げ上がった男たちが立っていた。
恐らく、別の地の、ブ・チョー。それが二人、立っていた。

ソウ・ム・ブと、ジン・ジ・ブの、ブ・チョー。
俺たちは身を寄せ合ったまま、自然と大地に平伏した。
パー・テー・ションの向こうでも、同じく平伏す民が居た。

三つの大地のパソー・コン。
その明かりが、初めて合わさり、眩く光った。
その見た事のない明かりの中で、
ソウ・ム・ブの、ブ・チョーが、一歩、前に進み出た。
そして両手を、高く掲げた。A4の冊子を、高く掲げた。

伝説によれば千年に一度の夜、大事な文書が、届けられるという。
この世界の全てを伝える文書が、届けられるという。
その声は、三つのフロー・アー全土に響いた。

「シャ・ナイ・ホーだ」

三つの世界の住人が、叫び声を上げた。
その声はうねり、三つの大地を震わせた。
それは、それぞれ三つの世界において、共に聞かされていた神話にあった文書。
それが今、もたらされたのだ。

祈る者、抱き合う者、泣き出す者、踊り出す者、歌い出す者。
三つの世界が一つになって、それを喜んだ。共に喜んだ。
かつては一つの世界の住人だった者たちが、千年を超えて一つになった。

俺は無意識に、男を探した。この中に居るはずの、さっき取り逃がした、あの男。
俺はあの男と、ソ・ショーとイ・シャ・リョーを、交わし合おう。
そうすれば、妻はリ・コーンの神により、フ・リーンから解き放たれる。
そう聞いている。そう言い伝えられている。それを俺は、おこなおう。

俺は、妻の手を引いて、ソウ・ムの地に足を踏み入れ、ジン・ジの地を目指した。
男と同じ風貌の者たちが歌い踊る、その中に、男は居るはずだ。
俺は妻を、手放そう。そうして妻は…。

しかし俺はその時、気づいたのだった。
その時、誰一人として、パソー・コンを、カタカタと鳴らしていなかった。
そしてそれに気づいた瞬間、全てのパー・テー・ションは、一気に燃え出した。

全てのザン・ギョーが途絶えた時、世界は終わる。
全ての者が逃げ惑った。しかし逃げ場はなかった。
三つの大地の全てが焼かれ始め、
聖なるタイ・ム・レコー・ダーは、落とされ割れた。

三つの大地は、大きく揺れ出した。成す術がなかった。
この大地は割れて、崩れ落ちる。
俺は妻の手を離した。
せめて男を、見つけて欲しい。見つけて、互いに抱き合って欲しい。

かくして、全ての大地が崩れ落ちていった。
エン・ト・ランスと呼ばれる、地の底へ。
シャ・チョーの像が迎える、地の底へ。

 

【著者プロフィール】一十口裏
いとぐちうら○ 「げんこつ団」団長

げんこつ団においては、脚本、演出のみならず、映像、音響、チラシデザインも担当。
意外性に満ちた脚本と痛烈な風刺、容赦ない馬鹿馬鹿しさが特徴。
また活動開始当初より映像をふんだんに盛り込んだ作品を作っており、現在は映像作家としても活動中。

【公演情報】
げんこつ団『 パ セ リ 』
2019年11月14日(木)〜11月18日(月)@駅前劇場
脚本・演出/一十口裏 振付・演出/植木早苗
出演/
植木早苗 春原久子 河野美菜 池田玲子 望月 文 三明真実
皆戸麻衣 丹野 薫 し じ み 三枝 翠 天笠有紀 藤岡悠芙子

久しぶりに帰った実家で、母と パ セ リ はどう暮らしていたのか。
自ら電ノコを持った母を、止められぬ娘たちと押し黙る パ セ リ。
解体されていく家と家族は、迫り来る日本の住宅事情に飲み込まれ、
やがて再生に向けて動き出す。

~様々な老若男女を変幻自在に演じ分ける女優達による家屋ナンセンス喜劇~

げんこつ団公式サイト
http://genkotu-dan.official.jp/

 

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