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【池谷のぶえの「人生相談の館」】第52回 黒須洋嗣さん(ダンサー・振付師・俳優)

むしろこっちが人生相談したい気持ち満々のコラム、「池谷のぶえの人生相談の館」です。

イキウメ「外の道」、無事千穐楽まで完走することができました。
ご来場いただいた皆様、お気にかけていただいた皆様、ありがとうございました。

4月に心身の体調がおかしくなってしまった私は、稽古初日の顔合わせの日、「これこれこうゆうことがありまして、正直いまの時点で、お芝居をきちんとできる自信がありません」とみなさんにお伝えしなければならないくらい、ヨボヨボでした。

本来ならみなさんを引っ張っていく立場の年長者がそんなにヨボヨボした状態で、座組のみなさんを不安がらせてしまったと思います。本当に申し訳ないです。

ヨボヨボ宣言はまんざらでもなく、お稽古場に行く電車でバクバクして、お稽古にすら行けないかもしれないと思った日もあったり、思考がスムーズに動かず、本番中に同じようなことになったらもう無理だ…と思った日もあったり、初日は、人生で初めてごはんが喉を通らないくらい緊張したり…キング・オブ・ヨボヨボでした。

そんな中、今回の作品が特に全力で集中せざるを得ないような作品だったことが、逆に救いになったと思います。
そして、ああまだ舞台に立つことができた…という実感をさせてもらえたことも、ありがたかったです。

まだまだ大変な状況の中、劇場に足をお運びいただいたみなさま、ご来場が叶わずとも観たいという想いをあたためていただいた皆様、一緒に作品づくりの時間を過ごした皆様に、改めて深い感謝を。

そんでもって、せっかくヨボヨボしたついでに、なんで私こんなにもヨボヨボしてしまったのかなぁ…と考え続けていたところ、自分でも気づかないうちに自分の中の小さな枝がポキポキと折れまくっていたのだな…と気づきました。
その枝は、寂しいと折れてしまう枝で、自分はずっととっても寂しかったのだな…と、やっと気づいてあげられた気がします。

とはいえ、特に治してあげられるものでもなく、「そっかそっか、また寂しいんだね」と寄り添ってあげるくらいしか手立てはない。
でもいままでは、寂しいことにさえ気づいてもらえない寂しさもあったのだとしたら、進歩・オブ・進歩です。

これからも、ああ今日も寂しい!! と、元気よく朝日に叫べる人生を歩んで行く次第です。

さて、今回のご相談は、この方です。

*****

のぶえさんに色々お話するのは、いつぞやのオンライン飲み会で、僕がチャミスル飲んで寝てしまって以来ですかね? 気づいたら誰もいない固まった画像だけが残されていたというあの虚しい夜…
その節は失礼いたしました!
ただいま僕はラッパ屋第46回公演「コメンテーターズ」の絶賛稽古中でして、奇跡的にほぼ予定通りにことが運んでおります。(笑) 個性的な役者さんばかりで、稽古にて笑いが絶えず、それプラス55歳の自分より人生の先輩方や歳の近い方が多いのでなんだか安心感があります。昨今、どの現場に行っても自分が一番年上みたいなことがあるもので…
さて、ということで役者の先輩であるのぶえさんにご相談があります。たぶん前に話したかもしれませんが、実はダンスを始めるだいぶ前、小学3、4年生の頃ですかね。テレビっ子だった僕は良く当時のドラマを観ていて、「芝居がしたいな」とずっと思っていた時期があったんです。その当時祖母と一緒に大宮に住んでいたのですが、とある劇団がありそこに直筆で芝居をしたい旨を書いて手紙を送りました。2週間後くらいに返信があり、「是非一度見学に来てください」と。やった! と喜ぶのも束の間、厳格な祖母に「お前はこんなことをしたいのかい?」と。祖母は父が遊び人だったせいもあり、ずっと僕には公務員になりなさい、なりなさいと言われていたのです。なので、その時自分は祖母にとっての「良い子」を演じてしまい、
「いや、そんなことないよ。芝居なんかやりたくないよ」
と言ってしまったのです。それから僕の中で「芝居」「役者」は封印され、やりたいことが見つからない8年ほどの月日が流れ、そこでダンスとめぐり合い、だいぶ端折りますが、ダンサー・振付師という肩書きがつくほどになりました。芝居は30歳の頃から参加したTHE CONVOY SHOWの中で始めるようになり、それから色々な方の演劇ワークショップを受けたりしつつ、これも端折りますが今にいたります。
長くなりましたが、あの頃の夢を今から追いかけるのは無謀でしょうか? 風の時代の勢いに任せて、パイセンのぶえ池谷に聞いてみます! 酔谷にも悪谷にも聞いてみたいのですが…よろしくお願いします!

黒須洋嗣さん(ダンサー・振付師・俳優)

*****

黒須さんとは、かれこれ18年ほど前に、舞台の共演者の方を介して知り合いました。

その頃の黒須さんは、THE CONVOY SHOWでバリンバリンにご活躍中で、本来なら簡単に交わるような道筋ではないので、そこからどうやって現在のような間柄になっていったのか、細かい道筋は覚えておりません。笑

でも、本当によく舞台を観に行ってらして、そして、舞台をとても楽しむ姿勢を持っていらして、かといって何でもかんでも舞台最高! というわけではなく、冷静な見解もお持ちで…「芝居」「役者」をやりたい! という想いと同時に、観ることも含め、お芝居の全てを愛しているのだなぁ…ということが伝わってきます。

いや、お芝居だけではないですね。結局、お芝居よりも先に出会うことになった、ダンスや振付についても、表現するということをとても愛おしく、大切に、なくてはならないものと思ってらっしゃるのだと思います。

最近、韓流ドラマにハマってらっしゃるご様子ですが、そのハマり方もなかなかなもので、表現をインプットすることも、アウトプットすることも、同じくらいの情熱を感じます。

実は情熱というものは才能だと思っていて、誰もが持てるものではないと思うのです。実際私などは、その部分がとても欠けていて、コンプレックスです。

さらに、小学校の時に、火種を完全に消さないまま蓋をすることになってしまったお芝居に対する想いは、陶芸窯のようにギンギンの温度で熱せられていたのでしょうね。

納得のいかないまま蓋をしてしまったものって、いつか絶対その蓋は開いてしまうか開けなくては、処理できないのかもしれません。

黒須さんのお芝居に対する蓋と並べるのも憚られますが、先に書いた私の寂しさに対する蓋も、開けなければいけない蓋だった。

黒須さんも、いよいよ蓋を開けて中のものをどうにかしたい…ということなのだと思うのですが、私から見える黒須さんは既に着々とその想いを形にしていって、ズンズン進んでいる姿にしか見えません。
小学生の頃の自分の夢を、大人の自分が叶えてあげている。

もし、いやいやこんなもんじゃないんだ! もっとなんだ! というイメージがあるとしたら、それは叶っている時にはわからず、少し後になって「あれ? 叶って…るって…こと…なの…かな?」という、酔った時に所々覚えているような、ぼんやりしたもののようにも感じます。by酔谷

お芝居には「優勝!」という瞬間がほとんどないので、よっしゃー! 夢叶ったー! となりにくい場所ですよね。
とてもやってみたい演出家さんや監督や、俳優さんや、作品や、団体や、そういったところに近づけることになって、よっしゃー! と思っても、実際近づいてみたら理想と違った…というガッカリな場合も多々ありますし。By悪谷

リクエストいただいたので、酔谷さんと悪谷さんにも、出て来ていただきました。

あの頃の夢を今から追いかけるのは無謀でしょうか?
というご相談だとしたら、黒須さんは「もう既に追いかけまくっています」が答えになってしまいますが、きっとそういうことではなく、あの頃、黒須さんがお芝居を観てワクワクした感覚と同じような気持ちを、黒須さんを観ている方たちに受け取ってもらえるような表現を実感したい…という現実をカタチにしていくことが、「夢を追いかける」ということを叶える手段なのかもしれませんね。

それには、いま目の前にある表現の場所を素敵にし続けていくことが、一番の近道だと思います。

ラッパ屋さんの公演、楽しみにしています!

 

■ラッキー待ち受け
新しい土地に引っ越して来てから、舞台の公演ごとに無事を願って訪れる近所の神社があるのですが、その神社は訪れる度につぼみや、お花や、果実や、紅葉や、生き生きとした姿を見せてくれて、その存在からパワーをもらえます。
小学生の頃の黒須さんも、日々目にしていたお芝居からきっととても生き生きとしたパワーを受け取ったのでしょうね。

■黒須洋嗣さんの今後の予定
劇団ラッパ屋「コメンテーターズ」
作・演出:鈴木聡

出演:おかやまはじめ/俵木藤汰/木村靖司
弘中麻紀/岩橋道子/ともさと衣/大草理乙子
谷川清美(演劇集団円)/瓜生和成(小松台東)
北村岳子
中野順一朗/浦川拓海/青野竜平(新宿公社)
黒須洋嗣/佐山こうた
宇納佑/熊川隆一/武藤直樹

日程:2021年7/18(日)~25(日)

会場:紀伊國屋ホール

詳細→ 劇団ラッパ屋 (rappaya.jp)
https://rappaya.jp/

 

【筆者プロフィール】
池谷のぶえ
いけたにのぶえ94年より04年の解散まで劇団「猫ニャー」の劇団員として活動。解散後は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作品、NODA・MAP、蜷川幸雄演出作品など数多くの舞台に出演。

[出演情報]

【テレビ】
Eテレ アニメ「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」
毎週火曜 18:45~18:54
声:銭天堂の店主・紅子役
https://www.nhk.jp/p/zenitendo/ts/4NX2MRW758/

【映画】
「100日間生きたワニ」(監督・脚本:上田慎一郎・ふくだみゆき)
2021年7月9日(金) 公開中
https://100wani-movie.com

【コラム】
福岡のエンタメ情報誌 シアタービューフクオカ「めずらしく体調のいい日に」
https://tvf-web.com

▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼

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