お芝居観るならまずはココ!雑誌『えんぶ』の情報サイト。

【池谷のぶえの「人生相談の館」】第36回 千葉雅子さん(劇作家・演出家・女優)

むしろこっちが人生相談したい気持ち満々のコラム、「池谷のぶえの人生相談の館」です。

前回のコラムを執筆してから一ヶ月、まさかこんな一ヶ月後になるとは思ってもみませんでした。人生は何が起こるか本当にわかりませんね。

本来なら、3月末まで公演中の「お勢、断行」は、新型コロナウィルスの影響で、全公演が中止となってしまいました。

この仕事をしてきて、全公演中止というのは初めてですね…中止が決定した時は不思議と「はい、切り替えましょう!」という気持ちになりましたが、一日一日と日が経つにつれて虚しさに襲われる…という、初めての体験でした。

連日飲んだくれては、眠り、飲んだくれては、眠り…を一週間ほど続け、ようやく人間らしい生活に戻ってまいりました。

こうした事態になると、普段、当たり前と思って感謝できていないものたちがたくさん顔を出してきますね。いや、いま突然出してきたわけではなく、いつもずっと顔を出していたのに、見ようとしていなかったものたちですね。

とにかく、少しでも早く穏やかな日々にもどるように祈りつつ、いまある当たり前たちに感謝しかありません。

さて今回のご相談は、幻になってしまった公演「お勢、断行」で、久しぶりに共演できるはずだった方からのご相談です。

*****

池谷のぶえ 様

こんにちは。
お元気ですか?
桜が開花する季節となりました。
けれど東京は宴会自粛の報。
今年は桜咲く公園から、楽しい歓声もあまり聞かれないかもしれませんね。
今はただ、ひたすら平穏無事になりますようにと願うばかりです。

政府の自粛要請により未上演となってしまった作品『お勢、断行』。
あっと言う間の日々でしたが、ご一緒でき嬉しかったです。お世話になりました。
体力温存のため幕が開いたらゆっくり呑もうと思っていただけに、今回稽古後の呑み会を自粛していたことをつくづく悔やみます。

数日だけの楽屋のひとときも楽しかったです。
私が雑な買い物をして始末に困っていたら、すぐに打開策を教えてくれた池谷さん。
頼もしかったです。
楽屋での会話ってそんなことも楽しいし、助け合う力に救われる思いがします。

いろいろとお話ししたかったのに突然の一座解散となり、寂しく思っていました。
そんな時に池谷さんの人生相談の館にお招きいただき、光栄です。

では相談です。

私は子供の頃、ぬいぐるみやファンシーグッズ、キャラクターグッズ、ファンタジーな世界などなど可愛いものを嫌っていました。
それらは私にとって、ちっとも魅力を感じるものではありませんでした。
ひとと一緒が嫌だったのかもしれません。
単なるへそまがりな子供だったのかもしれません。
どちらかと言えば家族仲の良くない、建付の悪い家のようにガタピシ軋んでいる家庭で育ったということもあるかもしれません。
どこか嘘くさく感じ、あどけなさに居心地の悪さがあり、ひたすら嫌って遠ざけていました。
十代二十代も同じような理由で、鼠の国の世界にもほとんど行ったことがありませんでした。
あ、日本に鼠の国の世界ができたのは、私が就職活動を始めたころでしたが。

しかし、五十を過ぎたある日、リスが踊る金融機関のCMを見て心を奪われました。
「ああ〜可愛い・・・」
ヒツジのクレイアニメに熱中しました。
「ああ〜可愛いな・・・」
パンダ柄の靴下、ひよこのおもちゃ、チューリップ柄の傘を手にしてはため息が出ました。
「おお〜なんだってこんなに可愛いの・・・」

可愛いものに感動するようになってきました。

子供の頃、ピンク柄のワンピースを着たフリフリでファンシーな老婆を近所で見たことがあります。
正直、二度見したことを思い出します。
そんな私が、です。

私はこの先どうなるのでしょう。
昔と変わってしまったなあと思うことはありますか。
二度見してしまった老婆には謝りたい気持ちでいっぱいです。
気持ちに整理がつきません。

千葉雅子さん(劇作家・演出家・女優)

*****

雅子様、縦書きの便せんに草書でしたためられたような、ご相談前半部分が染み入りました。ありがとうございます。

久しぶりにお稽古の日々をご一緒できて、とても嬉しかったです。
休憩中のケータリングなどでお話ししている時なども、千葉さんは私の他愛もないおしゃべりにすべて肯定で答えてくださるので、とても心地よかったです。

これから旅公演などで大人飲みなどしたかったですが、残念ですね。
このご相談内容も、飲みの席などでキャッキャと解決できたら、さらに楽しかったことでしょう。

しかし、いつまでもとどまっていてもいけません。
かわいいものに魅せられはじめてしまった千葉さんの未来を、探ってゆきましょう。

「かわいい」に限らずとも、歳とともに「まさか自分がここと交わるとは!!」と衝撃を受けることはありますよね。

私の場合、「はじめてのおつかい」がそうでした。
もうしわけありませんが、若い頃はまったく興味がなく、というか、むしろなぜみんなそんなに興味があるのかわかりませんでした。
30代半ばを過ぎたある日、たまたま「はじめてのおつかい」がやっていて見ているうちにかわいすぎて号泣。そして、夢中。
それからというもの、次はいつやるのかそわそわし、録画できなかった時は悔しく思います。

リラックマもそうかもしれません。
やはり以前は全く興味がありませんでしたが、近年、とてもかわいいな…と感じます。

もしかしたら、「かわいい」と思えるものは、歳をとるごとに増えていくものなのかもしれませんね。
「かわいい」ということが、どれだけ尊く、そして儚いものかということを、本能のレベルで敏感にキャッチし、切なく大切に感じ始めるのかもしれません。

ただ、「かわいい」ものをむしろ全面的に避けて通ってきた千葉さんにしてみれば、あまりに正反対の趣味嗜好になってしまったご自分に戸惑いますよね。自分がどこへ行こうとしているのか…という恐怖も感じていらっしゃるご様子。

私は更年期の扉を開き始めたところだと思うのですが、その影響もあり、ここ近年、いままでの自分では起こりえなかったことがいくつか起こっています。
その度に、初めはびっくりし戸惑いショックを受けるのですが、初めて出会う自分がまだあったのかと感動したりもします。
そして、どんどん今まで知っていた自分ではなくなっていきます。

自分をコントロールできなくなってくることはもちろん怖いことですが、「あ、そういえば自分というものは当然自分のものと思ってたけど、もしかしたら初めから借り物なのかもしれない…」と、思ったりもします。

自分が借りている「自分」は、時間とともに使えなくなってくる部分もたくさんありますが、工夫して修繕してまた使ったり、遠い昔に隠しておいたものが見つかったり、知らない扉があったり、窓から見える風景が新鮮に見えたり…まだまだ「自分」ごときでは計り知れない「自分」がいそうな気がするのです。

ですが、千葉さんがある日突然、ピンク柄のワンピースを着たフリフリでファンシーな姿で現れたら、もちろん初めはびっくりしますし、ショックかもしれない…。
つつましやかな千葉さんですからきっと、「もしそんなことになったりしたら、まわりにご迷惑をおかけしているのではないか…」と思っていらっしゃるかもしれません。

しかし、大丈夫です。
きっと、すごく、面白いです。

あ、もう千葉さんが、ピンク柄のワンピースを着たフリフリでファンシーな姿になること前提で回答していますね。すみません。
でも、それで千葉さんが幸せなら、何も問題がないです。
きっと、そのおばあさんも、その姿になりたかったからその恰好をしていたと思うので、幸せだったと思います。
「かわいい」ものを見て、「かわいい」と思っている千葉さんも、きっと幸せな状態なのだと思います。

歳をとるということは、ショックなことも増えますが、実は、幸せなことも増えていってるのかもしれませんね。

また更に歳をとって、また千葉さんとお芝居できる日がくることを、楽しみにしています。
その時は、かわいいものの話をたくさんしましょうね。負けません!

■ラッキー待ち受け

思春期にファンシーグッズが流行った世代ですが、「私などがあんなかわいいものばかり売っている店に入っていいわけがない…」と、入店を拒否していた時期もあります。「かわいい」ものは、自分にそぐわないと思っていたのかもしれません。そんな私も大人になってからは、「ひよこ!ひよこ!」言っています。ひよこのビジュアルが大好きです。そうやってアピールしていると、ひよこグッズをいただくことも多いです。
千葉さんがかわいいものがお好きだというイメージがないので、素敵なギャップとしてどんどんアピールしていってください。
ただ、知らない間に怖いひよこを描かれたりするというアピールによるリスクもあります…(画・平田敦子さん)。

■千葉雅子さん今後の予定
猫のホテルは、来年の新作公演にむけて稽古フレンズを募集し稽古を重ねます。
詳細は
https://note.com/nekohote
などで随時発表します。

【筆者プロフィール】
池谷のぶえ
いけたにのぶえ94年より04年の解散まで劇団「猫ニャー」の劇団員として活動。解散後は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作品、NODA・MAP、蜷川幸雄演出作品など数多くの舞台に出演。

[出演情報]
【舞台】
イキウメ「外の道」(作・演出:前川知大)
2020年5月28日(木)~6月21日(日)  東京芸術劇場シアターイーストほか、大阪・北九州・豊橋公演あり
http://www.ikiume.jp

【映画】
「グッドバイ〜嘘から始まる人生喜劇〜」(監督:成島出)
2020年2月14日(金)全国公開
http://good-bye-movie.jp/

【映画】
東映まんがまつり「映画 ふしぎ駄菓子屋 銭天堂 つりたい焼き」(監督:富岡聡)
2020年4月24日(金) 公開
https://www.toei-mangamatsuri.jp

【テレビ】
NHK「LIFE!〜人生に捧げるコント〜」準レギュラー
https://www.nhk.or.jp/life/

【テレビ】
Eテレ「みいつけた!」2020年3月19日(木)  午前7:45〜8:00 ・再放送 16:45〜17:00

 

▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼

単行本『贋作 女優/池谷のぶえ~涙の数だけ、愛を知る~』えんぶ★ショップにて独占販売中!

日刊☆えんぶラインアップ

  • みょんふぁの『気になるわぁ〜』
  • 小野寺ずるの【女の平和】
  • WEB【CLOSE to my HEART】Photographer スギノユキコ with えんぶ
  • 【粟根まことの】未確認飛行舞台:UFB
  • 【松永玲子の】今夜もネットショッピング
  • 【池谷のぶえ】人生相談の館
  • 【ノゾエ征爾】の桜の島の野添酒店
  • ふれあい動物電気
  • 【植本純米vs坂口真人】『過剰な人々』を巡るいささかな冒険

池谷のぶえ『人生相談の館』の最新記事

【池谷のぶえの「人生相談の館」】第77回 渡邊りょうさん(俳優)
【池谷のぶえの「人生相談の館」】第76回 ぎたろーさん(俳優・「コンドルズ」)
【池谷のぶえの「人生相談の館」】第75回 異儀田夏葉さん(俳優)
【池谷のぶえの「人生相談の館」】第74回 小村裕次郎さん(元劇団「猫ニャー」主宰・看板俳優)
【池谷のぶえの「人生相談の館」】第73回 副島綾さん(舞台芸術アドバイザー)

INFORMATION演劇キック概要

LINKえんぶの運営サイト

LINK公演情報