【池谷のぶえの「人生相談の館」】第25回 青木豪さん(劇作家・演出家)
むしろこっちが人生相談したい気持ち満々のコラム、「池谷のぶえの人生相談の館」です。
平成が終わりますね。
昭和から平成になったのは、17歳の時でした。
嘘じゃありません…私にも17歳の時はあったのですよ。みなさんにも17歳の時があったように。
ただ私の場合は、限りなく40代にしか見えない17歳でしたが、平成をむかえたのは紛れもなく17歳の年明けでしたもの。
街中が喪に服していて、静かだったことを覚えています。
友人の家に行くのに手土産をと思っても、開いているお店がほとんどなく、唯一営業していたドーナツ屋さんでドーナツを買っていきました。
ほら、さすが17歳。
いまや、ドーナツを1個食べたら一食分くらいの満腹感を得られる47歳。
もしも、ドーナツの真ん中に穴が開いていなかったら、半日はお腹がいっぱい状態でしょう。
ドーナツの穴は、消化機能が弱った中年たちへの思いやりなのだと受け止める今日この頃です。
そんなんですから、最近は一食一食に敏感になってしまいます。
いまここでこれを食べたら、今日はきっともうほとんど食べられない、しかしこの味は好きだからたくさん食べたい…。
はたまた、いまこれを食べるしかないが、少し早く終わったら違うものを食べたいのでいま食べるべきか…そんなことばかり考えて生きています。
つい昨晩も、自分の存在価値のなさに打ちひしがれたりしたばっかりですし、どうせ人格とかあっても辛いだけなので、もう私は胃だけで生きていきたい。
胃けたに胃ぶえ、として胃きて胃きたいです。
はっ! 口もないと食べられませんね!
胃けたに口ぶえ、として胃きて胃きます。
はっ! 排泄器官もないと食べ続けられませんね!
胃けたに口ぶえ排泄、として胃きて胃きます。
結局、臓器だけだとおどろおどろしいから、人間には臓器を覆う表皮があるのですかね。
さて今回は、そんな人間の臓器を覆う表皮部分にも関係するご相談です。
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のぶえちゃん、こんにちは。ご存知の通り僕は、28歳の時髪が薄くなってからは、バリカンで剃髪しております。フサフサしていた時も極度の天然パーマで扱いにくかったため、今の髪型は大変気に入っているのですが、時々気分を変えてみたくなります。以前、友人の女性ダンサーが格好いい金髪にしていて「これウィッグなんですよ。気分ですぐ替えられるから良いですよ。」と言っていたのを聞いた時「確かに、こういう風にカツラをつけられたら良いなぁ」と思いました。けれども、どうにも良いタイミングが見つかりません。帽子のようにナチュラルな感じにカツラをつけ始め「青木さん、どうしちゃったのかしら?」と言われるのでなく「おしゃれっすね。」と言われるのに、良いタイミングはないでしょうか?
青木豪さん(劇作家・演出家)
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多くの場合、カツラであるという秘密からいつ解き放たれようか…ということに悩まれると思いますが、豪さまはまさかの逆。
いつ被ろうか…というご相談なのですね。斬新です。
物事が変化する際にはいくつかのパターンがあると思いますが、
段々変化する。
パッと変化する。
概念が変化する。
大きくわけると、こんな感じではないでしょうか。
1.段々変化する。
この場合、豪さまにはまず、よく帽子を被る人物だと世間に馴染ませます。馴染ませきった頃合いを見計らって、帽子の額部分・もみあげ部分・襟足部分に、ひと月目は1.5cmくらい、ふた月目は3cmくらい、髪の毛を装着していきます。
男性ですし、帽子から3cmほど髪の毛が見えたらもう十分です。
み月目あたりからは、全カツラの上に帽子を被り「いまだ‼︎」という時に帽子を脱ぎましょう。
「いまだ‼︎」という時は、たとえば事務所のプロフィール写真を撮影する時などが有効的です。
プロフィール写真が出回ってしまえばこっちのものです。
「豪さま、髪を伸ばしたのね」と人々はすぐに刷り込まれます。
その後は、お好きなタイミングでお好きなカツラを装着しても、
「豪さま、髪型変えたのね」と、人々はすぐに刷り込まれます。
2.パッと変化する。
この場合、私たちも身近だった「高校デビュー」や「社会人デビュー」など、環境の変化を味方につける方法です。
とはいえ、大人になったいま、そうそうガツンと環境が変わることなどめったにあるものではありません。
しかし豪さま、なんて素晴らしい時期にこのご相談をしてくださったのでしょう。日本全体でガツンと環境が変わる時期がすぐ近くにあります。
元号が令和になる5/1に、デビューするのです。
令和になってしばらくは、世間は令和令和と大騒ぎでしょう。ようやく人々が落ち着きを取り戻す頃には、豪さまは何事もないようにカツラライフを満喫していられるのです。
もう少しエンタメ色を加えたいようでしたら、次々と仮面が変わっていく中国の伝統芸能「変面」の手法を用いて、次々とカツラが変わっていく変カツラも素敵かと思います。
その場合は、こっそりやっていても効果がないので、ぜひ大々的にイベントを開催いたしましょう。
変面の際に鳴らすシャーン‼︎ という鳴り物は、私が責任を持って鳴らします。
3.概念が変化する。
この場合、世間が思うカツラの概念を覆すことが必要です。
前2項とは異なり、長期戦になりますしパワーも必要ですが、覆った後のカリスマ性と持続性はなかなかのものでしょう。
かつて「ベルばら」に憧れていた私は、何かを変化させるときには、革命のようにドカンとした変化が大切だと思っていました。
しかし最近では、大きな変化というものは、日々少しずつ積み上げ、広げていくことによって成し遂げられるのだな…と実感しています。
役者は、お稽古の時は動きやすい稽古着に着替えます。本番の時は衣装に着替え、ヘアメイクなどをします。
それらの行為はごく当たり前のように
行われており、なんならON/OFFの切り替えにもなる大切な瞬間です。
ぜひ豪さまには、これをカツラで切り替えていただきたい。
お稽古場に来て演出席に座ったら「おはようございまーす」と言ってカツラを被り、お稽古が終わったら「お疲れさまでしたー」とカツラを置いて帰るのです。
これを繰り返していけば、稽古になったらカツラを被る…というのが当たり前な演劇界になりますし、なんなら、悲劇作品の時と喜劇作品の時にカツラのデザインを変化させることによって、気分を変えることもできます。
稽古よりも、もっと日常的に変化していきたい場合は、今後度々必要になってくるであろう老眼鏡にカツラを合体させる方法です。
「最近、老眼進んじゃって(笑)」と言いながら、カツラ付きの老眼鏡をかけるのです。
老眼鏡をかけるということは、そういうことなのだという概念を作るのです。
度数やデザインなど、何種類かの老眼鏡を持ち歩き、使い分けている先輩をたくさん目にします。
老眼鏡の種類分、いろんな髪型も楽しめます。
いろんなきっかけを探ってきましたが、現実的なものは何ひとつないということだけがわかりました。
しかしすぐ近くに、演劇という社会に多大な影響をもたらす可能性を秘めた表現手段があります。
豪さまには戯曲を書く才能、演出をする才能があります。この才能を使わない手はありません。
ぜひ青木豪作・演出で、帽子のようにナチュラルにカツラをつけはじめる作品が上演される日を心待ちにしております。
■ラッキー待ち受け
中島みゆきさま好きが高じて、数年前に中島みゆきさまの曲だけを歌うカラオケ会を開催。小劇場の女優さんたちがわんさか集まる中、男性は豪さまお一人。そして誰よりもみゆきさまにお詳しい豪さまお一人。
みゆきさま色を濃くしようと、みゆきさまらしいカツラを用意していって、歌う人は被るシステムにしたのですが、豪さまにも無理くり一曲だけ被っていただきました。その写真を待ち受け画像にしたい気持ちは山々ですが、その時のカツラの写真を。
これならいつでもお渡しできますので、必要になりましたらおっしゃってください。
■青木豪さん今後の予定
キューブ企画・製作
「黒白珠」
作:青木豪
演出:河原雅彦
6/7(金)〜23(日)@Bunkamuraシアターコクーン
兵庫、愛知、長崎、久留米公演あり
詳細→ http://cubeinc.co.jp/stage/info/kokubyakuju.html
【筆者プロフィール】
池谷のぶえ
いけたにのぶえ94年より04年の解散まで劇団「猫ニャー」の劇団員として活動。解散後は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作品、NODA・MAP、蜷川幸雄演出作品など数多くの舞台に出演。
[出演情報]
【舞台】
シス・カンパニー公演「恋のヴェネチア狂騒曲」(作:カルロ・ゴルドーニ、上演台本・演出:福田雄一)
7月5日(金)~7月28日(日)新国立劇場 中劇場
【テレビ】
テレビ東京系「執事 西園寺の名推理2」4月19日(金)20時スタート
▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼
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