【池谷のぶえの「人生相談の館」】第66回 高山のえみさん(俳優)
むしろこっちが人生相談したい気持ち満々のコラム、「池谷のぶえの人生相談の館」です。
やっと朝晩涼しくなってまいりました。
私が活発に動く季節になってまいりましたよ。
活発ったって、梨を剥いたり、生らっかせいを茹でたり、栗を買おうかまよったり、それらの行動が増えるくらいですが。
しかし、6月中旬に舞台が終わってからというもの、次の舞台のお稽古までの4ヶ月どう過ごそうかと思っているうちに、あと1ヶ月ほどとなってしまいました。
私は3ヶ月間、いったい何をしていたのかしら…この地球にいたのかしら…いたとしても本当に池谷のぶえだったのかしら…タオルケットのほつれた糸の部分だったりしなかったかしら…私がほつれた糸だったとしたら、この3ヶ月の記憶がほとんどないことも辻褄が合うのよ。ほつれ谷糸えだったのかしら…まあ、大方こんなことを妄想しながら3ヶ月間過ごしていたんでしょうよ。暑かったですからね、おかしくもなりますよ。
さあ、でも、もう秋だもの!
ほつれ谷糸えは卒業よ!
梨谷栗えの誕生よ!
いつになくさわやかに人生相談開始いたしましょう!
今回のご相談は、プライベートでも飲み友達なこちらの方からです。
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池谷のぶえ様
この場をお借りして、いつもありがとうございます。
以前は飲み屋や、最近ではうちオンラインオンラインのびえ邸うちオンラインうちのびえ邸のびえ邸オンライン…などで常日頃からご相談にのっていただいているのですが、折角憧れの館にお招きいただいたので、お仕事のご相談をしたいと思います。
それは「お疲れ様です」の使用についてです。どんな場面でも気軽に使われがちな「お疲れ様です」ですが、私が演劇を始めたばかりの頃、若い子達から事あるごとに「お疲れ様です」と言われ過ぎてぐったりしている先輩をお見かけしました。自分も思い当たる節があり、以後気に留める言葉になりました。
しかし黙って素通りするのもなんだか素気無かったり、長々と話し込む場面でもない時に気づけば口にしています。この歳になり言われることも増え気を使ってくれているのだと思うのですが、先輩をぐったりさせない私含め後輩の為に、「お疲れ様です」のご挨拶に代わる方法があれば教えていただきたいです。
高山のえみさん(俳優)
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のえみちゃんとは、2006年に東京タンバリン「Damage」で初めてご一緒させていただきました。
その頃ののえみちゃんは演劇界に足を踏み入れたてで、自分の好きなお芝居の話を情熱的に語っていた姿をいまでも覚えています。
稽古後、個室で飲んでいたらネズミが出現。パニックになった人間たちに驚いてネズミもパニックになり、私の腕に飛び乗って来ました。
「ギャー!」と振り払う私にのえみちゃんは、「消毒!!」と言って、すぐさま腕に焼酎をぶっかけてくれた姿もいまでも覚えています。
かれこれ出会ってから15年ほど経つのですね。
酔うと「のぶえさんの希望をなんでも叶えてあげるよ」と言ってくれるので、「永住できる持ち家と、伴侶がほしい」と答えると、「それは自分でなんとかしろ」と説教される関係性にまでなりました。15年の歳月のおかげです。
さて、「お疲れ様」についてですね。
20歳の頃バイト先で、母親くらいの年齢のバイトの先輩に「ご苦労様です」と挨拶したところ、「『ご苦労様です』という言葉は、目上の人からかける言葉なのよ。これからは『お疲れ様です』と言いなさい」と言われたことがあります。
無知だった私には衝撃的で、「消毒!!」と焼酎をぶっかけてくれた光景と同じくらい印象に残っている記憶です。
それ以来、日常でも、台本でも、「あ…目上の方に『ご苦労様です』って言ってる…」ということがとても気になってしまい、私の20歳以降の人生は「ご苦労様」パトローラーとしての人生でもあります。
なので、常に隣にいる「お疲れ様です」という言葉ももちろん気になりながら生きてきたわけで、今回はいままでにない新鮮なご相談です。
「お疲れ様です」という挨拶には、「おはよう、こんにちは、こんばんは」「先に来てたのね」「先に帰りますね」「今日もがんばりましたね」「明日もがんばりましょう」「元気ですか?」「大丈夫ですか?」「今日初めて会いましたね」「また会いましたね」「あなたをなんとなく知ってますよ」「危害を加えたりしませんよ」などなど、さまざまな要素が含まれていますよね。
伝えたい具体的な気持ちを瞬時に選ぶこともなく、とりあえずお互い心地よい距離感が保てるようにふわりと相手にかけるシフォンの布のような印象でしょうか。
のえみちゃんには、いよいよその布が目に見えるようになってきて、「お疲れ様です」という布をかけられすぎた先輩も、その重さにぐったりしてしまったのでしょうね。
「お疲れ様です」という言葉を発する時、人は大して心を込めないまま当たり前のように使用しているのも、モヤモヤとするポイントだと思います。
本来の意味で「お疲れ様です」と言い合えるようになるために、疲れを表示できるメーターが欲しいですね。
これは以前からの願いでもあります。
それなりに混んだ電車などで、本当にヘトヘトなのに座れない時など、各自の頭上にお疲れメーターが表示されていれば、「あの人はあんなに疲れているんだ…」と席をかわってあげることもできる。
疲れていることが慢性的になると、自分の疲れに気付いてあげることもできなくなり、突然ショートしてしまったりもする。そんな時に、自分の疲れ具合が目視できたらどんなに便利かと思ってしまいます。
この機能があれば、のえみちゃんと私がすれ違った時にも、「あ、のぶえさん5%しか疲れてないじゃん」と目視し、「お疲れ様です」ではなく「元気だね!」という言葉に変換することも可能です。
ただ残念なのは、この装置がいまだ発明されていないということです。
そしてこの先も、のえみちゃんと私が生きている間に発明されることはないでしょう。
ということで、システムに頼らず、いまできることを実践していく以外ありません。
「お疲れ様です」という言葉でまとめてしまっている気持ちの中で、本当に伝えたい部分を積極的に言葉にしていきましょう。
「いまあなたを認識しました」「今日も会えましたね」「また会えましたね」「マジで疲れましたね」「本当によく頑張りましたね」「うれしい日でしたね」「初めてお会いしますが、あやしいものではございません」「きっとまた会えますね」「いつかまた会えたらいいですね」「ごきげんよう」「大儀である」…段々、身分や時代を遡ってしまいますが、ポジティヴな気持ちの場合のみなるべく具体的な言葉に変換していったら、意外な気づきもあるような気がします。
「もう二度と会いたくありません」「今日は最悪でしたね」「迷惑ばっかりかけやがって」などなどネガティヴな気持ちの場合は、引き続き「お疲れ様です」という言葉は活躍してくれそうです。
とはいえ究極は、相手の存在そのものを受け止め、認識しましたよという意味を込めて、相手をしっかり見つめながら「はい」という言葉がいいと思います。
まずはいまのお稽古場で、実践してみてください。
良い効果があらわれず、「のぶえさんの人生相談、全然役に立たないじゃん!」とのえみちゃんから言われたら、のえみちゃんをしっかり見つめながら「はい」と言います。
■ラッキー待ち受け
15年前ネズミが降り立ち、のえみちゃんが焼酎で消毒してくれた跡地です。
次の15年後には、出会ったら「はい」、すれ違ったら「はい」、別れ際に「はい」という文化になっていることを願います。
そしたら、「毎日『はい』と言われて辛いです。『はい』に代わる言葉はありませんか?」と相談される気もするので、その時は「お疲れ様です」がいいんじゃない? って言うわね。
■高山のえみさんの今後の予定
「閃光ばなし」
脚本・演出:福原充則
2022年9月26日〜10月2日
ロームシアター京都メインホール
2022年10月8日〜10月30日
東京建物Brillia HALL
詳細 → 舞台「閃光ばなし」公式サイト (senkoubanashi.com)
https://senkoubanashi.com
木ノ下歌舞伎「桜姫東文章」
作:鶴屋南北
監修・補綴:木ノ下裕一
脚本・演出:岡田利規
2023年2月2日〜12日(予定)
あうるすぽっと
2023年2月18日・19日
穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
2023年2月22日・23日
ロームシアター京都 サウスホール
2023年2月26日
りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館 劇場
2023年3月4日・5日
久留米シティプラザ 久留米座
詳細 →木ノ下歌舞伎 official website
https://kinoshita-kabuki.org/2022/03/23/8653
【筆者プロフィール】
池谷のぶえ
いけたにのぶえ94年より04年の解散まで劇団「猫ニャー」の劇団員として活動。解散後は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作品、NODA・MAP、蜷川幸雄演出作品など数多くの舞台に出演。
[出演情報]
【舞台】
「À LA MARGE(外の道)」(作・演出:前川知大)
フェスティバル・ドートンヌ・ア・パリ 正式プログラム
2022年11月22日(火)〜26日(土) パリ日本文化会館・大ホール
https://www.ikiume.jp/paris.html
【テレビ】
フジテレビ「魔法のリノベ」#9 再放送 2022年9月17日(土) 25:45〜26:45(関東地区のみ)
https://www.ktv.jp/mahorino/
【テレビ】
Eテレ アニメ「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」
毎週金曜 18:40~18:50
声:銭天堂の店主・紅子役
https://www.toei-anim.co.jp/tv/zenitendo/
【テレビ】
テレビ朝日系 木曜ドラマ「ザ・トラベルナース」
2022年10月スタート 毎週木曜 21:00~
看護師寮「ナースハウス」の寮母・土井たま子役
https://www.tv-asahi.co.jp/the_travelnurse/
【配信】
hulu huluオリジナル「死神さん2」#1
2022年9月17日(土)配信
bit.ly/3n2ZD8L
【映画】
「オカルトの森へようこそ THE MOVIE」(監督・脚本・撮影:白石晃士 )
新宿ピカデリーほか全国劇場【3週限定】公開中&デジタル配信中
(WOWOWで放送のドラマ版では放送されないプロローグシーンを加えた劇場版)
https://movies.kadokawa.co.jp/okamori/
【映画】
「MIRRORLIAR FILMS Season4〈おとこのことを〉」(監督:水川あさみ)
2022年9月2日(金)より全国公開中
https://films.mirrorliar.com/
【雑誌】
「えんぶ」no.37 2022年10月号
『CLOSE to my HEART』インタビュー掲載
発売中
http://enbu.shop21.makeshop.jp/shopdetail/000000011008/
【コラム】
福岡のエンタメ情報誌 シアタービューフクオカ「めずらしく体調のいい日に」
https://tvf-web.com
▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼
★単行本『贋作 女優/池谷のぶえ~涙の数だけ、愛を知る~』えんぶ★ショップにて独占販売中!
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