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【池谷のぶえの「人生相談の館」】第59回 小沢道成さん(俳優・作家・演出家、「虚構の劇団」「EPOCH MAN」)

むしろこっちが人生相談したい気持ち満々のコラム、「池谷のぶえの人生相談の館」です。

はやいもので、東京に家を借りてから丸2年が経ちました。
私にとっての東京生活は、コロナと共に始まりコロナと共に現在に至りますので、東京で生活することの便利さや、華々しさをほぼほぼ味わないままの2年間です。

東京をもっと味わいたい…終電を気にせず、夜中の2時頃にふらっとタクシーで帰ったり。終電を気にせず、夜中の3時頃にふらっと徒歩で帰ったり。終電にかかわらず明け方の4時頃にふっと目が覚めたり…それはただの老いですが。

そして老いのおかげか、いままで全く食指が動かなかったワークショップのようなものも開催してみようかという気になったのに、第六波襲来によりやむなく様子見中。3月末にでも開催できたらよいなぁ…と思っていますが、どうなることやらです。

現在撮影中のドラマ「妖怪シェアハウス」も、4月からお稽古開始のコロナリベンジ舞台「お勢、断行」も、無事完走できることを祈ります。

そしてそれが終わると、夏にはまったくお仕事の予定がない。コロナ云々以前に、生活していけるのかが心配です。夏の涼しいお仕事をお待ちしております。

さて今回のご相談は、昨年暮れに初めてお会いできた、この方からのご相談です。

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池谷さん。先日は、帰り道に恋愛話をしてしまい申し訳ありませんでした。
初めてお会いしたのに、初めて会ったとは思えない親しみを勝手に抱き、つい相談してしまいました。
思い返せば、池谷さんのことは観客席からずっと観ていたので、仲良しのつもりでいてしまいました。
今後、初めてお会いする方には、恋愛相談をしないように気をつけたいと思います。

さて、僕の悩みなのですが、恋愛についてです。

僕は恋愛をすると、そのことで頭がいっぱいになり、仕事をしようにも集中がうまく出来なくなります。
相手からのLINEの返事をひたすら待つ時間だけが増え、仕事をしている最中も、通知が鳴ってもいないのに「何か来てるかもしれない」と、LINEの不具合だという解釈を勝手にし、ついつい開いてしまいます。
しかも最近は、「リアクション機能」と呼ばれる、送った内容に対して簡単に反応できるちっさい絵文字みたいなマークが誕生したのです。
通常のスタンプなら、通知が鳴ります。けれど、この「リアクション機能」は、通知が鳴らないんです!
返事が来ないなーと思って開けたら、こちらが送った内容の下に、ちっさいそのマークが表示されているだけです。
ちゃんとした返事を待っている僕からすると、そのちっさいマークに満足できず、もしかしたら、その相手にとって僕は「ちっさいマークでも十分な存在なのか?」とさえ考えてしまい、そんなことを考えてしまう自分自身も「ちっさい人間だな」と自己嫌悪に陥る毎日です。
返事が来ないとか、通知が鳴る鳴らないとか、返事の反応がちっさいとか、そんなことを考えてるうちに仕事が進まず、一日が終わってしまうのです!
池谷さん…!恋愛をすると仕事に集中が出来なくなる僕へのアドバイスをいただけませんでしょうか?

小沢道成さん(俳優・作家・演出家、「虚構の劇団」「EPOCH MAN」)

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小沢さんとは、昨年末に開催された森下亮さん主宰のトークイベント「君の知らない名作僕が教えるから僕の知らない名作君が教えて」で、初めてお目にかかりました。

お目にかかったのは初めてですが、2020年に上演された小沢道成さんと峯村リエさんの二人芝居「みんなの宅配便」での、小沢さんの演出エピソードをリエさんから聞いており、またそのエピソードが私好みだったので、ひそかにお名前を心に刻んではおりました。

とはいえ、このコロナ禍です。
仲間たちで集まることはもちろん、観劇後のご挨拶や飲み会もない昨今、直接出会えることもしばらくないだろう…と思っていたので、こんなに早くの出会いとその勢いにかこつけての人生相談コラムへのご協力、感謝いたします。

さて、このコラムもかれこれ5年ほど継続していますが、恋愛関係のご相談は初めてです。まずはそのことが新鮮で、嬉しいと同時に、全くチヤホヤされない人生を歩んで来た身としては、「この、役立たず!」と壁にパイ的な何かでも投げつけずにはいられない回答しかできないであろうことを、どうかお許しください。

まずは、ご相談内容がうらやましいです。
今回のご相談にお答えすべくいろいろと調べているうちに、デミロマンティックというセクシャリティに出会いました。

『恋愛感情を滅多に抱かないが、「強い感情的な絆や、信頼関係が築かれている関係」の人に対して稀に恋愛感情を抱くセクシャリティ』とのこと。

このセクシャリティに、自分がとてもあてはまる気がしています。
こうしたひとつのカテゴリーで括ってしまうことに若干の違和感がありつつも、いままで、どうして自分の周りはあんなにも恋愛に忙しそうなのだろうと感じたり、周りと同じくらいの頻度で恋愛感情が沸かない自分は心的&身体的欠陥があるのではないか…と思っていた違和感が、少し腑に落ちたような気がします。世間にはこのような状況で生きてきた方も、少なからずいらっしゃるということですものね。そして、これはもう性質で、努力して治るものでもないということを知れたことも、清々しい諦めを得られました。
このような機会を与えていただき、ありがとうございました。

いやいや、このままでは私の人生相談ですね。

そんなこんなで、恋愛に触れるられる数が私よりも多い小沢さんは、とてもうらやましいのです。
とはいえ、私も人を好きになりはじめは、相手からの連絡が気になって仕方がないタイプなので、「こちとら、恋愛する度に気持ちが振り回されてたまったもんじゃないんだよ!」というお気持ち、お察しします。

小沢さんもご相談の中で何度かおっしゃっている「ちっさい」部分ですが、ちっさい部分を見始めると、そのちっさい中のさらにちっさい部分までも気になってしまい、せっかく小沢さんの周りにあるおっきい世界がもったいないですものね。
なので、どうしても見てしまうちっさい部分を、なんとかおっきくしていくことで、少し気持ちが緩やかになりそうな気がしています。

時代を遡れば、かつてはLINEのような連絡手段もありませんでしたし、スタンプも既読機能もありませんでしたし、リモート機能もありませんでしたし、電話等で文字を送り合う機能もありませんでしたし、一人一台電話を持ち歩くこともありませんでしたし、留守番電話もありませんでしたし、家や電話ボックスにしか電話はありませんでしたし、電報すらありませんでしたし、電話すらありませんでしたし、紙すらありませんでしたし、文字すらない時代もありました。

まずは、本当に手軽に連絡を取り合えるようになったいまの世の中を、あえて顧みてはどうでしょうか。
LINEの既読やスタンプの反応を、急に気にしないようにすることをはとても難しいと思うので、少しずつ過去にタイプスリップしてみます。

たとえばLINEの場合、LINEの会話はスタンプではもうどうにも埒が明かないくらい連絡がとりたくなったら、思い切って電話をかけます。
とはいえ、「そんなんできないからLINEしてんだよ!」という叫び声が聞こえてきそうですので、もう一段ハードルを下げ、LINEの右下にある録音音声を送り付けます。内容はおまかせしますが、重くはないものがいいでしょう。

そこまでして、どんな反応が返ってくるかを受け止めます。
生声を送っても、ちっさいリアクションマークだけの場合、仕方がないですが、相手はいまはそのくらいの気持ちなのか、ちっさいリアクションマークで反応することがとにかく好きなのでしょう。

それでもまだあきらめがつかない場合、結局直接電話します。会う約束をします。もう一度会う約束をします…そうしていく中で、相手の気持ちがこちらにあるかないか自ずと実感していくわけですが、どんなに最新の機器を使ったところで、結果、大昔と同じことをするしか成就には至らない現実があります。

LINE等で相手から受け取りたいものは、「相手が少しでもこちらに興味を持ってくれていそうなら、もう少し先に進める勇気が出るのに…」という期待なのだと思います。

期待があるから、その期待に値する反応かについてジャッジをしてしまう。

なので、期待ではなく現実を確かめていくのが、ちっさいことを気にしないひとつの方法だと思います。

とはいえ、恋愛初期のLINEでのオードブルな時期は一喜一憂、楽し苦し怖くてたまりませんよね。その時間をあえて味わいたい気持ちもありますし、そして、たとえ現実を知ってそれが意に反することだとしても、もしかしたら違うんじゃないか、もしかしたら変わるんじゃないか…と、結局ぐるぐる考えてしまいますよね。

そうやって、前を向いて後ろを向いて、また前を向いて後ろを向いて…とぐるぐるしながら進んで行くしかないもののような気がしていますが、ちっさい一点を気にしてしまい辛くなってしまう時は、

自分が気になってしまっていることに対して、自分は現実的になにができるかを3つ書き出してみる。

書き出してみると、自分にできること、やるべきことは意外に少ないことに気づけます。

その中で、自分の心がいちばん楽になる方法を選んで動いてみる。

などして、前を向いたり、後ろを向いたりぐるぐるしてるうちに時々は、自分の周りにずっとあるおっきい世界もふと目に入るかもしれません。

私もぐるぐるしたい! 小沢さんの恋が成就することを、心からお祈りしています!

■ラッキー待ち受け

ちっさいリアクションマーク弁当を作ってみました。
「知り合いから、よくわかんない弁当画像が送られて来たんだけど~!」とかいってお相手にこの画像を送り付け、会話のワンターンにご利用ください。
もし相手からちっさいリアクションマークだけが届いたら、「あ! このマークのことか! こんな機能あったんだね!」と初めて気づいたふりをして、もうワンターンやりとりを獲得してください。
ええ…私もこんなちっさいことばかりを考えてしまいます。

■小沢道成さんの今後の予定
小沢道成ひとり芝居「鶴かもしれない2022」
作・演出・出演:小沢道成
日程:2022年2/23(水祝)~27(日)
会場:本多劇場
詳細 →小沢道成ひとり芝居『鶴かもしれない2022』 (epochman.com)
https://epochman.com

小沢道成公式サイト「おざわみちなり.com」
詳細 → 小沢道成 公式サイト「おざわみちなり.com」 (ozawamichinari.com)
https://ozawamichinari.com

2021年上演の、小沢道成「オーレリアンの兄妹」(上演台本)が、第66回岸田國士戯曲賞最終候補作品に選出
詳細 → 第66回岸田國士戯曲賞最終候補作品決定 – 白水社 (hakusuisha.co.jp)
https://www.hakusuisha.co.jp/news/n45563.html

 

【筆者プロフィール】
池谷のぶえ
いけたにのぶえ94年より04年の解散まで劇団「猫ニャー」の劇団員として活動。解散後は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作品、NODA・MAP、蜷川幸雄演出作品など数多くの舞台に出演。

[出演情報]

【舞台】
「お勢、断行」(原案:江戸川乱歩、作・演出:倉持裕、音楽:斎藤ネコ)
2022年5月11日(水)〜5月24日(火) 世田谷パブリックシアター ほか、兵庫 ・ 愛知 ・ 長野 ・ 福岡 ・ 島根 にてツアー公演あり
https://setagaya-pt.jp/performances/202205osei.html

【テレビ】
テレビ朝日系 土曜ナイトドラマ「妖怪シェアハウスー帰ってきたん怪ー」 
2022年4月スタート 毎週土曜 23:00〜
座敷童子/和良部詩子役
https://www.tv-asahi.co.jp/youkai_kaettekita/

【テレビ】
Eテレ アニメ「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」
毎週火曜 18:45~18:54
声:銭天堂の店主・紅子役
https://www.nhk.jp/p/zenitendo/ts/4NX2MRW758/

【映画】
「妖怪シェアハウス」(監督:豊島圭介)
2022年6月公開
https://www.toei.co.jp/release/movie/1228067_979.html

【インタビュー掲載】
WEBマガジン「CHIRATTO」
第26回特別対談
池谷のぶえ(女優)×ブルー&スカイ(脚本家)

https://chiratto.net


【コラム】

福岡のエンタメ情報誌 シアタービューフクオカ「めずらしく体調のいい日に」
https://tvf-web.com

【DVD】
イキウメ「外の道」(作・演出:前川知大)
2021年6月、シアタートラムで収録された舞台公演DVD
発売中
https://www.ikiume.jp/tuhan.html#sotonomichi

▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼

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