【フォトグラファースギノユキコ with えんぶ WEB CLOSE to my HEART】18 藤谷みき
えんぶにて脚本家・演出家・俳優を撮り続けて約20年(長期中抜け有り)。
いわゆる非日常を創作する彼ら・彼女らの姿を
日常的でありながら、そっと風変わりな目でつかまえるスギノの写真。
このコーナーではえんぶ誌面では掲載しきれなかった
“スギノお気に入り”の写真達とともに演劇人を紹介。
インタビュー&写真から現れるその心にフォーカス。
File.18 藤谷みき
(2020年8月取材/撮影)
始まりはいつも…
全くの未経験で、当時、 紀伊國屋ホールを連日満員にしていた大人気劇団、 第三舞台オーディションにたった1人合格。 数年後、軽い気持ちで受けた 海外ドラマの吹き替え声優オーディションも、 未経験でまさかの合格。 2年前、長いフリーでの活動に終止符を打ち、 青年団に所属し活動の幅を広げている 女優・藤谷みきの歩んできた道のりから見える風景は。
きっかけは同級生
――いきなりですが、お芝居を始めたきっかけを教えてください。
高校の同級生の影響なんです。
――高校演劇ですか?
同級生に演劇の天才がいて。高校で同じクラスになったその子が演劇部で活躍している姿を見て「スゴイなー」と思っていて。一回、その子にだまされて(笑)、演劇部を手伝ったことから段々と演劇の沼へ(笑)で、3年生の時に、進学か就職かでいろいろあって。その子が養成所と劇団を受けるというので、真似して受けたら劇団に入ることになりました。
――第三舞台が大人気の頃ですね。
はい。
――第三舞台には何年くらいいたんですか?
実質、活動していたのは、2年半くらいな気がします。
――ぼくらは、とてもお世話になりました。
私も当時取材を受けましたね。
やっぱり舞台が好きだ
――劇団を辞めた後はどうしてたんですか?
ちょっと怖くなっちゃって、2年くらいお芝居をやらなかったんです。紹介された事務所に籍をおいて、映画とかのお仕事はしていました。でもやっぱり舞台が好きだというのが分かってきて、ラフカットのオーディションを受けました。
――それが、1996年ですね。ラフカットは堤泰之さんが色々な作家の作品を演出する企画ですね。
はい。それでKERAさんが書いた作品に出ました。
――だんだん、お芝居をやることに抵抗がなくなってきた?
「やりたいな」って思って。その頃から、いろんなオーディションに応募し始めました。
オファーが来たら、 やってみる
――第三舞台を辞めてからそこまでの間に、他の作品には出てるんですか?
いろいろ出るのはラフカット以降ですね。ラフカットの後、tpt、劇団☆新感線プロデュースに出て…。そこからワーって、とにかく外に出た感じですね。
――その時はフリーですか?
フリーです。あ、青年団プロデュースもそうですね。松田正隆さんと、平田オリザさんの脚本で、オリザさんが演出するっていうのに応募して、出てます。
――それは、何年くらいですか。
1999年ですね。
――じゃあ、その青年団の公演が一つのポイントになるんですか?
全然ならないですね(笑)。
――今、所属しているのは青年団じゃないですか。第三舞台から現在に至るまで、どんなイメージで進んで来たんですかね?
そんなに選り好みはしてなくて。オファーを頂いたらスケジュールが被ってない限り、やってみる。できないかもしれないけど、やれるんじゃないかって思って下さったお仕事なら、やってみるみたいな感じです。
青年団での発見
――青年団に入ったのはいつですか?
2018年の9月くらい。
――フリーでやってた人がどうして青年団に所属したんですか?
裏口入学と言うんだそうです。
――なんで?
「入ってもらってもいいですよ」って(笑)。
――上から目線ですね(笑)。所属したかった?
うーん…。一人の方が慣れてるので、集団に所属するのは、まだ怖々な感じがあったんですけど、思い切って飛び込んでみたら、中にいる方たちも、何か、いい意味でドライなんですよ。だからこんな、ね、こんな年齢の、ようわからん、ジャンルもぐしゃぐしゃな人がボーンと来ても、「何だかなあ」って思われてるとは思うのですが、概ね、みんなすごくやさしいんです。
――なるほど。
なので、ちょっと最近、集団に属するってこういうことなんだなぁって感じています。青年団は外部出演にもそんなに制約がないので、今まで自分がやって来たこととほとんど変わらないと思います。
――よかったですねぇ。
よかったです。でも、この間の『東京ノート』の粗通しで大きな出トチリをして。オリザさんに、「こういう失敗する人は、30年間やってきて見たことがありません」って言われました(笑)。
名乗るということ
――舞台の他に、声優とかナレーションやCMの仕事もされてますよね。でも自分のことを「声優」とは言わないと聞きましたが。
はい。吹き替えの初めての仕事がNHKの海外ドラマで、レベルの高い方たちをいきなり間近で見てしまったので。声優さんのものすごさが、すごく分かってしまったんです。それでちょっと声優って、そんなに軽々名乗ってはいけないんじゃないかと思ってしまい。何となく自分への戒めのために。まだそんな覚悟が…。
――いつか名乗る時が来るんですね?
敢えて、名乗ることで自分を煽ろうとするとは思うんです。俳優って名乗るようになったのも、ある種、責任を持とうと。「舞台に出てお金を頂いている」っていう覚悟。「その分、働きます!」っていう覚悟として俳優って名乗る感じが今あって。この仕事と声の仕事で食べてるので。だから声優も、早めに名乗れるようになりたいですね。
覚悟と責任
――ナレーターはOKなんですね?
ナレーターもそうですが、呼ばれた現場で「おはようございます、頑張ります」じゃだめなんですよ。頑張る人は要らないんです。特に番組の場合、ここまででもうみなさん疲れ果ててるんですよ。ロケして、原稿作って、撮影して、編集して、で、もうこれ以上どうもならん! という状態。そこにナレーションを入れて、「良くなったね!」って上げて完成なんです。その最終段階で呼ばれるので、「はい、来ました。上げるよ、任して!」っていう人じゃないと、意味が無いと思うので、今はそこを「自分がやります!」って、ちょっとやれるぞっていう感じがしてきたので、ナレーターは名乗るようにしました。
――お芝居も含めて、ずっと覚悟の人生ですね。
覚悟…、というか責任?
――堅い感じはなく。
うん、「任してー! はい、来たー」っていう感じ。舞台で、お客さんが「うわー、なんか私この舞台、観に来て失敗だったかな」って感じてても「はい、私出てきたから大丈夫!」みたいなことですかね。
――素晴らしいですね。
下手くそなんで、せめて全力を出そうかと。
――覚悟なんでしょ?
覚悟はしてる。だから、もっと上手くなりたい。あと出トチらないようにしたい(笑)。
初めてのリーダーとして
――ところで、ご自身が企画中の作品があるとか。
はい。いま自分が企画の代表になるという、思ってもみなかったことになっていまして。花組芝居の水下きよしさんが、せんがわ劇場と共同で企画していた『庭にはニワトリ二羽にワニ』『キニサクハナノナ』という作品です。水下さんが亡くなった後を志賀廣太郎さんが引き継いでくださって、上演したものなんです。その作品を今年の9月に豊岡の演劇祭で上演しようと、制作の仕事もやってるんですが、そこにコロナが被って…。慣れないことをして、毎日頭から煙が出ている状態です。厳しい道のりだとは思いますが、感染症対策をきちんとして上演できるよう頑張ります。
【藤谷みきプロフィール】
ふじたにみき○東京都出身。高校3年の冬、未経験で、第三舞台のオーディションに受かり演劇活動を始める。退団後、フリーでtpt、ナイロン100℃、劇団☆新感線、オフィス3○○など数々の舞台に出演。2018年に平田オリザ率いる青年団に入団。みけの名でCMナレーションや吹き替えでも活躍中。cigars代表。
【活動予定】
・RoMT Vol.9 『ヴェニスの商人』
2022年2月19日(土)〜27日(日)◎すみだパークシアター倉
戯曲:ウィリアム・シェイクスピア
翻訳:河合祥一郎(角川文庫版)
演出:田野邦彦(RoMT/青年団演出部)
【スギノユキコプロフィール】
すぎのゆきこ○神奈川県出身。
日本女子体育短期大学舞踊科卒業。
在学中に演劇好きな友人に連れられ
初観劇。たまたまその公演後オーディションがある事をチラシで知り、
勢い余って受けた事がある為、今でも爆風スランプRunnerが耳に入るとゾワゾワする。
通信社等を回り、写真を学ぶ。
instagram▶https://www.instagram.com/sugino_yukiko/?hl=ja
【構成◇坂口真人 文◇矢﨑亜希子 撮影◇スギノユキコ】
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