【フォトグラファースギノユキコ with えんぶ WEB CLOSE to my HEART】20 宮下今日子
えんぶにて脚本家・演出家・俳優を撮り続けて約20年(長期中抜け有り)。
いわゆる非日常を創作する彼ら・彼女らの姿を
日常的でありながら、そっと風変わりな目でつかまえるスギノの写真。
このコーナーではえんぶ誌面では掲載しきれなかった
“スギノお気に入り”の写真達とともに演劇人を紹介。
インタビュー&写真から現れるその心にフォーカス。
File.20 宮下今日子
(2021年10月取材/撮影)
ビューティフル!更なる広がりへ
劇場を越えて、映像、モデル、コラム執筆と活躍のフィールドを広げ続ける宮下今日子。クラシックバレエから始まって、大劇場から小劇場、時代劇からコンテンポラリーダンスまで。出し惜しみしない人柄で、役割を全うし周りの人たちを魅了する。シリアスな役からコミカルな役までどんな役でもエレガントさを失わない、演劇界の文武両道!? その魅力に迫る。
最近は、 執筆とモデルなども
――最近は連載コラムの執筆もされているんですよね?
2020年の7月から『mi-mollet』というサイトで、自分が次に観に行く舞台の紹介をしています。本当に私の好きなものだけ、好きに書いています。
――いいですね。この前、『Ku:nel』11月号に写真が載っているのを見つけました。モデルのお仕事も?
たまにですね。割と好きなんです。演劇やるより少しだけ気が楽ですよね(笑)。
――よい時期によいジャンルに出会っている感じがしますね。
私もそう思います。やっぱり20代の頃って自信がない分、何かでカバーしようとして、すごく苦しかったですね。それがようやく、落ち着いてきたというか(笑)。
NODA・MAPから始まった
――プロフィールに「三歳からクラシックバレエを始め」とありますが、ご両親がそういう関係のお仕事か何か?
全然関係なく喘息がひどかったので、運動をしなくちゃいけなかったんだと思います。兄と弟は野球をやっていて、私は女の子なのでバレエだ、みたいな。たまたまです。
――バレエはいつまで?
実は今もやっています。二十歳頃に一回止めたんですけど、止めきれず。今は気楽に趣味の延長という感じで続けています。
――演劇を始めたのは、その頃ですか?
はい。大学三年の春にNODA・MAPのオーディションがあって。たぶん駄目だろうからこれだけ受けてみてから就職活動をすればいいや、と思って挑戦したら受かって。卒業のタイミングで本番だったんです。とりあえず大学を卒業して、NODA・MAPをやって、その後のことはまた考えようと思って。だから、どうしても演劇をやろうなどという考えはなく。というか、できるとも思っていませんでした。
三歳からバレエはずっと…
――三歳から二十歳までは、どんな生活でしたか?
二十歳くらいまでは毎日がっつりバレエをやっていました。といってもプリマになるようなあれじゃないなっていうのは、結構早めに気づいてたんですけど。
――そういうものですか?
そうだと思います。めちゃくちゃ上手い子って、とんでもなく上手なので。私がそこに追いつく日は来ないなって、何となく小学生の頃にはわかっちゃいましたね。
――それで大学を目指して勉強をした?
受験勉強しましたね。勉強するしかなかったんですね、きっと。
――で、日本女子大学に行って、学部は?
家政学部被服学科です。
――それは役に立っていそうですね。
思えば役に立ってるんですけど、それもたまたま(笑)。
とにかくいっぱい 演劇をやって
――NODA・MAPの後ですか? 鴻上(尚史)さんのところにいらした印象があります。
そうです。NODA・MAPの後に、鴻上さんがロンドンから帰国した後の第一弾、KOKAMI@network第一回公演のオーディションがあって。そこから二作出ました。あと第三舞台の封印公演にも出ています。
――それから僕の記憶が飛んで、一番印象に残っているのは西島(明)さんの本能中枢劇団の作品です。そこまでの間はどうでしたか?
その間は…そうですね。あまりにもお芝居ができないと思って、同じサードステージにいた木野花さんに相談して、ご指導いただくようになり。木野さんから「とにかく何でもいいからいっぱい試合に出て、勝ち試合を続けろ」と言われまして。とにかくどこでも出してもらえるところに出て、そこで何か爪痕を残すみたいなことを一生懸命、とにかくいっぱい演劇をやっていました。
完全にやられた面白さ
――本能中枢劇団の第2回公演『家庭の安らぎの喜びと恐怖』で、力強くて柔軟でコミカルな演技に魅了されました。
あれは出産後なんです。11年前ですね。
――とても良い出会いだと感じました。
私もそう思います。産後、何か面白いことないかなと思っていたときにお誘いいただいて。西島さんの面白さに完全にやられました。今でも西島さんがやるものは何でもいいから出たいと思ってます。
――それまでの作品と、どう違ったんですかね?
うーーん…いまだに思い返しても全部面白いですね。台本読んだときに笑いが止まらないというか…こんな面白い人いるのかぁって、ちょっとたまらんかったですね。
――独特な衣装や美術、セリフや踊りがある全てのシーンが、よく分かんないなりに刺激的で、夢中になる…。
アートですよね。その場でしか観られないものが全部詰まってる。その感じが好きなんだと思います。
ハマり役を次々に
――最近だと、動物電気での役もインパクトがありますが、いかがですか?
動物電気はずっと観ていて出たいと言い続けて、ようやく10年後くらいに出れたんです。
――ハマり役ばかりですね。
そう言っていただけるとありがたいんですけど、動物電気は一個の完成された形というか。正直よそ者はいらないと思うところもあって…。でも毎回変わらないゆえに、ちょっとしたスパイスになれればいいのかなと思ってやっています。
――ちょっとしたどころか強力です。
初めて出たときは、女性の劇団員が少なくなっちゃったタイミングだったので、ちょうどよかったのかもしれません。
――今年も若い男の子と仲良くなる海の女神、あれは人魚ですか?
ポセイドンみたいなものですかね。女神だと思ってますけど(笑)。
――(笑)その前の公演も。
歌の先生とか、プロレスラーとか。
――どれもうまくハマる。
でもそれも全部(政岡)泰志君が書いてくれたものをやってるだけなので、私のオリジナルは何もないんです。泰志君が思ったようになればいいなと思ってやっています。
――good morning No.5の高倉健役も印象に残っています。あれも思い切りのいい役でした。そういうものを望まれているんですかね。
そうですよね、普通の役とかないですね全然(笑)。あれはいまだにいっぱい言われるので、なかなかそんな役やることはないのでありがたいというか。得意な役は、高倉健の女子中学生(笑)。…よそで何にも役に立たない。
――いやいや、わからないですよ。
ありますかね? あの役はまたやりたいですね。
お芝居と踊りが繋がる…
――コンテンポラリーダンスの公演にも出ていますね。
井手茂太さんのイデビアン・クルーと小野寺修二さんのデラシネラですね。産後初めて出た舞台がデラシネラで、私にとって大きなターニングポイントでした。デラシネラは当時、演劇とダンスの中間みたいな新たな表現の形を模索していて、私も踊りは踊り芝居は芝居じゃなくて、何かそういうものがあるのかなって思っていて…。そこから再び活動し始めて、本能中枢劇団もそうですが、お芝居と踊りが繋がりました。
――そういう部分で言えば、イデビアン・クルーも形こそ違えイメージがあって。
そうなんですよ。ちょっとお芝居っぽい。
――ある技術が要求されているように感じます。
井手さんの作品は、振付というか動きの説明より、その状況の説明が多かったりしますね。だからイデビアンにはお芝居が上手なダンサーさんが多いです。
――外国のダンスとは違う、井手さんならではのスタイルを作られていますよね。
完全にオリジナルのジャンルが作れるっていうのはすごいことですよね。井手さんは天才だと思います。今年やったイデビアンも面白かったんですよ。観て欲しかった!
日々のトレーニングを…
――今後の理想は?
ダンスの舞台もやりたいし、小劇場もやりたいし、大きい劇場にも出たいという希望が今のところバランスよく叶っているので、こんな感じでいきたいなとは思っているんですけど。
――木野さんと一緒にやる企画とかはないんですか?
今のところないんですけど、ずーっとやりたいとは思っていて。木野さんが面白いと言っていた戯曲を読んだりしています。公演じゃなくても、見てもらうお稽古みたいなことができればいいなと話してはいるんですけど。
――どうせやるなら公演がいいですね。
そうなんですけど、その前段階として古典の戯曲を読む会とか…。バレエだと日々のトレーニングとして毎日レッスンするみたいなのがありますけど、演劇の場合ってあまりないじゃないですか。だから本番やそれに向けた稽古のない時間に、すごく不安になるんですよね。何かが衰えていってるんじゃないかって。そういう時に、こういう役の時はどうしようとか、お稽古できる場所があればいいなとはすごく思っています。体力や発声とかもありますが、プラスなにか演技のトレーニングみたいなのがあったらいいなって。
――ケムリ研究室(※)みたいなことをするつもりはないんですか?
…誰とですか(笑)?
――誰とですかって(笑)!
やっぱり自分は一俳優の方がいいという思いがあって。私、わりとプロデューサー気質もあるので、そっちに行き始めると出演者じゃなくなる恐怖みたいなのがあって。なるべく足を踏み入れないように気をつけていて。だけど、西島さんに関しては尻を叩く立場でありたいなってずっと思っているので、西島明との研究室になれればいいですね(笑)。
※ケムリ研究室:2020年に劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチと女優の緒川たまきが結成した演劇ユニット。
【宮下今日子プロフィール】
みやしたきょうこ○東京都出身。98年、NODA・MAP『ローリング・ストーン』より俳優活動を開始。以降、数々の演劇やダンス、映像作品にて活躍。近年の出演作は、劇団☆新感線『けむりの軍団』(2019)、映画『ヤクザと家族 The Family』(2021)など。昨年よりwebマガジン『mi-mollet(ミモレ)』にて観劇ガイド『今日もホワイエで』を連載中。
○舞台出演○『広島ジャンゴ 2022』
2022/4/5〜30◎Bunkamuraシアターコクーン、5/6〜16◎森ノ宮ピロティホール
【スギノユキコプロフィール】
すぎのゆきこ○神奈川県出身。
日本女子体育短期大学舞踊科卒業。
在学中に演劇好きな友人に連れられ
初観劇。たまたまその公演後オーディションがある事をチラシで知り、
勢い余って受けた事がある為、今でも爆風スランプRunnerが耳に入るとゾワゾワする。
通信社等を回り、写真を学ぶ。
instagram▶https://www.instagram.com/sugino_yukiko/?hl=ja
【インタビュー◇坂口真人 構成・文◇矢﨑亜希子 撮影(人物)◇スギノユキコ】
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