【フォトグラファースギノユキコ with えんぶ WEB CLOSE to my HEART】19 川﨑麻里子
えんぶにて脚本家・演出家・俳優を撮り続けて約20年(長期中抜け有り)。
いわゆる非日常を創作する彼ら・彼女らの姿を
日常的でありながら、そっと風変わりな目でつかまえるスギノの写真。
このコーナーではえんぶ誌面では掲載しきれなかった
“スギノお気に入り”の写真達とともに演劇人を紹介。
インタビュー&写真から現れるその心にフォーカス。
File.19 川﨑麻里子
(2020年2月取材/撮影)
ただただ、 やらせていただきます……
ナカゴー、チェルフィッチュ、東葛スポーツと、現代演劇シーンをカラフルに彩る個性的な作品の中で、気弱そうに、困惑しているのが魅力的に見える不思議な存在感。「普通の会話が苦手で……」と小声で告白するも、今をときめく映画監督・今泉力哉や演出家・玉田真也から「豪腕女優」と呼ばれ(えんぶ2020年4月号より)、信頼も得ている実力派!? 最近、ますます磨きのかかってきた川﨑麻里子のルーツとは?
きっかけはジョビジョバ
――お芝居を始めたのはいつですか?
高校の演劇部からです。
――意外ですね。どんな作品をされてたんですか?
先輩たちはキャラメルボックスが好きでした。私たちの代はお笑いが好きな人が多かったので、短編の笑えるけどホラーみたいな作品をやったりしていました。少人数で、特に強い部活でもなかったんですけど……。
――自分たちで楽しんでる感じですね?
はい。
――どうして演劇部に入ったんですか?
ジョビジョバが好きだったんです。中学の時に自分の部屋にテレビを置いてもらってから、深夜番組ばかり見てて、『さるしばい』とか『ロクタロー』を見てファンになりました。
――ジョビジョバがきっかけなんですね!? 深夜放送ばかりって、性格は暗い方?
(笑)そんなことないと思うんですけど。私もこの人たちみたいにお芝居みたいなコントみたいなこと、やってみたいなって思ったことがきっかけだったかもしれないです。
――超えちゃいましたね。
全然超えてないです(笑)!
――高校時代は、舞台を観に行ったりしてましたか?
友だちと新宿にあるルミネtheよしもとに、お笑いを観に行ったりしてました。
毛皮族も好き
――高校を卒業した後は?
短大に演劇部がないこと気づかずに入っちゃって、軽音学部に入って途中で辞めて、卒業して就職しました。本多劇場の隣のビルにあったバレエ用品を扱うお店で2年間正社員として働きました。
――下北沢ですね。
その間に好きな舞台を観たいなと思って、下北沢にある劇場にたくさん行って、そこで毛皮族に出会いました。毛皮族の江本(純子)さんが講師をしているのを見つけて、ENBUゼミナールに入りました。
――江本さんのクラス公演はいかがでしたか?
海女さんがたくさん出てくる作品だったんですけど、楽しかったです!
――よかったですね。その後の活動は?
オーディションを探して応募したり、知り合いの方にオファーをいただいて舞台に出たりしてました。
――じゃあそれなりに舞台に出てらした?
どうなんですかね? ENBUゼミを卒業した後、ゼミで働かせてもらいながら活動してたので、そこまで頻繁には……オーディションも受からなかったりとかで(笑)。
――まあまあ(笑)。早いのか遅いのか分からないスタートですけど、割とゆっくりな感じですね。出演される作品の基準は? 来る者は拒まずという感じでしたか?
毛皮族にもいた方なんですけど、野鳩の佐々木幸子さんのファンで、佐々木さんの出演履歴を見て、この劇団面白いのかなって思って応募したりしてました(笑)。
ナカゴーとの出会い
――ナカゴーに入ったきっかけは?
今泉(力哉)さんからおもしろいよと聞いて、観に行ったのが最初です。すごくよかったので、その後、オーディションを受けて、2012年の4月に『嵐が丘』に出演させてもらいました。その時に主宰の鎌田(順也)さんに誘っていただいて、正式に入ったのが2013年です。
――劇団に入った時の感じはいかがでしたか?
みんなが鎌田さんの作品をちゃんとお客さんに伝わるようにと本気でやっているのが、すごいなと思いました。本当に真面目で、最初からずっと勉強させてもらっている感じです。
――昨年、ナカゴーを観に行った時、川﨑さんが受付にいて、その後、舞台にも出てきていましたが、そういう役割もしているんですか?
みんなで受付とか場内整理もやっています。いつもすごい緊張するんですけど、受付なども少しは慣れてきました。
緊張を越えるには?
――以前の号で、アンケートをお願いしたときに「力みのない演技を心がけている」と答えがありました。いつ頃からそう考えているのですか?
鎌田さんからいつも「力が入りすぎてるから、台詞を飛ばしてもいいから、一回全部力を抜いて本番やってみて」と言われていて。チェルフィッチュの岡田(利規)さんからも「力が入らないで演技ができる役者が一番おもしろい」と聞いていて。それから力を抜いて、力みがあったら体を開くようにして、みなさんに言われた言葉を思い出しながら本番に挑んでいます。
――「間違っても良いから力を入れずに」って嬉しい言葉ですね。
はい、ありがたいです。
――でも実際にやるのは怖いですよね? できれば間違えたくない。
怖いです。
――そこをどう越えていくんですか?
そうですね……。ただただやるというか、なんですかね……。全部受け入れて、「緊張するよね」って自分で思いながら、何も考えないで、「すみません、やらせていただきます」みたいな気持ちで行く感じですかね。最近は……。
チェルフィッチュでの経験
――チェルフィッチュにはいつ頃、出演されていますか?
2014年の『スーパープレミアムソフトWバニラリッチ』からです。
――チェルフィッチュは観てる人が、すごく知的な部分を要求されるように感じるんですけど、偏見ですかね。
おもしろいですよね。
――今までにはない表現のスタイルなので、そういう部分での大変さはありませんか?
初演の時は稽古が2ヶ月くらいあったり、岡田さんが優しく丁寧に、何回も説明してくださったので、繰り返しやっていくうちに自分のものになって行く感じでした。
――チェルフィッチュは、お客さんとのやりとりをすごく大切にしている表現なのかなと思うのですが、演じていてお客さんの反応みたいなものは分かりますか?
はい。お客さんに話しかけられてる感覚や、楽しんでもらえている感触はあります。
――あの作品は、いろんな国で上演されたんですよね。
はい。ドイツ、ポルトガル、イギリス、イタリア、フランス、ロシア、スイス、一回日本に戻ってきて、フィンランド、レバノン、タイとか。
――上演は日本語ですか?
日本語でやって後ろに字幕が出ます。
――リアクションはありましたか?
爆笑とかもありました。
――いいですねぇ。
いろいろな経験をさせてもらって、楽しかったです(笑)。
ラップはいっぱいいっぱい
――ここ数年、東葛スポーツへの出演が多いですが、そこではどういうことを?
最近はラップが多い公演が続いてるんですけど、稽古場では台本を使った普通の演劇の稽古をしています。あとラップの練習も、金山(寿甲)さんにラップのフロウや言い回しを教えてもらって、それを各自録音したり音源送ってもらったりして、みんなで練習しています。
――宮崎吐夢さんが、東葛スポーツの川﨑さんのラップが凄いって褒めている記事をネットで見つけました。
いやいや、そんな! ありがとうございます。金山さんのラップが本当にかっこいいので、もう必死で、いっぱいいっぱいでやってます。まあ、いつも大体いっぱいいっぱいなんですけど。
――演じる上で力まないという点は、同じですか?
……同じ、ですね。あー、でもラップの時はちょっと違うかも知れないです。
――どんな風に違いますか?
鬼気迫る感じ。大声で、力を入れてもなるべく言葉を届けようと大声でやっています。
――ラップに自信はありますか?
いやそんな、自信も何も……、いっぱいいっぱいをお見せしちゃってる感じですね。
――そこがいいんですね。
いいんですかね?
繰り返しが大切
――経験の積み重ねみたいなことで、今のスタイルができつつあるってことなんですかね?
コロナの影響で舞台に立つ時間が結構空いてしまったので、この前久しぶりにやったら、力みが戻って来てる感じはしたんですけど。
――なるほど、繰り返しやってくことでうまくいく?
こともありますね……。
――そういえば鎌田さんが、昨年11月に配信した『にっかいろとはっかいろ~堀船のごめんねてた~』の撮影用に、良いカメラ買ったってどこかに書いてありしました。
はい、4Kが撮れるカメラです。そんなに高くはないんですけど。YouTuberの方が自撮りで使うような簡単な小っちゃいやつなので、そこまでいいカメラじゃないかもしれないです。
――でもそれを使って劇団のみなさんで撮ったんですよね。
はい。
――2月14日の上映会に観に行きます。楽しみです(笑)。あんまり川﨑さんが出演している舞台を観れてなくて、ごめんね。またいつかお話を聞かせてください。
(笑)ぜひ。
【川﨑麻里子プロフィール】
かわさきまりこ○神奈川県出身。ENBUゼミナール卒業後、フリーで活動した後、2013年よりナカゴーに所属。2014年はチェルフィッチュ『スーパープレミアムソフトWバニラリッチ』初演に出演し、ヨーロッパなど世界各国を回る。近年、東葛スポーツへも出演している。
【活動予定】
ほりぶん 第9回公演『かたとき』
2022年2月24日(木)〜27日(日)◎紀伊國屋ホール
https://twitter.com/horibun2021?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor
【スギノユキコプロフィール】
すぎのゆきこ○神奈川県出身。
日本女子体育短期大学舞踊科卒業。
在学中に演劇好きな友人に連れられ
初観劇。たまたまその公演後オーディションがある事をチラシで知り、
勢い余って受けた事がある為、今でも爆風スランプRunnerが耳に入るとゾワゾワする。
通信社等を回り、写真を学ぶ。
instagram▶https://www.instagram.com/sugino_yukiko/?hl=ja
【構成◇坂口真人 文◇矢﨑亜希子 撮影◇スギノユキコ】
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