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【フォトグラファースギノユキコ with えんぶ WEB CLOSE to my HEART】12 東京ドム子

えんぶにて脚本家・演出家・俳優を撮り続けて約20年(長期中抜け有り)。
いわゆる非日常を創作する彼ら・彼女らの姿を
日常的でありながら、そっと風変わりな目でつかまえるスギノの写真。
このコーナーではえんぶ誌面では掲載しきれなかった
“スギノお気に入り”の写真達とともに演劇人を紹介。
インタビュー&写真から現れるその心にフォーカス。

File.12 東京ドム子
(2020年12月取材/撮影)

アンビバレントな自分を連れて

2019年、多様性をテーマに柔軟な表現で観客を魅了したNICE STALKERの傑作舞台『暴力先輩』。そこに彗星の如く現れたクレバーでキュートな女優が東京ドム子だった。中学の部活動から早稲田大学入学まで、演劇まっしぐらかと思いきや、全く違う “特殊な”サークルに入会したり。やる気十分で始めた脚本執筆が、なぜか書けなくなって心にキズを残したり。たくましいようで、危なっかしい。 彼女の真っ直ぐに見つめる視線の奥に、何があるのか知りたくて……。

「東京ドム子」の名の由来

――「東京ドム子」というお名前は、いつどんな理由でつけられたのですか?

大学に入って最初にお芝居に出た、2017年の9月11日につけました。高校生のときに、将来東京ドームでお葬式したいな、5万人集められる人になりたいなって思っていたことを思い出して。

――ご出身は栃木県ですね。

はい。

――千葉とか神奈川に比べると、東京近郊でもちょっと、

影が薄いですね(笑)。2020年の都道府県魅力度ランキングも最下位でした。

――茨城ではなくて?

ずっと茨城だったんですけど、逆転されて……。

演劇は中学の部活から

――演劇に興味を持ったのはいつ頃ですか?

中学の部活で演劇部に入りました。きっかけは思い出せないんですけど、運動は苦手だから、文化系かなと。結構、強豪だったんです。毎年県大会に行って、私が3年生の年には関東大会に行きました。

――どんなお芝居をしてたんですか?

群像劇です。中学校演劇脚本集などという本があって、そこから自分たちで選んでいました。

――高校も演劇部ですか?

はい。

――部活動はいかがでしたか?

1年目は県大会、2年目は関東大会までいきました。

――その時はどんなお芝居ですか?

生徒の創作脚本でした。1年の時は当時の部長が書いて、2年の時には私が書きました。

――どんな話を書いたんですか?

大晦日の夜に、演劇をやりたい姉とそれに反対する妹が、話をしながらわだかまりを解決する、みたいな作品です。

――そういうことが実際にあったのですか?

家族の中ではないです。私の中にそういう相反する2つの気持ちがありました。

高校をサボって東京に

――その頃、好きな劇団とかはありましたか?

ロロを東京まで観に行ったり、マームとジプシーの『書を捨てよ町へ出よう』は、池袋で一回観て、もう一回観たいと思って、親に内緒で授業に行かないで、観に行って深夜帰ってくるみたいなことをしていました。

――かっこいいですね。世代的には、他の人はあまり寺山修司に興味がないでしょ?

そうですね。演劇部の同期に言っても、「誰それ?」みたいな。早稲田大学に行きたいと考えたのも、寺山修司の影響もあったと思います。

一瞬の気の迷い

――でも早稲田に受かって、劇研には入ってないんですよね?

はい。演劇やりたいと思って大学に入ったんですが、一瞬、他のこともしてみたいなと思って。全然演劇とは関係ないサークルに入りました。

――どんなサークルですか?

過去20年女子部員が入っておらず、メインの活動がタバコを吸い、酒を飲み、麻雀をする。そして、長距離歩くというところです。毎年5月に本庄早稲田から早稲田大学まで120キロ歩く学校全体のイベントがあって、それを主催しているんですけど、新入部員は頭を丸めて先頭をずっと歩くというしきたりがあって。私も頭を丸めて120キロ先頭を歩きました。さらに夏休みの合宿で300キロ歩くルールがあって、そのために他の演劇サークルの新人訓練に参加ができなくなり、新人訓練がある劇研には入れませんでした。

ここは私のいるべき 場所じゃない

――その間も演劇にずっと興味を持っていたんですか?

いずれ演劇はやるだろうなという自信はあったので、まあ何でも興味があることをやってみてもいいんじゃないかなと思いまして。

――強いストレスがあったんですか? 何かがないとそこに行かないですよね? 普通。

そうですね(笑)。多分、逸脱したいという欲が強かったんじゃないでしょうか。逸脱することで自分を肯定したい、みたいな? 社会に対する反骨精神では、なかったと思います。……私の中で、単に女として見られたくないという気持ちがずっとあって。強いて言えばそこから来る反抗心かもしれません。

――そのサークルでの活動は、抵抗なくできたのですか?

抵抗はすごくありました。女は排除せよみたいな雰囲気があり、居心地がそんなには良くなかったんですよね。私は人に優しくありたいですし、性別だけで分断が生まれることが寂しいな、と思って。ここは私のいるべき場所じゃないと思って辞めちゃいました。

演劇は恐ろしい?

――それから演劇に?

はい。まずは、友達が欲しいなと思い、新人訓練がなくいつでも入会できる劇団森というサークルに入会しました。

――活動はどのくらいの頻度ですか?

年に2本くらい出演していました。

――自分で公演をやったことはないんですか?

実は大学2年生の秋に、自分で書いて公演を打ったんですが……台本が書き終わらなくて……書き終わらないという公演をしました。飛ばすわけにもいかないので……。

――……それは最低ですね(笑)。

(笑)思い出したくもない、大変な公演でした。

――どうして書き終わらなかったんですか?

書きたいテーマはしっかりあって、完成させる意欲は満々だったんですけど……分からなくなっちゃったんですよね。

――非難されたでしょう?

大非難でした。この世のあらゆる罵詈雑言を浴びながら書いて、でも書けなかった。

――演出もしたんですか?

演出もしました。

――じゃあある程度形にはなりそうですね?

形にはなりました。

――それを糧にもう一回挑戦する気は?

確かにトラウマが癒えてきたので、そろそろ……。

――でも若いうちに良い経験をしましたね(笑)。

恐ろしい経験をしました(笑)。

――まぁ、演劇すること自体が、恐ろしい経験だと思うんですけどね。

演劇そのものがですか??

――演劇やるって恐ろしくないですか? ある考えのもと、セリフや段取りを全部覚えて、人前で発表するって。しかもお金までとって。

恐ろしいって考えたことはなかったです。そうか恐ろしいか……。確かに、暴力的ですね。でもその暴力が社会的に受容されているのでラッキーって思います。

 

脚本を全部把握したい!

――2019年9月のナイスストーカー『暴力先輩』で、若い女性がきちっと舞台に立って、物語を背負いながら、柔軟にお芝居をしている姿にびっくりして。それが東京ドム子さんだったのですが。あの時、特に心がけたことなどはありましたか?

とにかく脚本を読むことを意識しました。脚本に仕掛けられたからくりを全部把握したくて。何度も作・演出のイトウ(シンタロウ)さんに、色んな質問をして脚本の全てを理解しようとしました。

――その後、そのイトウさんとみしゃむーそさんとの台湾公演がありましたが、いかがでしたか?

ダダオチェン国際芸術祭という大きなイベントに参加して、野外ステージで上演したのですが、たくさんお客さんが集まってくれて、反響は良かったと思います。ところどころに台湾語をはさんで、重要な言葉はスケッチブックに書いて説明するという形を取って、あえて日本語でやったのが良かった気がします。

修行のような日々

――2020年4月のナイスストーカー『スペキュレイティブ・フィクション!』の公演が出来なくなってしまい残念でした。それからどう過ごされましたか?

5、6月は気分が塞ぎ込んだ時期もありましたが、8、9月頃からポエトリーリーディングをやりたいと思い、詩を書き始めて、ちょっと上向きになりました。さらに10月にWebドラマに出演のお誘いをいただいて、徐々に徐々に上がってきた感じです。

――学校の方は?

今もずっとオンライン授業です。学校に行けないから誰にも会わないし、ずっと家にいて……修行のような日々でした。

 

人生の大事な選択で ボーッとしがち

――卒論の時期ですね。テーマを教えてもらってもいいですか?

仏教の勉強をしていて、「地獄」と「女性の成仏」についてです。

――女性だけが成仏するんですか?

いえ、実は女性の体だと成仏できないんですよ。その理由と、富山県の立山にある女性だけが落ちると言われている血の池地獄の伝承について研究をしています。

――何学部ですか?

文学部の東洋哲学コースです。元々行きたいコースじゃなかったんですよね。本当は映像演劇コースに行こうと思っていたんですけど、2年生になるときのコース選択で、ボーッとしていて気がついたら一番不人気な東洋哲学コースに入ってました。

――ボーッとしすぎですよ(笑)。

けっこう人生の大事な選択でボーッとしがちです(笑)。

――でも映像演劇コースより全然いいんじゃないですか?

結果的には楽しい。

――関係ないと思われるところからこそ知的な部分が膨らんで、一つの表現になっていくわけですから。今研究していることの方が、どれだけ素晴らしいかわからないと思います。良かったですね、ボーッとしてて。

初めて肯定されました。

 

【東京ドム子プロフィール】

とうきょうどむこ○栃木県出身。大学進学と同時に上京。早大在学中にNICE STALKER(イトウシンタロウ主宰)WSオーディションに参加。2017年年末公演で初出演。その際、イトウ脚本の緻密さに惹かれ、2018年公演にはスタッフとして作品に深く関わる。2019年『暴力先輩』公演では物語の“芯”を担う難役を巧みに演じ上げた。以降の全作品にキャスト・スタッフとして関わる。芸名の由来はガンダムではなく東京ドーム。

【活動予定】
●出演
中野坂上デーモンズ  特殊公演 MOHE•MAP #4『夏の夜の夢』
作◇ウィリアム・シェイクスピア
演出・潤色◇松森モヘー
4/28〜5/2◎下北沢 駅前劇場
https://demonssmile2525soc.wixsite.com/nakanosakaue-demons

●イベント主催
5月にポエトリーリーディングのイベントを実施予定です!
続報は東京ドム子Twitter(@senbei_morimori)をご覧ください!

【スギノユキコプロフィール】
すぎのゆきこ○神奈川県出身。
日本女子体育短期大学舞踊科卒業。
在学中に演劇好きな友人に連れられ
初観劇。たまたまその公演後オーディションがある事をチラシで知り、
勢い余って受けた事がある為、今でも爆風スランプRunnerが耳に入るとゾワゾワする。
通信社等を回り、写真を学ぶ。
instagram▶https://www.instagram.com/sugino_yukiko/?hl=ja

【構成◇坂口真人 文◇矢﨑亜希子 撮影◇スギノユキコ】

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